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第5話 悪神と大妖怪

 アンラマンユは上空に留まりながら気味の悪い歯ぎしりのような音を立てて、ほくそ笑んでいる。

 気味の悪い笑みを浮かべて街に視線を向けるとヨダレを垂らすように霊力を漏らしていた。



 アンラマンユとはゾロアスター教において最も恐れられる悪神。そして冬や数多の病を創造したとされる最古の疫病神。


 恐れる理由はそれだけで十分だった。


「アンラマンユ、前に歴史の教科書でも見たよ。悪の神様」


「クソ、奴を倒せるもん(能力)なんて使用しちまえば、どっちにしろこの街に被害が出る」


 零人が思考していたその時、優人は悪神に向かって呪錬拳を放った。


「呪錬拳ッ!!」


 しかし放たれた呪いはアンラマンユの体表に到達する直前に消え、拳のエメラルドはガラスのように散っていった。

 攻撃はアンラマンユに傷どころか汚れすらも与えなかった。


 その瞬間を零人は目に施した解析術で捉えた。蒼いその瞳の中には魔法陣が浮かべて状況を観察する。


「ウイルスみてぇに霊力が漂ってる。まだ制限が解除されてねぇ俺じゃ、聖獣クラスがいねぇと対応が間に合わねぇ」


 零人は分の悪さに苛立ちながら解決策を必死に模索した。


(オーバーロードの欠点は、発動時の俺の霊力量以下の存在しか飲み込めねぇってことだ。俺の術式かスキルでも解放しねぇと、コイツの攻撃を止められん)


 悪神は自身を睨みつけている零人に対して不敵な笑みを送った。


「クソ野郎が。どういうトリックで俺の制限解放条件を抜けてんのかしらねぇが、仕方ない。賭けに出させてもらう」


 零人はニヤリと笑みを浮かべ返すと手で印を結びながら優人に指示を煽った。


「優人、憑依の準備をしておけ。今から俺が呼ぶ奴をお前に宿らせる。」


「分かった! それで呼んだ人で倒せる?」



「問題はねぇ。あの異界の主だ、防御ぐらいはやってくれんだろう」


 瞬間、零人の足元に半径2メートルほどの魔法陣が出現する。


 その様子を見ていた優人はその魔法陣の出現に疑問を抱いた。魔法陣の大きさが想像よりも遥かに小さいことに。


 そして魔法陣の中央には紋章ではなく、『武』の一文字が刻まれていことに。



「初陣だ、派手にやってくれ。鬼神『両面宿儺』」


 零人の声に応じて魔法陣は発光し、伝説の鬼神がその姿を現した。

 四本生えた筋骨隆々のその腕を組み、手首や額を金の装飾品で飾っていた。髪は逆立ち、引き締まった全身には至る所に剣による傷痕がビッシリと残っていた。


 降臨した鬼神、両面宿儺はゆったりとした口調で尋ねた。


「我を呼んだか、童達よ」



 年季を感じる荘厳な霊力とは異なり、彼の声は若い青年のような透き通った声だった。両面宿儺の対応の良さに零人は僅かに安堵を覚えた。


「おう、来てくれて助かったぜ」


「貴様が我を呼ぶほどに苦戦しておったとは。制限とやらも面倒なものじゃな、怠惰の童」


 両面宿儺は欠伸をすると嫌なものを見る目でアンラマンユを見回した。


「状況から察するに、我に彼奴を倒させるのか? 構わぬが、あれほどのもののふであれば、この地は更地程度の惨状では済まなくなるぞ」


「いや、あんたの力を借りる為に呼んだんだ。こいつに力を貸してやってほしい」


「ほう……」


 両面宿儺は品定めをするように優人をじっと見つめると、満足そうに微笑を浮かべて零人の提案を受け入れて了承した。


「良かろう、戦の為に我を用いるであれば良い。童、我の力を受け取れ」


「本当ですか!?」


「ただし童よ、使うは腕二本までにしておけ。今の貴様では我の力を全ては許容出来ん」


「分かりました、ありがとうございます!」


 契約が完了すると即座に両面宿儺は優人に己の腕を明け渡した。宿儺の腕が二本消えると、代わりに優人の両腕が宿儺の腕へと変貌した。


「腕が、変わった……」


 優人は自分の腕に鬼神の腕が宿ったことを確認すると、アンラマンユに目を向けてそのまま走り出した。


「じゃあ、行くよッ!」


 優人はアンラマンユへ駆け寄りながら呪いと鬼火を拳に込め、全体重を腕に乗せて悪神の胴に向かって全てをぶつけた。

 瞬間、悪神の肉体の一部分が爆ぜた。


 両面宿儺の腕を宿した拳は悪神の霊力を貫き、先まで通用しなかった優人の攻撃が到達するまでになった。


 アンラマンユの巨躯が僅かに傾き、破壊した箇所の霊力が地に還る。


「やったぁ、効いた!」


 極わずかではあった。しかし見えなかった壁の終わりがようやく見え始めた。


 優人が正面から向かう最中、両面宿儺は悪神の背後に回って奴の頭上から攻めに行った。


「この『武神』を前に拳すら握らんか、悪神。愚かなりッ」


 両面宿儺は不快感を露にしながら、アンラマンユに向けて正拳突きを飛ばした。


 正拳突きは衝撃波を生み出し、悪神の全身を包むようにダメージを与えた。攻撃は衝撃波と共に宙の霊力を流れ、威力を増しながら拳撃が降り注ぐ。


 衝撃波がアンラマンユに到達すると、その刹那にアンラマンユの中にある霊力の一部が弾けた。攻撃が水のように内部の霊力にまで伝わり、ダメージを絶え間なく蓄積させていく。



 そして生まれた隙をつくように優人も悪神に何度も拳を叩きつけ、徐々に胴から突き出た奴の肋骨を破壊していく。


「童、いいぞ。そのまま拳を振るえ、己の意のままに!」


 両面宿儺と優人は互いの攻撃を利用し合いながらアンラマンユに猛攻撃を仕掛けていく。

 次第に悪神の霊力は解けて減少し始め、やがて肉体の耐久性も落ち始めていた。


 その時、2人の戦闘を目の当たりにしていた零人は唐突に異変を感じ取った。それは何者かの霊力が自分達の元へ急接近している気配だった。


「なんだ、感じたことのねぇ種類の霊力だ。ここに来てアンラマンユに助っ人が──」


「いや、その者は我がここへ呼び出した」


「あんたの手下かなんかか?」


「我の半身だ。ルシファーとかいうあの男が、持ちかけたのじゃ。我のもう1つの頭蓋を『あの者』に宿し、支配せよとな」


 零人はその瞬間に思い出した。

 両面宿儺は腕が四本、そして二つの頭を持った鬼神であると。

 目の前の両面宿儺には頭蓋が一つ。であればもう片方の頭!もう1つの人格が他にあってもおかしくはない。


 そして次第に接近してくる霊力の輪郭を零人はハッキリと感じ取った。その姿を霊力で捉えると、その者の正体を零人は悟った。


「おいおい。マジか、あれを乗っ取ったのかよ」



 その瞬間、件の人物は空から落ちてきた。


 その存在は人間よりも高く細長い体を持ち、顔がなく黒の触手を背から伸ばした怪人。過去にある国を震撼させた都市伝説上の化け物が彼らの前に降り立った。



「人々に恐怖を与えた異形の怪人、スレンダーマン!」

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