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第4話 本質

 ラーの手によって創られる灼熱の太陽。まだ生成されている段階ではあるものの、その暑さはすでに優人の霊力は少しづつ削っていくまでに増長していた。


 体に流れている霊力が炎天下のアスファルトに撒かれた水のように体から蒸発していく感覚が分かる。


 現在の時点でもうこれだ、この太陽がもし街目掛けて放たれたのならば、霊能力者だけでなく一般の非霊能力者にまで被害が及んでしまう。


 こんな不安を他所に何かを悟っているかのようなラーは太陽神の名に相応しくない冷たく死人のような目をしていた。2人が何を言おうが何をしようが、返事はない。

 優人は零人に指示を求める。


「零人君、何か作戦はある?」


 零人は虚空を手で掻き割り、空間に亀裂を入れると手をねじ込み『斬霊刀』を取り出す。

 引き抜いた斬霊刀の刃を横に構え、零人は霊力を斬霊刀に流し込んでいった。


「怠惰の能力であいつと太陽を飲み込む。だがチャージまで少し時間がかかるんだ」


「それなら、僕が何とか止めるよ!」


「頼んだぜ、相棒」


 優人は太陽神を真っ直ぐ見据えると霊力を込めて咆哮を放つ。


「ここに来て、ヴァーレ!!」


 足元の魔法陣から翼の生えた黒猫が姿を現す。

 ヴァーレは飛び出した瞬間に優人の胸へと飛び込み、ヴァーレは赤い光と共に霊力となって優人の中を駆け巡り、優人の魂と共鳴した。


 ──ヴァーレは低級召喚獣として多くの召喚術士(マスター)に使えてきた。しかし優人のように愛情を持って接した者は今までいなかった。

 それは召喚獣と霊能力者の間に生まれた友情。召喚されるだけの存在だったヴァーレに自我が芽生えたのだ。


 真の意味で信頼関係を築いた2人の霊力は混ざり合い、黄金色の光が優人の肉体を包んでいった。


「マジか、ヴァーレを憑依させただけでここまで」


 優人の背からは純白の翼が生えていた。

 優人の首元には獅子のような(たてがみ)を携えている。鬣は純金の輝きを放ち、風で髪がたなびく。

 優人の髪も光沢すら見える金髪へと昇華され、全身には霊力が稲妻の如く火花を散らしながら巡っている。


 太陽神を前に優人は目を瞑っていた。しかし軽く息を吐いた次の瞬間、開眼と共に優人は音を超える速度で駆け出した。


「──今だッ!」


 霊動術にて強化した脚力で跳躍し、翼とポルターガイストを掛け合わせ上昇するごとに優人は加速した。

 空気を切る速度で飛行し、尚且つ博物館の壁面を蹴り上げてさらに上昇する。金色の毛と真っ白な羽が宙を舞い、ラーの眼前まで迫った。


「えいやぁっ!」


 優人はラーに向かって隠し持っていた砂を投げつけた。

 地面からすくったばかりの砂は憑依状態の優人の霊力が宿り、徐々に細かいその粒達の形が変化していく。


 そして優人は呪いの準備を整えつつ、1度ラーから距離を置く。


「どうだぁ!!」


 投げた砂は錬金術によって銀色の大棘が生成されていき、ラーを目掛けて一直線に伸びながら投げられた時の勢いを維持して上昇していく。


「……あとはこれっ!」


 優人は呪いで自分の拳の上に呪いの鎧を纏わせた。これは白夜の武器である『大魔の篭手』からインスピレーションを得た技。


 ──本来、呪いを攻撃手段にまで仕上げるには莫大な霊力と怨念がなければ不可能。

 しかし優人の心が生む純粋な『恐怖心』と優人の桁外れに多い霊力量がこの可能にしていた。


 飛行しながら優人の体から呪いの拳が無数に現れて優人の上を飛んでいく。

 優人は翼とポルターガイストで上昇、加速してその太陽の中へと突っ込んでいく。


「いっけええぇぇぇぇぇ!!」


 最初に呪いの拳と銀の棘が太陽に到達して攻撃が直撃する。呪いと銀は太陽に届くと直ぐに消滅してしまったものの、ほんの僅かに太陽の勢いが弱まり霊力も削がれていた。

 一方で太陽の生成に集中していた様子のラーは体の防御を怠っていた。


 数秒後には優人の拳も太陽神の脇腹に直撃する。衝突した時、優人の拳からは肉がほんの少し焼ける音がした。


「うぅぅっ」


 腕には焼け焦げるほどの痛みが走り、反射的に退きそうになるが優人は怯まずに押し上げる。

 痛みを乗り越え、優人はそのまま拳を振り抜いた。体が軋む感覚に襲われながらも優人はその呪拳でラーに一撃を与えた。



「えやぁぁ!」


 太陽神が僅かに怯み、一瞬のみ生まれ隙をついて優人は幻想刀を投げつけた。

 投げられた幻想刀は太陽の中に吸い込まれていき、優人の霊力が内部で暴走して爆ぜた。


 優人の込めた呪いの力が斬撃と爆発となって太陽を暴走させ、太陽はただの霊力へと還っていった。



「ナイスだ、優人!!」


 零人の周りには、周囲を完全に覆つくす程の黒い霧が漂っていた。斬霊刀から発生する黒煙はラーに向かって立ち昇っていく。

 零人はその煙に合わせて段々と浮かんでいき、落ちてくる優人をポルターガイストでキャッチした。


「優人、俺の近くに来い。巻き添えになる」


「了解だよっ!」


 零人の胸に怠惰の魔法陣が浮かび上がり、紋章が紅く染まると呼応して斬霊刀も閃光した。超高密度の霊力が零人の叫びとともに一気に放たれる。


「『オーバーロード』!!」



 刹那、ラーとラーの周囲の霊力が巨大な魔法陣に覆われた。


 同時に黒煙は渦を巻きながらラーの身体を内部まで侵食し、全てが闇に包まれた時にはラーは忽然と姿を消した。



「怠惰の能力の『ロード』は対象の時間を止めて『アズの世界』に強制収容する。飲み込んじまえば、殆どが詰みだな」


「アズも異界みたいな空間を持ってるの?」


「あぁ。だが空間内の範囲はバカみたいにデケェ。太陽系全体と広さ自体は変わりねぇ」


「ひぇっ……」


「ついでに見に行くか? 俺自身と俺の認めたものは中でも動けるからな」


「うん、見てみたい」



 返事を聞くと零人は優人と共に『アズの世界』へ自分達をロードし、蛮行を働いた太陽神の元へと向かう。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ──意識が戻ると優人は目を開き、辺りを一望した。アズの世界を目の当たりにした瞬間、優人は感嘆の声を上げる。


「うわぁぁぁぁ! すごぉい、ここめっちゃ綺麗だね」


「ここの景色は、普通に生きてりゃ見れねぇ様な場所だからな」


 アズの世界はまさに宇宙空間そのものだった。何も無い宙に優人は浮かんでいたのだ。


 そして零人が今までにロードされた存在達が星々のように周囲を浮遊していた。

 光、炎、爆発、大量の武器や魔物に至るまで全てがロードされ、空間で時間を止められ幽閉されている。


「これが太陽神ラーだな……」


「わぁ、ホントに止まってる」


 そこに太陽神は動きを止められて浮かんでいた。ただ静観しているだけでこちらには目すらも向けない。


「とりあえず尋問だ。意識と口ぐらいは解放してやる」



『────っ』


 解放宣言が下るとラーの口元が動いているのが確認できた。

 ゆっくりと何かを話しているようだったが、声が聞こえない。ただラーからは微かに呼吸しているような小さい声が聞こえてきた。


「何って言ってるの?」


「……レ」


「え?」


 ラーはか細い声で2人に声を届けた。



「──戻れ……さキに、貴様タチと戦って、イたのは──我じゃない」


 その一言を聞いた途端、2人は声を飲んだ。


 弱々しい声を振り絞って太陽神は伝えた。しかしラーは先ほどとは様子が大きく違い、とてつもない疲労を見せていた。


 だがそれに2人とも違和感を抱いていた。ラーは神話で崇められたほどの太陽神。

 ロード自体に攻撃力はなく、優人の攻撃を受けたとはいえどもここまで消耗しているのは明らかに不自然だった。


 2人は嫌な予感を感じ、零人はすぐさまリロードの準備へと入った。



「零人君、戻ろう!」


「あぁそうだな、一刻を争う状況みてぇだ。ラー、あんたの時間をまた止める。悪いが事が全て済んでから対処させてもらう」


「あ、ぁ────」


 万が一にもラーが消滅してしまわないように零人は太陽神をアズの世界の時間と同調させ、停止させる。

 零人は空間に穴を開けるとそこから自分達をリロードして現世に戻った。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 リロードした2人は先程の博物館前に戻った。その瞬間、彼らに凄まじく不快な霊力の感覚が伝わってきた。


 それと同時に優人達は目の前にいた怪物を目の当たりにする。優人はその怪物の姿を確認すると全身の鳥肌が立った。



「──!! な、何なの? あの……化け物」


「おい、嘘だろ」


 リロードした2人の目の前にいたのは、とても巨大で見た目からも霊力からも『邪悪』が滲み出ているような魔物だった。


 魔物は胴体が長い背骨と肋だけで構成され、複数の蛇の頭と足代わりに毛の如く生えているトカゲの尾。

 腕は骨と鱗が混じりあったような風貌で、その体の中央には人の骸骨となっているなんとも異質で奇怪な姿。


 その全身からは優人が呪いを発動した時のような煙が常に放出されていた。


『──ッ!!』


 そいつは常に剥き出しの歯をより食いしばってわずかに顔の前に出した。


 表情筋や唇がないため断定はできないのだが、そいつは笑っていた。それはなんとも気味の悪く、醜悪な笑みだった。

 零人は青ざめた表情でそいつの名前を言いあげた。



「あれは、アンラマンユ……ゾロアスター教において、最凶最悪の邪神だ!」

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