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第3話 取り憑く神

 ──そして2人は土曜、この上葉町の博物館へとやってきた。今日はエジプトのミイラが来たということでやはり中々の混み具合である。


「ここにいるんだよね……」


「あぁ、そうだ」


 優人は博物館の周りを見て零人に確認を促した。いることは明白、だが様子は異様であった。

 彼らの感じることができるソレから発せられる霊力は聖獣達とも妖怪や悪霊共とも違う。異世界から来たあの化け物や異界の蜘蛛に似ているような霊力の気配、『霊気』だ。優人は霊力を感知して相手の情報を理解できる段階まで進化していた。とにかく危険な霊力であることに間違いはなかった。


「──直接交渉だが、これは雲行きが怪しそうだ」


 2人は少し足を止めたが、ここで引けるはずもない。もちろん初めからそんなつもりなど毛頭ない。


「行こうか」


「うん……行こう」


 ──2人は博物館の扉を開いた。館内は多くの人でごった返していてたが恐らく全員ミイラ目当てだろう。ミイラを見にきた人達によって形成したであろう長蛇の列が既に館内で出来上がっていた。

 零人達は開館して10分も経たない内に来たのだが、開館前からきていた者が意外にも多かったようで予想以上に並んでいた。

 係員に最後尾まで案内され、彼らは列の最後列へと並んだ。その時点でもうただならぬ霊力を2人は感じていた。


(エジプト……オリンポスのとこが候補だが、どうだろうな──)


 そして2人が並んでから数十分後、ようやくそれらしきミイラのショーケースがチラリと見えたが、まだミイラ本体を確認することはかなっていなかった。

 すると隣に並んでいる零人が、テレパシーで優人に直接優人の脳内へも話かけた。


『優人、呪錬拳か幻想刀を準備しとけ』


 優人は彼の方向を向いて頷いた。即座に手には幻想刀が握り呪錬拳を己の拳の上に纏わせて臨戦態勢を整える。霊能力なので周りに見られる心配もなく、ただソレに警戒するだけで済んだ。

 一歩、また一歩と列はゆっくり進んでいく。


 ──それから数秒後、反射的に優人は飛んで来た火の玉を呪錬拳で弾き飛ばした。弾かれた火の玉は空気中で消えていった。


「──うわっ!」


 優人は少し足がふらついて列からはみ出した。人目がある以上、大きな動きができないのが何よりも状況的なデメリットだった。弾けたことは良かったのだがあまりの威力の凄まじさで優人でも軽く押された。ただの火の玉ごときで……


「こいつぁ、ちょっとダメそうだな」


 零人はショーケースのミイラそのものには目もくれず、頭上に浮かび上がってきたその者──神を見つめた。


『…………』



「れ、零人君……あれは?」


「エジプトで信仰されていた絶対の神────太陽神ラーだ」


 太陽神という言葉通りその神、ラーは体が炎に囲まれ太陽の如く輝いていた。だがその目は何故か遠くを見つめている。意識がここには存在していない。

 ラーはただ数弾の火の玉をこちらに飛ばしてきたが、零人はその玉を『ロード』して火の玉をこの世界から消した。


「俺の能力を早く使うはめになるとはな……」


(──ロードはかろうじてできた。だがなんだ?この違和感は……ラーを相手にしておいて怠惰の制限がなぜ解除されねぇ。そもそもこの霊力もやけに少ねぇ気がするが、何かコイツやってやがるのか?)


 零人は違和感を覚えていたがそれでも神は神、実力としては伊達なもんじゃない。ラーの霊力に乱れはなく、常にどこかを見ていた。

 これだけの至近距離でもし能力を発動させていなければ2人は焼かれて葬られていただろう。それだけのパワーやスピード、精密さを持っていた。


『……』


 ラーは火の玉を放つと、そのまま上に上がっていき、博物館よりもはるか高い上空に浮上していった。

 優人は現状の確認のため急いで零人に尋ねた。


「ラーはどれぐらい強いの?」


 かなり焦っている。優人の霊能力的な勘が先程の火の玉より大きく広範囲な攻撃をラーがしてくるであろうと予測したからだ。


「実際、魔術とか霊能力は現実の物には干渉しにくい。特に対人間用の術をわざわざ使わねぇ限り。ラーはおそらくさっきみてぇに炎で攻撃はするものの、実際及ぼす被害は少ない」


「あ、あのレベルで?」


「──ただそれは物質や実体としてあるものだけを考えたらの話。仮にそんな攻撃をされたら空気中や体内の霊力も共振して霊能力者や人より霊力がある非力な能力者はあの霊力で焼かれる」


「──っ!!」


(みんなが……マズい!!)


 2人はさらに焦りを見せていた。

 この街には菜乃花や政樹、優人の家族達などのように微弱な霊力を持っているも高等な魔術や強力な技を持っておらず、霊を認識する程度のレベルの霊能力者がほとんどだからだ。

 この街には他にも大勢、もしかしたら優人の予想以上に霊能力者がいるかもしれない。2人は一刻も早くラーを倒さなくてはならなかった……


「まず外に出てそこから奴のとこまで俺の鎖で登る、いいな?」


「うんっ、行こう!」


 急いで2人は並んでいた列を抜け、人混みをかき分けて博物館から脱出する。身を屈め、出口まで一直線に駆けていった。

 館内から出ると博物館のちょうど真上がいつもより明るくなっているのが分かった。その明るさの先にラーはいる。


「──はっ……大変だ!!」


「野郎が……俺らよりもそっちかよ、クソがァ!」


 彼らが見上げた先……ラーは上空で炎を生成、増幅、巨大化させて火の玉──もはやそれは『小さな太陽』とも呼ぶに値するほどの火炎の集合体を作り上げ、虚ろな目で街の方を見ていた。

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