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第2話 創成の召喚獣

 無数のタコの妖怪達が水面から飛び出し、優人達に襲いかかろうとしてきた。

 この妖怪達は決して弱い相手ではない。だが優人にはまだあの異界での激しい戦いの記憶が鮮明に残っていた。


「あの時に比べたら、大したことないや!」


 しかし優人の内にある恐怖心は油断を許さない。ただし彼の場合、その恐怖心こそが霊能力の原動力にもなるのだ。その霊力の流れと戦いにおいての身の構え方を身につけた優人に零人は感心し期待する。


(優人のやつ、この状態なら低級の聖獣程度なら呼べるかもしれねぇな)


「よし優人! 今から言う聖獣の名を呼べ、そいつは──」


 零人がその名を呼ぶ前に優人はその聖獣を召喚した。目の前に魔法陣を展開し、空に向けて声を張りその聖獣の名を絶叫した。


「クラーケンッ!!」


 周囲に迫っていたタコの妖怪は吹き飛ばされる。魔法陣から滝の如く溢れ出た霊力は爆ぜ、次の瞬間には優人の前に顕現する。


 目の前にはその全貌を確認しきれない程に巨大な赤い触手が宙を浮いている。怪物は八本の足を痙攣させながら、ただ優人の(めい)を待っていた。


「やったぁ呼べたよ!」


「低級とはいえ1発成功か、やるな優人」


「えへへ、ありがとうっ」


「そしたら後は憑依だ。まずは心臓付近の霊力を知覚して──」


 零人が説明をしている最中、突如激しい光が優人を包み始めた。皆まで言わずとも召喚に続いて憑依まで成功した優人に零人は思わずニヤリと笑った。


「ゾーンに入ったか」



 優人の心臓部分、その奥に存在している優人の魂は淡い光を放ち、優人の中に呑まれていくようにクラーケンの巨体は霊力の小さな無数の光と共に風と姿を変えて吸い込まれていった。

 優人の体表は翠色に光り輝き、鮮やかな霊力が8つの巨大な触手へと変貌する。


「ん……っ、うええええ!?」


 鞭の如くしなりながら触手は優人の背から実体化をしないまま、肉の中から突起する。優人の魂と接続したクラーケンの触手は優人の呪いを帯びて黒く染まる。


「まぁ、想像以上って感想以外ねぇな。クラーケンの完全支配に成功してしっかり融合してる。その上に呪いの相乗効果か」


「この後はどうしたら良いの?」


「もう憑依も完了してんだ、好きにやって良い」


 優人は攻撃手段を悩んだが、この触手と自身の力を活かせる1つのある方法を思い付いた。優人のバトルスタイルに最も適した攻撃方法。


「呪いを触手に込めて殴る」という単純な攻撃、それが最善の一手だった。


「うわあぁぁぁぁ!!」


 漆黒の凶鞭は音速の壁を越え、川の水面に爆竹のように振るわれた。8本の触手に加えて優人の呪いの拳が川全体に降り注がれ、空気が震えるほどに霊力が蒸発していく。

 川の中に潜む妖怪共は優人の触手による猛襲と触手から水中へと放出される大量の霊力に身を晒され、翻弄される。


 憑依に成功したとはいえども、まだ1度目の憑依。優人に憑依したクラーケンの召喚自体が徐々に薄れてその姿は希釈していく。

 しかしクラーケンが消える速度を上回って優人の攻撃は絶え間なく続けられた。


 クラーケンの召喚が解除され消えたその瞬間、川の中にいた妖怪は1匹残らず天に召された。残るのは呪いと妖怪達の霊力の残穢のみだった。


「やったよー!」


「おう」


 優人と零人は互いに近寄っていき、ハイタッチをして優人の完全勝利を喜んだ。無邪気にはしゃいだ優人だったがふと冷静になって零人の振り返る。


「ていうか零人君、最初は聖獣じゃなくて良いって最初言ってなかった?」


「なんかノリで出来そうだったから言っただけだ」


「ノリ!?」


 驚愕する優人のリアクションに腹を抱えてた零人だったが、笑い終えるとすぐさま真剣な顔を作り独り言を呟いた。


「これなら、お前を連れて行っても平気だな」


「えっ、連れて行くって?」


「エジプトのミイラがこの町の博物館にやって来るってニュースは知ってるか?」


「うん、知ってるよ。今朝ちょうどテレビでやってた!」


 零人は手元に小さく魔法陣を展開し、中に右手を突っ込んで雑に腕を動かしながら何かを取り出した。取り出された物は零人が投げるとヒラヒラと宙を舞い、優人の手元まで流れる。


「何これ?」


 渡されたのは1枚の写真だった。その写真にはエジプトの象形文字が描かれた壁の一部が映し出されていた。

 しかし不可解な点が一箇所確認出来た。それは写真左半分映っている石壁が焼かれていたということだ。それも綺麗にその一部分だけが抉られたかのように焼けて消滅していたのだ。


「神や悪魔の存在は人々の認知や信仰心から生まれる霊力が集積され、魂として創成されて誕生する。つまり神話や聖書に出てくる悪魔や神の実力は本物(オリジナル)の強さと比例する」


「ていうことは、これ……」


「これだけ実体干渉力があって、一見しただけでも分かる高度な術。神でも悪魔でも、相当な実力者だ」


 石の壁が特定の箇所のみ蒸発するように溶けて消えている。つまりそれだけの精密動作と実体干渉力を持つ高位な存在ということ。その者との邂逅の危険性は火を見るより明らかだった。


「そいつを倒すんだね?」


「いや、最初はただのスカウト。そして交渉を前提に立ち会う」


「っていうと?」


「エジプトを含む中東の神は委員会との契約を承諾してねぇから、これから直接交渉を持ちかけるしかねぇんだ」


 零人の説明を受けても優人は口をポカンと開けて眉をひそめていた。


「少しだけ昔話をする。どうせ後々になってから必要になる委員会の基礎情報だ。聞いてくれ……」



 ──霊界混沌期、半世紀前まで霊界はあらゆる神話や宗教の神や悪魔、概念で溢れてた。

 善を司る神と天使達は天界を守護し、悪魔や悪神と恐れられた者達は天界を除き、地獄を始めとする霊界の全てを支配した。


 無秩序な世界は弱肉強食。死して霊となった人間は霊界で文字通りの地獄を見ることとなり、理不尽と苦痛を味わった後に輪廻転生をするという凄惨な最期を遂げていた。



 しかし人間達は奴らに対抗すべく霊管理委員会の元となる組織を作り上げ、悪魔勢力と10年にも渡る『第一次霊界大戦』を繰り広げた。


 輪廻転生で消えた者は多かったが、結果的に霊管理委員会陣営が大勝利を収めた。

 本来、人間が適う筈のない悪魔共を打ち倒せたことには理由があった。


 1つは天界に住まう天使や一部の神達、人間を守護する存在からの助力。更に極わずかだが、悪魔の中でも後を利益を求めて委員会と契約を結んだ者がいたこと。


 そして霊界大戦で勝利を収めることが叶ったのには理由があった。彼ら人間霊には切り札があった。


 それは────



「──それは討ち滅ぼされ魂を失った悪魔や神の身体に人の霊が入り込むことで、対象の体と能力を継承出来る『憑依』だった」


「さっき僕がやったやつ?」


「あぁ。原理は同じだ」


 優人は彼の語る霊界の歴史に聞き入っていた。



「そうして人々は少しづつ悪魔を倒す内に悪魔の力を手に入れ、勢力を増やしていった。次第にキリストの悪魔勢力を中心に悪魔の支配層は崩れた」


「おおっ!」


「悪魔の人格は大半が元人間のものになり、その悪魔達と霊能力者を中心とする今の霊管理委員会が誕生した」


 壮大な物語を聞かされら優人は無意識に語り手の零人と戦った彼らに向けて拍手を送った。


「じゃあ、もしかして悪魔の人や魔王様とかって?」


「元人間だ。だが中には服従した者もいるし、人格がオリジナルのまま奴、自我のないやつもいるからバラバラだけどな」


 霊界史を語り終え、息を付くと零人は首を回しながらスカウトの話を再開する。


「そんな訳で、逆に敵対してた悪魔勢力以外の神とかは以前野放し。神とはいえ、気まぐれで災害を起こすバカもいるから、なるべく早く見つける必要があんだ」


「だからスカウトに行くんだね! 分かったよっ」


「何かあれば、俺がいる。だから安心しろ」


「えへへ、ありがとね」



 ──この時、優人は知る由もなかった。

 自身がこれから、想像を絶する巨悪と対峙することになるとは。


 それが自分の運命を大きく変える存在になるということも。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 文中に。 『。神話にも登場したその"大ダコ”は八本の足をピクピクとさせながら、ただ優人の命を待っていた』 とありますが、『命』が、一瞬、『いのち』って、解釈しちゃいました。『めい』で…
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