第1話 宿る力
「ふぅぅ〜」
いつも通りの学校、懐かしい日常、日が照る間のみに訪れる平穏に感謝しながらも優人は林間合宿の疲労で気が抜けていた。この日で林間合宿終了から2日が経ち、ようやく調子が戻ってきたという所だった。
零人も異界の戦いの霊力消費が制限下に戻ってもフィードバックとして回復しなかったために今日まで悪霊の退治は休んでいた。
しかし優人は疲労状態でありながらもこの時は躍起になっていた。強くなる目標と堅い意思を抱いた優人はこの瞬間でさえ、修行がしたくて堪らなかった。
「今日は頑張ろう!」
優人は目を輝かせながら拳を握って己を奮い立たせる。しかしその隣の人物は対照的に戦闘どころかこれから始まる授業へのやる気すらも全く見せていたなかった。
「んん、すぅ……」
零人は自身の疲弊した身体の命令に背くことなく、自席にて堂々と昼寝を取っていた。零人は相変わらずとことんマイペースなままだった。
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2人の時間はあっという間に過ぎて夕暮れ時となる。放課後になった瞬間に転送術で学校から2人は直接この場所へと移動して来た。
ここは周囲を山に囲まれた下流の河原。時たま魚が水面から飛び出し、夕日に照らされ水は橙に染まる。
修行に対する気持ちが高ぶっている優人はぴょんぴょんと飛び跳ねながら零人の指示を煽った。
「それでそれで、今日は何をするの?」
「今日のお前は『憑依』を習得する。適性に左右されるが、もし成功したすりゃあ十分伸ばす価値のある術能力」
「憑依?」
「霊、妖怪、召喚獣なんかの力を自分の魂に下ろして使用する能力。憑依を成功させりゃ、術者には憑依させた存在の霊力が上乗せされ、その者の能力を憑依時に得る」
夢が広がりロマンが溢れる説明であった。憑依させたくて優人は疼いていた。しかし優人の純情を壊しにかかるように零人は憑依の危険性を開示する。
「まぁ当然だがデメリットもあるがな。自分の許容範囲を超えた存在を憑依させると暴走、最悪の場合は魂に傷がついて精神が破壊される。ま、大丈夫だ」
「良くないよ!?」
「練習だ練習、やべぇ状況になったら俺が憑依を妨害する。俺の今ある少ない霊力でな」
「やりづらいよ!」
「……なんかお前、ツッコミのキレが良くなったな。前よりお前の反応がおもしれぇ」
2人が悠長に会話をしているその間、刻々と日は落ち欠ける。風の流れも変わり、優人はこれから襲来する者達の気を感じ取る。
「あ、もうそろそろ来るね」
川の中に魚影とは異なる影が増え始め、霊力で小さな蜃気楼のように水面付近の空気が歪み出す。
影は徐々に音を立てながら水中で小刻みに動き、無数の水泡が浅いはずの川底から一気に溢れてきた。
「けっこう数多い、ね」
川の見かけの深さや大きさに反して大量に発生した霊力。その総数を優人が悟った次の瞬間、大量に川から影の正体達が飛び出した。
それは小型の魔獣というにもあまりに貧弱なタコの妖怪の群れであった。
夕日に照らされたタコ共は5mほどまで高く跳ねると落下を利用し優人を集中に狙って飛びかかった。





