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第32話 抜け出しクック

 数時間ほどバスに揺られ、優人達はついに目的のペンションへと到着した。


「ついたぁぁ!!」


『フオォォ!!』


 優人は到着するとそのテンションの高さから叫び、周りも同調して歓声を上げる。


 全てのクラスが揃うと集合がかかり、ペンション前に全員が座った所で学年主任から指示を受けた。


「ええ、じゃあ皆さん……3日間ここで過ごすので節度をもった生活を心掛けて下さい」


 遠回しに先ほどのことをディスられている優人達だが、もちろん自覚無し。優人はともかく他はかなりタチが悪い。


「荷解きが終わったら、クラスごとに集まり次第カレー作りに取り掛かって下さい。あえて係と制限時間は決めません。片付け含め、夜のキャンプファイヤーの30分前には終えて下さい。自分達で考えて行動するように」


 現在の時刻は1時45分、キャンプファイヤーは6時から。

 普通なら十分に間に合うのだが優人達にはとあるミッションがあった。特に男子達が中心となって士気を上げる。


「よし、早いところカレー作るぞっ!」


『おおぉぉ!!』


 それはキャンプファイヤーまでの自由時間だ。早く終われば終わるほどにその時間は長くなる。

 彼らにはしっかりとした計画があった。皆で楽しむ普段はやらないトランプ等のアナログゲーム、男女混合で行うドキドキ感が楽しめる王様ゲーム、そして人前では言えないことを夜語り尽くすために必要な先生の見回り表のトレース。


 これらのことを行うには出来る限り早くカレーを作り夕食を済ませる必要がある。

 どのクラスも一斉にペンションの自室に向かうと荷物を端によせて高速で往復する。バッグを放り投げて急いで調理場に行くが普段は大半が料理などしないような生徒、チームワークもクソもない──と思われたのだが。


「こっちに野菜とピーラー!」


「3番調理場、豚肉入りまーす!」


「米はこっち!今の内に火起こしといて!!」


「ラジャー、40秒待ちなっ!」


 初めは焦りただ騒いでいるように見えていた彼らだったがそのチームワークと効率の良さに、遠くから見ていた教室陣は驚いていた。さながらランチタイムのレストランの厨房のように慌ただしいが連携の取れたチームプレーだったのだ。

 担任や学年主任達は苦笑いした。


「ハハハ、まっまぁ……生徒達がしっかりと一致団結していて良い──かと」


「普段もこれくらいして欲しいですよ……」


 あまりに整った連携だったため、感心するどころかむしろ、いつものやる気を削がれたようだった。

 その連携を見ていた優人も奮起し袖をまくった。


「僕達も手伝お──」


 零人は肩に手を置いて静止させる。


「ちょい待て、俺らは先に蛇夜山の悪霊出現防止の作業だ」


「えぇ〜?今なの?」


「悪い──酔いながらさっき見たが、この山の悪霊達が性質が最悪で下手したら明日体調不良者が出るかもしれねぇ」


「そ、それなら……」


「だが考えはある、あっちには結界張るだけでいい」


「倒さなくても良いの?」


「あぁ、どの道奴らが活動時間じゃねぇと俺らも何もできねぇしな。そのために大量の結界石持ってきた、魔法陣で水道の横に転送術のゲートを置いとく。この芋洗い状態ならいなくなってもすぐは問題にならねぇ。テレパシーと肉体時間加速術を使って必要箇所に置いてくる。置きつつ、カレー作りに参加する。それでどうだ?」


「うん!それが良い」


 さらっと零人は言ったが『肉体時間加速術』とは本来は古代の術でありとても高度な技だ。通常より速い速度で動くことができ尚且つ頭の回転も等倍速度まで上げる。それによって普通の時間の流れより速く移動できるという術。その術の零人の改造版である。


「時間が持ったいねぇし、加速術は俺が感覚補助しとくぜ」


「うん、ありがとう!」


「──じゃあ始める、石が結構数あるからな……場所は光って見えるようにテレパスでお前にインプットしておいたからそこに設置してくれ。俺は同時進行で転送とテレパシーでサポートする」


「うん!!」


 零人は魔法陣を展開すると水道横の壁に設置した。そこへ足だけ突っ込むと体全部がパッと蛇夜山に転送される。周りは自分達のことに精一杯で気がつく様子は全くなかった。

 ──優人は山につくとすぐに周囲を確認した。零人は別の場所にいるらしく、誰もいない。


「あ! あった、これだよね?」


 転送されると同時に優人が見つけたのははゲームのチェックポイントやセーブポイントのようなクリスタルが浮いているように見えた。すると零人の声が脳内へ直接届いた。


『設置完了するまで常に手の中に結界石があるようにしとくから、送られてくるそいつを地面にぶっさせ!光ってるクリスタルが消えればそれが合図、周りに置く場所が無くなったのを確認したら俺が次のポイントまで転送する』


 突然のテレパシーに驚いたが優人はカレーの方に気がいっているためリアクションが少し薄かった。


「零人君、霊力は大丈夫なの?」


「霊力を貯めてたのと、この任務を受けるってので結構もらってきたから心配すんな」


「了解!」


 そして結界石を言われた通りにクリスタル付近の地面に刺した。刺したポイントのクリスタルは光と共に消えた。


『それでクリアだ。10分やると10分向こうに戻るようにしとくぜ』


「うん、ありがとう!」


 そしてここから肉体時間加速術が発動される。零人によって半強制的に術を発動させられると、世界が一変した。音が耳に届くのが鈍くなり、地面を蹴った時に飛び散る土がスローに見えた。世界が遅く見えているのは優人自身が速くなったからなのだ。


「すごい……それなら──」


 優人は霊動術で脚力を強化する。遅く流れる時間の中でもさらに高速で動けるように。そして疾風を追い越す鳥のような速さで走り出した。


「これ、気持ちイイ!!」


 風をいつも以上に感じながら、手に持っている結界石をサクサクと地面に指して設置していく。さらに勢いを上手く利用し、体から出した呪いの拳をフックのように木などへ固定するとワイヤーアクションのような動きで浮遊し、ポルターガイストで着地を補助しつつ再び走り出した。


「やっふぉ〜!!」


 加速術のおかげで楽しめているが、普通であれば設置箇所の間隔が広く、とてもすぐにできるようなものではなかった。

 これを10分ほどこなしていると零人からテレパシーで連絡が来た。


『10分経過した、1回調理場に戻すぞ』


『うんわかった、結界石は40個はもう置いたよ』


『なんですぐテレパシーも使えんだよ……』


『返信だけねっ』


 すると優人の足元の魔法陣が現れた。優人は上体を逸らしたり靴裏に錬金術で金属ストッパーのような突起物を出して勢いを殺した。優人の体は自転車程度の速度まで減速して転送術によってペンションの調理場へと戻った。


 ──調理場に戻ると優人は驚いた。先ほどまで走っていたあの勢いが無くなっていた。そして加速術は解かれて他の者達と変わらない速度で時間の中を動いた。


『加速術はあの山限定に一応しとくぜ。ちなみにお前の勢いは山に置いてきた。だから転送後にぶつかる心配はないぜ』


「オッケー!」


 するとクラスメイトの1人の女子が優人に話しかけた。


「優人君、この人参切ってくれる?」


 優人には10本程の人参が手渡された。綺麗に洗った状態で手渡されたため、後は切るだけであった。テーブルに人参達を置くと優人は近くのザルと包丁を手に持った。そして人参をクイッと包丁で浮かせる。


「ほいっと!」


 シュタタタッ


「えっ!?」


 優人は包丁を匠に使い、絶え間なく空中で人参を捌いた。皮を剥いてから、いちょう切りになるよう切り込みを入れる。人参はザルに落ちるとその重さでバラッと解けた。


「ほいっ、ほいっ、ほいっ」


「ええぇぇ!?」


「嘘だろ!?いつから優人は曲芸師になったんだ?」



「はいっ、これで全部ね!」


「あっ、うん……」


 肉体時間加速術と霊動術を先ほどまで使用していたためか、いつもより手際良く斬ることができた。そしてココ最近は刀の練習をしているということもあるが、何より優人は料理が上手いのだ。

 

「優崎ー、こっちも切ってくれ〜」


「わかったぁ〜!」


 そして優人はじゃがいもや玉ねぎなどを次々に切っていった。すると優人のタイムリミットがきたようだ。足元に魔法陣が現れたため、小屋の後ろに行って向こうへ戻った。


「──よぉし、このまま全部設置するぞぉ!」


 結界石を設置する作業を優人は何十回も繰り返していった。調理場に戻っては彼らを全体的に補助し、山では全力疾走で石を刺していった

 ──そして40分が経過し、優人は山では零人と合流した。


「ふぅ……お疲れ、これで完了だ。悪霊達はこの山にしっかりと封印できたぜ。戻ればもうカレー出来てるはずだから早く行こう」


「うん、行こうっ」


 焦っていたことがあり、他のクラスの手伝いも優人は知らず知らずのうちにやって終わらせていたのだ。結界オーライである。


 ──転送術で戻ると優人はテーブルに座っていて、いつの間にかよそられていたカレーが置かれていた。

 カレーを作りながら、結界を張っていた2人は腹が減って仕方がなかった。ちょうど皆が食べ始めていたようだ。零人は少し離れた向こうの席に座ってカレーを食べていた。優人も手を合わせてスプーンを握った。



「いただきます……うん、おいひぃ〜!!」


 夢中になって皆がカレーを何杯もおかわりしていた。やはり、林間合宿のカレーとは格別だった。今まで自分達で作ったカレーの中でも1番美味しいカレーだった。


 ──こうしてカレーの片付けはスムーズに済み自由時間も増えた。そして皆が待ち望んでいたトランプや王様ゲームを一通りやり、見回り表の写しもゲットした。ペンション内もゆっくり出来るとても良い場所で喜んでいた彼らだったが────ある問題が起きた。


「あぁ、腹減った……」


「おかわりをもっとぉ──」


 早く作り過ぎてしまい空腹感に皆が襲われていたのだ。彼らは時間をもう少し遅らせ、もっと食べておけばよかったと後悔したのだった。

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