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第20話 純血の一家

 優人達が住むこのT県、上葉町(じょうようちょう)

 都市郊外に位置するこの街はベッドタウンとして人気の街であると共に、観光業も発展している。近年に栄えた街であると共に、海や山も近い自然の豊かさもある。

 町と銘打たれているが、人口の規模は市になる日も近いほど。


 ビル街には飛び抜けて高いビルが1つあり、街のシンボルマークとなっている。



 これはその街に住む、とある家族の話。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 学校上がりの夕方。空模様が昼間と一変し、予想していなかった雨雲の姿を見せた。


「ん? 雨か」


 それはものの数分で一気に土砂降りになって、雷が鳴り始める。

 零人は何の気なしに外を見ていたが、優人が少し焦った様子で話しかけてきた。


「大変だよ零人君、そういえば今日は、予報でこの後大雨と落雷警報が出ててるんだ」


「マジか、面倒だな。傘もなけりゃ余分に使える霊力もらえんのも明日なんだよ」


 零人が面倒臭そうにしながらも何とかなるだろうと思っていた矢先、あることに気が付いた。


「あ、てか。俺今日は家帰れないんだ」


「ええぇ!? それどういうこと?」


「今、住んでる家に結界入れてて入れねぇんだった。仕方ねぇし、どっかに泊まるか」


 ため息を着きながら零人は頭を掻いた。だが優人は零人に1つ、ある提案をしてみた。


「零人君、良かったらウチに来ない? 部屋ならあるし、実は僕の家族も皆が零人君に会いたがってるんだ」


「え、いいのか?」


「もちろん!」


「ちょっと待て、家族が会いたがってるって?」


「ん? いつも僕が零人君と仲が良いって話だよ」


「あぁ、そうか。それじゃ悪い、少し邪魔させてもらうわ」


「わあぁい!」


 誘いを受けた零人は無邪気に喜ぶ優人の姿を微笑む。




 優人の折り畳み傘に入りながら、2人は小走りで優人の自宅へ向かった。10分ほど走り続け、無事に彼らは家へ到着する。



「着いたぁ」


「おう……は?」



 零人は思わず絶句した。


「えっ、お前ん家……?」


 彼が困惑するのも当然であった。目の前に立っている優人の家は、いわゆる豪邸と呼ばれる類いのものだったからだ。



 三階建ての恐ろしく大きな家だった。ベランダの塀や壁は洒落た造りで、窓の枚数が正面から見るだけでも20枚はあった。

 家の前には庭があり、噴水や謎の石像まで置かれている。


 更に家の敷地内には別棟の立派な日本家屋が立っている。それも巨大な瓦の門が建てられている。



「優人の坊ちゃぁ〜ん!」


「っ!?」


「あ、おじさん達だぁ!」



 優人が振り向いた先には、グラサンをかけた黒服の男2人が駆け寄ってきていた。


(こいつ……もしかして御曹司かなんかなのか?)


「大丈夫ですか坊ちゃん? 旦那も心配されてましたよ。濡れては風邪をひいてしまいます。すぐにお着替えを……おや坊ちゃん、そちらの方は?」


「あっ、どうも」


「僕の友達の零人君だよ。今日はちょっとおウチに帰れないらしくって。泊めてあげたいんだけど良い?」


 優人が頼み込むと、グラサンの男二人は嬉しそうに微笑んだ。



「坊ちゃんのお友達でしたか! 勿論でございます。どうぞ、ごゆっくりして行って下さい」


「こちらにもタオルがありますのでどうぞ」


「す、すいません。ありがとうございます」


「良かった〜」



 零人は謎の恐怖感を感じていた。挙動不審になりながら零人は優人に耳打ちする。


「本当になんか悪いな。今度何かの時に礼をさせてくれよ」


「別に良いのに」



 零人は引きつったような顔のまま優人に手を引かれ、早速家の中へと入っていった。


「中は……意外と普通だな」


「うん、あまり変わったものはないよ〜」


 シロクマの敷物でもあるかと思ったが、玄関は広さと綺麗さを除いて特に変わったものはなかった。


 しかし玄関横に置いてあったショーケースは異彩さを放っている。トロフィーや盾、賞状で埋め尽くされていた。学校内のショーケースにも劣らない数がその中に置かれている。



「お前かなり色んな賞取ってんだな。って、名前がお前のじゃないのも結構あるな」


「あぁ、それは妹や弟達の奴だよ」


「えっ、お前年下の兄弟いたのか。イメージが全然湧かねぇ」



 話していると早速、小さな子供2人が優人の元へ走り寄って来た。


「「兄ちゃんお帰り~!」」


「ただいま~」


 弟2人は兄に飛びつくと、突然家に来た零人の姿を見て驚いていた。



「弟さん、だな」


「うん、紹介するねっ。弟の(まもる)君と凌助(りょうすけ)君。守君が小学校4年生で、凌助君は中学2年生」


「初めましてー!」


「どうもよろしくお願いしますっ」



「宜しくな。兄ちゃんにはいつも世話になってる」


 2人の表情は、どことなく優人に似ていた。声音や顔立ちがそっくりだった。


 弟達と挨拶を交わしていると、今度は落ち着いた大人の女性の声が聞こえてきた。


「あらぁ、優ちゃんのお友達?」


 エプロン姿の若々しい美人な女性が出迎える。



「どうも、初めまして。真神零人って言います。優さ──優人君にはいつもお世話になっております」


「優人の母の嶺花(れいか)です〜。息子がお世話になってますぅ」


(って若けぇなおい! 一瞬姉ちゃんかと思ったわ。本当に服装でギリギリ母親って分かったレベルだぜ……)



 優しそうな笑顔が素敵な女性だった。仕草や言葉から感じる上品さはまさに奥様という印象だ。


「いつも優人をありがとうねぇ。優ちゃんに霊能力を教えてくれてるんですよね、本当にありがとう」


「はい。そうなんで──え? 今、何て……」


 友人母からの思わぬ発言に零人の思考は停止する。



「あ、零人君。霊能力のこと家族の皆に言ったんだ。術を見せたら、みんな驚いてたけど納得してくれたの」


「家族の適応早っ! てかバラしたんかい!!」


「それはごめんね、やっぱり家族にはどうしても……」


「そ、その様子なら理解してもらえたみたいだし、現に話題として出してもらったぐらいだから大丈夫だけどよ」



 零人は嶺花や弟達の方を見ると、更に1つ気が付いた事があった。


「ていうか、弟さん達とお母さんも。薄いけど除霊結界発動してる……」


 微弱ではあるが、それは明らかに霊能力の影響を受けている証拠だった。

 優人のような覚醒の仕方をする可能性は低いが、その結界は低級の悪霊であれば寄せ付けないほどの効力を持っている。



「ホントに!?」


「やったぁ〜」


「あら~」


 本人達は喜ぶが、優人は不服そうな様子でむくれていた。珍しく優人は嫉妬する。



「いいなぁ、僕は除霊できないのに……」


「お前はそれ以外の霊能力の才能がすげぇから、欲張るもんじゃねぇよ」


「あらぁ、良かったじゃない優ちゃん」



 零人は賑わう家族の横で、眉間にシワを寄せてしばし考えを巡らせていた。


(優人の影響受けてる反応から見て、優人が遺伝的に霊能力に覚醒した線は消えたな。やっぱそうか)



「仲良しで良かったわぁ。そうだ、これから夕飯だから零人君もどうぞ」


「えぁっ、ありがとうございます!」


(あぁ、ありがてぇ……久しぶりの手作りの飯だ!)


 カップ麺とインスタント食品生活の長引いていた零人には願ってもない出来事だった。




 零人は早速、食事の置かれた部屋に通される。


 この日のテーブルにはパスタやリゾット等イタリア料理が並ぶ。小洒落た盛り付けで見栄えが良く、食欲をかき立てる。


「さ、どうぞ。ご飯にしましょ」


「わぁーい!」


 優人の弟達は急いで椅子に座ると、足をパタつかせる。今にも食べたそうだが、残りの家族を待っている様子だった。


 待っていると階段から人の降りてくる音が響く。疲れた表情をした年頃の少女が食卓の匂いに釣られてやって来た。



「あぁ、ママ。今日は課題キツかったからお腹空いた~」


 少し大人びた印象の少女はトロンとした顔で、自分の席に座ろうとした。すると彼女は向かいに座っていた零人と目が合い、軽く飛び跳ねる。


「って、うぇっ!? あっ、びっくりした」


「優ちゃんのお友達の零人君よぉ」


 沙耶香は慌てふためにながらも兄の友人へ丁寧に挨拶する。


「あっ、この人が! どうも初めまして優崎沙耶香(さやか)です。中3です。兄をいつもありがとうございます」


「こちらこそ、お世話になっています。すいません、お邪魔してます」


「あぁ、全然お構いなく。お兄ちゃんの友達ですから」



 優崎家の面々が揃い始め、賑やかになりつつあった時。廊下から小さくスリッパの擦れる音が聞こえてくる。



「あ、パパが来たわね」


 嶺花がそう言ったのも束の間、和服姿の男性が皆の前に現れる。

 男は零人の顔を見ると、穏やかに微笑んで頭を下げた。



「初めまして、優人の父の優崎(じん)です。息子がいつも世話になってます」


「初めまして、真神零人と申します。優人君にはいつもお世話になっています。何卒宜しくお願いします」


 優しそうな雰囲気はあるが、どこか風格を感じさせる人物だ。これで零人と優崎家の挨拶が済むと、待ちに待った食事の時間になる。



「じゃあ、皆で食べよ〜。パパの箸だよ、どうぞ」


「あぁ、ありがとう優人」



 頂きますと手を合わせ、皿に手を伸ばす。口にすると早速、零人は優崎家の料理を堪能した。


「とっ、とっても美味しいです! このパスタ……」


「本当に? 良かったわぁ」



 温かみのある美味い食事を噛み締めるように味わう。料理に箸が進んで時間が少々経過した頃、零人は仁に気になっていた質問を尋ねる。


「失礼かも知れないのですが、お父さんは何のお仕事をされているのですか?」


「会社を営んでいます。最近は警備や建築、人材派遣なんかを中心に。窓から見える、あのビルが我が社です」


 仁の指さす方向には、窓の外に上葉町のオフィス街に立つシンボルビルの先端が映っている。


「ビルって、街で1番高いあのビルですか!? えぇ……マジですか。すげぇ」



 この豪邸に住んでいるのにも納得だった。上葉町のシンボルビルはテレビで何度も特集されるほどの知名度。


 そんなビル内で会社を経営しているのだ、金持ちで当然である。

 あまり金の話をするのも悪いとここで思い立ち、零人は話題を逸らす。


「リゾットもめっちゃ美味い……」


「ありがとう〜、リゾットは私の自信作なのよぉ」


「トロットロでクリーミーな感じがたまりません」



「エヘヘ、零人君も楽しそう」




 優崎家の和やかな食事を終え、零人は風呂にまで入れてもらうことになった。


「他にもある、ってどんだけデカいんだこの家は」


 優崎家の風呂は、小さな銭湯ほどの大きさがあった。更にサウナらしき部屋の扉も見えている。



「逆に入れん! あんま長くは入っていられねぇ、貧乏人には刺激がデカすぎる。危険すぎる」


 零人はさっさとシャワーを浴びてすぐに出ようと思ったが、浴槽の魔力に負けて入浴する。


「あぁ、ヤバいなこれ。快適過ぎる……」


 湯船に浸かって疲れを癒すと、零人はボソリと呟く。


「優崎家、凄すぎる」

 



 風呂も満喫し、この以上にない贅沢な待遇を受けて零人が罪悪感すら抱くほどだ。

 優崎家を楽しみ切ると、零人は優人の部屋で眠ることになった。


「はい。零人君の布団だよ〜」


 布団を渡されると、零人は優人の自室で睡眠の準備を整える。ベッドを使って良いと言われたが、気が引けた零人は遠慮したのだ。


 結果的に、優人と敷布団で寝るという状況になった。特に2人とも気にすること無く、隣りに布団を敷いて床に就く。


「それじゃ零人君おやすみ」


「おぅ、今日は本当にありがとうな」


「良いって本当に〜」



 電気を消してから数分、優人はあっという間にスヤスヤと眠りについた。

 幸せそうな寝顔を眺める零人は思わず笑みを零す。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 この日の朝はいつも通り、無事に登校することが出来た。零人は優崎家で何度も礼を言いながら学校へと向かった。

 荒れていた天気はすっかり回復し、零人の家の結界直しも終了する。


 揃って学校に向かう中、零人は不意に優人へ質問を投げかける。


「優崎。また今度、お前ん家に遊びに行っていいか?」


「うん、もちろんだよ!」



 雨の上がった早朝の空には、うっすらと弧を描く虹が架かっていた。

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