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第35話 黒夜叉

 優人の目覚めから数日後。地獄の王達の間にて、ルシファーは今回の任務の結果報告として召集されていた。

 報告と言えど任務は無事成功したために、円卓に獣王と竜王は不在であった。ハデスと魔王、そして閻魔大王が本件の監督役として席に腰を下ろしていた。

 閻魔は今回の地下古代都市にて派遣された能力者達の功労を喜び、そして称えた。なによりこの任務で本命だった優人の活躍については王達が口を揃えて絶賛するほどに満足していた。


「此度の優崎優人の活躍、誠に見事なものであった。既にかの少年は我々の想定を上回っておる」


「ありがとうございます閻魔様~」


「しかしあの呪術式、相当な威力を誇ったと聞く。その件について何かあるか」


「まだ未確定の情報が多いため調査中と、『傲慢』から報告を受けています。優人君本人は現在落ち着いていますので、問題はないかと」


 片手を胸に当て、ルシファーは道化のような笑顔を付けて頭を下げた。しかし閻魔は優人に対しての個人的な見解を口にする。


「かの最強の有する魔術式は謂わば、その手数の多さと永久機関が織りなす故に成り立つ『規格外』。一つの完結した能力として成立し、あれほどの力を発揮する呪術式の方が現状最も脅威と言えよう」


 閻魔の発言に対して勘ぐるように、ルシファーは()()の言葉を投げた。その表情は笑っているものの、彼の目には圧が籠っている。


「まあ本人に悪意や害意はありませんし、有事には私達がバックアップに回れば良いですよね。そうでしょう、閻魔様」


「無論、罪なき者への不条理は我々の本意ではない。現時点では、まず当人の回復と今後の支援に尽力せよ」


「ははー」


「……あのような化け物が霊管理委員会の敵に回っておったらと、想像しただけで寒気が止まらんわ」


 閻魔は疲れた溜息と共に本音を吐露した。一方で魔王はルシファーの様子の変化について口に出す。


「それにしても、今日は随分とご機嫌じゃないかルシファー」


「これは失敬、粗相をして申し訳ありません魔王様」


「気にしなくていい。私達より力も実績もある君がわざわざこちらの顔を立ててくれているんだ。変に礼儀正しくしないでくれ」


 魔王は力の抜けた声で答えながら、報告会議の終了を閻魔へと促した。堅苦しい雰囲気がなくなったと確信すると、ルシファーはいつもの調子で王達へ語り始める。


「報告会議も終わったことですし、一個提案があるんですよ~」


「良かろう。凡その予想はついているがな」


 待ちきれずニヤニヤした顔で堕天使は新たな話題を持ち出した。


「これほどの戦果を挙げ、霊管理委員会内部からも注目を浴びだしたんですから、これを機に優人君に異名を一つ上げましょうよ」


「どうせお主が決めておるのであろう」


「バレちゃったかぁ、すいませんハデス様」


 ハデスは呆れたような溜息をついて椅子の背にもたれる。王達が緊張感を解く中でルシファーは先よりむしろ真面目な様子で、優人へ授ける異名を声に出した。


「『黒夜叉』、とでも名付けておきましょう。当人が気に入らなくてもそう遠くない日に新たな伝説でも作って、別の通り名も増えることでしょうし」


 特級魔獣を討伐し上葉町を救ったその功績と共に、優人は黒夜叉の名を冠することとなった。その経歴、実力はまさに異質。初任務終え、優崎優人という名は霊管理委員会の能力者に激震を走らせた。

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