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第21話 太陽になりたかった

 白夜の声が聞こえたと同時に真一の意識は遮断され、彼は黒い視界と無音で包まれた。

 耳は膨張しているのか、水の中のように音は聞こえずにいる。


 だが目を覚まそうと真一が気張ると途端に意識は回復し、真一は自分がアスファルトの上に横たわっていることを認識する。


「──つつ、何が起きたんだい……?」


「良かった、すぐに起きれたっスね」


 まだ擦り傷と衝撃波の痛みが多少残りながらも真一は体を起こし、声をかけた白夜の方をゆっくりと振り向いた。


 振り返ると真一の目には外傷が少しばかり癒えた白夜と都会の高層ビル群が飛び込んできた。


「ここは……」


「要塞都市アトランティスの内部ですよ」


「っ! そうだ、あのゴーレムは!?」


 真一は意識が完全に覚醒すると霊力の気配を悟り、ゴーレムの霊力を感じる方向を向いた。


 向いた先には予想通りに先程のゴーレムがいた。しかし様子が明らかに異様だった。


「止まって、いる?」


 依然、コアの魔石を裸のまま晒し、攻撃どころか修復作業すら行っていなかった。静止画を見ているようにピクリとさえ動かない。


「これがアトランティス第一形態の能力、『擬似天国(ユートピア)』。異界化した都市内に敵を引き込んで時間を止める。零人さんの『アズの世界』の劣化版みたいなもんス」


「つまりさっき最大出力で破壊したゴーレムの状態を保存したまま引き込んだんだね」


「時間制限はありますが、擬似天国(ユートピア)は発動した術者が許可しない限り、引き込んだ時の状態より前には戻れない。俺らは回復出来ても、アイツはこれ以上自分を修復できないっス」


 白夜の説明と目の当たりにした現状を把握して真一は安心した。まだ油断が許される状況でないことは理解していたが、それでも不意にホッと息をついた。


「そっか、それなら良い。あとは魔術を使えれば問題解決だよね?」


「そうっス!」


「じゃあ少しの間、またゴーレムを攻撃させてもらうよ。僕の切り札は霊力が全身をしっかり巡ってないと発動出来ないんだ」


「そうっスか、じゃあ状態保存の特性を残したままアトランティスを形態変化させるっスよ。じゃないとこっちの攻撃も入らないんで」


「了解した、そっちは任せるよっ!」


 互いを信頼し、石人形を二人は真っ直ぐに見据えて各々の武器を構える。

 僅かながら白夜はアトランティスの霊力を消費して自分達を回復し、最後まで倒れぬと覚悟を決める。


「すまないが、少しお喋りになるよ。戦闘中は話している方が、調子が上がる質でね」


「お構いなく、どうぞっ」


 屈託のない了承を得た真一は朗らかな微笑みを見せる。白夜は自分達が今立っている悪魔に再度、命令を発布した。


「アトランティス第二形態『命の楽園(アルカディア)』ッ!」


 白夜の一言によって傲慢の悪魔はコンクリートジャングルから変貌を遂げる。


 ビルは淡い光を零しながら霊力の胞子となって消え、アスファルトはその硬い感触から柔らかな踏み心地へと変わっていく。

 緑の優しい光が一帯を包み、大量の霊力が変換されるとアトランティスは巨大な花畑と化した。


 色や形から大小まで様々な種の花が咲き乱れる。緑の草原と色とりどりの花を付けた草花達は喝采するように花弁を踊らせた。


 聖力と生命力で溢れた花園は霊力を蓄え、異界と地下空間との境界は晴れ晴れとした青空に変わっていった。


「うっしゃらぁぁ!」



 白夜達は地を蹴るように飛び出し、足元で咲いていた花弁が宙を舞う。

 同時にゴーレムが修復活動を再開した。先程のノヴァの攻撃の影響から分からないが凄まじい衝撃波は放たれず、代わりに岩と霊力弾の弾幕が2人の前に立ちはだかった。


 自分達に向かって障害物が投擲されている最中、宣言通りに真一は独り言のように話を始めた。


「僕はね、太陽になりたかったんだ」


「……?」


 白夜は話の始まり方を不思議に感じながらも、飛んでくる岩塊を凶星の振動で跳ね除けながら突き進む。


「前世では剣聖やら勇者と持て(はや)されてたけど、この世界の水準で見たら全然強くなかった。あの世界でさえ、頂点には行けなかったよ」


 真一も刀で霊力弾を正面から切り刻みながら核を晒し続けるゴーレムへと迫っていった。


「結局、最後まで勇者らしいことなんて出来ずに僕はこの世界に転生した。前世の記憶を取り戻した時は色々感じたけど、あの世界で頑張った分、今世は隠居生活しようと思ってた」



 2人の接近を防ぐべく、ゴーレムは地面から岩の塔が何本も創成して彼らを狙った。

 しかし尽く攻撃は回避され、それどころか白夜達はその岩塔の側面を蹴って加速し続けた。


「剣聖の力は残っていてもこの身体は並の力しか出せないし、君たち霊能力者がいてくれるから僕はすっかり甘えてしまってた」


 ゴーレムは修復作業と並行しながら、ついに遠距離や中距離の攻撃を止めて動き出す。

 脚から岩で自身を支えるスタンドを無数に生み出し、安定した状態で石人形はその剛腕を大きく振った。


「だけどある日ね、気がついたんだよ」



 白夜と真一は動きを合わせて飛び上がり、体を縦に一回転させて剛腕の一撃を避け、ゴーレムの腕が横に伸びた一瞬の間に飛び移って着地する。


「僕はこの世界で料理が好きになった。最初はただ作るのが好きになったけど、段々と分かってきた」


 振り切る腕の動きで飛ばされない内に彼らは足場となった岩腕を蹴り、間合いを詰めてゴーレムの眼前まで接近する。


「僕は僕の料理で人に笑顔になってもらいたい、幸せになってほしい。正義の味方面は止めた筈なのに、まだそんな事を考えてた」


 白夜は大きく飛び上がってゴーレムの立方体の頭部まで近づき、真一は結界の張られた紅蓮の魔石の中心に迫る。



「そして取り戻しちゃったんだ、正義感ってやつをさ」


 渾身の拳撃と剣撃は石人形の体へと直撃する。


「僕にもっと力があれば、一晴さんはあんな怪物の姿にならずに済んだ。僕を助けるために誰かが犠牲にならずに済んだ」


 見かけ上の破壊ではあったが、二人の同時攻撃によってゴーレムの体勢が大きく崩れた。倒れかける石人形は無防備となって隙が生じる。


「せめて自分が見てる世界と、その世界で出会った人ぐらい守れなきゃ僕は──」


 凶星と大魔の篭手で武装した白夜は倒れゆくゴーレムに追い討ちとして衝撃波の連撃を加える。宙の分子は激しい猛攻で熱され、一撃一撃がやがて高熱を帯びていく。


 真一は霊屠の柄を握り締め、高速で巡る血流に霊力を乗せて刀を右斜めに傾けて構える。



「もう何者でもなくなってしまう。だから気が付いた、僕は強くならなくてはいけない人間なんだって」



 二人の攻撃は魔石を守る結界の表面層にまで僅かに届き、ゴーレムは修復作業も困難になってフリーズする。


 真一は攻撃を振ると勢いのままに退いて距離を取り、白夜も合わせて後退する。


「ただの自分語りに付き合わせてしまって申し訳ないね、白夜君」


「いや、痺れたっスよ。また今度、聞かせてくれっスよ。真一が勇者だった時の話」


「はは、君の方こそやっぱり英雄じゃないか」


 傷だらけになり最悪な状況に立っている今でも2人は微笑みを見せた。

 ゴーレムがバチバチと音を立てながら起き上がる様を見ながら、真一は敵にトドメを刺すための覚悟を決める。



「期は熟した、僕の最強のカードを使わせてもらうよ」


 真一は名刀霊屠を鞘に仕舞い、胸に手を当てて言葉を綴る。詩を歌うような穏やかな声で真一は真の意味での魔法の言葉を唱える。


 それは静かで優しく、真一にとって希望に満ちた詠唱であった。


『僕は太陽になりたかった。人々の心を照らし、明日へ導く太陽に』


 言葉は少年の美声で美しく連なり、辺りの霊力が真一へと集約していく。


『だけどその夢は遠く、僕一人では辿り着けなかった』


 遂には真一の胸元にも魔法陣が出現し、その紋章が強い輝きを放ち出す。


『だから僕は、友に助けを求む。人々を救った、最愛の友を──』



 その刹那、魔法陣から黄金の光が射出された。


 光は彼らの目の前で形を変えていき、更に大きな3つの魔法陣となって空に描かれていく。

 魔法陣は全て完成すると宙で重なり合い、その者を召喚するために動き出す。


 すると魔法陣からは悪魔でも天使でもなく、1人の人間が姿を現した。

 灰色の髪の上に黄金の冠を乗せ、煌びやかな装飾品と燃えるような赤のマントで身を包んでいる。


 荘厳で風格のあるその者は王者という名を冠するに相応しい風貌で君臨した。高純度の霊力と共に王は彼らの前に姿を出した。



 真一は我が子を愛でるような朗らかな声を王にかける。



「突然呼び出してごめんね、大魔王ジオ」


 その賢者は閉じていた目をそっと閉じ、自分と血を分けた双子の兄に微笑みかける。


「──いいさ、我が盟友。いや……兄者よ」

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