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第20話 穿石

 辺り一面が覆い尽くされるほどに砂塵が舞い、強風が周囲の建造物を破壊して吹き飛ばしていた。一帯は砂漠のように何もかもが消し飛んで更地となっている。

 細かく砕かれた石は砂となり、傷だらけの白夜と真一の身体を汚していた。


「さっきは危なかったっスね。大丈夫っスか、真一」


「問題ないよ。それにしても、想像以上に厄介だねぇ」


 白夜達の目の前でゴーレムは今も再生して自身のボディを修復していた。

 既に何度も2人は立ち向かったが、どれだけ体の石がひび割れ、コアの魔石に傷が付いたとしても周囲の霊力を吸い取って回復してしまう。


「凶星で何度叩いても周囲の霊力を使って再生してくる」


「霊屠の刃で傷をつけられても僕の速度じゃあのゴーレムの再生速度に敵わない。むず痒いな」


 その上、このゴーレムに魂がないことは白夜達も理解していた。

 魔獣や悪魔のような魂を核とした存在ではなく、魔術や術式が魔石に込められた機械的な物体。


 そんな存在が自律して攻撃と回復をこなしている。この2人にとっては非常に不得手な戦いだった。


「再生力だけで言ったら、零人さんの化け物じみた耐久力に近い……分が悪いなんてレベルじゃないっスね」


 二人が分析をしているこの間にゴーレムの修復は終わり、再び奴は攻撃の準備を始めてた。


『※※※※※※・※※※』


 人間には認識出来ない言語でゴーレムが詠唱を唱え出した。

 しかしパターン化されているのか、次の攻撃の予想は既に白夜は付いていた。


 攻撃が発動される前に白夜は『傲慢』の悪魔に命令を下す。


「アトランティスッ!」


 白夜の叫びと共に2人の背後で浮遊する要塞都市から霊力弾が放たれる。

 霊力弾は地面に直撃し、地面は抉れて建物の大きな破片が飛び散る。霊力による技と煙幕によって簡易的ではあるが、撹乱させる準備が整った。


「もう少し耐えて下さいっス。感覚でしか分からないけど、あと少しで突破口が見える気がする」


「右に同じく。案外僕達って、似た者同士なのかもね」


「へへっ、脳筋コンビっスね」


 白夜は己の血で濡れた大魔の篭手を今一度はめ直し、真一は名刀霊屠を鞘に納めて抜刀の構えを取った。


 刹那の静寂はゴーレムの放った波動が空を切る音で消され、いち早く聞き取った真一が声を上げる。


「行くよッ!」


 白夜達は霊力を神経と血管に流し、自身の肉体が許容する身体能力を限界まで引き上げた。

 身体強化の術と単純な霊力の循環に加え、白夜の凶星による衝撃波の補助。それが音速の疾走を生み出した。


 彼らが走り出すと共に周囲の砂塵は吹き飛び、爆裂音と同等の速度で2人はこの空間の核たるゴーレムへと接近する。


 疾走する白夜と真一の足場は彼らが通ると地雷が爆発したかのように爆ぜて新たに道が形成されていった。



 迫る2人を妨害しようとゴーレムが術を発動し、彼らの行く手を阻んだ。地面が荒波の如く、隆起と沈降を繰り返して2人を飲み込もうと動いていた。


 更に荒れる地面からは無作為に岩の塔が突起し、走る白夜達に向かって攻撃を図ってきた。

 だが2人は無意識の内に発動していた肉体時間加速術により、突然の不利な状況にも対応していた。


「爆破ッ」


神機垂迹(じんきすいじゃく)『弁財天』!」



 彼らが拳と刀を振るうと周辺の何もかもが吹き飛んで障害物が無に還る。

 彼らの防御は攻撃に転じ、衝撃と剣撃はゴーレムに到達する。しかし依然としてゴーレムに決定打は与えられなかった。


 飛び散る岩の残骸の中を駆け抜け、白夜達は距離を更に詰めて自分達の攻撃射程内にゴーレムを捉えた。


 修復と単純な攻撃しか行わない石人形に攻撃を当てるのは難しいことでは無かった。

 まずは白夜が先陣を切って拳を叩き込んだ。


「ライト・デスティネーションッ!!」


 霊動術と凶星の威力と大魔の篭手の硬さをシンプルにぶつけ、正面の岩壁を砕き切る。そして魔術結界で覆われながらもコアが露になった。


 そのコアを再び岩の鎧で覆われる前にと真一が続いて太刀を振る。


「覇昏佐々木流──『毘沙門天』!」


 霊力を込めて破壊力に全ての力を振った一太刀が真一の頭上から振り下ろされる。


 零人の肉体を媒体として生み出した名刀『霊屠』の刃に霊力が走り、青の炎と共に刀が結界と衝突する。


 結界との衝突で数秒ほど拮抗したが、真一の刃は弾き返された。しかし真一は刀身が宙を舞う中、懐から三本のナイフを取り出し指の間に挟んで振るう。


「即殺斬法『ジャック・ザ・リッパー』」


 凶刃が結界に触れ、コアの霊力は乱れて回路が支障をきたす。核となっている紅蓮の魔石は眩い光を中心から放出する。


 だがその直後、コアは白夜達を跳ね除けて飛ばすほどの霊力による衝撃波を放った。


 衝撃波は霊力回路と霊力器官に損傷を与えたながら白夜達を後方まで押し返した。

 体内から襲う痛みと体全体にかかる負荷に顔を歪めながら白夜と真一は地面へ雑に叩きつけられる。


「また振り出しっスか! ちくしょう」


「いや、そうでもないかも……」


 彼らを吹き飛ばした石人形はコアを剥き出しにしたままであった。手足は地面に力なく落ち、霊力は先程よりも明らかに乱れている。


 更に修復速度は先の比では無いほどに遅い。遠くまで弾かれた2人にはもう衝撃波も届かず、今だけは彼らに安息が訪れていた。


「流石に攻撃が聞いたのか、修復に手間取ってるみたいだ。代わりに面倒な衝撃波を打っては来てるけど、今は無防備な筈だ」


「となると弱点は今探るしかないっスね」


 好機を見つけた白夜は意識を『凶星』に集中させ、ゴーレムの状況を振動によるエコーロケーションで観察した。



 衝撃波の奥で止まっているゴーレム、その周囲の霊力は緩やかに移動して吸い取られて行く。

 ゴーレムの体全体を覆う岩壁と崩れ落ちた石の鎧には霊力が循環し、次第に正常な流れに戻ろうと鼓動している。


 そして魔石は霊力が吸収と放出を繰り返していた。魔石からは霊力に加え、付与された無数の複雑な術式の気配がある。

 まるで何枚も回路図を重ね書きしたように刻まれ、白夜には解読が不可能なほどの術式となっていた。


 術式はゴーレムの攻撃から結界の作動まで複数の回路でアクセスされ、どれだけ見てくれが破壊されても術式そのものに損傷は見られなかった。



 その調査により、白夜は一つの策を思いついた。ゴーレム打倒の糸口になると思しき情報を彼は真一に語る。


「俺ってバカなんで感覚でしか分かんないスが、多分魔術を使えば突破出来る気がするっス」


「魔術?」


「並の結界なら凶星の振動で霊力も捉えて、分子と変わり無く震わせて術ごと破壊出来るんス。でもそれが出来ないなら、結界を解除出来る術を発動しながら攻撃するしかないっス!」


 しかしその策には決定的に不足しているものがあった。それはそれほど高度な魔術を二人が使用できないという点だった。


 物理攻撃と単純な破壊力を利用した戦闘スタイルの二人は基礎的な魔術を多少は身につけていても、魔術師の扱うような魔法は習得していない。

 ましてあれほど複雑な術式を解析して解除するなど、出来る筈がなかった。



 白夜は完全に手詰まった感覚を覚え、焦燥に駆られていた。しかし真一は白夜に希望の光を与えた。


「僕自身は高度な魔術を使えない。でも宛はある」


「っ! ホントっスか!?」


「ああ、僕が持つ最強の切り札を使えば解決できる。魔術なら任せてほしい」


 白夜や出会ってから見たことないほどに自信に満ち溢れた表情で真一は宣言した。

 彼の強い意思を受け取った白夜は真一を信じ、作戦を実行する。


「そうと決まれば、チャンスは今しかないっス!」



 傷を負いながらも勝機を見出した白夜は己の胸に右手を当て、刻まれた強欲の魔法陣を呼び覚ます。白夜の魂は震え、内に秘められた大罪の力が顔を出す。


 白夜は自分に宿った悪魔の名を唱える。


「強欲の悪魔、プロメテウス!」



 少年の咆哮と同時に地下空間の天井が黄金色に光り輝いた。光と共に突如、巨大な霊力と圧力の塊が彼らの頭上に出現する。

 降り注ぐような熱、押し潰して来るような凄まじい豪風、物体と空気が擦れて響き渡る甲高い摩擦音。


 白夜の隣でその光景を目の当たりにした真一は、見上げた瞬間に言葉を失った。圧倒的な質量と存在感を携えたその物体を確認したその時にはもう、思考の一切が掻き消されていた。


「落ちてこい」



 彼らの真上から、巨大の一言では表し切れないほどの隕石が落ちて来ていた。

 落下と自転で熱を持ち、とてつもないエネルギーで保有しながら降りてきたそれは強欲の悪魔、プロメテウスだった。


 無限回転する惑星の悪魔『プロメテウス』、その本来の姿に違いなかった。

 力を一時的に他の複製体たる衛星プロメテウスに預け、白夜という人間の魂の中にいたプロメテウスはその真の力を取り戻して降臨する。


 未だ動かぬゴーレムを睨みながら白夜は巨大回転惑星プロメテウスのその技の名を絶叫する。


「──超新星『ノヴァ』ッ!」



 ノヴァの名が地下で轟いた直後、プロメテウスの地面への接近に伴う衝撃と爆発が周囲を飲み込んだ。

 これまでになく周辺一帯は暴風に晒され、クレーターとなるほどまでの圧が発生する。


 周りを巻き込みながら落下したプロメテウスはゴーレムの体を更に破壊して防壁を削いでいった。


 白夜は自分達が今にもノヴァの圧力に飲まれそうになったその瞬きに、好敵手(瑛士)から授かった悪魔に能力を発動させる。


「アトランティス第一形態『擬似天国(ユートピア)』」

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