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第13話 巨大地下空間

「地下の魔獣討伐、ですか……?」


 突然明かされた今回の地獄へ招かれた理由に優人は唖然とする。

 地下の魔獣討伐、具体的なイメージがわかないということもあったがそれだけの情報では魔獣の強さや討伐の難易度も不明瞭であったがゆえだ。


「うん、ホントに詳しいこと知らないからそれしか教えられないけど──とりあえず君を会議室に送るね」


 魔王は優人への要件を思い出したかと思うと即座に手を床に付け片膝をつく。

 そして魔法陣を発動することも詠唱することもなく魔王は優人の足元を水面のように液状化させる。


 血のような赤い水が吹き出し、鳥籠を作るかのように優人を包み込んで吸い込んだ。


「それじゃあ行ってらっしゃい」


 優人は返答する間もなく激しい水流に呑まれ刹那の間、暗闇に包まれる。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 暗闇の中で優人には滝の中にいるかのような激しい水の音が耳に届いてきていた。

 徐々に水流は内部で形を変えていき、優人は腰と足を優しい力で曲げられる。

 流れも音も弱まってきた時、優人は自分が椅子に座っているのだということを腰の感覚から察する。紅の水は一気に地面に落ちていき優人の視界が良好となった。


 暗闇から解放された直後の優人は反射的にビクッと体を跳ねさせた。


 自分の目の前には円卓が置かれ、その周りにはいつもよりフォーマルな雰囲気を纏った知り合い達が座っていた。


 優人の隣にはいつも通りの雰囲気でここにいる一晴と真一、円卓の真横にはお互い対面しながら無言で睨み合っている白夜と瑛士、前の2席には微笑みながら座る零人とルシファー。


 委員会の知人達の多くが召集されていたことで優人はいつもの調子で話しかけようとしたが、声が出る寸前のところで息を止めた。



 優人の目の前に座っている王の存在を悟ったからである。

 並々ならぬ霊力量と霊力から伝わってくる大罪の能力者達にも似た霊力の雰囲気、一般的に知られている印象通りの道服と尺。

 その威厳ある面と空気から伝わってくるビリビリとした気迫。


 語られずともその王の名が閻魔大王であるということは優人にも容易に想像できた。


 閻魔大王は優人が到着したことを確認するや彼に礼を述べる。



「此度の会議への参加、感謝申し上げる優崎優人。態々表世界からご苦労であった」


「いえ! 僕の方こそお呼び頂きありがとうございます!」



 優人の初々しく丁寧な反応にその場の空気がにわかに和む。

 閻魔大王も鬼神の如き面を僅かに崩して微笑むがそこは自分を律して再び威厳ある面持ちに切り替える。


「来て早々で申し訳ないが、早急に対処すべき事態であるため単刀直入に申し上げよう。今回は非常事態、貴殿には魔獣の討伐にこの中の者達と向かって頂きたい」


 優人が首を縦に振ると閻魔も静かに頷いた。

 タイミングを見図るとルシファーは立ち上がり、手元の書類に手を伸ばしていつに無く真剣な様子で話し始める。



「──では優人君はまだ委員会の計画について知らない事が多いので今回の討伐内容やそれ以外の詳細を私が説明させて頂きます」


 ルシファーの説明が始まるとその場の全員は揃えたかのように堕天使の方向へ足を向け聞き入る。


「現在、上葉町では『大罪集結計画』というプロジェクトを実行しています。大罪の能力者の生活圏を一箇所にまとめることで低級の魔獣や悪霊を日本中から呼び寄せ討伐の難易度を下げるという計画です」


 優人は零人達がいることで上葉町には悪霊達が集まるということを何となくではあったが知っていた。

 しかし改めて口で説明されるとその計画と規模の大きさには驚かせられる。

 現に上葉町には大罪が4人、そのうちの1人は世界最強の能力者。何一つ不足のない計画である。



「ですが、彼らが集まる前から上葉町では魔獣や悪霊の発生事例が非常に多いというデータがあります。占いや風水の類いの鬼門でもなく、凶都府や神那川県など歴史的因果関係のある土地でもないのにです」


 占いは霊能力と密接に関係し、神話の神々や悪魔達同様に人々から信じられることによって力を得る。戦や戦乱の場となった土地にも霊は残らずとも霊力や感情の残穢が留まり続けることで霊脈となる。

 ただの未開拓な自然でさえ神秘的、神聖な土地と人々が感じることで霊脈になることすらある。


 しかしどの条件にも上葉町は該当していなかった。


「答えは簡単、この土地には霊脈。有体に言えば自然に発生する霊力の発生ポイントがあの土地に存在していました」


 聞いていた白夜はここで手を挙げ、疑問点について質問する。


「ルシファーさん、それって何か不味いことなんスか?」


「いや、それ自体は悪くなかった。だけど先日にある事が発生してね……」


 ルシファーは神妙な面持ちで暫し沈黙を流すと、事実を力強い言い方で告白する。



「──零人が予知夢を見た」


 その一言を聞くとルシファーと優人、零人以外の者達は顔色を変えて驚愕した。初めは優人もその言葉の重大性を知らなかったが、名だたる戦士達の反応を見てただ事ではないと確信する。


 このことに関しては零人が重い口を開いてその一部始終を語る。


「……俺はこの間、特殊な予知夢を見た。これは通常の予知夢、高確率で発生する()()()()()()事象を知るんじゃなく、突発的にほぼ確定した未来の映像を見る能力だ」


 瑛士は零人やルシファーの反応を察して顔を青くしながら恐る恐るその夢のことについて彼に尋ねる。


「……その夢で師匠は何を見たんですか?」


「正直、この場の全員にはいえねぇことも見たから詳細は語れねぇが──時系列も無視した無数の断片的な映像だった。正直、一気に色んな未来を見て今も混乱中だ」


「……」


「だがそん中でも特に驚いたモンがあった。そいつは……」


 あの零人でさえここまで慎重に発言するというその夢の内容にその場の誰しもが固唾を飲む。


 だが零人は夢の中で見た本件に携わるその情報を開示する。



「──上葉町の地面の下、地下に巨大な古代都市があった。そして古代都市には巨大な東洋型の神龍がいたのも見えた」



『ッ!!?』


 事前に知らせを受けていたルシファーや閻魔でさえこの事実は堪えた。普段は冷静な真一や一晴まで大きく動揺し、取り乱していた。


 その衝撃的事実を聞いて全員が呆気に取られ絶句している中、零人は手元に魔法陣を開きそのから1つの資料を取り出す。


「調べた所、俺が予知夢で見た古代都市のある場所の深さや座標と霊脈の発生ポイントがピタリと重なった。そして霊力の動きから察するに、神龍以外にも大量の魔獣が生息している可能性がある」


「ただ問題はここからでね。その地下古代都市の空間というのが──異界と表世界との境界が非常に曖昧になっているんだ」



 このルシファーの発言で事態の真の深刻さが知れ渡る。事の重大さを知った彼らはますます不安や焦燥に駆られる。


 しかし優人だけは蚊帳の外、その境界が曖昧なことによる弊害というものを理解していなかった。


「それってどういうことですか?」


 一晴は聞かされた情報に震えながら何も知らぬ優人に事の重大さを事細かに教える。


「本来、異界や亜空間というものは表世界と霊界の隙間に存在している空間です。しかしその境界が曖昧ということは件の空間は表世界にも影響を与えます。簡単にいうと────魔獣の影響で大型地震や大規模な地下崩落など、上葉町に大災害を引き起こす可能性が高いんです」


 ここでようやく優人も理解が追いつき、最悪の事態が起こりうることを悟った。真っ先に自分の家族や友人達の顔が浮かび、能力者として実感していなかった人を守るということを優人は認識した。


 この状況はいつもの悪霊や魔獣の類いと違い、1つのミスが大勢の死に繋がることと同義。己を守り、強くなろうと今まで戦ってきた優人にとって初めて伸し掛る守ることへのプレッシャー。

 それは実に彼の中で大きいものであった。



 閻魔大王は零人達の今回の内容についての説明を全て終えたことを確認し、居合わせた能力者達にこの任務についての命令を下す。

 閻魔は戦地へ向かうこの勇敢な戦士達に激励と鼓舞を込めて声を張り上げる。


「これは早急対処事案であり情報漏洩による混乱の危険性を考慮し、2日後に決行する! この任務に当たるのはここに召集された貴殿らのみである」



「……だが全員行くわけじゃねぇ。万が一に備えて、俺とルシファーさんは時転に影響しねぇように地下崩落の阻止。お前達は地下で魔獣討伐だが状況に応じて撤退、相手が友好的なら和解、これがマストだ」


「今回は三英傑の僕達が戦闘に加われない。特に真一君や優人君に関しては……万が一死亡したしても規定の影響で生き返らせることは出来ない。それだけは忘れないでくれ」


「「はい!」」



 当然ではあるが全員、恐怖心が無いわけではなかった。

 強者として委員会でもトップ層にいる白夜や瑛士でさえ、今回は未曾有の事態。油断や慢心など到底できなかった。

 それぞれに個人個人のプレッシャーがかかる。


 しかし全員の覚悟は時間が経過する間もなく固まった。

 優人達は地下の戦場へ向かう決意を抱く。


 皆守りたいものや人がいるのは同じ、ここで退く理由などある訳がない。



「ではルシファーと怠惰は地上にて不測の事態の備えに加えサポート。強欲、傲慢、剣聖、雪村一晴、優崎優人は地下にて魔獣討伐」


 閻魔大王は7人の顔と彼らの心の中の表面を覗き、全員の決意を確認するとこの任務の実行の最終決定を下し木槌で机の上を叩いた。


「──これにて会議は終了とする。作戦は2日後に決行、霊管理委員会の名にかけ必ずや任務を完遂せよ」


『御意ッ!』

「分かりました!!」



 前代未聞の魔獣討伐、彼らはそれぞれの思いを秘めながら2日後の決戦に向けて備える。

 人類の中でも最高戦力に等しい実力を持ち合わせる能力者達、その力で人々を守るために7人は自分の牙を研ぐ。


 ────だが運命とは必ずや最良を人に与えず、常に残酷なものを与える。

 運命はただ大きな力の流れの外で傍観し、戦場へ向かう勇者達に苦難をプレゼントして澄まし顔で去るだけなのだ。

古代地下都市編、開幕!!

除霊できないピュア男子始まって以来のバトルが今、始まる……

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