第10話 霊管理委員会
ライブをすると言った零人の言葉に優人は衝撃を受けた。零人の口から出たとは到底信じられない内容、そもそも優人の中のイメージとしてライブというのは零人の対局にあるような存在。娯楽など零人が触れている印象というのは想像できなかった。
「ライブってどういうこと!?」
「明日この天界でとある音楽ライブがある。そのある1つのバンドとのコラボを依頼されたんだ。ま、助っ人でいつも呼ばれるんだがな」
「えっ!零人君が演奏するの!?」
さらに先程の発言を上回る発言をされ、驚愕するあまり優人はしりもちをついた。不思議そうな表情を浮かべていると、ハッとした様子で零人は聞いてきた。
「あれ……前に話さなかったか?自己紹介の時に言ってたはずなんだが──」
「あっ、そうだった!」
「お前でその様子なら、他の奴らにはこれ以上に浸透してねぇんだな。いいけどよ……」
優人はここでようやく思い出した。転校初日に気だるげにしたあの自己紹介。その時に零人は確かにギターが趣味であると言っていたがまさかそれが本当だったとは思いもしなかった。
「でも天国のライブだからクラシックやバラード?あ、もしかしてギターはヴィンテージとか?」
「いや、ガチガチのロックフェスだし俺はエレキギターだ。」
「イメージ!!」
ロックロックしたそのライブ内容は優人の中にある静かな天界のイメージとは異なっていたがその分、興味も湧いてきていた。
「それじゃあ、明日まで暇だし……遊ぶか」
「えっ!練習とか良いの!?」
「基本いつも本番一本だ」
「プロみたいだね!」
「プロはもっと練習するだろうよ。そうだ、せっかくだし案内するぜ。天界一の巨大テーマパーク────"デスティニーランド”へ」
──バシュッ
魔術で2人が移動した先には巨大テーマパーク『デスティニーランド』があった。そこは子供から大人まで楽しんでいるような、真のエンターテインメント施設。
その場所にいる誰もが笑顔を浮かべて、アトラクションに乗ったり可愛いキャラクターに近寄っていく。
小さな子供達は屈託のない笑顔で心から楽しみ、若者や大人達までも子供のようにはしゃぎ遊んでいる。
「すっ、すっごいよぉここー!」
「天界だからこそ実現できたテーマパークだ。現代技術と霊能力の融合、ここで働く天界のキャストは悪さしねぇようなやつしかいねぇ。心から楽しんでるようなやつに任せてる、天国だから実現できる奇跡の理想郷だ」
確かに、ここでは気づかなかったが様々な人種の人々。さらには老若男女が何も気にすることなく、当たり前のように楽しんでる。世界平和はここで実現されていた。子供も大人も男も女も関係なく戯れて喜びを分かち合っている。
「素敵な場所だね零人君──ありがとね」
「なんで俺に言うんだよ……礼なら霊管理委員会にいっとけ」
「──れいかんり……それってなぁに?」
「え?あ、そうだ悪い、このことを今日は教えに来たのにすっかり伝え忘れてた」
零人は宙を漂っている柔らかな雲にもたれかかり、ソファのようにどっかりと座って話し始めた。
「霊管理委員会は文字通り、霊関係のことに関わる組織だ。死後とか悪霊、そして俺らみたいな霊能力者や能力そのもの全般を管理する秘密かつ世界最大の組織……」
「とりあえず世界の概要を伝えるか。人は死後、いくつかのルートが存在してる。1つはそいつの信仰する宗教通りの対応をする、別世界の旅だったり精霊になったり──」
「次はオーソドックスな天国と地獄。これは世界のだいたいの奴らが行く場所で審査基準はどれだけ人の命に関わることをしたかで判断される。殺したり、寿命を縮めるようなことをすれば地獄。人を助けたり、命の救えば天国にいける」
「分かりやすい!」
「煉獄だとか冥界とかは大体地獄の中にあって区切られてる。細かいルールも定められて、天界出身のめっちゃ良い奴らが委員会員に抜擢されて公正に管理してる……つっても、ここまで一気に言われてもわかんねぇよな」
「う、うん……でもなんかすごいね。何だか──うん、とっても凄い。だけどこれだけあれば仕事大変そうだね」
「これ意外でもたくさんあるぜ。悪霊の浄化や霊の情報共有、大罪の霊能力者とのやり取り、役員の人選に、異世界間との交流と転生。霊だけに死ぬほどあるぜ」
「えっ! 異世界あるの!?」
優人は目を煌めかせた。それもそのはず、この少年は何を隠そう少年漫画が大好きなのだから。最近の漫画作品でその存在を知って以来、彼は異世界という言葉には目がない。
「あぁ、魔法当たり前のファンタジーやバリバリのSFのとこ、さらにこの世界と似てるが人や歴史、科学技術のちがうパラレルワールドまでめちゃくちゃあるさ」
「あと当然だがこんな俺も大罪の能力者だから、霊管理委員会に所属してる」
「羨ましいぃなあぁ……」
「んなことより、デスティニーランドを楽しもうぜっ!」
「やっほーい!!」
2人はデスティニーランドで大いに盛り上がる。
最初に2人が選んだのはジェットコースターだった。それも雲の上を疾走する不思議でエキサイティングなコースター。
その興奮と戦闘などの空中散歩からでは慣れない浮遊感に零人も普段のようなクールさは忘れ、年相応に笑い楽しんでいる様子。優人のはしゃぎように至ってはもう見ていてもはや微笑ましくなるほどであった。高く透き通る幼い声は大きく張り詰め、絶叫する。
「イエーイ、ひゃああああ!!」
「うおうっ……ハハハ、こいつは良いなぁ!」
──次から次へとアトラクションを乗り回していく。今度は水のアトラクション、水しぶきが凄まじいタイプのスプラッシュ系コースター。魔術であらかじめ後ほど乾燥するように発動させ、水の猛威によってずぶ濡れになる。
「あっはっはっ、冷たァい!楽しい!」
「マジか……思った以上にかかっちまった」
「え? あっ……アハハ、零人君もずぶ濡れだあ」
周りのゲスト達は軽く濡れた程度だったが、滝行でもしてきたように零人は1人だけ異常に濡れていた。その面白可笑しさに優人は大笑いする……
「──あはははっ」
「ハッハッハァ!」
楽しそうにはしゃいでる2人の声はデスティニーランドの中に響き渡り、他の者達の笑い声と混じり合って1つになる。その魔法のような感覚は喜びと幸せに満ちていたという。
2人のことがチラリと視界に入った者たちは優しく微笑んだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ひとしきりはしゃぎ遊んだ優人はとろけ、緩んだ笑みのままデスティニーランドを後にする。娯楽の限りを尽くした2人はご満悦な様子でパークの前を歩く。
「楽しかった〜特にあのジェットコースター」
「黄泉の風を吹かせてるからめっちゃ爽快だったろ?宇宙からダイブする以外で唯一感じる気持ちいい風だ」
「そ、それは怖いよ……」
────パシュン
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
魔術で再び2人は別の場所に転送され、謎の扉の前に立ち尽くしていた。
何やら楽屋のような部屋の前にいるようだ。紙に誰か書いてあるがよく見えなかった。確認する間もなく零人は扉を開ける。
「じゃ、この時間なら仕事も終わっただろ。お邪魔しまーす」
「お仕事天国でもあるんだぁ」
扉をゆっくりと開けて入室する。
──すると突然、聞き覚えのある女性の優しく驚いた声が聞こえてきた。優人はその声のした方向に顔を向けるとまたもや驚いた。
「あ、優人君じゃない!」
「ああっ!」
そこには昼間、優人が抱きついた高潔で聖なる天使ラファエルと他にも3人の天使達────
「きゃっ!?」
「んん〜?」
「ふむ……」
もとい……天界を守護する最強にして最も麗しい女性たち、四大天使がそこに立っていた。そのそうそうたるメンバーは2人を見るとそれぞれ驚いた様子でこちらを見つめていた。