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第47話 傍若無神

 この日の優人と零人は昼間からファミレスに集い、ポテトや唐揚げなどつまんでソシャゲーに興じていた。

 2人とも、夏休みに予定されていた霊管理委員会関係の仕事を一通り終えられたため久しぶりに落ち着いた環境下でゲームに興じていた。


 優人はドリンクのストローを咥えながら協力プレイ中の零人に話かける。


「零人君、後ろからミサイル来るよ」


「じゃ、手榴弾で防御しとくわ」


 霊能力者とはいえ、休息は必須。男子高校生同士、等身大の遊びで楽しんでいた。


 だが運命がそれを許してくれない、唐突に2人の脳内にプロメテウスのテレパシーが響く。


『緊急事態発生、緊急事態発生。「コードZBY」である、このテレパシーの範囲内にいるA級以上の霊能力者は至急対象を捕獲せよ!』


 通常であれば落ち着いた雰囲気で聞こえてくるプロメテウスのテレパシーに焦りが見えた。


「クソ、またかよ……」


「ねぇ零人君、『コードZBY』って何なの?」


 零人は頭を掻きむしり、不本意ながらゲームをブラウザバックする。

 文句を垂れながらそのコードが示す意味を優人に教える。


「コードZBYってのは──超非常事態『Z(ゼウスの)B(バカが)Y(やらかした)』って意味だ」



「……へ? ぜ、ゼウスって神様……だよね?」


 ディスりを超えもはや神の冒涜に近いそのコード名に優人は困惑、動揺した。


「神や天使ってのはほとんどが、悪魔達と違って委員会の職員の人格を入れてないんだ。理由は単純、あっち側も俺らに友好的で敬意を人間に払ってくれてるからこっちも誠意を見してる」


「うん……WhiteGirlsの皆もそうだった」


 すると話しているウチにヒートアップしてきたせいで零人は半ギレになりながら説明する。



「だが、ゼウスのアホだけは人間を舐め腐ってる! 他の神は良い神様方ばっかだが機嫌ひとつで災害を起こすクソオヤジ。オマケに理不尽な行動を正当化してやがる、邪神の方がまだ愛せるわ!!」


 零人の愚痴は止まらずにさらに加熱し始める。


「ン何が神の意思だ! 人間が神を生み神も人を守るってことを真面目にこなしてくれてる神々とは対称に、やれ飢餓(メシ食わせろ)だやれ災害(遊ばせろ)だ、ざけてんじゃねぇ!! 人間様舐めんなよ!? マジで何回俺がアイツの尻拭いを……ってそんな場合じゃねえ、行くぞ優人ッ!」


「う、うん……」


 ガチギレしている零人を初めて目の当たりにした優人は驚いてリアクションに困っていた。

 2人は食べ物を頬張り、さっさと会計を済ませた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ファミレスを出た途端、優人達は早速だったが絶対神ゼウスを発見した。


 なぜならゼウスは堂々と空から天の光と共に降臨していたのだから。

 古代ギリシャの衣を纏った神々しい姿で神はこの地へと降り立った。


『ハッハッハ、久しぶりに現界したぞ! さあて、存分に楽しもうではないか』


 ゼウスは高々と笑いながらゆっくりと宙を舞う。

 一方、凄まじい歯軋りの音をたてながら足元に魔法陣を描く。


「優人、少し準備があるからゼウスから目を離さないでくれ。対処方法ならこれから来るだろう霊能力者達のマネをするように」


「う、うん分かった」


 地の魔法陣は光で零人を包み込んで彼と共に消滅した。

 この時も優人はまだゼウスへのこれほどまで大袈裟な対応に疑問を抱いていた。


(零人君が怒ってたけど、そんなに酷い神様なのかな? 悪そうな人じゃないけど……)


 するとゼウスは地に響き渡るような荘厳な声で一人語り始める。


『さぁて、ここらで良い女はいないかぁ? 天界へ持ち帰ろう。そして人間1万人ほどの食糧と……まぁついでにドカンと雷ゲームでもするかの』


「うぇ!?」


 神の爆弾発言に優人は驚きを隠せなかった。

 絶対神ともあろう者が何たる理不尽、何たる人間性の腐敗。今の発言のみで強欲、傲慢、暴食、色欲の罪を埋めてしまうほどの神にあるまじき精神(クソさ加減)


 これだけ胸糞悪い内容を聞いて、ピュアな心を持つ優人はもはや驚いて硬直していた。

「この神様は何を言っているの?」という思考で頭がいっぱいになる。



『では人の賑わう方に──』


 だがゼウスが動き始めようとした時、優人のいるファミレス前の通りに霊能力者達が向かってきた。

 何十人もの霊能力者達がゼウスを見つけるとキレながら走ってくる。


「おい、いたぞ! クソ神だ」


「全員、あのバカオヤジに向かえぇ!!」


 そう言って神を罵りながら霊能力者達はそれぞれ装備や魔術などを整えてやってきた。

 増援が来たということでその人の中に優人も入った。


「すいません、僕も霊能力者です!」


 するとその人混みの中で誰かは分からなかったが、1人の男性が優人に答えた。


「おう、見ない顔だな……いいか新人、あのバカゼウスを何としてでも止めろ。攻撃に遠慮は要らないよ」


「えっ!? あっ、はい!」


 霊能力者達は武器の準備を始めていた。

 すると空で浮いているゼウスは腕を組み、彼らを見下ろしながら怒り出した。

 雷のようなゼウスの声が空に轟く。



『人間風情、何故ゆえ余の娯楽を邪魔する! 余が贅を貪るのを手助けするのが人間の務め、興じさせるのが人間の生の意味だろう。我の行為は文字通り神の意思、止める権なぞ貴様らにないわ!!』


 ゼウスの身勝手で救いようのない話について行けずに優人は開いた口が塞がらなかった。


 だが同時に霊能力者の彼らがブチ切れながら神に対して反論する。


「調子乗るのもいい加減にしろゴミカスがぁ!!」


「俺ら人類に迷惑かけてんじゃねぇよクズジジイ!!」


「てめぇがいると害しかねぇんだよぉこの害虫」


「今度こそ芋虫に転生させるぞ厄災の元凶、人類最大の過ちがァ!」



 人がゼウスにされた苦痛や災は数しれない。


 神とは元来人の良心や信仰の結晶、人に害などもたらさない存在。

 加えて霊管理委員会が発足時には神の行為にも制限が付けられたが、神達はそれを快く受け入れてくれた為に現在は互いに良好な関係性が保たれている。

 今までは人類に罰などを与えてきた神々もそれを機に改心し、行いを止め、双方にとってメリットある関係へと発展した。



 だが神のクソのようなプライドを持ち合わせ、古来よりその蛮行で人間を苦しめてきたゼウスは改心など一切しなかった。

「人間ごときに指図される神がどこにいる」と言ってゼウスはむしろより一層の厄災を人々にもたらしてきた。



 この場にいる霊能力者である彼らが今、心に抱いているのは人類が長きに渡って苦しめられた怒り。

 そしてその身勝手な行動が原因で自分達の世界が荒らされることに対するとてつもない憤怒。


 正直なところこの場の能力者全員がゼウスを委員会の悪魔同様に、魂だけを肉体から抜き取り、まともな人格の魂を憑依させる案に賛成している。

 そんな彼らに毎度の事ながらゼウスはその導火線達に火をつけているのだ、神であるというのが嘘のように。


『せめて少女を天界に連れて妻に娶るというのは良いじゃろう? 神の妻じゃぞ!? これ程にない名誉ではないかっ!』



「罪のねぇ女を殺して天国に行かせる気かぁ? ざけんなぁ!!?」


「それでも神かこのハゲぇ!!」


「人間の自由をゴミが決めてんじゃねぇよ!!」


 人間の怒りに対してこの上ない侮辱的な返答をするゼウスに、流石の優人も愛想がついた。

 あの優人でさえ、嫌悪感を覚えていたのだ。


 ゼウスは傲慢な王のような言葉を並べたかと思えば、今度はクソガキのように彼らを煽り始める。


『バーカバァァカ! 余が1番、え・ら・いんじゃ!! 黙ってろ雑魚〜愚物ー』



 ──その時、その場に居合わせた全員がピクッと反応した後に静まりかえった。


 彼らは突然無言となり、全員が綺麗に真横に正列し始めた。優人は彼らの邪魔にならないように一歩後ろに下がる。



『死のうが生きようが、それは余の思うままなんじゃ〜。そうやって早く帰っとれ無能共ぉー』



 霊能力者達は全人類を代表して憤怒する。

 それぞれが魔法陣を展開し、クソ神のゼウスに向かって一斉攻撃を放った。

 ゼウスに対する怒りの感情で皆の気持ちは1つとなり、霊力は格段に強化される。


「「「死ねやゼウスぅぅぅぅぅぅ!!!」」」


 魔法陣からはレーザーのような速く鋭い霊力攻撃が射出され、ゼウスに向かって解き放たれる。

 光は弾道が読まれぬよう乱れて進み、容赦なくゼウスを亡き者にしようと襲いかかった。


 これにゼウスはビビってテンパった。


『ひぃぃ!? 神に対して──うわあああぁぁぁ!!』


 レーザーはゼウスに直撃しそうになったものの、ゼウスが操る雷によって掻き消されてしまった。

 駄々をこねる幼子のように手を振り回し、神雷で攻撃を防御している。

 その様は神とは思えないほど滑稽で、無我夢中のものだった。


「続け続けえぇぇえぇぇぇぇ!!!」



 魔術は霊力のレーザーに留まらず、除霊や浄化術式、水魔法や闇魔法などゼウスに対抗するための術が飛び交っていた。

 怒りに満ちた霊力は彼らの術の破壊力の促進、精度の向上などの恩恵をもたらした。


 優人はただその滑稽な光景を眺めて硬直していた。



『あっ! やべ』


 あまりにも数多く乱れた攻撃の中で1発、ゼウスの雷は外れて霊能力者達の方へ落ちてくる。

 だがしかし、ゼウスは彼らに当たる前に雷をかき消した。

 それを見た彼らはさらに神を煽り散らす。


「あぁん!? どうしたんだこいよクソジジイ!」


「怖いんだろ、なぁ怖いんだろぉ?」



『うううるさーい! 貴様らに手を出したら問答無用で余はマジで人格を消されるのだぞ!? そそ、それに貴様らも死ぬんじゃぞ?』


 自分のミスで危うく首を絞めそうになったゼウスはテンパりながらキレまくる。当然だが、人に危害を加えようとした神は情状酌量などなく消されるのだ。


 だがゼウスに対する敬意をとうの昔に捨てた彼らは煽りを止めることはなかった。


「それなら死んでも委員会が蘇らせてくれますー!」


「とっとと地獄に落ちてハデス様にでもいたぶられろ〜!!」


 人類の悪意をぶつけている中、一人が白々しく大きな独り言を吐く。


「ああ〜、あの害虫神は全く帰んねぇしそろそろ『ゼウスしばき隊』呼んじゃおっかな〜」


『ぎぬッ!? ききききき、貴様ァ! そそっそれは卑怯だぞ!!』


 その名前を聞くとゼウスは怯んで慌てふためき始める。

 その様を見てニヤニヤと能力者達が笑っている中、優人は一人の肩をポンポンと叩いて尋ねた。


「その……『ゼウスしばき隊』ってなんですか?」


「対ゼウスの能力者達の特殊部隊だ。全員が対聖属性を持つ霊能力者で、毎回何かゼウスがしでかす前に処理する係だ」


「あの人、もしかして天国から来るといつもこうなんですか?」


「あぁ、実際聞いてみると天界でも評判は良くないぜ? 義務もやらず、何百年も遊んで迷惑かけるだけだ」


「……」


 嘲笑われている中、人間の正当防衛に腹を立てたゼウスは両手に稲妻を走らせ始めた。


『こんのぉ……もう知らん、こうなったら街を滅茶苦茶に…………』



 ──ゼウスが癇癪を起こし始めようとしたその時、空は真っ二つに割れて空間が裂けた。


 空間の裂け目は天界と繋がっていた。裂け目は巨大なモニターのような役割となってその女神を映し出した。

 美しいその女神はため息をついて()に冷ややかな視線を送る。


『はぁ……アナタまたやらかしたの? いい加減消滅してくれないかしら』


『へっ、ヘラ……』



「「「「うおぉぉぉ、ヘラ様ァァ!」」」」


 それはゼウスの妻の一人にして史上最強の鬼嫁、女神ヘラであった。

 先程まで怒りを露わにしていた能力者達は一気に安堵の表情に包まれ歓声を上げた。

 ヘラは呆れながらネチネチとバカ旦那に説教をする。


『アンタ……この間はまたやらかしたから力を制限された上に天界からの出国を禁止されたのに。そんなに死にたいの? 委員会の方々だけじゃなく一般人にまで迷惑かけようとしてぇ!』


『だって……余は神だし…………』



『ハァァア? なぁにが神よ、私たちは人間の幸福になることが存在するのに直結してる自覚あるの? そもそも私達の祖が人、そして弱い存在の人間達がここまで立派に成長したってのに……あんたは神として恥ずかしくないの!?』


 ゼウスはいじけたクソガキのようにモジモジとして説教を聞く。


 ヘラがぷりぷりと説教をしていると空間の裂け目モニターの横に委員会の黒スーツの女性が映る。

 そして彼女は手元にある書類を読み上げた。


『ゼウス様。アポロ様とシヴァ様、ハデス様からそれぞれ伝言を預かりました。内容はそれぞれ「地獄に堕ちろクソオヤジ」、「頭蓋破壊するぞボケカス」、「冥界で待っているぞゲス野郎」との事です』


『はあぁ……息子と兄にまで言われて、ほんっとにこの人は情けない』


『ぐすっ……ぐすっ』



 心を深く抉られた上になじられたゼウスは顔を赤くしボロボロと泣き出した。

 ヘラの眼差しは一層鋭く冷たくなり、見苦しいと感じたモニターの黒スーツは舌打ちをして画面外にはけた。


『あ、遊びたいんだもん……』


『いい加減にしないと()()()にグングニル投げさせるわよ?』


『待って! 彼の使用するグングニル食らったら余、消滅しちゃ──』



『俺がどうかしたのか? ゼウスのクソオヤジよぉぉ……』


『ヒィイィっ!? rrrrrrrrrれえぇぇ!!?』


 そこ声を聞くやゼウスは心の底から震え上がった。

 天界モニターに映るヘラの横には先程転送術を使用した零人がいたのだった。


 零人は怒りが一周回ってカンストし、首元に血管を浮き上がらせながら狂気的な笑みでゼウスを見つめた。


『全く、俺の次に能力の制限がついてるってのがアンタだがよ……これはそろそろ制限どころじゃなくなってきたぞ?』


『すすすすす、すいません零人さん!! これは────』



『零人()()()だろうがよォォ!!』


 零人はゼウスという神に対してバチバチにメンチを切る。

 一方、先程の傲慢で極度の自己中心的な思考だったゼウスはガチのヤクザを怖がる雑魚イキリヤンキーのようにブルってビビりまくっていた。


『どうか、どうか許して────』


『まぁ、俺は優しいからよ? 罰はてめぇで選べよ』


『おわ! ああ、ありがとうござ──』



『俺が使用したグングニルで消えるか、この人らにやられるか……』



 零人はそう告げた瞬間、空の裂け目は広がっていき、見える全ての空が黄金色に光り輝き空全体が天界モニターと化す。



 ──そこに映っていたのは天界に住まう神々や天使達だった。彼らはそれぞれ、手に武器を持ってゼウスを睨んでいた。


 ブチ切れの神々を前に、絶対神は恐怖で萎縮した。

 彼らは各々、先程まで対応していた霊能力者達と変わらず、かなりお怒りの様子でそこに立っていた。


 北欧神話の神々から聖書の天使達、仏教やイスラム教の神々など宗教の垣根を超えて神達全員の心は最悪の形で統一されていた。

 彼らもまたキレながら普段は絶対に言わないであろう暴言を一気に吐き出している。


『また逃げ出しやがったのかクソオヤジィ……』


『私の子供達に何をする気だった、このセクハラ最低神めが』


『我らの存在する意味たる人間達にまた多大な迷惑を……ッ!』


『すぐにでもお前を壊す……それ以外今は考えられないよ、変態ジジイ』



『貴様を天界の神及び天使達総動員でシバキ倒す!』


『そう、これは────』



『『『『『神々によるてめぇへのリンチだッ!!』』』』』



 人間のみならず神々や天使達からもゼウスはこれほどまで嫌われていた。


 なぜならそれは霊管理委員会発足前、霊界が荒れていた時からゼウスは傍若無人ぶり発揮し、統治しようと奮起していた神々をもその力で無理に屈服させていた。


 言わばこれは神が神々に対して行ったパワハラ。

 人類のゼウスに対する怒りが貯まるとともに神々の怒りもまた蓄積されていた。

 それは神々だからこそ、寿命など終わりのない長い時間で蓄えられた積年の恨み。



 さらに本人が改善努力すらもしないと来たら、いくら寛大な神であってもその腸は煮えくり返ること間違いない。



 ゼウスの味方が1人もいなくなった今、ヘラは最後にゼウスへ一つだけ優しさを与える。

 最大の譲歩としてどうしようも無いバカオヤジに1つチャンスを与えた。


『ゼウス、アナタが自らこの天界へのゲートとなるモニターに来たのなら罰は軽くしましょう』


『そんな……そんなのいやだ!!』



『そう……なら残念ね。悪いけど零人の坊や、頼めるかしら?』


『あ、大丈夫ですよヘラ様。俺の代わりがいますから────優人、やっちまえッ!』


 零人は確信した笑みを浮かべてモニター向こうに映る優人を見つめた。



 ──その時、優人はすでに攻撃を始めていた。


 優人は音速の速さでゼウスの眼前まで飛んで接近し、脚を構える。モニターに気を取られていたゼウスはあっさりと優人に間合いへの侵入を許し、大きな隙を見せてしまった。


『そんなバ────』



()()()()、僕は嫌いだよ」


 優人はそう言い残し、霊動術と怒りの霊力を乗せた蹴りをゼウスの顎に放った。

 さらに足には呪いの効果が現れて、蹴りは実体干渉能力も半端じゃなく高まり強大な破壊力を帯びた。



 そう、純粋ゆえにあの場で誰よりも優人はキレていた。


 優人自身、人生で初めてキレたのが神のゼウスというのは驚きだが、そんなことはお構い無しにゼウスを上空のモニター目掛けて蹴り飛ばす。

 ピュアな人間とゲスな神、皮肉なものだ。


『ヘブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』



 ゼウスは優人の渾身のキックで空高くまで打ち上げられ、天界モニターに向かって飛ばされていった。

 神はソニックブームを発生させるほどの威力と共に飛ばされて、その霊体に多大なダメージを受けることとなった。


『ンナアァァァァァァァ────』



 そしてゼウスが吹き飛んでモニターに突き刺さったと見えた時、空は眩い光に満ちていき、その神聖な光が空間の裂け目を迅速に直していった。


 神々は姿を消したが、ここまでゼウスを引き止めることに成功した霊能力者達は歓喜していた。

 ここまでゼウスを留めた彼らこそ、真の英雄達である。



「やった、ゼウスを討伐だぁ!!」


「「「「うおおぉぉぉぉぉ!!」」」」


 人類の平和を守った戦士達は互いに喜びを分かちあった。

 そして現世の安寧は取り戻され、天界では張本人が地獄を味わうこととなった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「──お疲れ様、零人君」


「お前の方こそ、ナイスキック」


 2人はゼウスの任務を終えると、先程までいたファミレスの前で合流した。

 2人とも自分達の行動を称え合い、グータッチする。


 互いにスッキリとした表情をして仕事を終えることが出来た。何とも晴れやかで良い気分であった。



 だがゼウスのせいで時間をとられ、もう時間は夕方となってしまった。


「今日はもう帰るか」


「うん…………って、これは雨?」


 気がつくと空からは徐々に雨粒が落ち始め、やがてどんどんと勢いを増してざあざあ降りになった。


 優人は2人で使う傘を錬金術で作り上げながら、雨を見てこんなことを思った。


「──もしかして、あのおじさんは今頃天国で泣いて……泣かされてるのかも」


「たしかに、そうかもな……」



 この日、この雨が止むことは1度もなかった。



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