第44話 ラッキースケベ
真夏日の早朝、夏ももう半ばになり朝の爽やかがジメジメとした熱気と争いを始めたようなこの時期に差し掛かる。
こんな猛暑日でも関係なく公園にはチラホラと人がいた。
日常的光景がそこにある。公園の周りをウォーキングする老人、ヘッドホンをしながら優雅に読書を楽しむ大学生。
そして砂場近くで立っている少年2人──前言撤回、最後の2人だけは少々違和感がある2人組である。
「零人さぁん、これ解けるんですか?」
「悪かったよ。でもこの状態だと術の発動が遅いんだよ」
ぶうたれている被害者の少年、白夜と加害者の零人。周りには見えていないが白夜の足元には1つの魔法陣が描かれている。
何故このような状況になったかというと
「なんで俺が零人さんの実験体に……」
可哀想なことに白夜は零人の魔術開発に付き合わされていたのだ。
早朝から暇だった白夜は何も聞かされないまま公園に呼び出された挙句に実験体として術をかけられたのだ。
「ていうか俺ほど無鉄砲にとは言わないが、苦手なのは分かるがお前も魔術の練習とかしたらどうだ?」
「自覚あるんですか……でも魔術は俺できないわけじゃないのに。炎や氷とかRPGの自然系魔法や簡単なバフぐらいは──」
「んなもん何も役に立たねぇよ。目覚まし代わりの術式とか寝ている時の気持ち良さを増幅させる術とか覚えろよ」
流石は霊管理委員会もとい人類史上最多の魔術会得および保有者、考え方のベクトルが違い過ぎる。
「特殊過ぎるわっ! 零人さんがチート過ぎて感覚おかしいだけですよ。種類は多いしそれぞれ強いし」
「怠惰の制限ナメるんじゃねぇよ、そんなんで霊力使ってたらいざって時に使えねぇよ」
「ッ!!」
文句を垂れていた白夜はその瞬間零人の一言にハッと感銘を受けた。
(やっぱり最強と呼ばれるだけある人だな零人さんは。しっかりとそういう不測の事態も考えているんスね。──流石だ)
「優人に絡み過ぎて西源寺に追われる時、瞬間移動使えなかったらどうする!」
今抱いた純粋な自分の尊敬の念を返せと白夜は訴える。
「なんで理由がそんなしょうもないんですか!? あなた世界最強なんですよ?」
「でもさっき流石って思ってたじゃねぇか」
「心読まないでっ!」
朝っぱらから公園で学生2人の茶番劇が行われている一方、魔法陣は光っているだけで何も変化がないまま時間が経過した。
「俺は使えないですけど、零人さんなら解析術使えばこの術のこと分かったんじゃないですか?」
「分かるのもあるし、分からないもんもある。今回は人にかけないと発動しないってのしか分からなかったからお前に頼んだ。解析術は俺自身でもまだまだ開発途中なんだ」
「ていうか、俺に何の術をかけたんですか?」
「それはな、シロ。この術の効果はな、『ラッキースケベ』を呼び寄せる術だ!」
「……え、正気ですか?」
一瞬固まった後、白夜は顔がどんどん真っ赤になった。
なぜなら白夜の脳内でラッキースケベから連想されていったのは、週刊の少年漫画では十八番の青年向け漫画であったからだ。
白夜も『強欲の能力者』という世界トップの実力者とはいえ、まだ中学2年生である。
思春期真っ盛りな白夜だが優人ほどではないが彼にも純粋さがある。だが優人を除いて思春期を避けられる男子などこの世にいない。
なので白夜もそういったムフフな漫画は読むし、ラッキースケベを知っている。
しかも誰にもバレないよう、少年誌のページの端っこをつまんでこっそり読むようなウブな少年。
普通のマセガキならば喜ぶかもしれない状況だが、白夜にとってこれは由々しい状況だった。
(マズいマズい、もし沙耶香さんに見られでもしたら……)
白夜には目の前に明確なビジョンが見えた。
それは同じぐらいの歳の女子、彼女は道で倒れて自分は上から覆い被さるように転倒。
そして目の前には白夜が想いを寄せている沙耶香。
『──きゃあ!』
『ご、ごめんなさい。大丈夫ですか……あっ! ささ、沙耶香さん!?』
『うわぁ、シロ……最低過ぎる。キモイ、無理、土に埋まれ、というか還れ』
沙耶香が白夜に対して冷ややか視線で見下ろす画が白夜にはハッキリと想像できていた。
(最悪だ! 罵倒はともかく嫌われるのだけはっ!!)
「おいおい、罵倒は良いのかよ……ついに目覚めたな」
「だから読まないで! あぁ、せめてテレパシー逆ハッキングできてればあの時に回避できたかもしれないのに……」
「今更な──っ!」
今まで魔法陣に手をかざしていた零人がピクっと反応した後、即座に魔法陣を消した。
その行動で白夜はもう術が解けたのかと喜んだが、零人は笑顔でその希望を粉砕した。
「悪い、時間みたいだ。これから俺は優人と、前から楽しみにしてた映画観に行くから……そんじゃっ!」
「……ん? え、ええっ!? ちょっ、零人さん! あ、魔法陣展開しないで!! 転送術で逃げる気でしょ」
「たぶん効果は半日だし……ガンバ」
「嘘おおぉぉ!!」
零人は自身の魔法陣に吸い込まれて、優人の元へと行ってしまった。
取り残された白夜は絶望感から砂の上に膝をついた。
恐ろしいほどに下らなく救いようのない状況にいるのだと悟る。しかし彼は立ち上がってどうにか自分を鼓舞する。
「そもそも女子がいなければ問題ない、はず! 零人さんみたいに転送術で家に……はっ!」
霊力の細かい流れや雰囲気に鈍感な白夜は解術の際に零人が魔術を発動していたため、全く気づかなかったがいざ自分が術を使おうとした今になって事実を知った。
「解術に俺の霊力使われてたああ! せめて一言ぐらい言ってくれッスよぉぉぉ!!」
それは早速の2回目の絶望だった。
もはやラッキースケベよりも不運魔法でもかけられているような気分に陥る。
2回目の方が少し再起動に時間がかかったが、決心がついた。
ベンチで蹲っていたが勢いのままに立ち上がり、白夜は目標を定めた。
「家に早く帰れば問題にない、そして秘策も思いついた」
白夜は公園を背を張り堂々と歩行して去ろうとした。でも足取りはゆっくりと、尚且つ足元にも細心の注意を払う。
そして彼は秘策を実行する。それはシンプルだが高い集中力を要するもの。
「ここは『凶星』で乗り切る!」
白夜に与えられた振動を司る破壊の能力、凶星を発動させる。
白夜の体の周りは薄い蜃気楼がかかっているのように空間が歪みがかかり、体表に薄いバリアを張った。
彼の周囲には振動で人を軽く弾く程度の振動波が発生したのだ。
(これで少なくとも俺はラッキースケベの餌食にならない。人に当たっても問題ないレベルの力だから、「危ない! 解除」ってパターンもないはず)
零人ほどではないが普通のラブコメ漫画もある程度読む白夜は定番の状況も予測済みだった。
お決まりパターンやフラグはできるだけ事前にへし折ってみせる。
しかし魔術は事情に構わずその効果を顕著に発動させる。
「うおぉ!?」
「きゃっ!」
歩いてまだ数秒だが、早速歩道の角から若い女が現れた。女は驚いたせいで前のめりで転びそうになる。
(ほらねぇ! 転ぶ前に、うんしょぉっ!!)
驚いたものの、彼は思考の冷静さを失いはしなかった。
白夜は戦闘で培った反射神経を駆使して後ろへ下がると同時に女性を凶星で体勢を戻させた。
「わ……あれ?」
「すいませんでしたぁぁ!!」
そのまま逃げるように白夜は歩道を駆けた。
その場からすぐに立ち去ることはラッキースケベを回避する最善の行動である。
だが程なくして目の前でとんでもない状況に出くわした。
それは最初のラッキースケベ地点からおよそ数十メートル先の歩道でそれが起こった。
今度はラッキースケベではない、車道に小さな男の子が飛び出していたのだ。
「お、おい!」
「あはは〜」
子供には見えていなかったが目の前からは4トントラックが迫って来ていた。
この状況、白夜は問答無用でその子を助けにいった。
(ベタ過ぎる! ラッキースケベではないけどベタ。でもそんなの気にしてる場合じゃない……仕方ないけど解除!!)
自身のバリアを瞬間的に解き脚に凶星を発動、ツバメのように地面を飛び立つと飛び込んで男の子をすぐに抱き抱える。
飛びながらも振動で自分の軌道を操りながら反対側の歩道に移った。
男の子も白夜も無事、トラックも何事もなく道を通り過ぎて行った。白夜は子供を抱き抱えて安堵した。
「ふぅ、危ね……」
男の子は腕の中で放心状態でいたが、泣き喚くことはせずに助けてくれた白夜へ礼を述べた。
「あ……ありがとう、お兄ちゃん!」
「おう、道に出る時は気をつけるんスよ。そんじゃっ」
白夜は男の子が無事と悟ると颯爽とその場から去った。その場へ留まっていると巻き込まれそうな予感がしたからだ。
そしてまた振動バリアを張って家へと向かう。
一方、その男の子は揺れる白夜の赤い髪の毛と耳についたピアスを見て既視感を覚えた。
「あれぇ? あのお兄ちゃん、見たことある……」
男児が走り去って行く白夜を見ていると道の先で彼と通行人の女性の悲鳴が聞こえてきた。
「きゃっ」
「はいやっぱりー!」
白夜は走り出すとまた角で別の女性にぶつかりそうになったが、先程と同様に素早くかわし振動でキャッチという工程を作り出したことでラッキースケベを回避していた。
──白夜はその後に10回以上もラッキースケベ未遂になったが、例のバリアのおかげでなんとか商店街のすぐ前まで辿り着いた。
後の道は商店街を抜けてすぐに一本道を行くだけ。
だがここからが真の危険ゾーンだった。
「人が多い……そして俺の家が近いってことは、沙耶香さん家が近いってこと」
今日に限って商店街は朝市で賑わっていた。お遣いを頼まれていそうな女児から近所の主婦までと多くの女性がいた。
商店街での朝市は人の多さに加えて陳列棚も店の外にあるため狭くなり、ラッキースケベ発動率が極めて高いのだ。
さらに商店街から自宅までの道のりは優崎家の近所なため、沙耶香に自身のラッキースケベを見られかねないのだ。
(見つかる、死ぬ、見つかる、死ぬ、見つかる、死ぬ……)
プレッシャーと恐怖で必要以上に追い込まれ始めている。中学生にとっての初恋とはそれほどまでに重要なのだ。
脈は加速し呼吸は荒く、集中力を高めようとしても神経をすり減らし過ぎて凶星の振動にも僅かに乱れが生じ出した。
「ふぅ、慎重に慎重に──────」
そんな精神的に追い詰められ始めていた白夜の感覚に突如異変が発生した。
白夜の中で潜在的に眠っていた全ての感覚が解放され研ぎ澄まされていたのだ。
世界の動きは圧倒的に鈍速になる一方で白夜は視覚も嗅覚も鋭化し、今見えている事象が全て認識できるようになった。
転びそうな人、白夜とぶつかりそうな位置にいる女性、彼と同じ中学の女子、いかにも白夜に気づかずに歩いてくる女、何もかも見えていた。
これは零人が改良したことにより新たに生み出された魔術の1つ。
「これは、肉体時間加速術! 今までできなかったのに今になってやっと」
人は窮地に追いやられるほど高い集中力を得られる。恐怖の中でゾーンに入った白夜はラッキースケベに対抗しうるラッキーカードを引き当てたのだ。
今であれば白夜は太陽神ラーをも凌駕する実力があるだろう。
でも……
「こんな覚醒の仕方いやだった……」
動機が情けなさ過ぎて落胆するがチャンスには変わりない。
何も恐れるものが無くなり、視界が広がった白夜は躊躇いもなく商店街の道のど真ん中を突っ切り始めた。
転びそうな人は凶星で支えるか地面に一瞬固定、多少は人を避けつつも基本は道の真ん中を歩くことで被害を最小に。
常に周囲の状況に気を配り、あちこちからのラッキースケベを回避し続ける。
人の波を超えひたすらに奥の光を目指して中学2年生は突き進む。
白夜はようやく商店街からの脱出を果たした。
ここまで、決して長い道のりではなかったがもう気がついたら1時間半ほど経過していた。
それほどまでに集中力を研ぎ澄まして白夜は歩んでいた。
「ちょっと、休憩が」
意識を集中させまくった挙句に霊力も加速術でそこそこ奪われた白夜は近くのベンチに座った。
10kmマラソンが終わった時のように肉体諸共疲れきっていた。
普段は凶星でのゴリ押しでしか戦わない白夜にとって肉体時間加速術はかなり発動がしんどかった。
だがそんな時、目の前から聞き馴染みある声が聞こえてきた
「あれ、シロじゃん。どうしたの?」
「え……あっ」
そこに立っていたのは頼れる姉御的存在の同僚、香菜だった。満身創痍の様子でベンチに座り込んでいた白夜を見るや香菜は心配になって声をかけた。
「うぅ、香菜さあぁん」
「ちょっと!? 何があったの」
「実は──」
事の顛末を泣きつくように香菜に話した。朝からの出来事を1つ残らず香菜に説明し、その間も香菜をラッキースケベの被害者にしないように努力した。
「そっか〜大変だったね。でも凄いじゃん! ラッキースケベ回避しただけじゃなくて加速術まで覚えて。よく頑張ったよ」
「ありがとうございますぅ……」
安心感、その感覚は親戚の姉ちゃんと話す時のような安心感があった。
一通りの事を聞いた香菜は指をパチンと鳴らし自分に物理的干渉を防ぐ結界を張った。そして『死神の大鎌』の刃先を白夜の手に引っ掛ける。
「それじゃ、家まで送るよ。シロも心配だろうから私は結界張っとくよ。死神の大鎌ならリーチあるし、人にはダメージ入らないし」
香菜も変なスイッチが入ったようで、泣きついたシロを彼女は可愛がった。
「ちなみに天罰はちゃんと下ったよ♪」
「へ?」
──その頃の映画館、優人と零人は楽しみだったアニメ映画を見終わったばかりの時だった。
「面白かったね〜」
「原作ファンでも楽しめる最高の映画だったぜ」
「そうだ優人、この後飯いか────」
他愛のない話をしていると突然、零人の視界は完全にシャットアウトされていた。
「ふがっ!?」
「零人君!!?」
「う、あああああぁぁぁ!!」
零人の上半身は暴食の悪魔、白鯨のエイグの口の中にすっぽり入って彼は身動きが取れなくなっていた。それは上からエイグがかぶりついている状況で、とてもカオスな絵面だった。
唐突な出来事に2人は取り乱してオロオロとする。
「エイグどうしたの!?」
「ぎゃあああああ!!」
零人は巨大な口の中で、エイグの舌により体をべろべろと舐められていた。
香菜の意地悪でエイグを少しだけ実体化させているため、しばらくの間は零人に何リットルものヨダレのベタつきと匂いが残り、水生生物の生臭さが香ってくる。
「えああぁぁぁぁ!!」
世界最強の有るまじき姿を優人に披露しながら零人は悶絶していた。
──そんな地獄の刑が執行されているなど露知らず、白夜は香菜の誘導のもとついに家の前まで到着した。
家の玄関と表札を見るや白夜は解放感と安堵感に満たされた。
「香菜さん、ありがとうございます!」
「いやそれほどでも〜」
香菜に感謝を伝えながら頭を下げていると、背後から彼女の声が聞こえてきた。
「ん? あっ、香菜姉とシロじゃん」
「沙耶香さ──てああっ!?」
白夜はその瞬間には緊張感が解けていてスッカリと油断していた。
白夜の足元にはすでに鳩のフン爆が落ちていたのだ。鳥畜生による悪魔の仕打ちで足が滑り、沙耶香は地面に倒れかかる。
(ヤバい!!)
気持ちの緩みで咄嗟に凶星を発動できなかった。
倒れる瞬間、発動できたのは倒れると予想される地面一体だけだった。
「ああっ!」
「ひゃっ!?」
判断が遅れたことで沙耶香のキャッチの際に能力の発動が間に合わない事を懸念した白夜は予期せずバランスを崩し彼女その場に倒れた。
「いったぁ…………うああ!!」
「あれ? 地面に触れてない?」
「あちゃー」
「うーん……」
「ハウぁ!!」
それはラブコメでは定番の「ヒロイン押し倒した的状態」にとうとうなってしまった白夜はこの上ない焦りを見せた。
ラッキースケベがチャージされ一度に解き放たれてしまった結果だ。
(さ、最悪の状況になった。もう終わ──)
「ふぅ、びっくりした。この体浮かせてるこれシロの能力だよね? ありがとう」
「え? あっ、はい」
礼を言うと沙耶香は何事もなかったかのようにその場に立ち上がった。特に嫌がっている様子もなかったが、白夜は心配でたまらなかった。
(これ……セーフなのかな?)
そんな必死そうな白夜を見て沙耶香は不思議そうな顔を浮かべた。
「どうしたの? 昔は散々遊んだんだし気にするほど距離もないし、今更こんなので恥ずかしくはないよ」
「えっ……で、ですよね! でも失礼しました」
それを言うと白夜は今の出来事を整理するために思考を巡らせる。
すると沙耶香は香菜の方に近寄って、放心状態のシロの状況について聞いた。
「──へぇ、零人さんが。何かイメージと違う……というか映画って、香菜姉自身はどっちかっていうとシロのことよりも零人さんの方がデートっぽいことしてたから嫉妬してやったでしょ?」
「……まぁ、9割はそうだねっ」
「だからか、シロにやけに親切だったの」
「いやいや〜それは本当にただの親切だよぉ」
香菜は沙耶香の耳元でニヤつきながらもボソッと呟いた。
小声で意地悪に香菜は言ってみた。
「シロも義理の弟になるかもだしっ」
全てを察したらカァァと沙耶香の顔は真っ赤になる。照れ隠しに反発するような表情で反論した。
「香菜姉、シロには余計なこと言わないでね!」
「さやちゃんが照れてるぅーかわいー」
「もう!」
沙耶香は少し怒り気味に白夜の手を掴んで自分の家へ引っ張った。
「ほら行くよシロ! 効果切れまで1人でいるくらいなら私のゲームの相手して」
「はい! ん? ──えぇ!?」
2人はそのまま向こうに行ってしまった。香菜はやり切った様子で見守る。
「さて、やる事終わったし────零人君をしばきにいこうっ」
──そして優崎家で白夜は奇妙な再会を果たすこととなった。
玄関を開けると彼はそこにいた。
「あっ、さっきのお兄ちゃん!」
「あれ!? さっきの……」
先程、トラックに轢かれそうになっていた小さい男の子だった。
「ん、どうしたの?守」
「え……守ってあの守君!? こんなに大きくなって」
「あはは〜」
「あぁそっか、シロがここにいた時はまだちっちゃかったもんね」
「あの時は無事で良かったッス〜!」
白夜は守のモチモチの肌をグリグリと撫で回し、守も実年齢よりも幼い笑顔できゃっきゃと笑った。
(うん……見てて和むな)
沙耶香もしばらくの間は2人を見てMPを補っていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※
──そしてその頃、映画館前にいるあの2人。
「零人君、まだ取れないの?」
「はがあああああ!!」
まだ零人はエイグにベロベロと舐め回され続けていた。零人の情けない断末魔が辺り一面に広がる。





