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第13話  西暦2018年  12月29日 その2


「――おもしろかった!」


 妹が伸びをして、そのまま畳に仰向けに寝そべる。

 確かに聞きごたえのある話だった。

 日本経済の黎明期の貴重な資料にもなると思えるほど。

 母さんが神妙な顔をしておばあちゃんに尋ねる。


「……ねぇ、母さん。日記に出てきた、最大手銀行の傘下会社が開発した貨物船って、あの『T型』のことよね?」


「時代を考えればそうなりますね」


 おばあちゃんが首を傾げながら答えると、母さんが「……ほぇぇ!」と感心した声を上げる。

 ついでに僕も気になっていた質問をすることに。


「……じゃあ、さ。ちらっと出てきた、()()()()()()()()()()()()()()()()っていうのは『アレ』だよね?」


「そうですね。あの『電機グループ』だと思います」


 その言葉に妹が腹筋を使って勢い良く起き上がる。


「……それって『この木なんの木』的なアレ!?」


 目を見開く妹に、僕と母さんそしておばあちゃんが無言で頷く。


「ほぇぇぇ!?」


 妹も母さんと同じような声で驚いてから再び仰向けに転がった。

 


「――でも健次郎さんって、意外と穏やかな人だったみたいだね。さっきの大蔵大臣がおしっこもらしたとか言うから、もっとおっかない人だと思っていたけど」


 僕は話を聞きながら彼に対して他人だと思えない親近感のようなものがあった。

 ――まぁ、実際他人ではないのだけれど。


「確かに。むしろ気が弱そうな感じよね、……あなたと一緒で」

 

 母さんが口元を歪ませて笑う。後ろの一言は余計だ。


「まぁ、そういう意味では血筋かもしれないわね」


 おばあちゃんも穏やかな笑顔で同意する。

 でも日本経済に影響力を与えた人に似ているというのは嬉しいかもしれない。




「アッ、そうやった!」


 妹が再び腹筋を使って起き上がる。


「……何よ?」


 母さんが怪訝そうな顔で尋ねる。


「血筋で思い出したけど、結局健次郎の奥さんってどっちなんよ? ……椿姫? ……それともアンジュ? それとも別の人?」


 実は僕も気になっていた。


「兄ちゃんが健次郎さんに似ているっていうんやったら、おばあちゃんは絶対に椿姫っぽいやん?」


 確かに祖母の若い頃ってきっと椿姫みたいなのだろうなと思いながら聞いていた。


「でもお母さんのそのはっちゃけ具合って、どう考えてもアンジュ似やろ?」


 ……それは、お前もそうだ!


「えっ? ナニナニ? あなたたち、もしかして何も知らないで今の話を聞いていたの?」


 母さんは逆の方向でビックリしている。


「だって僕たちそもそも、健次郎さんのことも今日初めて知ったんだから。……母さんだって健次郎さんの両親の名前なんて知らないでしょ?」


 僕は思わず強い口調で弁解する。


「それは……流石に知らないけれど。……確かに曽爺さんならともかく、その上は普通知らないか」


 母さんは納得したのか、妹がさっきしたかのように仰向けに転がる。

 そして見上げるようにしておばあちゃんにニヤニヤと笑いかけた。

 おばあちゃんは穏やかな顔で娘である母さんと視線を合わせ、僕たちを順に見る。

 いつもと違って目だけが楽しそうに輝いているような気がした。


「健次郎さんの奥さんはね…………」


「「……奥さんは?」」


 僕と妹は声を揃えて身を乗り出す。


「……やっぱり、ナイショ」


 そういっておばあちゃんはイタズラ少女のように微笑んだ。




次話エピローグです。

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