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3 少年は兎、炎は燃焼


今日の下層部隊は皆で孤児院の子供たちへ会いにいくそうだ。その絵本を私達が眺めている。


「お伽話は残酷だからね~」


――悪い組織は実は慈善活動をしながらカムフラージュしているらしい。


「はあ……眼から光をなくした美少年を足元に侍らせたいですよね~」


バレない程度に中毒性のある描写をすることで興味を引かせて組織への素養を幼い子供たちへ高める洗脳絵本をバラ巻きにいくらしい。


「なんで悪魔の鏡が目に入ったら少年を女王が拐うのかいまだに疑問でしかたない」


たしかに悪魔の鏡と孤独な女王が少年を連れていく因果関係は不明だ。


「出オチすぎだろ悪魔」

「女王すらショタ誘拐して放置プレイですから~」


女王はどうして少年を拐ったのか、説明が抜けていて意味がわからない。


「まあ無料配布なんだからこんなもんでいいだろ」

「そうですよ~本当なら印刷代くらいとりたいんですから~」


飽きたのか二人はそれぞれテレビをみたり、携帯をいじりを始めた。


「ち……たった5000にも耐えられないのか雑魚が」

「少年誘拐事件がはやってるですって~こわいですね~」


オルティナはテレビのニュース番組をみてにこにこ笑っている。


―――シャラリという音がする。私とオルティナは呼ばれたので向かう。


「ニュースになったのは今日だが、近頃密かに少年たちの失踪事件が多発しているみたいなんだよ」


オルティナがたまたま見ていた番組だが、私は彼女を疑ってしまう。


「私は犯人じゃありません。だって誘拐してきた子を皆さんに隠す必要ないじゃないですか」

「そして今日のターゲットは氷の女帝(エンプレシアイス)。あの女には今回の事件を引き起こした疑いがある」


無視して今回の説明を始める。


「氷の女帝は組織デルセの女ボスで、白雪の(スノウ)の母親といわれています」


オルティナの話を聞いて、私は向かおうとした。


「あ、もし悪魔の鏡を埋められた少年がいたら生け捕りでたのみます」


私は主の命令ではないので無視して任務へむかった。


少年少女の誘拐事件はよくあることだが、大きいものは何百年前にあったようだ。

――それは世界を統一したジュグジュプス大王国で、起きていた。


それはハルメン事件と呼ばれるもので、流しの音楽家、道化師などが容疑者とされたが未解決のまま迷宮入りしたという。


そうこう考えながら私は氷女帝が私用で出奔しているというデルセの支部をみつけた。

それは地下にあって支部のわりには豪奢で、広い場所だ。


忍び込む、といっても見つかることはないのでナチュラルに廊下を歩く。

博士いわく私は自ら声をかけないかぎり誰にも気がつかれないらしい。

博士やオルティナも声をかけないと、意識しなければ居るのに気がつかないらしい。


―――私は節穴の間にいるといったところなのか。


「あ~そこのお姉サーン、ここでなにしてるの~?」


声をかけてきたのは無邪気そうな薄茶髪の少年。以前どこかで見かけたことがあるような気がする。


「どうして私に気がついた?」

「何しゃべってるかわからないけど、ボクはねー眼でものを見ない。聞かないことにしてるんだ~」


少年はいま、眼を閉じている。そして耳には栓をしている。

聞いて見る人間の行動と反対に動くから私が見えた?


「そんなおかしい話があるか。他になにか理由があるんだろう」


今回ばかりは理由がどうでもいいとは言っていられない。


「おまえは氷の女帝に拐われた少年か?」


オルティナに引き渡すには丁度よさそうだ。


「え、あのオバサンがなんだって~?そんなことより、追いかけっこしようよ」


少年は軽く壁を左右にピョンピョン跳んで渡る。

私の話など聞く耳もたずただ遊びたいだけのようだ。


――――私はすぐ少年に追い付く。そしてたどり着いた場所は、予想もしていなかった場所。


「あーねー侵入者連れてきたよ~マダム」


そして私はターゲットの元へと誘導されていたのだ。


「ようこそデルセの本部へ」


支部だと思いきや、ターゲットがいたのは本部。つまりわざと嘘の情報を流し、私を招いたということだ。


「そちは大方グレムの仕向けた手先、わらわの命をとりにきたんじゃろう?」

「そう」


隠す意味などないので頷く。


「大いに結構、カイン。その娘に銃でも渡してやれ」

「はい、マダム」


白のコートを身に付けた優男は、歩くたびに硝子製の耳飾りをカラりと鳴らした。


「どうぞ」


優男は笑っているが、心が読めない。どこぞのオルティナがにっこりと微笑んでいるのが背後に見える。


「敵に武器をわたしていいの?」


私は銃などいらない。こんなものより圧倒的に素手のほうが強いのでそれでことたりる。


「わらわにはこの力がある」


氷の女帝はまるで水晶のごとき輝く結晶を床から生やす。


「へくし!」


少年はくしゃみをし、部屋を退室する。そして氷の女帝も、寒さには耐えられないことだろう。


「貴女は人間、暖炉をつかったほうがいい」

「火など要らぬ」


私の言葉で氷の女帝は機嫌を悪くする。


「どうして私を招いたのかはどうでもいい。貴女は殺されたいからここへ招いた?」


「いや、ただあの男が作ったものが見たかっただけだ」


作らせたものは私だろうが、あの男というのはだれだ。


「どうした。お前のところにいる科学者のことぞ」


しかし作ったのは女の博士だ。


「マダム、今は研究者も代変わりしていますよ」

「永くを生きたせいでボケたようじゃな」


このまぬけな女が組織デルセを率いているとは思えない。

それにここは幹部が見当たらないほぼ無人の孤独な城だ。


私が少年を救うヒロインならば女帝といる後一人はだれだ。


―――カチャ。それが耳にきこえたときにはすでにあたまにそれが突きつけられていた。

私は攻撃を受けても痛みを感じないので避けるという発送がないためだ。


「さあ、グレムの秘密を話していただけませんか?」


―――彼は悪魔が鏡をみせたかった天使、いいや白いが鏡を作った悪魔だ。


「ああ、忘れるところでした……竈に用意された白のクッキーはどうでしたか?」


竈と言われ、何のことかを思い出す。


「五の魔女が死んだのはお前のせい?」

「いいえ、五の魔女にはまだ使い道がありましたから……大方どこぞのイタズラな二人組(こども)がやったのでしょう」


優男は顎に手を当て微笑した。


「美しいものは美しいと云う鏡、美しいものを醜いという鏡。できれば私は前者が良いのですが……」


優男は一瞬仮面のような笑みがとけるが、すぐにポーカーフェイスに戻る。


「この娘、どんな訓練をした。ぜんぜん怯えんではないか脅しがいがなくてつまらんな」


銃で脅しても無意味だと判断され、銃が下ろされる。


「貴女はなぜ隠し子を殺そうとしているの?」


氷の女帝を殺す前に聞くべき訳を聞いておこう。


「……は?」


氷の女帝はぽかりと口をあけ、意味がわからないといった顔でみている。


「雪と氷が同類視され、グレムの男が貴女の隠し子と噂が流れているんですマダム」


優男は氷の女帝は暗殺者を仕向け隠し子を殺そうとしている噂が流れていると説明をする。


「わらわは生まれてこのかた夫はおろか、幼い頃にここへきてから一度も外には出ておらんのじゃ」


外に出ていないなら、この城にいるときの子ならば生まれてすぐ殺すか地下で軟禁のはず。


―――では白雪の君の母親は他にいて、おそらくは故人だと考えるべきだろう。


―――ゴオオオ。


「なんじゃ!?」


気がつけば私たちは炎の輪に囲まれていた。

氷の女帝は力をなくし、床にへたりこむ。


「寒くてしかたないから暖まろうと思って探したら、城の中に一本のマッチがあったので燃やしちゃいました~」


少年はケラケラと私達をあざ笑っている。


「貴様!グレムのスパイか!?」


氷の女帝をかかえた優男が問うと、少年は首をふる。


「ボクはグレムでもデルセでもイルソでも、メルヒエドでもないよ」


無所属、または名を知られていない組織だろうか。


「ボクそろそろ帰るよ兄さんが笛を磨いて待ってるからさ……キミと一緒に村には帰れないんだ」


少年は私を見ると手をひらひらとさせて、服の飾りの一枚の羽をおとして去った。


「貴女があの少年をさらったのではないの?」


目覚めた彼女へ開口一番にたずねる。


「否、自分から仲間になりたいというからしてやったんじゃ」


私は氷の女帝に、少年誘拐の噂どころか、誘拐事件としてニュースに流れていると話した。


「誰がそんなことをしたか!」


氷の女帝は激昂した。


「貴女、悪の女首領という感じがしない」


ターゲットを間違えたんじゃないだろうか。

裏で何かをたくらんでいそうな優男はともかくたった二人でメルヒエドに仇なす気があるようにも見えない。

だがどんな理由があれ殺すようにと命令されたのだから殺すべきだ。

たとえ違うとしてもいわれたことは果さねばならない。


「死んでもらう」


私が彼女の首をしめようとすると、いつの間にか私の両腕が曲げられた。


「死ぬのは貴女です」


優男はそのまま私を壁へ叩きつける。ターゲットではないから視界にはいっていなかった。

もちろん私は痛みを感じないので立ち上がって女帝を狙う。


「なんじゃと!?」

「……よく動けますね」


――――ああ、任務の邪魔だなあ。


「……ヴォルケニオ」


私は両腕に炎を纏わせ、あたり全体に炎をふりまく。


「いやあああああああ」


女帝は発狂し、手当たり次第に氷を出し、必死に炎にあらがう。


「なぜ消えぬうううう!?」

「落ち着いてくださいマダム」


女帝は炎が苦手だったようだ。だから冷たく凍える城にいるのか。

まさかターゲットよりその他の者に邪魔をされるとは、ただ命令されていないからやつを殺しはしない。


「任務を遂行する」


私はそこらに落ちていたナイフを女帝の背後から投げた。


「フィア……!!」


男は眼を見開く。終始笑顔をたやさなかったあの男が、今はじめてそれを崩した。


「……カインよ。お前のおかげで恐怖のない城で氷の女帝となっても、わらわは最後まで炎から逃れられなかったようじゃ……結局――――」


氷の女帝はきっと暖かい涙を流していることだろう。


「わたしはただの貧しいマッチ売りだった……」


傷から温かい深紅を流す女帝。彼女の青や彼の白が真逆の色へ染まりゆく。

そして、この城もゴウゴウと炎につつまれる。


「大丈夫、最後まで一緒にいるから」


二人の結末など見届ける必要はない。




「おつかれさ……どうしたのその腕ええええ!!」


ありえない方向に曲がったそれに驚愕された。


「ターゲットの配下に折られました」

「そう、じゃあ殺してくるわ」


わざわざボスが行かずとも、すでに死んでいるだろう。


「それに痛くないので問題ありません」


プラプラしているのは邪魔だが。


「たとえ痛みがなくてもアタシが気にするの。すぐにアイアイに見せてきな!」


有無を言わさず博士の元へ連行された。



「本当のこと言わなくていいんですか~」

「いいのよ……アタシも驚いたわ。まさか氷の女帝が男のことだったなんてねぇ」

「やーだー人のこと言えないじゃないですか~」



「それ痛覚あったらヤバイなんてもんじゃないからねー」


と博士にこれまでの奴等はこんな感じに苦しんでいたと言われる。


「じゃ、ちゃんと寝ろ。明日には治ってるから」


私は言われた通りに眠る真似事をすることにした。

目を閉じると炎の中、死の淵でも笑いあっていた彼等が浮かぶ。


なぜだろう。私は任務が何より大事なので罪悪ではない。

―――では、この感情はなんだ。

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