2 猛虎は赤き血をすする
赤いバンダナを頭に巻いて、赤いブーツをはいた銀髪の少年は森を歩いていると、おぞましい光景を目にする。
それは釜戸に押し込まれ、焼け焦げる人間だった。
少年は見つからないように、木の上にのぼって犯人がこちらに気がつかぬよう祈るばかり。
まだ使いの途中だった少年は、彼等と鉢合わせぬように木から木を渡って移動することにしたのだった。
「最近は森を狼が徘徊していて、人間の血肉をむさぼりくらった残骸だらけだそうです~」
オルティナはソファにごろごろと転がる。
そしてクッキーを貪り食らうとカスを床に落としながら食らう。
テレビを観ながら背中をボリボリ掻いてだらしない姿をこれでもかとみせた。
「あー信じられねーこんなでも妖精の女王の姪なんだもん」
博士は額に手を当て、あきれながら不思議な色のドリンクを飲んだ。
「妖精は人間の食べ物を食べられるんですか?」
いま抱いた疑問をなげかけると、オルティナは特に何もいわない。
「妖精は人間のすぐ上で暮らして花の蜜をすってるエルフィーだからね」
私が食べられないのは妖精側によっているからだと思っていたが。
「ああ、殺子が不食なのはたぶん私側の影響だよ。生まれつきクラウンリオン病っていう体質だから」
―――それはかつてより存在したとされる魔王クラウン・リオンが由来となっているそうだ。
「ジャンクなエナジー飲物しか飲めないんだ」
この博士なら自分の病の治療や改造を出来そうだというのになぜそのままなのだ。
「なんで治療しないんです~?」
「医者じゃないからね。一度死なないと体内機関は改造できない」
死んだら誰も彼女を蘇生できないので本末転倒だ。
「それによく予知能力や占い師やら自分の未来はわからないとかいうやついるだろう?」
二人がうだうだ会話しているのを傍目から眺める。
「……」
「あら」
私とオルティナは耳に聴こえた音に反応する。
「なに?」
妖精の耳でだけ聴こえるベルで呼び出されたので当然聴こえない博士は訝しんでいる。
「これ本当に音鳴ってる?」
やはり鳴らした当人にも聴こえていないようだ。
しかしその通り名は皮肉にも古の妖精の女王ディーテニアからつけられている。
「リストのNo.3、グレムの下級層、レッドブーツを拉致ってきて」
なぜ殺すのではなく拉致なのか、理由は聞かなくとも察しがついた。
「レッドブーツはショタです。赤いバンダナを頭に巻いて赤い靴をはいているショタです!!」
なぜ二度ショタと言ったのかわからないが、話をきこう。
「ショタ、じゃねえや……レッドブーツは一年前に祖母をなくし路頭にまよっている所をグレムに拾われ雑用をやっているのです」
まるで見てきたかのように、断言するいいかただ。
「というか先日は一日はりついておはようから雑用中から就寝まで見てきました」
気味の悪い下卑た笑みを浮かべる。
「ああ、今夜は満月なのでくれぐれも遅くならないように気を付けてください」
満月は狼がもっとも出るという。しかしどうせまた対象が死んでいるとかなんだろう。
「おい待てよそこのガキ!」
人の多い往来で、いかつい大男の怒声が響く。
―――声をかけられたのは私ではない。
「オレはなにもしてない……!」
頭に赤いバンダナをつけ、赤のブーツをはいた少年が襟をつかまれている。
―――捕獲対象のレッドブーツ、抵抗されるより先に面倒なことになった。
「そこの素敵なお兄さん」
「あ?」
私は男に声をかけ、その隙に少年を逃がすことにした。
しかし少年は逃げようとしない。
「その少年は私の弟なんですが、何かしたんでしょうか」
男がそもそも掴んだままで、失敗すれば少年は殴られる可能性もある。
少年が怪我をすればオルティナが困るとすれば依頼に不手際が生じる。
故に姉のフリをして謝罪をする方向へ作戦変更してかかった。
「おう、このガキが肩にぶつかったからアバラ骨が折れてなあ……」
それは典型的なチンピラのいいがかりの中でも相当酷いものだ。
「肩が折れたんですね?」
親切心というより間違いは訂正してしかるべきだ。
「ああ、アバラの他に肩も足も折れたぜ!!」
カステラの角に頭をぶつけて死ねばいいのに。
「では私が弟のかわりにお詫びをもうしあげます。治療費はおいくらで?」
―――もちろん金など払う気はない。
「もう直った金はいいぜぇ別のお詫びしてくれや」
私が男の手を路地へひくと少年を必然的に解放する。
「待ってくれよそのお姉さんは関係な……」
レッドブーツがこちらにきたら丁度、壁に叩きつける音と悲鳴がこだました。
私を心配したのか彼はすぐ追ってきたが、奴の沙汰はもう済んだので仕事にとりかかることにした。
「ぐおお!!」
―――路地で胸をおさえ悶える男。
その前で足を止めるかすかな音がするのに気がつく。
「やあ」
「なんだてめぇは!」
油汗を滲ませ苦しむ男はにこやかな青年を睨み付けた。
「ここに金貨と銀貨がある。あの二人がどこに行ったか教えてくれないか?」
青年は片手にパンパンにつまった麻袋をかかげてみせた。
「よこせぇ!!」
男は立ち上がり金が入っているであろう袋に手を伸ばした。
―――青年が顔をしかめ男の顔に麻袋を叩きつける。
すると袋からただの砂が飛び散り、男は咳き込んだ。
「俺は村の人からアンタを痛め付けるよう頼まれたんだ」
―――無銭飲食、乱闘、恐喝、誘拐未遂など数しれずの悪行だった。
「俺はさぁ……アンタみたいな社会のゴミが一番嫌いなんだ」
青年は男の顔にいくつもの銅貨を叩きつける。
「ぐあ!」
男が意識を手放すと、青年は路地を去った。
「このイカれやろうしねええ!!」
男は身動きがとれない内に村人から担がれていった。
「俺はまともじゃないさ」
―――それを何も感じずながめていた私のほうがまずい。
というかあの男は私たちを探していたみたいだが組織の人間なのだろうか?
「本当、どうかしてる……」
レッドブーツの少年はガタガタとふるえている。
「なあ、姉ちゃん。なんでアンタはオレを助けてくれたんだ?」
レッドブーツはまだ闇の世界に染まっていない少年らしい目でまっすぐ私をみる。
「ハビタブルゾーンがベジタブルにミトコンドリアしてオーバーオールにオートミールが……」
「あ、うん、わかった……もういいよ!」
適当なことをいうと、レッドブーツは理解していないだろうに、これ以上の発言を遮る。
私がレッドブーツを助けたのは任務のため。
「ある美人なお姉さんが、街でアナタを見かけてから気に入ったらしいから一緒にきてほしい」
しかし、これをそのまま本人に教えるのは得策ではない。
雇い主にリークされ、たり抵抗されたらレッドブーツを殺さない程度に痛め付ける他ない。
「それって姉ちゃんじゃない別の女の人なのか?」
なにをわかりきった事を聞くのだろう。
「私はあるお姉さんといった。私がではないのだからそれしかないでしょう」
私がそういうと、レッドブーツは納得する。
「ごめん、目の前にいる姉ちゃんが美人だからさ」
彼は照れながら後頭部に手をやった。素なのか、機嫌をとる策士?
「とにかく来て」
レッドブーツに手を差し出すと首を左右にふる。
「ごめん」
申し訳なさそうな顔ではっきり断ってきた。
「悪いけど今はそれはできないんだ」
―――今はということは、やることが片付いたらついてくることも可能という意味にもなる。
「なにかやる用事があるなら私も協力する。そうすることで互いの目的は速やかに果たされる。拒否しても無駄」
レッドブーツが発言するより早くに捲し立て、反論を許さない。
「……わ、わかった。でも話を聞いて嫌ならこの話はなかったことにしてくれよな!」
―――レッドブーツは独断的にある事件を追っているらしい。
今朝オルティナが言っていた人間が喰い殺されるというあれらしい。
レッドブーツはあるとき父親をなくし、母に育ててられた。
城で母親と働いていた彼は年の近いお姫様と舞踏会で踊ることを許される。
その日銀の毛を持つ狼が城に入り込んで、彼はお姫様を逃がした。
そして彼が狼に狙われると母親が身をていして庇う。
そして彼のはいていたブーツは真っ赤に染まった。
「オレは一年前、ある組織に母親を殺した狼男がいることを知ってここにきたんだ」
レッドブーツの目つきが変わる。
そういえば以前、路地で少年が母親の仇とされる男と争っていた。
だがあれは銀髪ではなく茶髪なので別の人間だろう。
「弟がいるらしいけど、小さいときに子供のいない親戚にもらわれてったんだ」
―――絵にかいたような天涯孤独。オルティナなら泣きながら弟を探して彼へ恩を売ることだろう。
「まあいい、狼殺す」
夜がくるのを待ち、森を静かに探索する。レッドブーツが辺りに咲く花をみて一輪つみとる。
「どうしてそれを?」
「昔幼馴染がくれたんだ。村を出てから会ってないんだけどさ―――」
‘グルゥゥ……’
「向こうで声が聴こえた」
それは間違いなく狼の遠吠えだ。
「よし、姉ちゃんはここで待―――」
私はレッドブーツを追い越し、彼を小脇に抱えて現場へ着く。
「あれは……」
大柄の男が無惨に噛みちぎられ事切れていた。
レッドブーツは鼻をつまんでいる。
私は嗅覚がないのでそれがわからないが、状況からして血の臭いが近くを充満しているのだろう。嗅覚は食事や危険物の臭いを判別するためにあるわけで、毒物が効かない食事もしない私にその力は必要ない。
――レッドブーツは前に出ると唸る狼に問う。
「お前はあの狼か!?」
―――まだ暗闇にいる狼は銀色をしている。
「少年」
私は暗くても意識すれば昼間のように見える。
「……なんだよ?」
彼には見えていないがそれは間違いなくレッドブーツの仇。
「あれは銀狼」
透視の力ではないので前回逃がした男が見えなかったのはベールで顔を覆っていたからだろう。
「……そっか、ありがとう。でもよく見えるな」
私の言葉を疑うことなく信じ、彼は宿敵と向き合う。
するとようやく木の影から狼が現れ、毛並みが月明かりに照され輝く。
「姉ちゃんは下がっててくれ」
彼を殺されると困るので、ギリギリになったら私が狼を潰そう。
「わかった」
一般的な狼より大柄のそれは、レッドブーツに飛びかかる。
彼が右へいき攻撃を回避した後、狼の鋭い爪は近くの木へ向かう。
するとそこには深い爪痕が刻まれて木は倒れた。
「ごほっごほっ……!」
辺りには砂埃が舞って、レッドブーツは咳き込む。
「……グルルル!!」
――――狼が彼にとびかかる。そのとき、月が雲に隠れ辺りを暗闇に包む。
私はレッドブーツを突き飛ばし、狼の攻撃を代わりに受けようと思った。
「……大丈夫か!?」
しかし、突き飛ばされてはない。狼は辺りで震えあがっている。
おそらく、満月が雲に隠れたから人になりかかっているのだろう。
「人間になってる。どうするの」
「……オレが殺したいのは狼なんだ」
私は次の満月まで彼を待つ気はない。
間をとって狼男を組織に幽閉し組織の近くで仇をとらせることを提案することにした。
「じゃあついてきて」
「ああ、うん……でもどこに?」
レッドブーツの問いに答えている場合ではない。さっさと任務を遂行しよう。
「おそかったですね~」
なんだか機嫌の悪そうなオルティナがじっとりこちらを見ている。
「はいはい。お疲れ様、それが今日の戦利品ね」
クイン・ディテが手を叩き私を労った。
「銀髪イケメンですね~。大きすぎて私の好みでないです」
そういえば、レッドブーツも銀髪だ。
「ようこそ、アタシの根城へ」
彼の人はどかりと椅子に座ってレッドブーツを威圧した。
「メルヒエドって最近上の連中がいってたような……」
「そうそれ」
とクイン・ディテは頷く。
「勢力を拡大してるとかいうとにかくすげー組織の……」
「ええ」
満足そうに微笑む。
「アンタがボスなのか!?」
「ここはアタシの家だってさっき言ったでしょうが」
物覚えが悪いと苛立つクイン・ディテはナイフを足元へなげた。
「オレがグレムの下っぱなんだけど……なんで他所のボスが?」
「ボウヤ、なぜおまえを連れてきたかを話すわ」
レッドブーツを無視して話を続けるクインディテ。
「――その前に、ボウヤ……床に転がってる男。よく顔をみてごらん」
「顔?」
レッドブーツは狼男の顔をみると、肩を震わせた。
「あのガキどうした?」
「どうしたんでしょうね~」
博士がオルティナに問うと、彼女は意味深な微笑みをうかべていた。
「殺奇も、ごらん」
私は言われた通りに狼男の顔をみて、レッドブーツの反応に納得する。
「どう思う殺奇」
―――二人はよく似た顔をしているのだ。
「その男は……」
「よせ……俺が話す」
狼男は立ち上がり、私の言葉を遮る。
「アレッド、大きくなったな」
男はレッドブーツの名を呼び、優しく微笑む。
「……なんの冗談だよ」
返事をする彼の声に力はない。
「俺はお前の……」
「聞きたくない!」
レッドブーツは床に膝をつき、耳をふさいで叫ぶ。
「父親だ」
「……嘘だああああ」
彼の父親は死んだといっていたが、大方種族の問題で離れたのだろう。
―――パァン!!クインディテが狼男を撃つ。
「ボウヤ、そのオッサン殺していいかい?」
しかし、威嚇のために霞めさせただけのようだ。
「やめてくれ!オレが母ちゃんの仇をとる!!」
レッドブーツは狼男を睨む。けれど、その目には迷いがあるようだ。
「満月で狂っていたせいでこうなったが、本当は彼女を殺したくはなかったんだ」
狼男は頭を抱え、懺悔するように許しを乞うように項垂れる。
「……本当におまえは父親なのか?」
「ああ、満月が出れば暴走してしまうからな。お前の生まれた日にオレは死んだことにしておいた」
狼男がそういうと、レッドブーツは少し握り拳が揺らぐ。
「アレッド、最後に頼みがある。お前の手で俺を殺しておくれ……」
「なにいってんだよ……やっと父親に家族に会えたのになんでこんな!!」
―――レッドブーツが涙ながらに狼男に近づく。
「……なんて、言うと思ったのかよバアアアアアカ!!」
狼男が突然豹変し、髪色も背格好も別のものとなった。
「なあよく見ろ。俺は若いだろ。おまえくらいデケーガキのいるパパじゃねーっつの!」
この男は父親のフリをしていたグレム所属の狼男。
つまり、彼の家族ではなく殺していい者だ。
ということは、レッドブーツは人狼ハーフではなく人間の子だったのか。
そしてレッドブーツの首へ鋭い爪を近づけ、私達を見渡す。
「お前は昼間の?」
レッドブーツに因縁をつけ、村人から嫌われていた男。
「アーなんのことだァ?」
狼男は知らぬという顔をした。そして二度私達へ脅しをかける。
「貴様~ショタボーイに怪我ァさせたら後はわかってるですか~?」
オルティナがにっこりと闇のオーラをまとう。
「アラヤダ空調が壊れてるわ。冷房ききすぎっ」
「んじゃ修理してくるわー私これでも博士だし?」
二人は興味がなさそうに撤退しようとする。
「おい待てよおおお!」
こいつがどうなってもいいのか、と脅している二人はやれやれといいながら、ここにのこる。
「お前は俺を殺す気だったようだが俺もなあ……テメーが憎くてしょうがなかったんだぜええ!!」
狼男は憎悪の眼差しを向けている。
「ふざけんな!お訊ねものになったことならお前が城で暴れたせいだろ!」
レッドブーツは理不尽さに叫ぶ。
「ちげーよ。悪名なんざただの飾りだ。んな小せえことで恨むかよォ」
ゲラゲラと下卑た笑いをする。
「じゃあオレがなにしたっていうんだよ!お前に家族を殺されたただの被害者だろ!!」
レッドブーツは爪から離れようと抵抗した。
「城でなあ、銀の狼が暴れて多くの犠牲が出たのはのは、お前一人殺すためだってしってたか?」
狼男の言葉に、レッドブーツは目を見開いて言葉をなくす。
「信じらんねえようだが事実だ。そしてオレのお前への恨み、聞きたいか?」
狼男はなんだかおかしい言い回しをする。
恨みの話とやらは彼を殺そうとしたことと同じなのだから、今の話で終りのはずだ。
「ああ……そうだな」
レッドブーツはショックから力なく項垂れる。
「……なんていうと思ったのかよ!」
そういうと顔を殴って壁へ叩きつける。レッドブーツが、狼男から距離をとった。
「人が機嫌よく土産話でも聞かせようとしたってーのに―――よくもやりやがったな!」
狼男は遠吠えすると、人から黒い狼へ変わる。奴の本来の姿は銀ではなく黒だった。
―――つまり、城で人を襲った銀の狼ではないと私は理解する。
《たしかに俺は仇のフリをしていたが、ハナっからお前の親父が城を襲撃した銀の狼であることに偽りはねーよ》
父親が仇ではないと安堵しかけていた彼に、さらりと告げられた真実は無慈悲にも希望を絶望へ覆すものだった。
《そいつは頭目でなガキだった俺はよく後をついてったもんだ》
狼男は己の過去を語り始める。
《あろうことか人間の女に惚れちまったらしい。調べたところではある闇医者が狼男の血を封じる薬を与え
頭目は俺達を捨てて人間の世界で暮らしてたっていうじゃねえか》
「でも親父は生まれたときにはもういなかった」
狼男は家族むつまじくいたと勘違いしているようだが、レッドブーツと弟が生まれると父親である銀の狼は森へ戻ったそうだ。
《元頭目は俺達のとこに戻ってきたわけじゃねえが》
「じゃあなんで親父はいなくなったんだ?」
野生における仲間への裏切り行為をして、森に居場所などあるはずなく死ぬだけだ。
《しらねーよ》
裏切りは組織において重罪、銀の狼はそれを一番わかっている。
《あいつはお前が生まれてすぐ失踪したといったが、あの襲撃まで俺達はそいつがどこでなにをしてたのかわからなかった》
やはり不自然な空白の期間がある。
《だが襲撃の後に森へ戻った銀の狼は死の間際、なぜ自分が暴走したのかを話してた。俺は誰かに操られたんだってな》
城を襲うべく銀の狼を操った人物とは誰だ。
《んで一番あやしい闇医者ってヤツを探しだした。あいつはあっさり白状しやがったぜ、“薬を投与しお前の妻には他に男がいる”と嘘を言ったってな》
その闇医者はなんのために城を襲わせたのだろう。
《そいつの目的はどうでもいいが、色々話してたスッキリしたから帰るぜ》
「いや、なに敵地に上がり込んでほぼ無傷で帰宅しようとしてんだ?」
オルティナと博士は武器を構えたまま威嚇する。
「最初にいった俺への恨みってなんだよ」
《ああそうだった!忘れるとこだったぜ。テメーが持ってる花だ!!》
「……これがなんだよ」
レッドブーツはふところから花を取り出す。
《俺の女が昔、初恋の幼馴染と一緒にその花をつんだとかなんとか言ってたからだ!》
狼男はレッドブーツを恋人の初恋相手だと思ってキレているという。
「そんな花どこにでもあります。たまたまでしょ~くだらねー言いがかりですね~」
オルティナは笑顔で嘲笑う。
「まあガキの頃だったことに免じて許してやるか」
狼男はレッドブーツを恋敵と決めつけている。
「ていうかたとえその幼馴染がオレの幼馴染でも別に好きじゃなかったしいいだろうが!」
パーン。――言い争う二人の間へ銃弾が撃ちこまれる。
「いつまでもウダウダやってんじゃないよ」
―――あれから狼男は解放された。
『お前は己の意思に忠実な野郎だね。それに免じて今回は還してやるよ』
敵地へ連れてきたのは私達だが、レッドブーツを人質に意味のわからない脅しを仕掛けてきたことを咎め、グレムに戦いをしかけるより恩を売るべきだからだ。
「ボウヤの好きな女って誰なんです~?」
「え……オレそんなこと一言もいってないんだけど!?」
幼馴染のことは好きではないということから、他に良い女がいる。オルティナはそう解釈したようだ。
「そんなのいないって!!」
「じゃあタイプは?」
あれから、レッドブーツの仇は闇医者へ変わったようだ。
『最後に聞かせろ。なんで親父は森へ戻った?』
《どうせ死ぬなら故郷で……とでも思ったんじゃねえか。それか、罪を償うためだろ》
――ああ、本当にくだらない茶番だった。