1 雪の日の水牛
「ぶっちゃけスノー姫って雪を降らせる力はないんだから肌が白雪じゃなくても髪が黒炭、薔薇のように赤い頬のあたりからとってもいいんじゃね?」
博士は童話本を読みながから、メルヘンを模倣している奴等の行動を予測している。
「黒炭姫だと言いにくいし灰被りとどことなくかぶります~赤薔薇姫だと荊姫と大体かぶります~」
「じゃあ林檎姫でいいよ」
そのタイトルなら間違いなく本は売れない。
私とオルティナは仕事をしにクイン・ディテのもとへいった。
「今日は組織セルデの女首領、コールドエンプレスの隠し子スノウを殺してくるように」
標的の関連組織セルデはメルヒエドとは同期にあったが、方向性の違いから密かに交戦が噂されていた。
「氷の女帝と言われる彼女の隠し子と噂のスノウは死体を地下で保有し、棺に飾ったまま安置してずっと眺める変態だそうです」
この先はそいつより異常なやつ等が後12人いるのだろうか。
「猫が好きだそうで馬車にひかれた遺体も墓を立てるとか」
それは心底どうでもいい情報だ。
「ちなみに組織グレムに所属しているそうなので、バックボーンには気を付けてください~」
グレムはメルヒエドから独立した組織。
母はセルデの首領、子はグレムの構成員とはややこしい。
「今回は美形とかいう噂だから死体に肉体が残ったらもって帰ってきてね~」
私は森にある巨人族の住処へいく。すると、巨人の女達が泣いていた。
「白雪の君……」
美しい銀髪の青年が、氷の棺の中で眠っている。
死体愛好会が死体になっているとはお笑いぐさだ。
まだ死んでいるかわからないので、ひとまず拉致して博士に献上しよう。
「白雪君の死因は毒林檎だと思うんですが~5の魔女の仕業ですか~?」
「いや溺死だったよ。イケゾンビ化させてやっぞ!」
博士は久々に獲物をみつけ、嬉々としながら研究室へこもりにいった。
「マジ引くわ~」
オルティナは笑顔で言っている。少年愛と死体青年を改造することはどちらがマシなのだろう?
「いいこいいこ」
任務を達成すると、クイン・ディテに褒められた。
嬉しいわけでも不快なわけでもない。
部屋へいき何もせずただ長い間じっとしていると、程なくして呼び出された。
「任務ですか?」
リストの対象者、それとも別の者、私は命令をこなすだけで、どちらでも構わない。
「あ、はじめまして……」
青年は社交的ではないようで、目をあわせずに背を丸めると怯えながら私に挨拶をした。
「はじめまして」
いまの彼から見た私は元、命を狙っていた敵組織の幹部。
殺そうとしていた相手がたまたま別の誰かに殺されていただけで、対峙したときの関係性も少し変わる
ただしこの青年にはどちらでも意味がないだろう。
もし私が殺していても未来は変わらない。
死んで生き返り、敵に捕まる道筋には変化がないのだ。
なぜなら彼が世間では美しいと部類される顔をしているから。
醜い顔ならば命令の範囲ではないので私は彼を博士の元へ送らなかった。
美しさを罪という自己愛者がいるが、その通りではないだろうか?
「後は若い二人でごゆっくり~」
「は?」
いきなりオルティナと博士は見合いの仲人のようなことを言い出し、疑問符を浮かべるクイン・ディテを運び部屋から退室した。
「なにか食べませんか……?」
青年は菓子を私にすすめているが、私は食物を口にしない。
「私は人間ではなく、食べなくても死なない」
私に消化気管はないばかりか臓器気管はほとんどない。
だから正しくは食べなくてもではないが、死なないし食わぬという結果は同じなので余計なことはいわないでおく。
―――ミテクレのみが人間であるから、私は半端ものなのだ。
それとも私が人間に近づけば人間の臓器も造られるのだろうか?
「僕も食事はいらないみたいです。一回死んでるんで……」
私は半分人間ではないから大気からエネルギーを吸いとれるが、彼は人間の身体をしていてどうやってエネルギーを得ているのか疑問だ。
「貴女たち・のことは噂で聞いてから気になってたんです」
―――ある意味で死体と生きてる人間の間だから。と青年はまるで別人のように微笑んだ。
「噂と同じならば貴女はただの人間など息をすると同じように殺せるはずです」
「ええ、できる」
私は確信を持ってそう答えた。
「ここより大きな組織はいくつかありますが、その手がありながらどうしてここの元締めに従うのですか?」
それは作られたからだろうか、だが私は消滅など恐れてはいない。
私が次のワタシへ引き継がれるだけなのだから。
「愚問、私は本能に組み込まれた殺す役目を果たすだけ」
「そうですか……えっと……」
そういうと彼は焦りながら話題を切り替えた。
「……さっき僕を殺した相手のことを教えていただいたんです!」
博士が気紛れで生き返らせたかと思えば、一応はそういう意図があったのか。
「いつかは母に殺されると思っていたんですが、母の雇った刺客ではないそうなんです」
彼は自殺をするのは怖くなかったが、母が他の誰かに自分を殺させるのも母自ら殺しにくるのも嫌だという。
それは家族への愛情からくる感覚なのだろうが、母とはいえ自分を殺そうとする相手なのだから嫌悪すべきだ。
―――私にはわからない。
私の遺伝子ベースのいわば命をくれた博士やオルティナを嫌いでも好きでもない。
二人が私を殺すとしても受け入れ、彼女等が誰かに殺されるのも特になんの感情もない。
「でも皆さんが僕が生き返った情報を流されてしまって、刺客と思われる人が狙いにくるかもしれないんです」
――――それはつまり。
「ってわけで、彼が死んだらイケメンが減るから守りつつ命を狙うやつが出てきたら殺して!」
博士は私に軽く頼んできたが―――博士は特に彼を気に入っているわけではないことを私は察する。
彼の命を餌として現れる刺客を殺せば探さずとも楽に始末できるときた。あまりに都合が良すぎる話だった。
「いやなら、貴女が新しい殺子になって死ぬだけよ」
クイン・ディテは冷酷な表情をし、私を消すことを常に考えているという。
「私はもちろん任務を受けますが、お気にめされないのなら今どうぞ消してください」
いつ消されてもいいのは本心だが彼の人の発言はただの脅しだとわかっていた。
クイン・ディテにとって私はようやく生まれた奇跡なのだといっていた。
「ふふ、さすが私の殺奇だわ」
私は彼の人が傷ついていると論理的に想像はつけど、感情的な本質で罪悪や悲しみなど抱かない。
「じゃあ、これからよろしくね」
――白雪の君は地下で生活することになった。
「博士はすばらしいね。有力者の死体を生き返らせてリサイクルなんて正気の沙汰とは思えないよ」
それは褒めているのか引いているのか微妙だ。
しかしあれほど死体が好きだった者が今では生者について議論しているとは皮肉だ。
『もう僕死んだし、死者に夢を抱く必要はないんだ』
つい先程、本人から聞いたことだが、彼は死体になったことでネクロフィリアではなくなったという。
「オルティナ!テメーゆるさねーぞ!!」
博士がオルティナを追い回している。クインディテが二人の間にはいり、喧嘩両成敗する。
「博士がデスクの裏に張り付けていた写真をみつけたんです~」
それは人間ではなく機械少年が林檎を片手で握りつぶす場面。
「もう、ショタ好きは私のキャラなんですから~」
「まだマッド化してないガキの頃にとったもんだって、悪魔が間違えた場所に生まれ変わったようなお前と一緒にすんな」
二人がこりずに争っていると、白雪の君が写真をながめる。
「そういえばお前を探しに巨人族の家へ行ったらすでに死んでたが、それはなぜ?」
犯人についてなにか知らないか、気になったのかは自分でもわからない。
「あー変なおばさんからもらった林檎を喉につまらせたから、水を飲もうとしていたところを水へ落とされたんだ」
巨人族がやったなら威力が強すぎて彼はミンチになるはずだから。