12 眠りの愛猫
―――それはある日の晩、いばらのアーチで美しく飾られた庭園を抜ける少年がいた。
王国の城内の空気が白いモヤに包まれる。
『ぐっすり眠っていてね……』
優雅な少年は、ぱたりぱたりと次々倒れていく兵士たちに笑いかけるのだった。
■
あの戦いから一週間、ディテ達が因縁のある奴等を探しているがなんの進展もない。
私がディテに殺すよう頼まれた皆はオルティナ達と関わりがある。
それは偶然か必然なのか、どちらだって構わない。
「そういえばジャムは届けてくれましたか?」
オルティナが今思い出したからとグレイの件をたずねてくる。
なんだかいつもより覇気がないが、おそらく一週間前の戦いで何かあったのだろう。
「渡した」
たまにグレイやラステルの様子をうかがうが、あの警部がいるので近寄れない。
「殺子ちゃん、今日は慈悲深き殺人者、スリープローズを連れて来てください」
「慈悲深き?」
殺人者に慈悲もなにもあるのだろうか。
「たしか以前、灰ナメルやラスプーチェルと共にいた者だと話しましたね?」
たしかにスリープローズという名には聞き覚えがある。
「ええ」
そしてラステルや灰ナメルと共に城の人間殺しに参加した者であり、その通り名がラプローズ、正体がラプス王子であることは当事者から一週間前に聞いた。
「ではよろしくお願いします」
私は姿の特徴を聞かぬまま外へ出た。
「ようよう遊ぼーぜー」
朝から女に酔っぱらいが絡んでいる。
女は黄緑の髪をしてフリルが多く、グエナのように可愛らしい系統の服を来ている。
だが私の存在を気取られぬためには関わらないほうがいい。
「ふふ……」
女は酔っぱらいに微笑んで通り過ぎた。
その後すぐに酔っぱらいが眠りにつく。
「まさか」
ラプローズの仕業と思われる現象が目の前で起きた。
「待てそこの……おおっと!」
なにやら女?を追いかけてきた男が後ろから私にぶつかった。
「サツ……」
「おや、君は……」
相手は最悪なことに居合わせたらしい警部、それと補佐のラステルである。
「サヤコよ」
「そんな名前だったか?」
首を捻る警部をスルーして私は立ち去ろうとする。
「ところで、先ほどの女は知り合いか?」
「さあ、酔っぱらいに絡まれていたのを見かけただけよ」
これであの男が寝たのは酔っぱらいだからではないかと奴は思うことだろう。
「そうか、近頃は朝でも物騒だからな……家は近いのか?よかったら送るぞ」
親切なのだろうが、いかんせん心の距離が近すぎる。
「警部、仕事がまだありますよ。女の聴取と彼女の送迎ならば私がやりますので警部は車でどっしり構えていてください」
ラステルが助け船を出してくれた。
「そうか、なら頼んだ」
奴はお節介が過ぎるので苦手だ。
「……科学者はラステルが裏切ったことを知っているけど大丈夫なの?」
「別にあの人には君をあの場へ連れてくることを昔のヨシミで頼まれただけだから」
彼いわく科学者は裏切り裏切られるシビアな関係に慣れているから多分気にしないらしい。
「……それで、今日は何を?」
かくかくしかじかを説明する。
「止めてもむだ。昔の仕事仲間を組織にやりたくないだろうけど、オルティナ……ひいてはディテの命令だから」
「夢の妖精オルティナ……懐かしい名前だ」
ラステルは彼女について何か知っているようだ。
「それで、私の邪魔をする?」
「とくに、警部補の私が関わる気はありませんよ」
ラステルは警部の方へ向かった。
送迎はさておき聴取はどうするのだろう。
「ね、話は終わった?」
背後から高い男の声で話かけられ、振り向くとさっきのやつがいる。
「お前がラプローズ?」
反射的に後ろへ飛び、奴から距離を取った。
「知っている人はそう呼ぶね」
白い七分丈のドレスにぼんやりとした目は大人しそうな深窓の令嬢かのごとく繊細な印象がある。
「ある人がお前を探している。ついて来て」
「お嬢ちゃん、それ人にお願いする態度かな?」
ラプローズは指から薔薇を一輪生やし、もぎ取ると息を吹き掛け花弁を散らした。
■
「殺奇を知らないか?」
「殺子ちゃんなら、始末リストの順番通りにラプローズを連れてくるようお願いしておきましたよボス」
オルティナは淡々と述べる。
「何だって……?」
「なんか不味いのか?」
博士はドリンクを飲みながら問う。
「ラプローズに他者を眠らせる力があるのは知っているだろ?」
「ええ、私はもちろん殺子ちゃんにも効きませんから大丈夫ですよ」
オルティナはいつもとは違い冷静に答える。
「その根拠は?」
「ラプローズにはその昔、私が眠りの力を与えたのです」
オルティナは口角を上げて杖のひび割れた石を撫でた。
「ゴネるくらいならどうして殺すリストにそいつを入れたんだよ」
「まったく入れた憶えがないが?」
ディテは記憶に無い相手が勝手に加えられているという。
それは内通者が潜んでいる事を臭わせるには十分だった。
■
「催眠が利かないなんて残念だな……」
今回の相手は大人しいが、厄介そうである。
気がつくと奴が出店のアイスを食べたり飴を購入したり、買い食いが多い。
「アイス垂れてる」
「ああ、帰って手を洗うし別にいいよ」
ベタベタしないのかと思いつつ、たずねるだけで拭いてやる気はない。
「ところでどうして着いてくるの?」
「組織に連れていきたいから」
それくらい考えればわかるだろう。
「行かないよ」
「予想はしていた」
任務は組織に連れていくことだから、殺さないようにしないといけない。
だから攻撃をなるべく控え穏便にしよう。
「僕は実は昔からあの童話が好きなんだ。当てられたら考えてもいいよ」
「……ローズ姫かスリープ姫」
はっきり言ってその違いがわからない。
「残念、姫は合ってたけど僕は好きだからこの格好ってわけじゃないよ。あれだよ林檎と鏡が出る……名前なんだっけかなあ……」
「ああ……スノー姫」
■
「で、内通者を探すってわけか」
「じゃあさっそく白雪の君をサクッと尋問するよ」
「なあ、わざわざ尋問なんてしなくてもアンタの力でなら裏切り者がいたら直ぐわかるだろ」
「だが最近はおかしい。いつ頃からか稀に力が使えない」
ディテと博士は白雪の君スノウを狭い部屋に呼び出して取り調べを開始した。
「お前、内通者だろ」
「えっと?」
ディテの質問の意味がわからずスノウは眉を寄せた。
「うぉーいボス!そんな真っ向からハイなんて言う奴はいねーって」
「あれですか、物語によくある裏切り者がいる疑惑でまず僕が疑われたという?」
スノウは疑われ、逆に喜んでいる。
「いや、仲間になった順だよ」
「まーこいつは解剖されてるんだし」
博士の言葉に納得したようにディテがスノウを解放した。
「スノウはシロだよな、白雪だけに」
「いいや、一番疑わしいのはスノウだね」
バッサリ否定するディテは博士のギャグに触れなかった。
「は、マジでいってんの?」
博士はさすがに信じられないと言いたげに困惑する。
「考えてもみな、こいつを狙う母の刺客はいつ出てくるんだ」
「そういやあれ以来、見てないな」
博士が手をポンと叩き、わざとらしく納得する。
「奴も面倒になったのか殺子の代わりの護衛も出番ないし」
「あるいは優しい狩人のお陰ですでに死んでる事になってるのか、まあマジで死んでるけどなー」
その会話はドアの向こうに特定できない誰かの気配を感じながらのものだった。
■
「君は僕をどこまで知っている?」
「お友達の二人となにをしたか、大体の能力、王子であると知っている」
ラプローズは一息吐き“なら話は早い”と呟いた。
「僕には近づかないほうがいい」
「何をいっているの、任務をはたすまで傍を離れない」
奴は今まで会った中では結構まともに見える。
しかし油断してはならないのは確かだ。
「君がもうすぐ死ぬという未来が見える。僕は大気の魔力を吸ってしまうから、君の取り分がなくなっていく」
「貴方を信用して任務は諦めろと言われても、そうは問屋がおろさない」
睨みつけるとラプローズが眉を下げて微笑む。
「それに僕が君達の派閥に入ると、止まっていた争いが本当に始まってしまうから……」
おそらく奴に魔力を吸われているのだと黙視できる。私の意識は昏倒――――
■
「レッドブーツの尋問をやるわけだが」
「あんな盛大な悲劇を演じておいて実は裏切り者でした。は無いと思いたいねぇ」
「あれ、今日は(怖い人)いないんだな……」
アレッドの言う怖い人とはオルティナのことである。
「ああ、なんか覇気もないし」
人付き合いが不得手というわけではないが、甘いので尋問には役に立たない。
「で、いま組織の裏切り者を探してるんだが、お前は違うよな?」
「なんの事かわかんねえけど裏切りなんてしてないぜ!」
困惑しながら自分は二人が言う裏切り者ではないというアレッド。
「こういう無害そうなやつほど腹が黒いのはよくある話だよな」
「え!?」
博士の言葉にアレッドは眉を下げて落ち込む。
「ま、安心しなレッドブーツ。アンタが裏切り者の線は無いと思っている」
「よ、よかった」
アレッドがディテの笑顔に安堵して胸を撫で下ろす。
「そういう場合は逆に疑ってるのが本音だぞー」
「え!?」
やはり疑われてアレッドが少し涙目になる。
「こら、あんま脅すんじゃないよ」
「よし、次の奴は……死んだから次は兄弟な」
ルゼとグエナの二人が尋問を開始される。
「こういうのって共謀しないように一人じゃなくていいの?」
グエナは博士に問いかけて、たしかにそうだなと呟く。
「どうする?」
「アンタらが裏切り者なら単独なわけがないからいいんだよ」
ルゼは成る程と頷き、二人でソファに座る。
「実は近々殺す予定のヤアドのデータを何者かに盗まれてね」
「へー管理がずさんじゃないですか?」
ルゼは他人ごとのように笑いながら言う。
「兄が失礼ですいませんボス」
グエナはルゼの背を何やらモゾモゾとしながら非礼を謝った。
「ほ、本当に……すみませんでした……」
ルゼは頭を垂れて謝罪の言葉を苦しそうにのべた。
「別に気にすんなよ、らしくねえな」
「はあ……その台詞を言うのはアンタじゃないだろ博士」
ディテが呆れながらため息をつく。
「そろそろ昼だし茶菓子でも用意するか」
「ラッキー!」
ルゼとグエナはおやつタイムに喜びを隠さずにいる。
「お前ら何が好きなんだよ?」
「お菓子ならなんでも」
「同じく」
博士は答えるルゼの目線が自分から見て右、つまり左を見ている。
たいしてグエナの目線がルゼとは反対にあるのだと二人の言葉に嘘があるか確かめた。
「じゃあサヴレやるから仕事いきな」
「はーい」
二人が退室し次にフェニックスを取り調べようとしたが買い物で不在であった。
「人魚姉弟、裏切り者探し中なんだが自白するなら今だぞ」
博士がモンスターを退治しながら言う。
「いやいや、拾われて裏切るなんてメリット無いですし」
「第一弱み握られてるもんね」
姉弟の微妙そうな表情は誰が見ても困惑しているとわかるだろう。
「じゃあ次」
「お菓子は?」
「……やれやれ。ここは託児所じゃないんだぞ」
■
目が覚めると周りは緑の壁。私がいるのは白い薔薇の花弁が沢山ある寝台の上だった。
「なんだろうデジャブ……」
「よかった」
スリープローズが1メートルほどの距離から呟いた。
「なぜここへ?」
「別に悪い事はしないよ。僕のせいで君が死ぬのは嫌だから保護しただけ」
いや、むしろ私がしつこいから逆に自分の根城へ運んだんではないだろうか?
「それに害をなす気なら寝ている間に君を殺すだろう?」
「あの科学者の手先ではないの?」
結局はあいつの名前を聞かされずじまいだったからわからない。
「どの科学者かわからないけど、手を切ったというよりは向こうから消えたよ」
「そう」
奴は科学者の知り合いが沢山いるという口振りだ。
「さて、僕は出掛けてくるよ。君も適当に帰っていいからね」
「なら着いていく」
スリープローズはまた困ったように眉を下げる。
「あのさトイレ行くから」
「王子様はトイレに行かない」
「そんな無茶な」
「というか私は気にしない」
「レディがそんなはしたないこと言っちゃだめだよ」
「主は見ていないから別に怒られない大丈夫」
「君と一緒に組織へいったら告げ口しちゃうかもよ?」
告げ口されると何が悪いのかわからないが困ると思ってトイレの前で張り込む。
「はいってまーす」
「遅い」
返事の声がだんだん遠くなり、奴は逃げたのだと察する。
「どこに行った!?」
外を探しまわると蟻が列をなして進んでいるのを見つける。
「もしかして……」
蟻を辿ればスリープローズがいるに違いない。
■
「今気がついたんだが、フェニックスの加入は人魚姉弟の前でなく後だったよな?」
「ああ、よくよく考えてみればそうだったね」
博士はとうとう老化現象か、と笑う。
「で、フェニックスは?」
「帰ってきたみたいだな。――連れてこい」
ディテの命令で構成員がフェニックスを連行。
「ノーマークで怪しくないお前は一番怪しいな」
「ああ、探偵物なら犯人だね」
「……は?頼まれた買い出しから帰ってきたら、いきなり犯人とか探偵とかなんだこれ」
わけがわからないという顔の彼に説明をする二人。
「なるほど」
「まあ、不死のアンタがマジ裏切り者ならこっちは勝てないから勘弁だわ」
「不死の俺が裏切り者ならわざわざスパイなんてしなくても当日に組織壊滅させるんじゃないか?」
フェニックスは少し考え、真顔でそう答えた。
「まあ物理ガン無視のお前なら即時やれるよな」
博士は怪しい奴等しかいないので、もう誰が裏切り者であろうと構わないだろうと苦笑いする。
「で、次はアイリアだが裏切り者以前に何が仕掛けて来る可能性はあるね」
「取り調べ用がないから次だな」
■
「まったく……どういう因果なんだろう」
薄緑髪の美男は粗野な銀髪の男を拘束する。
「あ?」
男は訳がわからないと言いたげな声を発した。
「ところで久々に会うね、君は誰だったっけ?」
笑みを浮かべたまま、男の首へ蔓をかける。
「元同胞スリープローズ、この灰ナメル様を忘れるなんてひでぇじゃねえかダチ公」
「じゃあ君が灰ナメルなら、僕の名前を言ってごらん?」
「久々の再開だってのにひでえ……お前の名はラフロだろ?」
男は確かに彼の名を答えたが、疑いは晴れない。
「たしかに僕の名前はラフロだけど、君は灰ナメルではなく黒狼のヴァイツィだろう?」
男は微かな動揺を悟られぬように黙る。
しかし蔓に触れた感覚で、それは手に取るように解り、偽りは筒抜けだった。
「まあ、作戦はうまくいったからな……」
「へえ……やはり狙いは僕でなく彼女だったんだね」
ラフロは口の端を右に上げて、予想通りだと呟く。
■■
私がスリープローズを追いながらたどり着いた先は行き止まりで、そこには手紙が置いてあったのである。
“恐らく君を狙う輩は二人ではないだろう”
と書かれており、それを読んでいると背後から攻撃されていた。
「お前は……どこかで一度会った気がする」
粗野な銀髪の男、雰囲気から察して白雪の君を狙った刺客の男だと思う。
しかしスリープローズの忠告と思われるそれが、どういう意味かはわからない。
「久しぶりだな」
私を狙う人間で思い付く脅威といえばあの科学者かアイリアくらいだ。
「白雪の君は元気か?」
「まさか、彼の刺客?」
仮にも暗殺者なら、奴はなぜ平然と私に姿を表しているのだろう。
「その口ぶりじゃ、まだ生きてるか」
「いいえ、一度死んでるわ」
そう言うと男は目を見開いて驚いた。
「溺死してた筈なのに、前に襲撃した日は生きてたな」
「まるで自分が殺したとでも言いたげね」
男は口の端を上げ軽く牙を見せると、自分がやったと肯定した。
「確実に死んだのを見たが、まさか数日後にピンピンしてるとは不思議なこともあるもんだな」
ため息をつきながら困ったような素振りをした。
「お前は何者、狙いは私でなく白雪の君?」
「俺は灰ナメル。狙いは正直にどちらもだと言っとくか」
男は爪を生やしてこちらへ飛びこみながら鋭い爪で攻撃をした。
「貴方は死んだと聞いたけれど……」
「ああ、数年前に死んだな」
もしやこいつも誰かに白雪の君のように蘇生された?
そんな技術がありそうなのはこの前の悪の科学者くらい。
「貴方の主は黒髪で黒いローブをした科学者?」
「あーそんな奴もいたなあ……!」
奴は返事をしがてら的確に攻撃を加えてくる。
「逃げんなよ攻撃してこい!」
「お前との戦闘は命じられていないから私の仕事ではない」
路地の生ゴミ箱をぶちまけ、その隙に屋根に登る。
「ぐあっ……!」
灰ナメルは生ゴミから距離をとり、屋根に上がろうとするが登れない。
犬は猫と違って爪の出し入れを調整できないから木に登れないという事をどこかで聞いた。
「狼も木登り出来ないのか……」
私は屋根だけを渡って組織へ一旦帰還する。
■
「恐らくアイリアの仕業だね」
私が科学者に会ったと知らない皆に悪の科学者の容姿を知っている事を指摘されては敵わない。
かいつまんで敵が何者かに蘇生されたようだと報告する。
「この世界の死体蘇生には科学か魔法のどちらかがあるんだよ」
「私の技術では死体蘇生は出来ても生きていた人間らしくはならない」
白雪の君が食事をしないのは科学の蘇生だから、死体が動くことはできても魔法でない限り人間の資本たる解決は出来ないという事らしい。
「報告は以上、引き続きスリープローズを……」
「ああ、それはもういい。手違いだったんだ」
博士がため息をつきながら説明した。
「もう全員の聴取は済んだ。部屋に行ってるから後は任せたよ」
ディテは手をヒラヒラとさせて退室する。
「おう、あいつがいつになくだらしない分アタシがやってやるさ」
この様子だと私が留守にしている間から、本調子でないオルティナは未だに部屋にいるのだろう。
「……私はこの後どうするの?」
――それにしても聴取っということはディテと博士が二人で仲良く皆を尋問した?
「あー明日まで寝てな」
いつも私がいない時に、ディテとオルティナと博士が三人でいるのは想像がつく。
しかし今日はオルティナが不在だったからいつもとは違う。
「どうかしたか?」
博士はなぜ実験材料にしか観ていない私を気にかけてくれるのだろう。
「いいえ、なんでも」
それにディテはボスなのだから誰といようが私は気にしてはいけない。
どうしてそんな風にくだらないことを考え頭を悩ませていた。
「ならいいが……っておいおい、なんだその不思議そうな顔。私だって一応心配くらいはするぞ~人間だかんな」
博士はマッドだがいい奴の分類だと思う。
「博士はディテが好きだから仲間なの?」
「いや別に、ディテが前のボスを倒して名前と組織を継いだからここにいんだよ」
博士は前のボスの代からメルヒエドにいたという。
「実は前のボスの仇にしているとかはない?」
「んなベッタベタな話ねーよ」
博士は飽きれ顔で私にデコピンしたが痛覚はないのでノーダメージ。
「まあ取り合えず今日は好きなことしてこい」
好きなこと、と言われても何をしたらいいかわからないので部屋の寝台に大の字になった。