sideエピソード:イカれ妖精の心臓
美しく妖精達を統べる王である姉を持つ王妹オルティナ=アイシテルシー。
人間を一方的に見下している妖精達だが、彼女は他の者とは違う感性を生まれながらに持っていた。
人間達は美しい工芸を創り、その反面に残忍な争いを起こす。
時たま人間界へ降りては狂喜させてくれる彼等に染まる。
異端であり異質である彼女はそれを内に秘めながら妖精の界で振る舞った。
彼女は永き時を飽いて、幾ばくかの人間界へ降りる。
そこで目にしたのは黒髪と赤茶の10に満たぬ双子の少年達であった。
彼女のいる妖精界は男女が別れて住んでおり、女王のみが子を残す。
故にオルティナは関わりを持つのが無意味だと男を避けていた。
しかし何故か意図せず声をかけてしまった。
『こんにちは』
『見ない顔のお姉ちゃんだね』
黒髪の少年が赤茶の少年にヒソヒソ話す。
『はじめまして坊や達、私はオルティナ。妖精の国から来たの』
肉体はあちらにあり、人間界には仮の姿しか無い。
捕まりはしない為、包み隠さず自分の正体を話した。
『あー!おねーさん俺達がガキだからって馬鹿にしてるだろー?』
赤茶の少年は心外そうに頬を膨らませた。
『お姉ちゃん、妖精界ってどんなところなの!?』
反対に黒髪の少年は純粋そうに目を輝かせた。
『世間の想像の通り、人間は自然を破壊する~とかオカタイ人ばかりなのよ』
『お姉さんは違うの?』
赤茶の少年が首を傾げた。
『皆と同じなら、ここにいないでしょう?』
『それもそうだね』
『たしかに愚問だったなー』
随分とマセた言葉を使う子供達だとオルティナは苦笑いする。
『ところでここはどこ?』
『ジュグ・ジュプス城の地下研究所』
黒髪が兄のルドゥツェ、赤茶が弟のドゥツェン。
彼等は双子の皇子で、将来はどちらかが皇帝になる予定だと話す。
『双子で引き離されないのは珍しいですね』
『今時だからね』
『うんうん』
彼等は将来有望な科学者になるであろう。
オルティナは彼等を見守るために妖精界へは帰らず人間界過ごす事にした。
『学園への入学おめでとう』
彼等は魔法学園の初等部から通う事になり、私は学園長のレギアスに掛け合い教師となった。
『まさかオルティナが先生になるなんて……』
『あールドゥツェ昔はお姉ちゃんって呼んでいたのにいつから名前で呼ぶようになったの?』
出会ったときより少し背が延びたが彼等はまだまだ可愛い子供だ。
『今年いくつチョコ貰った?』
『オルティナにしかもらってない……』
そろそろ思春期というやつでドゥツェンは女子にモテたがった。
対照的にルドゥツェは研究熱心で二人は光と影のような学園生活を送るようになる。
そして彼等が高校にあがった時に彼等はアグライラという同じ女子生徒を好きになった。
彼女はヴィサナスという国の姫でどちらが彼女を射止めるか火花が散っていた。
それはドゥツェンであればいいと無意識にそんなことを考えていた。
しかし残念なことにどちらの恋も叶わず玉砕。
彼女は隣国の王子と結婚が嫌で学園の講師と駆け落ちして学園を去ったからだ。
『きっとまた素敵な子が現れるわ』
『僕には彼女しかいないんだ……』
落ち込むルドゥツェを慰めるオルティナだが、心内では安堵していた。
『それにドゥツェンなんて』
指を差すと彼が沢山の女子に囲まれる姿がある。
女にばかり好かれる彼を良しとしない男子生徒もいた。
『私はずっとそばにいるから』
『……嘘だ』
誰も信じられないと言うルドゥツェに困り果てたオルティナは考えた。
『はぁ……ではコレを貴方にあげましょうね』
『なにこれ』
オルティナが首から下げていたリーフ型のペンダントをルドゥツェへかけた。
『私の心臓と同じくらい大切なものよ』
『なんでそんな重いものくれるんだよ?』
ペンダントはオルティナのあちらでの肉体が繋がれており、彼女だけが妖精界へ帰る為に使うもの。
しかし他人にそれを渡すとなれば妖精界には帰れないという事はふせる。
『私はネックレスを貴方が持つかぎり帰らない。だからずっと傍にいると約束しましょう』
『まあ普通に考えればアクセサリーをおいて帰るわけないか』
ルドゥツェは納得し、ようやく落ち着いた。
『アグライラが死んだらしい』
あれから数年、学園を卒業して間もなくの頃。
彼等の想い人が亡くなったと知らせが入る。
『城の諜報員が調べた結果、メルヒエドという組織が死と関係しているみたいだ』
『ただのチンピラ組織じゃないか』
犯人を捕まえたいドゥツェンとアグライラを想うルドゥツェはそれぞれ違う事を考えている。
『まったく、ドゥーちゃんは一人でさっさか行ってしまいましたね』
『……暫く部屋にいる』
長年ひきずった想い人の死に肩を落とすルドゥツェの背を目で追う。
『入りますよ~ルドゥツェ?』
『……』
寝台で枕を抱き締めながら眠るルドゥツェの瞼の雫を指で拭う。
『しょっぱい……本当に好きなのね』
恋敵が完全にいなくなり、しかしそれが更に彼捕われて複雑な心情のオルティナが感傷せぬように身に付けたのは無だった。
『ルドゥツェ……彼女がいれば貴方が幸せになるなら……』
目が覚めたルドゥツェは首筋に痛みを覚える。
『さっきまで誰かがいたような……』
ただ寝違えてこうなっただけだろうと気にせず起きた。
『おはよう』
『ルドゥツェ、いい話があるの!』
オルティナがいつになく慌てているので、話を聞くとルドゥツェは驚愕した。
彼女が朝から死者を組成させる女科学者がいるなどと突飛な事を言うからである。
『やつを追いかけよう……』
『ええ』
オルティナはルドゥツェの手を引いて玄関へ向かう。
――行き先は女科学者のいる組織メルヒエド。