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10 灰舐め犬


「えー本日、博士の機械が完成したので敵地に乗り込み予定でしたが、以前から張ってあるターゲットが動いたようなので殺子ちゃんは速やかにそちらへ向かうようにお願いします」


オルティナが電子地図の光線を私に投げる。これは落としても人に見られない。


「実はクインディテが表の仕事で貴族街の偵察に行くそうなのですよ」

「表?」


ディテは裏組織のボスの他に表で違う顔を持っている?


「それはたとえば夫の仕事の都合で~とか?」

「ディテは組織の頭ですし、さすがに表の夫は……」


たしかに、それはあまり考えられない。


「私も詳しくはしりませんが、殺子ちゃんは暫く下層街でターゲットを探してください」

「わかった」



――とある少女は意地悪な継母と姉に苛められていた。

明日城で開かれる王子の誕生日パーティーに参加すれば自分も物語りの姫になれる。

着るものがなくこまっていた少女は思い出す。

数年前に荷物を抱え込んだ魔女が落としたドレスを使う日がきたのだ。

そして次の日、姉達が参加したパーティーに後から徒歩でいく。

そして、美しい顔をしている彼女は王子の心を射止め、母や姉を見返す。

その後幸せに暮らすわけではなかった。

なぜなら少女は―――


「どこまで作り話かわからない」


その少女は灰ナメル姫といい王や妃・王子を惨殺して城を焼いた。


そのターゲットが見つけられた現在の居住区は三日前に火事を出し、雑貨屋の隣にあった揚げ(フライ)屋。

人が住もうにもそこは消し炭しかなく、警察がうろついてるのによくそんなところに住むものだと思いながら店の中に入る。


「お前なにメンチ切ってんだ……?」


すると焦げた店内から薄い茶髪の目付きの悪い青年が現れた。


「事故があった場所の野次馬、貴方はフライ屋さん?」


さっきミンチがどうとか、言っていたような。


「フライ屋がオレみてぇな不良雇うかよ」


――自分が不良だという自覚はあるらしい。


「なんか頬が汚れてるわ……あ、察しだわ」


青年の顔には煤とは違うようなグレーの粉が着いている。


「オレは硬派なツッパリを目指してんだよ誰が怪しい粉をやるか!」

「へえ……だったら小麦粉かしら」


――フライ屋の不良息子だろうか?


「いてっ」


青年は足先を焦げたカウンターにぶつけた。


「なにか落ちたわ……」


それは眼鏡で、手渡した。


「まあサンキュー」

「不良が眼鏡なんてするのね」

「オレだって嫌だがコンタクトは無理だ」


私は戦闘向きに視力と聴力が優れているから眼鏡やコンタクトとは無縁である。

だから彼のように視力が低い人の感覚はまったくわからない。


「マブイ……」

「日光出てるものね」


眼鏡をかけて、青年はかたまった。


「いや……そういう意味じゃねーああ、そうだな!」


というかターゲットの女はどこにいるのだろう。


「それで、貴方ってフライ屋のグレテル息子でないなら野次馬?」

「……なんでそんな事話さなくちゃならないんだ」


――なにかまずい事を隠している様子。


「最初、私に何しに来たか聞いた。フライ屋の関係者ならともかく、貴方も他人なら私に聞いて自分が言わないのは不等よ」

「不等は硬派じゃねえよな……」


――彼は悪人ではないとは思うが、いつものパターンならそろそろターゲットに会ってもおかしくはない頃だ。


「警察だが話を聞かせて貰えないか」


――あの警官と補佐の男が聴取に来た。

私たちはとっさにカウンター裏に隠れる。


「おっおい……」

「しっ」


うるさいので彼の口を塞ぐ。


「危険ですから警部は下がっていてください私が見ます」

「ああ」


真っ先にこちらへと向かってくる補佐の足が見えた。


「ここにはいないようですよ警部」


しかし、補佐の男は中を覗かずに居ないと嘘をついた。


「そうか、他をあたるぞ」

「今日の勤務時間が終わりましたので失礼します」

「ああ、わかった……」


――所謂ゆとりという奴だなと思っていると、また足音がした。


「“君達”でてきなさい」


帰った筈のゆとり警部補に呼ばれた。


「……」


二人いると気がついていたのか、間抜けな警部と違い随分と有能な補佐官らしい。


「はあめんどくせえ……ってラステル叔父さんかよ!?」

「久しぶりだねグレイ君」


長い黒髪を後ろで三つ編みにした男、どうやら彼の親戚だったらしい。

つまり、彼がここにいると予測していたからあえて見逃したのだろう。


「ところでそのお嬢さんは彼女かな?」

「ちげーよ野次馬だって」


ラステルは慌てるグレイを笑っている。


「それで、なぜ二人はここに?」

「知らない野郎から、ここに来いって手紙が届いてな」


グレイは手紙をラステルへ渡した。


「では君も?」

「私は違う」

「ところでラステルさんはなんでここにいるってわかった?」


グレイがたずねると、ラステルは懐から黒い封筒を取り出した。


「実は手紙を貰ってね、もしかすると既に差し出し人がいるかもしれない。我々警察が来た際、既に隠れているのでは?そう思ってカマを掛けたら偶々君がいたというわけさ」


あの警部より有能そうな男だ。


「で、差し出し人はまだなのか?」

「何かのパーティーが開かれるってことなら、私もう帰っていいかしら」


しかしターゲットはここに来るかもしれない。もしかすると手紙の差し出した男の仲間?


「あぶない!」

「え?」


ドアへ近づくと、ラステルが私を抱えてカウンターの向こうに飛んだ。


「うわっ!?」


程無くしてそちら側が崩れ落ち、出口は塞がれた。


「ありがとう」


私はラステルに礼を言う。


「いえ、しかし出口が塞がれるとは大変なことになった」

「ああ、おまけに差し出し人が来てない」


グレイの言葉に、私はハッとした。


「もしかして、差し出し人は来るつもりがなかったんじゃない?」

「え」

「なるほど、火災でもろくなった店に誘き寄せて閉じ込める事が狙いだった可能性もある」


ラステルは顎に手を当て、打開策を考えている。


「なんのためにだ?」

「それより、このままだと生き埋めになる。考えるのは出てからにしたほうがいい」


ラステルの意見に同意する。痛覚がないとはいえ帰還と修理が大変だ。


「じゃあ火災で脆い壁を蹴破るか?」

「それでは出るまでに全壊するだろう」

「壁を壊すのが無理なら二階から飛び降りるしかない」


私はあかない窓を蹴り、ガラスを割って外へ出た。


「彼女は躊躇なく窮地を打破した。凛々しい……あれがマブスケってやつなのか?」

「君、不良漫画読みすぎだよ」


■■


私が着地してすぐにラステルたちも窓へ来た。


「ここで会ったのも何かの縁。私が受け止める」

「いや、でも」

「男の中の硬派な男なら二階なんて簡単に降りるよ」

「わ、わかったよ!」


ラステルに煽られグレイが飛び降りてきた。


「よし」

「……さんきゅー」


なぜ目を会わせようとしないのか?


「やれやれ、思春期か」


その後ラステルは自前の髪の毛を使って自力で着地した。


「ここならいいだろ」


普通に人気のない路地の裏だ。


「推理すべき問題は差し出し人が誰か、何のために私達をあの場へ呼び出したか、の三点だ」

「とりあえず私は偶々ここに来たから関係がない。貴方たち二人が恨みを買ったか、家族が買ったとかだと思う」


まあ偶然きたというのは大嘘で、命じられた暗殺ターゲットがいるかもしれない場所というだけだが。


「なんで来たんだ?」

「野次馬って言った。実は昨日、火事があったときに近くの雑貨屋にいたから火元が気になったのもある」


そういうと、納得したようにうなずく。


「あの雑貨屋のドリンクがもう飲めないのは惜しい」

「はあ、あの不味いのに止められないジャ……例のブツはもう味わえないのか……」


――こいつらもヤバイもん中毒者か。


「……その雑貨屋の男なら生きてると思う。火災から逃げてるのを見た」

「え、マジで?じゃあ例のブツが食えるのか!?」

「さあ」


奴は組織内で商売をしているが、サツに繋がりのあるグレイたちはもう買えないだろう。


「そうか、まだ彼は生きているのか」


――どうしたものか、口を滑らせた。

奴は取り調べをスルーして疑惑は晴れていない。


「雑貨屋の店長は任意取り調べを無視して逃げたって噂になってたけど、何かの事件の犯人なの?」

「いや、たんにドリンクが飲める可能性があるというだけなんだが」


――この男、事件との関係にきがついても奴を捕まえない気なのだろうか。


「じゃあわかりそうな事から考えるか、取り合えずあの場所なのは生き埋めにする為だろ?」

「ああ」


考えるまでもなく、答えはでている。


「じゃあ次はなぜ二人へ手紙を出したか、来ていないだけで他はいない?」

「来た奴を狙ったとかなのか?」


――それより何よりターゲットが見当たらないのが辛い。

私達の出会いは偶然にしてはあまりに出来すぎていた。


フライ屋を火事にしたのは灰ナメルの可能性がある。

となれば手紙を出した男と協力関係にあると見て間違いない。


「考えれば考えるほどわからん」


灰ナメルはいつ現れるのか、私はそれが気になっていた。


「やーい!泣き虫!」


悪ガキ共が集団でどんくさい奴をいじめている。


「お前なんか女の子とママゴトでもしてろよな!」


いじめられていた少年は悔しさから絵本を地面に投げ捨てて去った。


「やれやれ」


ラステルは絵本をひろった。


「眠りについた姫か……」


ラステルは寂しそうに呟いた。


「殺子ちゃーん」


オルティナが手をふって私へ駆け寄った。


「なに?」

「帰りましょ」


ターゲットは見つかっていないが、オルティナがわざわざ来たのだから良いのだろう。


「灰ナメルはいなかった」

「それなのですが実は、重大な秘密がわかりました」

「秘密?」

「灰ナメルは数年前に放火で世間を騒がせていました。最後に城を燃やして消えて以来、死んだのかと思われていましたがフライ屋の件で復活したのです」


やはりあの店に火を放ったのは灰ナメルという推測で間違いはなかったらしい。


「ですが、しかし……手口が今回と数年前で違うのですよ」

「些細なミスか、人は三年くらいで変化するものではない?」


取り合えず手口とをききくらべないと。


「まず灰ナメル姫は燃やした場所に歯形を着ける癖がありました」

「犬みたいね。その口ぶりだとフライ屋には歯形がないということ?」

「そうなんです!厳密には現場に白いペンキで歯形がかかれていたとか」


オルティナは興奮している。


「単に歯が弱ったとかじゃ?」

「もしかするとモホウ犯かもしれません」

「モホウ犯なのに歯形を着けない?」

「バレたらまずい職業とか」


――もしかして、警察側にヤバイやつが潜んでいる?


「大変だ!」


レッドブーツがテンパっている。


「なにがですか~?」

「今さっき、富裕層街で火事があったらしい」


フェニックスが代わりに説明した。


「フライ屋の次は貴族街か、どういう目的なんだろう?」


グエナはのんきにアラレをむさぼっていた。


「フライ屋はたんに油まみれで火が着け安いからじゃないか?」

「それはたしかに、だが昼間から警備のキツい貴族の住宅地を狙うのはギャンブラーすぎる」


たしかにスリルはあるだろう。


「てか貴族街って、ディテが視察中じゃなかったか?」

「あ~」


博士の言葉に頭が真っ白になる。


「いかなくちゃ」


もしも、燃やされた場所にあの方がいたら?


「待て、さすがに貴族街に行くなら着替えないとまずい」


私は急いで簡易ドレスに着替え、オルティナとレッドブーツを連れディテを探しにいく。


「もう火はおさまったいですね」


幸いにも火は消されていたので危険は減った。


「どこに……」

「うおっ!」


通行人とぶつかってレッドブーツに支えられた。


「大丈夫か?」

「うん」

「あー!お前はついさっきの!」


誰かと思えば、それはグレイであった。


「不良ぶってたけど貴族だったんだ」

「だいぶ前に没落したけどな」


だが生活には困っていないらしい。ラステルが援助しているのだろう。


「で、おまえらは……」

「あとではなす」


やつに構っている暇はなかった。


「手分けしましょう」

「ああ」


三手にわかれ、見当もつかない居場所を探す。豪奢で見たことがない町並みだ。

けれど私にはこの場所の既視感がある。前の私が来たのだろう。


「あの……」

「ああ、なんと美しいレディだろう」


絵本に出てくるようなきらびやかな雰囲気の青年が腕をつかむ。

見ているだけで眠くなるような柔らかな雰囲気がある。


「この娘に触れるな」


いきなり現れた仮面の男は青年へ手刀をくらわせを私を引き離した。


「なに君いきなり現れて、邪魔だなぁ……まあいいよ。またね黒薔薇のレディ」


薄緑髪の青年は一瞬、笑顔を崩したが直ぐに取り繕いこの場を立ち去った。


「貴方はだれ」

「……お前は知らなくていい」


私は不意をつき、仮面へ手を伸ばす。しかし手を掴まれてしまう。


「今でなくとも……いつか、私の正体を知る日が来るだろうな殺奇」

「なぜ私の名前を知っているの?」


なぜ仮面をつけて私の前に現れたのか、この男は誰なのだろうか―――


「大丈夫ですか殺子ちゃん!」

「うん」


気がつくと仮面男はいなくなっていた。


「ディテは?」

「会えなかった」

「……アンタ達、なんでいるんだい?」


この声は、間違いなく私たちが探していた者のそれだ。


「ディテ……」

「しっ往来で名前を出すんじゃないよ。ここではルーディエで通ってるんだから」


ディテは人差し指で口をふさいだ。


「それにしても、さっきの二人はなんだったんですか?」


オルティナに事情を説明すると、ニヤニヤされてしまった。


「色恋沙汰など仕事の邪魔、ディテが怒る」

「仮面の男、なんともロマンがあっていいじゃないか」


珍しくディテが微笑んでいる。私が仮面男に恋すると、どうして嬉しいのだろう?


「ただくれぐれも警察、カタギ男は好きになるんじゃないよ」

「仮面男がカタギだったらどうするんです~?」

「仮面してる時点でロクな身分じゃないさ」


私たちはアジトに帰ることにした。


「なあなあ、帰ったらあれやろうぜ」

「あれ?」

「サイコロふって上がるやつ」

「あ、まてよ!何なのか聞かせろよ!」


完全にグレイを忘れていた。


「火災があったと聞いて人を探していた」

「そうかよ……なあ、次いつ会えるんだ?」

「なんで?」


会う理由なんてないのに、なぜそんなことを聞く?


「そ、それは……」

「あ~殺子ちゃんに一目惚れしたんですか~?」

「フン、言ってる側からカタギ男かい」


――意味がわからない。うやむやになり、私達はアジトへ帰還した。


■■


「あのグレイという青年について調べました」

「ふん」

「数年前に狼とは別の城で起きた事件、その場には幼い彼が現場に居合わせたとか」

「ほう……それはおもしろい」


■■


「はい、白雪の君は一回休み」


ピュテバンは5マス進んでほくそ笑む。


「俺は6マス進む」


フェニックスが上がってしまった。


「残念だね、ダイスがゴールまでのマス数を越えたら戻るルールがあるんだよ」


グエナの出目はピッタリ、ゴールしてしまった。


「「うわああああ!!」」

「じゃ、勝者は軽めの願いを一つ」

「殺子ちゃんと女の子同士でデートしたい!」

「いや、お前男じゃん」

「じゃあ普通にデートね」


グエナと外出したが、他の暇人も尾行してくるので威圧感が半端じゃなかった。


「ちくしょー俺がやろって提案したばかりに!!」

「希代の悪人が揃いも揃って女の取り合いとは……」


グリウムは嘆くレッドブーツ達を冷静に傍観する。


「だって普通の子がそもそも殺子ちゃんか人魚姉しかいない!」

「あの博士は普通に人間だけど、普通の人間じゃないからな」


ゼルの叫びに同意し、頷くフェニックス。


「妖精さんなんて遠目から見るぶんには無害だけどショタしか興味ないしあの狂気感、君子危うきレベルだよ」


キャドルが爽やかな笑顔で言った。


「この組織は結構嫌いじゃないや」

「だな」

「それで、いつ奴の根城に行くんだ」

「今日はボスの表稼業の都合だったし、明日じゃない?」

「ボスの表稼業ってなんだろう?」

「そもそも裏組織のボスなのに表出られるのか?」

「いつも厚化粧だし、地味に変装してるんじゃね?」

「ありえる~」

「あははっ!」


レッドブーツとピューテバンが笑っていると、壁にタロットカードが突き刺さった。


「だれが厚化粧だって?」

「やべっ……」

「カードが壁に刺さるの初めて見たぜ」

「これ、鉄製じゃない?」

「このカードは吊るされた男か……」


――そのあと、全員が天井から吊るされ絞られるのだった。

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