sideエピソード:イカれた科学者は永久に孤独である
―――ひとつ、ふたつ、金属で作られたパーツを数えていく。
「もう少しで直るからね」
かつてはそれは、たしかに動いて話をしていたもの。
「あと一つだから」
それとの出会いと終わりは、今でも鮮明に記憶している。
『貴方、聞いてるの?』
物心ついたとき、自分は機械技術者の父と、その人型機械と暮らしていた。
『ああ……今は次の研究のデータをまとめているから話しかけないでくれ』
父は家庭を顧みない人でただ自分の目指すもの、生きた機械を造ろうとし続けた。
『貴方はいつもそればっかりね』
―――母親は出ていった。
『ねえお父さん、街でみかけたお母さん……知らない男の人といたよ』
父を恨みもしたが、同時に尊敬もした。自分も人間の生死に関する研究が好きだったから。
『さすがはドクター・ヴェリスの娘だ』
『シルヴィさんは未来の博士ね』
いつしか私は他人を思いやることを忘れた。
誰かを蹴落として自分というものを世に知らしめたい。
そうしている間に、周りは距離をおいていく。
寂しさをまぎらわせるために、ワタシは友達を造った。
――それが人型機械<アンドロイド>だった。
父の作業の見ようみまねであるが、自分が学んでいた生物学を応用した。
父には成しえなかった人に近い質感に言葉を話して行動するアンドロイド。
幼い私は最初にして最後のすばらしいものが作れた。
11の頃自分は誰より優れていた。
それを知って憤慨した父は、ワタシを家から追い出した。
親がなにを思ってワタシにアイと名をつけたか、疑いたくなる。
けれどワタシには友達がいる。家族なんて他人と変わらない。
技術をもったワタシの噂を聞いた技術者が、やってきた。
大人よりも優れていたワタシはすぐにとりたてられる。
それを妬む大人も少なくなかったが、ワタシはただこの新しい居場所で生き残ることを考えた。
――――いつからだったろう。
友達の姿がないことに、ワタシはしばらく気がつかなかった。
研究所内をくまなく調べて、薄い暗いスクラップ置き場で、ようやく友達の姿を見つけた。
電気を着けながら“そんなところに座って、どうしたの”
――――声をかけても、返事がない。
――腕が千切れて、配線コードがむき出しになっていたのだ。
死んだ友達<アンドロイド>。
驚くほど冷静に、細かなパーツをかきあつめた。
それからワタシは研究所のシステムを全て破壊してから出ていった。
―――60数年経つだろうか。
あれからアンドロイドをつくっていない。
―――最初で最後の友達だったよ。