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No.0 息の鼠(ね)を止めるまで終らない


―――ああ、ついに孵化するときがきた。


「お目覚めかしら」


―――彼の人は組織のボス、通称クイン・ディテニア。私が誕生するのを硝子越しにいつもみていた。


―――私は極悪非道の犯罪組織、メルヒエドの地下でもう一度この世に生を受けたのだ。


「ずっと貴女にあいたかったの」


殺し屋を始末する最強の殺戮者がほしいと願う彼女が作らせたのは、人間の母と妖精の母の遺伝子で創られたハーフ。


人間と妖精の間に生まれた子は希に気配と存在を気取らせないという。

彼女は殺しに特化した奇跡の存在たる私を殺奇(サツキ)と名付けた。


「まさか私を使うなんてボスはどうかしてるよね」

部屋へ入ってきたのは袖の長い白衣、眼鏡の金髪女性。

マッド博士のシルヴィ=亜衣。彼女は悪名を轟かせるマッドサイエンティスト。

そして私に遺伝子ベースをくれた人間と記憶している。

私の基礎となっているのは博士ともう一人。


「はあ……よりによってお前との子なんて最悪です~」

「それはこっちの台詞。機械なんだからいいじゃん」


博士に笑顔で毒を吐いたのはオルティナ・アイシテルシー。妖精族であり、私の妖精ベースだ。


ワタシは実態のない妖精側でも気配を持つ人間寄りでも失敗作とされる。

かつて失敗したものたちの残骸は肥料となり私の中にある。

だからクイン・ディテを覚えている。



「さっそくだけど、おまえに仕事をしてほしいのよ」


―――彼の人は自分の傘下にならない者、もしくは裏切った者、いつか厄介な芽となる者を消すという。

リストには14人いて、大組織とされるメルヒエドの上層部ですら仕損じる手練れだった。


それ等をすべてを消してしまいたいというので従うしかない。


―――お前は人間であり妖精でもあり、人間ではなく妖精でもない。


「いいね?」

「はい、クイン・ディテ」


彼の人は罪悪を感じることなど許さないと言った。


初めて言い渡された命令は5の魔女と呼ばれる殺し屋の女を殺すことだった。


「いいですか殺子ちゃ~ん」


オルティナからその女の経歴を嬉々として聞かされる。

どこかの国で誕生パーティーが開かれ、呼ばれなかった腹いせに姫を毒針で眠らせ、ある夫婦に庭を荒らされ腹いせに塔の上でその息子を監禁、またあるときは城を留守にしていた雪の女王と入れ替わり子に毒林檎を食べさせ殺害。

またあるときは服屋でドレスを盗み、家にやってきた兄妹を睡眠薬入りのお菓子で眠らせ監禁。


「まったくとんでもない悪党だね」


それは人体実験やらを日常的に繰り返す彼女が言える台詞ではないだろう。


「可哀想に」


地下の外へ出ると周りの人間たちは私を憐れんだ目でみた。


「あんな若い子にはまだ無理だろ……」


私はなんの感情もないし、人を殺せと言われた喜びも悲しみも怒りもない。

殺すことにおける社会的観念、そんなの知ったことではない。

生きているも死んでいるともわかる感覚がない。


「よくも母さんを殺したな!!」


昼間から魔女を探していると、路地で茶髪の少年がナイフを片手に黒皮ジャケットの男を刺した。


さしづめ罪人が善人を殺しその敵に罪人を殺すところ。


しかし、男は流血していない。ナイフがからりと落ちた。

そのまま子を手にかけることなく路地をあとにする。少年は悔しさからか壁を殴っていた。

少年は間近にいる私に気がつかないようで、ナイフを拾って走り去る。


ああ、どうでもいいと思うのは感情に部類されるだろうか?


魔女がいるのは森でお菓子の絵が描かれた食べられぬ家だという。

今頃は二人の兄妹たちが馬車馬のごとく働かされていることだろう。


森を抜けて家にたどりつくと、私は表のドアを蹴破った。

相手も殺し屋、それにここは森なのだ。

コソコソ隠れても相手が強かったらどちらにせよ死ぬ、ならば隠れて闇討ちする必要もない筈。


―――しかしここには兄妹どころか誰もいないようだ。

あたりには人がいなくなってかなり日がたっていた。


先に進むとなにかが落ちた音が奥の部屋の扉の向こうから聞こえる。

邪魔な扉を蹴り、道をあける。


ここには人が入った形跡があり、あたりを見渡すと向こう側に硝子が散らばっていた。

たまたま老朽化していたであろう壁掛けからランプが落ちた音だったとわかる。


そして近くにある大きな釜戸をみると、灰がくずれ落ちていた。

白い骨にまぶされて、人が焼かれていたのはまちがいない。

そしてすでに火が消えたそれは閉じる力をなくしたのか、誰かがそのままにしたのか開けられている。


兄妹の姿もないが、骨は一つなので二人は逃げたのだろう。

そして対象は既に何者かによって殺されており、これ以上ここにいてもしかたがないと判断できる。


この骨が魔女のものだという証拠はホコリまみれの床だ。

家主が裏口から自宅に入るわけがないからだ。

そしてこのリビングは釜戸に魔女をぶちこんだ誰かつい先ほどまでいたことを示している。


―――とすれば、ランプを落としたのは意図的だったのか?


――――私はメルヒエドへ帰還し、今回の件を報告した。


「……そう、また明日別の任務を頼むわ」


彼の人は何かを考えているが私からすれば誰が魔女を殺したかなどどうでもよかった。


「貴女は狙われたのかも。明日はくれぐれも次の対象だけでなく周りを見てちょうだい」


対象が事故で死んだだけなら手間が省けたと考えられるが、それをやった者がいる場合において私の存在に気がついてしまうのは問題があるそうだ。


―――私は言われた通り自室で眠ることにした。

窓から人の気配がするので、飛び降りて外へでた。

相手がなんであれ無視はできず。そして敵ならば殺さねばならない。


「女か……」


暗くて姿はよく見えないが、声からしてそれは男。

大方私が生まれたことを嗅ぎ付け、調べに来た者。


「お前さんに個人的な恨みはないが、まあ死んでくれ」


――男は左手で銃をとりだして至近距離まで近づいた。

撃つのか、いや、違う。こんな組織の近くで発砲すれば間違いなく男は包囲されるのだから。

私は右の拳を左手で掴むと向かって右の脇腹を蹴りとばす。


「ちっ……」


雇い主の敵対組織に都合の悪い存在であると判断

したのか相手からは沸き立つ殺意を感じる。


「よくわかったな」


さっきの男は発砲するとみせかけ、右の拳を腹部めがけて叩き込もうとしていた。


「……おいおい、どうしたよ。だんまりか?」


男は軽く咳き込み脇腹をおさえながら私を挑発する。


「……お前は何者?」


この男を殺すことは命令されていない。

よって今のは仕事の範囲外にあたることなのだ。

ただし命令されていないのに男を追いかけたことは自分の判断である。

命令されてはいないが刷り込まれた歴代のワタシ達の記憶がある為、情況確認をする必要性を一から説明されない決められないわけではない。


「敵っていったら殺されんだろ?そんなのさっさと帰るにきまってる」


男はこれ以上の抵抗をやめる。そして―――――


「おまえたち、追え!!」


オルティナの指揮で幹部等が逃走する男を追跡した。


「いいこ、いいこ」


クイン・ディテが私の頭を撫でた。


「なぜですか?」


どうしてそんなことをしたのか、わからない。


「敵を弱らせてくれたからよ」


敵を負傷させるのは当たり前、なのにどうしてそんな簡単な事で喜ぶ?


「ですが敵を殺していません」

「今回はそれでいいの、敵が複数なら一人生かしたら他は始末してもいいけど、居場所を探るには生かして泳がせるからね」


“さあさ、今度こそお休みなさい”


――その言葉の通り、目を閉じて眠る真似事をした。

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