階層外 お茶会In冒険者ギルド
邪悪なおじいちゃん…………冒険者ギルドに併設される食堂の一角に居座る年配の男性。周りの人には認識できず、アキラにしか見えない。邪悪なオーラが常に身体から駄々洩れな状態でヤバい。
この日僕はギルドの食堂にいた。
うん。いつものことだね。僕はだいたい食堂の席の一角を確保してるから。
ギルドの中も、そんないつもの僕と同じく平常運転だ。
どこもかしこも、わいわいがやがや賑々(にぎにぎ)しい。今日の迷宮内の天気や様子はどうだったとか、どこどこのボスモンスが復活してるとか、どこかのチームが潜行前に小規模な壮行会してたり、帰ってきたチームが反省会をしてたりと、そんな真面目なお話をしている人たちがいるその一方で。
ソファの上でお昼寝に興じる尻尾族さん。
鏡の前でたてがみや爪をかっこよく整える獣頭族さん。
倒したモンスの毛皮を一生懸命補修している怪着族さん。
などなど。そんなのどこでもできるじゃろって言いたくなることを、わざわざギルドでやってる奇特な方々もいらっしゃる。
受付では受付嬢たちがキャラクター性濃い目の冒険者の応対に四苦八苦していて、相変わらず大変だなぁと思う次第だ。みんなあれをきちんと捌き切るんだからマジ対人スキルとか半端ないよね。コールセンターのオペレーター並みにストレスマッハだろうに、発狂せず精神を保てているのはどういう精神修養をこなしてきたのか僕にも是非是非教えて欲しいくらいだ。
……他方、食堂に目を向けると、やっぱり軽度の地獄が展開されていた。
お料理のお味に悶絶する人々、混乱の魔法でもかけられたようにお目目ぐるぐるしている人々などなど。あの界隈はいつもバラエティーに事欠かない。
それもそのはず、ここはひと手間加えるという名目で、魔改造されたお食事の数々を提供している魔境なのだ。料理下手な人がやってしまう、レシピに従わないうえ、色気を出してアレンジしようとするというよくあるアレみたいなもんだ。こちらとしてはシンプルな味付けで出して欲しいと思うけど、きっとその要望は通らないんだなと、心はすでに諦めの境地に達している。
『鋼パンと酸性スープのセット』
『水没都市盛り合わせフライ定食』
『一角鹿のスティンガー風タルタル』
「うげー」
やっぱ今日もダメそうだ。鋼パンと酸性スープはなんとなく意味わかるけど、ワンチャン工業系の可能性が拭い切れないし、フライ定食なんて『盛り合わせ』って名詞がフライじゃなくて水没都市の方にかかってるから、マジ何が出てくるかわからない。きっと水槽みたいな味がするよそうに決まってる。あと、一角鹿のタルタルは名前的に恐怖しか感じないよ。スティンガーって字面の雰囲気はかっこいいけど、意味は結局のところ毒針だ。次点で嫌味や痛烈ってスラングだけど、それでもどうしたってネガティブなイメージが離れない。フルチャンで当たりそうだ。フグや生レバーを食べてきた日本人が言うなって? それに関してはごもっともと言うしかない。僕は食べたことないけどさ。
そんで今日は、そんなヤベー食いモンや精神的に危ない食いモンを食べるわけでもなく、僕が現代日本から持ち込んだものを広げている。
おまんじゅう。大福。羊羹。おせんべい。おかきにおはぎ。もちろんポットと急須を用意して、緑茶なども完備済み。お茶会の準備はすでに万端だと言っていい。
んで、そのお茶会のお相手は、いつぞやのギルドに巣食うヤベー邪悪なおじいちゃんである。
いやー、うん。いつ見てもヤバいよね。
「悪かったの」
「なっ!? どうして僕の考えたことがわかるんですか!?」
「……お主それいつもやってるじゃろ? そろそろ他のアプローチを考えないと飽きられるぞ?」
「うーん。新しいノリって開発するの難しいんですよねー」
なんてしょうもないことをお饅頭食べながら話しつつ、だ。
ギルドの邪悪なおじいちゃん。見た目は人間の頭部としゃれこうべが挿げ替わってんかって思っちゃうくらいには、強烈な感じだ。もちろんイメージなだけでガチのガイコツってわけじゃないんだけど、まあ見てくれはやっぱり怖いよね。ホラゲーに出て来てもおかしくないくらいには、おじいちゃんでジャンプスケアがありそう。突然背後に立たれたり、急に出て来られたりしたらショックで心臓麻痺する自信がある。循環器系に直接攻撃されるのが一番怖いよ。防ぎようないもん。
体格の方は小柄で、背もそこまで高くない。恰好は中国の長袍や日本の長着みたいな服に、異世界色強めの着色を施した衣装で、携行品なのか大きめ杖がテーブルに立て掛けられている。にじみ出る邪悪エネルギーも特徴だよね。正直なところこの邪悪エネルギーって奴も僕の主観であるだけで、マジで邪悪かどうかは厳密に言うとわかんないんだけど、でも悪の波動ではあるっぽいんだけどね。世の中不思議なことでいっぱいだよ。
「ひどいの。本人を目の前にしてズケズケと邪悪などと」
「それは仕方ないでしょ。実際それっぽいのにじみ出てるんだしさ。で、お菓子どうです?」
僕はおじいちゃんの苦言を厚かましくもスルーして、お菓子の感想を求める。
「どれもうまいぞ。甘いものだけでなく、しょっぱい味付けのものもあるからの。飽きずに済む」
「それは良かった」
僕が持ってきたお菓子は好評そうだ。もちろん洋菓子も用意はしてるんだけど、好みがわからないから甘さが穏やかな和菓子で発進したわけだ。
「そうだ。おじいちゃん、甘じょっぱいのってイケるクチ?」
「あまり甘すぎるのは苦手じゃな。さっきの豆の餡が入ったものくらいがちょうどいい」
「そっかそっか、これとかどう? 神さまのお墨付き、志摩田屋さんのみたらし団子」
「ほお? こってりしているが、しつこくないな。うまい」
とまあこんな感じで、食堂でひっそり和菓子パーティーをやっているわけだ。
「で、おじいちゃん実際にそこんとこどうなの? やっぱ邪悪なの? 存在的に」
「逆に訊くが、邪悪だったらこんな安穏としていると思うか?」
「この前恨みとか妬み嫉み吸ってるとか言っといてそれ? 説得力説得力ぅ」
「ほほぅ? 少し前に、ここで邪悪な所業をしたお主に言われとうはないな」
少し前ということはあれだ。アリスさんを虫地獄に落としたアレだろう。
「あー、あれ見てたんだ。いやー、相手が相手だからね……怪我なく被害なく済ませるにはどーしても仕方ないっていうか」
「冒険者的に正々堂々正面から戦うとかはないのかの?」
「そしたらどっちか大怪我するとか、最悪死んじゃうかもだしねー。それにギルドでやると被害甚大でしょそもそも。その辺は最初の戦いで懲りました」
「なんじゃ。もうあの子と正面から戦っていたのか」
「ええまあ。お互い第五位格級ぶつけ合って【大烈風の荒野】の地形が変わりました。あ、これオフレコでお願いしますね」
「なるほど。引き分けたというわけか。お主もとぼけた顔をしてようやるわ」
そうそう。あんなの人間相手に使うようなもんじゃないよ。巨大怪獣にダメージ与えるときに使うようなものだ。
「あとおじいちゃん、あの子って言ってたけど、アリスさんと知り合いなんです?」
「まあの。だが、儂がここにいることは言わんでどいてくれよ?」
「そうなんです? 顔を合わせづらいとかですか?」
「そんなところじゃの」
ニュアンス的にネガティブな感じじゃないから、敵対してるっぽくはない。ほんとに顔合わせづらいってだけそうだ。おじいちゃんから一方的にって注釈付きそうだけど。
「うむ。敵対というかむしろ近い側っぽい気がする発言」
「当たらずとも遠からずじゃな」
「そういうこと言う人に限って、遠からずの部分がまったく関係ないんですよね」
「カカカカカカ」
出た出た。おじいちゃんの邪悪な誤魔化し笑い。見た人にダイレクトに影響が出るんじゃないかってくらいには、悪そうな感じがするよ。精神面でも健康面でも。僕もちょっとSAN値に来てるなって感じるし。
まあ、おじいちゃん他の人には見えないみたいだし、僕も今回おじいちゃんと一緒にいると認識されなくなるようしてもらってるみたいだし、周囲への影響って点では大丈夫だろうけど。おそらくたぶんできっとだけどな。
「まあ、わしから言うのもなんじゃが、仲良くしてやってくれ」
「僕はそのつもりではあるんだけどねー」
突発的に戦いを吹っ掛けられるとホント困るよ。そこだけ直してもらえれば大丈夫なんだけどね。あとは僕が十分口に気を付ければいいだけだ。
「そういえばおじいちゃんって、いつからここにいるの?」
「わしか? わしは七十年くらい前からここに座っているぞ」
「それお尻とか痛くならない? 座りっぱなしだと腰も壊すよ?」
「そんなにやわじゃないわい。というか急に常識ぶっこんでくるのなお主な」
「そこはまあこれでも常識人を自負してるので」
僕が自信満々に胸を叩くと、おじいちゃんはいかにも胡散臭いという目で僕を見つめる。
「そういう奴に限って、常識とかぶっ飛んでるんじゃよな。そういえばわしの部下にも、しれっとした顔でそんなこと言うサイコな奴がおったの」
ひどい言われようである。僕はサイコじゃないのに。
「じゃあ、おじいちゃんここに来たのは、冒険者ギルドができてすぐとか?」
「そうなるかの。わしがここで一番の古株じゃな。他はみんな死んどるし」
「冒険者じゃないのに古株とかこれいかに」
ともあれ。
「じゃあその前はなにしてたの?」
「ここに来る前は百年くらいド・メルタを放浪していての」
「話の腰を折って申し訳ないんだけど、さりげなく人外発言したよねいまね」
「もとからわかっておったろう?」
「そりゃ確かにそうだけどさ。こうなる前は一応人間だったとか、ヤバいのに影響されてうんたらとか、そういったものはなかったの?」
「ないな」
「ないんですね。そうなんですね」
「そりゃもとからこんなのに決まっておろう? 人間他種族からこんなのになれると思うか?」
「まーそうなんですけど」
おじいちゃん、完全に人外だものね。ぬらりひょんって名称がぴったりなくらいにはそんな感じだしさ。
「じゃあ世界中歩き回ったってこと?」
「そうじゃの。ここで境界が繋がり始める前じゃったから随分長い旅をしたと思うの」
「ほえー」
それはすごい。
そんな話をしていると、大きな身体の持ち主がのっしのっしと歩いてくる。
もちろんその人も、僕たちのことは認識していないご様子だ。
「ライオン丸先輩だ」
「おお。あの獅子王種の獣頭族は知り合いか? あいつは好きじゃぞ? ムカつくヤツを殺してくれたからな。カカカカカカカカカ」
「……おじいちゃん、その顔で言うとものすごく怖い。邪悪度三割は増してるよ。っていうかライオン丸先輩がおじいちゃんのムカつく奴殺したって、どういうことなの」
「ま、いろいろとあるのよ。正確に言うととどめを刺したのはあ奴じゃないらしいがな」
「はあ」
なんかいろいろ、すごい話に詳しいのかもしれない。巻き込まれるのはご勘弁だから、あまり聞かないようにはするけどさ。
「おじいちゃん、迷宮に潜ったことってある?」
「あるぞ。主要そうなところを一通りじゃがな」
「あるんだ」
「うむ。お主らが怖い怖いと言って嫌がる【死人ののさばる地下墓地】やあの【滅びた地下都市】にもな」
その言葉だけでおじいちゃん激強だってことがよくわかるよ。一人であんなとこは入れるのヤバすぎか。
「うへー。ちな【地下墓地】はどんなとこなの?」
「まあお主が嫌がりそうな魔物が目一杯出てくるのは確かじゃの」
「テンションダダ下がりでーす。お疲れさまでした」
「……お主やる気失くしすぎじゃろ?」
「だってそんなこと聞いたらさー。嫌だっていうかー。どうせゾンビとかグールとかスケルトンとかそんなの出てくるんでしょ?」
「骨は……少ないのぉ。『屍人』とそれらの集合体である『屍人柱』、『俳人廃人』に『井戸底の怪魔』……」
「うげー。やべー名前のモンスばっかりじゃん」
「あとは最奥にいると言う……まあ、そっちは自分の目で確かめてみることじゃの。そういうのも楽しみの一つじゃな」
「そもそもそういった階層は面白いこととか全滅してそうなんだけどなぁ。あと、【地下都市】のアレってなんなんです?」
「ほう? お主も行ったことがあるのか?」
「先輩が嫌がる僕を(以下略)」
「ついて来れなくはないとは思うが、それでもちょっと無茶させ過ぎとはわしも思うの」
わかってくれるか。おじいちゃんもなんだかんだ常識人っぽい。
「で、おじいちゃんはアレが何か知ってるの?」
「知ってはいるが……そっちはわしの口からは言えんの。どうしても聞きたいというなら、この世の深淵に踏み込むことを覚悟することじゃ。カカカカカカカ」
「あ、了解です。僕聞かなかったことにしますねー」
僕は耳を塞いで背を向けた。
「……決断が早いというか、なんというか」
「こういうの、長生きの秘訣ってやつです(キリッ!)」
「わしを前にして言える歳でもなかろうに」
それはそうなんだけどね。
「で、やっぱマジで深淵なんです?」
「あー、深淵はちょっと違うかの。ヤバいことには変わりないんじゃが」
うわぁ。先輩でも全部は倒し切れにないみたいだし、やっぱヤバいんだろうなーあれ。
「ひとつになろう。ひとつになろう」
「そうじゃ。行くならお主も取り込まれぬよう気を付けるがいい。あとデカいのだけではなくて、ちっさいのもおるからの、気には留めておけ」
「あ、重要情報マジありがとです」
さりげなくとんでもないことを教えてくれたおじいちゃんに、僕はマジ感謝の意を示す。主にお高めの和菓子を取り出してだ。「これはいいの」と言って満足げ。きんつばも気に入ってくれたっぽい。
つまり、あれが出てくるのはあそこだけじゃないってことだ。これは気を付けておかなければ。
「にしても、今日は聞いてばっかりじゃの」
「だっておじいちゃん僕の知らない情報いっぱい知ってるしさ。ちょっと聞いたらいろいろ気になるワードも出てくるし。お話聞きたくもなるよ」
「お主には、なにか話はないのか?」
「僕の? そんに面白い話はないけどなぁ」
「そんなこと言っていろいろな魔物を倒しておるのじゃろ?」
「あはは……倒させられてるっていうのが正しいかも。でもボスモンスはそこまで倒してないんだよね」
「ほう? 具体的には?」
「倒してないのが、えーっと……黄壁遺構の『狩猟蜥蜴』でしょ。【水没都市】の『鯰大五郎』でしょ。あとは【石窟】に【街】に【無限城】に【荒野】に【採掘場】……」
「だいぶ残してあるの」
「特に低深度の階層がね」
「そっちは仕方あるまい。想像している以上に奥に行かなければならんからの」
「【無限城】とかボスよりも階層の方が手ごわくて」
「そうじゃの。ミヒャエリンデの遺物は厄介なものばかりじゃて」
「あー、あれねあれ。じゃあ路地裏と似たようなものなんだ」
「なんじゃお主、路地裏にもちょっかい出してるのか?」
「いやー、だいぶ前にちょっとですね。えへへ」
「無害そうな顔をして、裏ではギルドの方針に逆らっているのか。お主もワルよのぉ」
「どこぞの悪代官みたいな物言いすっごく似合うねおじいちゃん」
下衆笑いをしながら顔を寄せてくるおじいちゃん。これで恰幅がよかったらマジ悪代官だったよ。やっぱりおじいちゃんはノリがいい。
「倒したとかはそこまで面白い話はないかな。最近は『人馬の射手』に追っかけられてひどい目に遭ったとかあるけど」
「さすがに魔法使いにアレの相手は厳しいじゃろうな」
「ほんとほんと。でもそのうち倒さなきゃいけないだろうから、倒し方はいろいろ考えないといけないと思ってるんだ」
「じゃのー」
耳を塞いでいたいけど、仕方ない。師匠がやれって言いそうなんだもの。ぜったい。うげぇ。やっぱ奥の手を使うしかないのだろうか。いやだなぁ。
「あ、倒し方って言えばそうだ。ねえねえ、おじいちゃん【屎泥の沼田場】にいる『溶解屍獣』の弱点って知ってます?」
「ほう? 知りたいのか?」
「あいつも前に何度か独力で倒しはしたんだけど、まだちょっと何回か倒さないといけないから、簡単な倒し方を知りたくて。ほら、おじいちゃんもモンスターみたいだし何か知ってるでしょきっと」
「最近の若いモンはひどいな。人を魔物扱いとは」
「ちょっとさっき自分で人間じゃないとか言ってた人がいまさら何言ってるのさ?」
「ああ、今度はわしを痴呆老人扱いか……くっ、悲しくて涙が」
「出てない出てない。眉間を摘まんで泣いてるふりしないで。おじいちゃんから漏れ出てくるのは邪悪なオーラだけだから。……というか知ってるの?」
僕が再度訊ねると、おじいちゃんは泣き真似をやめた。
「やれやれせっかちじゃのう」
「僕も結構ノリがいい方だと思うんだけどなぁ」
などと話しつつ。
「さて、『溶解屍獣』か。人間は基本赤の魔術で倒すの。あとは珍しいところで、緑の魔術で毒霧を吹き散らし、青の魔術で作り出した大量の水で毒沼を薄めて、本体を暴露させ、戦士が頭を壊してしまうというのもあるな。手間すぎて後者は実用性が低いが。お主はあれをどう倒している?」
「基本同じかな? 魔術で雷撃ち出して、周りのものをゴリ押しでぶっ飛ばしてから、ちまちま身体を削って倒す感じ」
「雷……そうか。お主は主上の使徒なのか」
「僕、使徒って聞くと名前の最後にエルとかって付く巨大怪獣を思い出しちゃうなあ」
フィールド張ってる奴ね。あんな風にはなりたくないけど、フィールドには興味ある。
「主上……そう呼ぶってことは、おじいちゃんもなんか関わり合いに?」
「うむ。ちとな」
「あ、でも神様って何かない限り降りてかないって言ってたよ? 結構重大な用事でもあったとか?」
「その辺はの、話せば長くなるしいろいろある。まあ、端的に言うとこの世にはわしみたいな連中が結構いてな。それでわしらは、人間他種族と違って、主上や方々たちの管轄がごちゃごちゃになっとるから、秩序がないのじゃよ。それで、主上からうまくまとめてくれと言われたのじゃ」
「ほえ、そんな大変そうなお仕事してたんだ。王様みたいな奴です?」
「そんなところじゃ」
そっか、おじいちゃんやっぱ大妖怪の類だったんだ。こわー。
「で、おじいちゃんがずっと治めていたと」
「そうだったんじゃあがの、わしのやり方に反対する連中との争いの末、結局その使命を放り出すような形になってしまっての」
「あー、それが例の放浪の件に繋がるんだ」
「まあの。だからいまさら合わせる顔がなくてな」
「でも神様なら。無理だったら仕方ないよって言ってくれるんじゃない?」
「だからこそじゃよ……ずっと目をかけていただいたにもかかわらず、長いこと働いてくれたからゆっくり休んで自由にしててくれと言われて、恩返しができたのかどうか……」
おじいちゃんがすっごい哀愁に満ちた息を吐く。
これなんか壮大なストーリーありそうだ。短いお話の中に万感がこもってるもの。二時間ドラマとか映画クラスじゃなくて、大河級のなんやかんやがあるよ絶対。
「ちなみにおじいちゃんってどのくらいそのお仕事してたの?」
「かれこれ300年くらいかのぉ……」
おじいちゃんはそう言うと、物思いにふけるように天を仰ぐ。
「わーお。定年40回迎えてお釣り返ってくるじゃん。お疲れさまってレベルじゃないよそれ」
おじいちゃん真面目過ぎだわ。こりゃ日がな一日ここでのんびり過ごして欲しいよ。
「話が逸れたの」
「そっちの話もだいぶ興味あるけど……で、倒し方についてはどうなの?」
「アレを簡単に倒せないのは、周囲にある毒の霧と毒の沼のせいじゃ。要はそれがあるから、戦士たちは近付けないし、距離を取らねばならぬから魔法も減衰してしまう」
「じゃあ貫通できれば、それをどうにかしなくてもいいってこと? 毒の効果の届かない遠くから、ドカーンってやっちゃえばいいとか?」
「有り体に言えばの。毒気が強くて近付くのは至難じゃが、結局毒の沼や霧には防御力はないのじゃからな。目くらましよ。それこそ本体を撃破できる打撃力と、正確な狙いと、遠距離でも減衰しない攻撃を放てれば、倒すことは容易いだろうて」
うーん。力ずくここに極まれりだ。やっぱ本体を露出される行動自体が、簡単に倒す方法に分類されるのかもね。
「つまり、手間がかかってるのは毒を全部取り払って倒すのに固執してるってことなんだ」
「そうしなければまともに戦えないということもあるが……要は本質を見極めることじゃ。あとはずる賢さよ。そっちはお主の得意分野だと思うがの」
「ずる賢いとか言葉が悪いって。まあ、楽して倒すやり方を考えるっていうのは絶対正義だと思うけどさ」
「何ごともそれよ。如何に楽に倒すか。それこそが強さに繋がるのだ。要は考えることを止めぬことじゃな……ああいや、考え過ぎも良くないからの。そこは気を付けてじゃな」
「その辺考えすぎはやめとけって師匠にも言われたけど、やっぱりそうなんです?」
「魔物の本質にかかわることじゃな。その内知ることになるだろうし、あえてわしの口からいうことでもあるまい」
「その内知ることになるんなら、いま言ってもいいのでは……?」
そんなツッコミを入れたけどおじいちゃんはいつものように「カカカカカカ」と不気味に笑うだけだ。さっきも話したけど、なんでもかんでも聞くばっかなのはよくないし、僕もどっかの攻略本に倣って、これも自分の目で確かめるべきだろう。
「どうじゃ? お主にはできそうかの?」
「うーん」
「難しいか?」
「火力がね。雷をもっと集束することができれば良いんだろうけど。結構難しいかなぁ」
「ほう? お主ならば火力を出せると思うが?」
「第五位格級を使えば何とかなるかもしれないけど。それだとやっぱ魔力効率がね。過剰すぎるっていうかさ。もし核石とかぶち壊しにしちゃ本末転倒だし」
「確かにの。カカカカカ。なら新しく魔術の奥義でも開発するか?」
「『複写展開』とか、『二重詠唱』みたいなやつ?」
「そうじゃの、弛まず精進することじゃ。まあ、すでに第五位格級を使えるお主にその辺の強い弱いを論じても意味はないのかもしれんがの」
「いやー、僕的にはまだまだ足りないかなって。えへへ」
「どん欲なことじゃ。いまも昔もそれくらい使えれば、英雄と称えられるじゃろうに」
「英雄かぁ。僕には合わないかなぁ」
「自分はそうではないと?」
「だって英雄っていうのは誰からも請われる正義の味方のことを言うんだよ? 清く正しく、そして何が何でも必ず勝つのが英雄なんだ。僕は不真面目な子だから違うかな。いやだーとか、やりたくないー、めんどくさいーがデフォだし。あと、僕にヒーロー論語らせたら長いよ?」
「は、正義の味方などげっぷが出るわい」
「だよねぇ。おじいちゃんはどっちかっていうと見てくれそっち側の存在っぽいし」
でも悪いことはしてないっぽいんだよね。アメイシスのおじさんに頼み事されるくらいだしさ。
そんでその後は、おじいちゃんと残りのお菓子を食べながら世間話をして解散した。
何事も平和が一番である。まる。




