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第32階層 階層によっては救助作業も一苦労でして……そのよん



 ヤベー怪物のいるルートを通らなければならないということがわかり、僕のテンションは一気に下がってしまった。それはもう金融危機並みの大暴落だ。ブラックマンデー、リーマンショックも目じゃないぜってくらいの下降っぷり。ビッ〇コインやFXなどに手を出そうものなら、その末路は推して知るべしである。溶かした顔になること請け合いだ。



 だってその怪物というのがこの階層の紛うことなきボスモンス『溶解屍獣(ポイズンキマイラゾンビ)』なのだ。僕的には以前師匠に強制連行されてお久しぶりでこんにちはな相手だけど、正直戦うのがすごく大変なので、このまま帰還したいなと思う所存。先ほども言った通りルート上にいるためスルーはできないのだ。かなしみ。



 ちなみにそれにあたっての会議はどんな感じだったかと言うと。



「さて、どうする?」


「救助するにはやっぱり戦うしかなさそうねぇ」


「そうだな。ハーゲント氏はどう思う? 戦うか? 帰還するか?」


「戦力は十二分にあると考えている。あとは個々のメンバーの意向次第だ」


「こんなところまで来て引き返すなんて選択肢、ないよねー」


「そうそう! 当たって砕けるくらいの気持ちでいかなきゃ」


「ちょっと君たちそんな無責任な発言しないで!」


「俺たちぶらすとふぁいやーの意志は一つだ」


「どんな敵でも焼き尽くす! それのみ!」



 ともあれ抜粋した会話を明記しておいた。概ねこんな感じで進行したね。結論はどうなったって? 結局撃破して救助しに行くことになった。みんな慎重っていう言葉をどこかに置いてきてしまったのかなと心配したけど、まあ超火力を持ってる『ぶらすとふぁいやー』の面々もいるし大丈夫だと判断したんだと思われ。


 ルート変更やチーム分け、その他もろもろは年長者さんたちにお任せして、僕は他の冒険者たちのケアに回った。と言っても、お菓子とかお飲み物とかをおすそ分けしただけなんだけど。


 念のため、こちらの世界ではヤベー劇薬に変貌するリ〇ビタンDとかいう指定医薬部外品を配っておいた。



「これは筋肉が喜ぶな」


「うむ。疲れた筋肉に物凄く効きそう」



 ファイト一発とか言い出しそうな暑苦しい方々がそんなことを言っている一方で、僕に文句を言う人たちもいた。



「アキラくん! どうしてアタシたちにはそれくれないの!?」


「そうだよ! 不公平だよ!」


「俺たちももらってないぞ!」


「そうやって区別するのはエレガントではない!」



 僕の周りでギャアギャア騒いでいるのは双子ちゃんたち、そしてぶらすとふぁいやーの面々だ。指定医薬部外品は数に限りがあるという理由を付けて、彼女たちには配らなかった。特に双子ちゃんの方はクディットくんの胃に負担をかけてしまうことになりかねないので、絶対に引き渡せない。あげるとしても本気で疲れたとき限定だろう。



「ダメダメ。あげるあげないは僕が判断します」


「どうしてー!?」


「ずるいずるい! 飲んでみたいー!」


「二人とも元気でしょ? これ以上元気になってもしょうがないってば」



 これはマジで仕方ない。制御が大変な面々がこれ以上元気になったら、それこそ暴走してしまう。ここは涙を飲んで諦めてもらう他ない。ていうか双子ちゃんほんと元気。こんなところ冒険しててこれとはほんとにすごい尊敬できる。体力マジで無尽蔵か。



 そしてチーム分けだけど、こちらは特に問題が起こることはなかった。

 まあリーダーがベテランさんなので、その辺り文句が出ることはないからね。

 バランスよく半分に分けた形だ。


 ハーゲントさんやエリーナさんが探索組なのはもちろん。『果てなき輝き』同メンバーの他の二人はお留守番の居残り組。一方で『ユルい集い』はリーダーの黒狼さんを筆頭に、そのチームメンバー全員が居残り組。


 『秘水の加護』の双子ちゃんたちはどちらも青の魔法使いなのでどちらも参加。

 リーダーのクディットくんは制止役であるため探索組に付き添いだ。これはもはや介護のようではないか。


 『ぶらすとふぁいやー』のメンバーはほとんどが探索組に分けられた形だ。火を見せなきゃ暴走しないから大丈夫。赤いもの見ると興奮するとか牛かな?



 僕? 僕は強制的に探索組だ。なんでもルート割り出しや緊急事態が起こったときのために居てもらわないと困るらしい。まあ、迷宮に入ると誰か彼か救助してるからそのせいだろう。それにこの前、救急救命士の訓練受けたし。AEDだって使い方ばっちりよ。なんたって素手でおんなじことできるもの僕。死にかけだって任せなさい。



 ともあれ、スクレールが胡乱げな視線でメンバーを見る。



「メンバーが偏った」


「そう? 僕はバランスいいと思うけど?」


「能力面じゃなくてキャラクター性。探索組が特に濃厚。近年まれに見る濃さ」


「……うん、それは確かにそうだね。言う通りかも」



 スクレールのぐうの音も出ない指摘に、僕も頷く。

 すると、彼女は僕に胡乱げなジト目を向けてきた。



「なんかやけに他人事だけど」


「え? 他人事って、僕はそんな濃くないよ? 性格も控えめだしさ」



 そう言うと、スクレールがさらに目をジトっとさせる。「何言ってんだコイツ」みたいな感じ。心外だ。僕は聞き分けもいいし暴走することもない。そんな目を向けられるのは甚だ遺憾であることをここに明記しておきたい。

 まあ、ブレーキがしっかりしてないとミサイルになるのは、避けられないことだ。そうなったら必ず誰かに向かって飛んでいって被害を出すのが世の常である。特に道路ではプ〇ウスとかいうミサイルがよく被害車を打ち落とすというけれど。そういうの減ってくれと切に願う次第である。



 ともあれ、今回は久しぶりの大仕事になりそうだ。



「やだなぁ……」



 もちろん、ため息は禁じ得なかったけど。




     ●




 ――遭難者の救助作戦が、まさかまさかの巨大怪獣戦になりましたとさ。



 一言で表すと、どデカい首だけのゾンビーなドラゴンだ。ところどころが蕩けてて、色んなものがこぼれてて、やたらとグロい。気持ち悪い。そのうえ嬉しくないポロリだらけと言う有様。まあそれだけだったら何とかなるけど、周りに毒沼や毒霧を発生させるから手に負えない。唯一の救いは、動きが遅いから逃げようと思えば逃げることができるというところだろう。今日みたいに進行方向に陣取られていると撃破するしか手立てがないのがとてもお辛いところなのだけれど。



 ほんと嫌だね戦うの。怪獣なんてこんなの戦隊ヒーローにまかせるべきものだと思うんだけど、この世界にそれを専門にやっつけてくれるヒーローはいない。僕の世界からその手のプロフェッショナルであるヒロちゃんを連れて来るべきだろう。いまからそれをやるのはちょっと難しいけど。



 ともあれ、現在の状況を一言で表すと、わちゃわちゃしている、だ。『溶解屍獣(ポイズンキマイラゾンビ)』を倒すために、みんなみんな大忙しである。


 いろんなところから飛び交う叫び声。



「大火力はまだ待て! 燃えたあとに出る煙でやられるぞ! おいそこ! 詠唱するな!」



 指示を飛ばして使う魔法を制限したり。



「目だ! 射手は目を狙え! とろけてても効果はあるぞ! たぶん!」



 弱点っぽそうなところを指示したり。



「ラーダ! こっちの地面隆起させて! 毒沼のポイズン的な水が流れてきそう!」


「前の防壁が崩れた! ラーダこっちも頼む!」


「ラーダさーん! こっちからも攻めるから盾をよろしくー!」


「待って待って忙しい忙しい忙しすぎるー!」



 黄の魔法使いであるラーダさんなんかは、防壁作りで泡を食うほど。目をぐるぐる回してる。大変そう。

 ともあれ進軍の仕方と言えば盾を作って前に進み、また盾を作って前に進みという地道な作業となる。まるで塹壕戦をしている歩兵とか、戦車を盾にして進軍している歩兵みたいな感じ。もうみんなてんやわんやの状態だ。



 そんなことを繰り返していると、誰かの魔法で毒沼の一部がなくなった。



「やった! 開通したぞ!」


「手をぶっ飛ばせ! あれがなくなるだけでだいぶ違う!」


「みんな、行くわよー。元気な子は付いてきてねー」



 毒霧と毒沼が消失した部分を、エリーナさんを先頭にして物凄い勢いで駆けて行く。

 僕は僕で『みんなこんな風にこいつ狩ってるんだなぁ』としみじみ思いながら、魔法で毒霧や毒沼を吹っ飛ばす作業に従事している。ここにいる人たちのほとんどは僕のこと知ってるから、紫の魔法も遠慮なく使いまくりだ。前衛がとばっちりを受けない程度には気合を入れて攻撃している。そうしないとマジで倒せないしコイツ。



 そんな中、手を斬り付けたり殴り飛ばしたりしていた前衛の一団が、一目散に退避してくる。また毒霧が復活したのだ。こいつとの戦いはずっとこれの繰り返しだ。完全に体力勝負の消耗戦。ほんと面倒なことこの上ない。だから損耗も極端にデカいのだ。みんな戦いたくないって気持ちもわかるし僕もできることなら戦いたくない。ちょうめんどいの極み。



「クドー君。こっちの二人にポーションをお願いね?」


「はーい! 了解です!」



 僕が用意した十数個のバケツの中には、双子ちゃんの片割れが用意してくれた水が全部に並々注いである。その水をほうほうの体の二人にバシャーンぶっかけて皮膚や服の表面に付着した毒を流したあと、浄化のポーションを吹きかける。


 他の動ける人たちは自力でバケツの水をぶっかけて毒に対処。

 やばい忙しい。後方は野戦病院かってくらい。まあ僕や双子ちゃんの魔法ですぐに回復してゾンビアタックしてもらうんだけどさ。



「って、わっ!」



 忙しなく動いているとちょっと足をもつれさせてバランスを崩してしまった。

 その場で転びそうになった折、誰かに身体を支えられる。

 それはさっき潜行前に僕に文句を言ってきたソロ冒険者(ダイバー)の青年だった。



「大丈夫か?」


「ありがとう。大丈夫だよ」


「気を付けてくれ。魔法使いは生命線だからな。疲れたら言ってくれよ」



 僕が体勢を立て直すと、彼は気遣いの言葉をかけてくれた。



「僕はまだまだ大丈夫だけど、そっちは大丈夫? もう少し休んで行く?」


「いや、俺もまだ戦える。もう一度行ってくる」


「危なくなったら無理せず戻って来てねー!」



 彼は僕の言葉を背中に受け、前線に突っ込んでいった。無理しないことを切に願う次第である。



 そんな中、水の用意に勤しんでいた双子ちゃんの片割れが話しかけてくる。



「なんかアタシ今回水出しばっかりなんだけどー! ねえアタシも戦ってきていい? いい? いいよね?」


「ダメだよ。持ち場を離れたらそこから崩れて行くんだから。いまはこれで安定してるんだから無茶しない。最初に打ち合わせたした通りにしようよ」


「むー! アキラくんもウチのリーダーみたいなこと言ってー!」


「必要だから言ってるんだって。さっきの冒険者さんも言ってたでしょ? 今回の戦いでは魔法使いが生命線なの」


「でもアキラくんは行ったり来たりしてるでしょー!」


「僕のお仕事はそれもコミコミでやってるんだってば!」



 元気を持て余しているアリアちゃんとそんな話をしていると、伝令役をやっているクディットくんが走ってくる。



「アキラ君ちょっといい!? あいつの右手吹き飛ばせないかな!?」


「右手だね! 了解! 魔法階梯第四位格(スペルオブフォース)稲妻の跫音よ(アメイシス)突き刺され(ボルト)!!」



 ぶっ飛ばすために右手に雷の魔法を打ち込む。杖の先に広がった魔法陣に巨大な雷球が生まれ、そこから紫電が迸る。ぶっとい雷の柱が空中を走ると、『溶解屍獣(ポイズンキマイラゾンビ)』の右手に命中。紫色でとろけた右手は、まるで風船や泡が破裂するかのように弾けてなくなった。



「オーケー! あとよろしく!」


「ありがとう! ぼくもあっちに戻るよ!」



 クディットくんが伝令に戻ったあと、今度はハーゲントさんが近付いて来た。



「クドーくん、一度頭に一撃入れてみたい! 汎用魔法を頼む!」


「はい! ちょっとお待ちを!」



 僕はハーゲントさんに返事をしてから、



『超速ムービングアクセル』


『強身フィジカルブースト』


『専心コンセントレートリアクト』



 すぐにそれらを重ね掛けする。



 それが終わると、今度は前衛の方からエリーナさんが戻ってきた。

 毒を浴びてめっちゃ紫色してる。



「エリーナさ……ぎゃー!?」


「ちょっとそれ大丈夫なのー!?」


「どくどくどくどくぅー!!」



 もちろんその様子を目の当たりにした僕とアリアちゃんレリアちゃんはびっくりである。もうパニック寸前。

 でもエリーナさんは微笑みを絶やさない。すごい精神力だけど見た目がこわい。やばい。



「ごめんなさい、ちょっと浴びちゃったわ。魔法いろいろかけてもらえるかしら?」


「お水いっぱい! いっぱい! 魔法階梯第一いかくー!!」


「解毒解毒! 魔法階梯第三位格(スペルオブサード)! 穢れよ青く(アンチドーテ)清浄なれ(ピュリファイ)ーっ!!」


「(エリーナさんの)カラダもってくれよ! 三倍回復魔法だぁああああああああああ!」



 僕はそんな野菜星人ネタをぶち込みつつ、でも魔法の方は大真面目にかけた。

 水で毒を洗い流したうえ、青の魔法使いの解毒魔法、そして僕の回復魔法をしっかりかけたのでエリーナさんは元通り。再び前衛に戻っていった。すげー体力と精神力。さすがちょうタフいわ。



 そんな中、戻ってきたスクレがマラソンの給水所よろしくお水を補給する。



「集団戦は目が回る」


「いやーほんとにね。自分たちだけ気にするわけにはいかないから。スクレは大丈夫?」


「チョコで元気いっぱい。問題なし」


「そ、そう……それはよかった」


「チョコは元気の源。強くなった気がする」


「それはプラシーボなだけな気が……」



 僕とスクレがそんな話をしていると、双子ちゃんがすごい剣幕で近寄ってきた。



「なになに!? またなにか食べ物の話してるの!?」


「アキラくんずるいよ! 自分の彼女だけ贔屓してー!」


「すっ、スクレは別にかかかかか彼女ってわけじゃなくてその……」


「照れる」



 スクレールさんのボケも炸裂しつつ、場がやたらとカオスになってきた



「頂戴頂戴ー!」


「さっきのはダメだったんだから今度はいいでしょー!」


「わかったわかったわかりましたから! ほら二人とも口開けて」



 二人とも横に並んで小さなお口を開けてくれる。そこへ、ぽいぽいとチョコを放り込んだ。

 しばしのもぐもぐのあと、双子ちゃんたちは目をキラキラと輝かせた。



「――! これおいしー! すごーい! なにこれー!?」


「甘……甘いーっ!! すごくあまーい! こんなの食べたことない!」



 こんな非常時なのに二人ともチョコで大興奮である。そのあとに始まった、おやつのチュールを貰った猫たちよろしく、もっとくれコールには、戦いが終わったらということにして、一時興奮は鎮静化。鎮静化……?



「なんか元気出てきたー!」


「すごいすごい! まだまだ頑張れるー!」


「そ、それはよかった……」



 訂正。二人の元気が復活してしまった。っていうかさっき指定医薬部外品を渡さなかった僕の判断は間違いなかったようだ。マジファインプレー。



 ふと横を見ると、ジト目を向けてくるスクレールさんがいた。



「アキラ」


「わかってますってば! みんなどうしてこんなところでおやつ食べれるの……」



 餌を待つ鯉のように口を開けているスクレールのお口に、再びチョコを放り込む。

 当然彼女も、顔をとろけさせ、満足そうな表情を見せる。



 こんなところでこんなことができる女の子冒険者(ダイバー)たちのバイタリティに感心と恐怖と驚愕を抱きつつ、僕は再び魔法攻撃に従事する。双子ちゃんも水かけや解毒で大忙しだ。そしてスクレールもまた前衛行きである。毒霧毒沼に武術で挑むんだから恐れ入るよほんと。よくあんなの触れるって。さすが勁術とんでもないぜ。



 ……結論。連携ってすげームズカシイ。カリスマ性のあるリーダーがいなかったら瓦解してた。僕みたいなのはとりあえず言うこと聞いておけばいい。むしろ聞かないと困るくらいだ。

 いや、僕もどうにかこうにか一人で倒したことあるけどさ。やっぱどこも苦労するんだねこいつと戦うときはさ。



 もともとボロボロだった『溶解屍獣(ポイズンキマイラゾンビ)』が、もっとボロボロになったところで。



「ぶらすとふぁいやー! お前たちの出番だ! 頼む!」



 ハーゲントさんからぶっぱなす許可が出た。


 ぶらすとふぁいやーの面々は待ってましたとばかりに魔力を高める。魔力が天井知らずに高まる様は、マジですごい。さすがに六人も赤の魔法使いがいればこんなとんでもないか。赤いオーラが可視化されてるくらいとかちょうとんでもない。



「うっしゃああああああああああああああ!」


「やっと俺たちの時間だぁあああああああ!」


「汚物などエレガントに燃やし尽くしてくれるわ!」


「ぶらすとぉおおおおおおお!」


「ふぁいやぁあああああああ!」


「……………………燃えろ!」



 ぶらすとふぁいやーの面々が、とどめに盛大なファイヤーを放つ。爆発と見紛うくらいに衝撃とか上昇気流とかいろいろあって、もうなんかとんでもない威力。僕でもこんなのできないよ。

 ……火柱ヤバいし、すげー範囲。これがさっき言ってた合体魔法なんだろうか。やっぱり異世界でも巨大怪獣へのとどめの最適解は合体技のようだ。



「おいみんな逃げろ! やべーぞ!」


「ちょっとアンタら少しは加減しなさいよー!」


「退避! 退避ー!」


「もう少し周りに気を遣えよお前らぁああああああ!」



 みんな予想以上に広がりつつある炎から退散しつつ、燃えて行く様を固唾を呑んで見守る。まああれだけ火力が出れば大丈夫だろうけど、『念のため』は冒険者(ダイバー)の鉄則である。

 火力がすごすぎて核石が心配になるけど、あれ結構頑丈なんだよね。なんだかんだ無傷で残る。



 やがて燃え残った中から巨大な核石が顔をのぞかせた。

 周囲から歓声が上がる。第4ルートの巨大怪獣ボスを撃破したのだ。そりゃあみんな喜ぶってもんよ。人員がいっぱいいても経験値(スコア)たくさんもらえるし、核石の値段だって他のボスモンスと比較してもかなり多く見積もってもらえるし。

 レベルが1上がっただとか、2上がっただとか、喜びの声がそこかしこから聞こえてくる。



 ともあれ『溶解屍獣(ポイズンキマイラゾンビ)』を倒し終わったあと。



「怪我人はどうだ?」



 ハーゲントさんのそんな問いかけには、代表して僕が答える。



「大丈夫です! いません! あ、もちろん死んで怪我人いなくなった的なブラックな話じゃないんで大丈夫でーす!」


「ちょっとなにそれ怖いんですけど……」


「アキラくんってさ、ときどき怖いこと平気で言うよね……」


「そうか。よし。後衛で動いてくれたみんなもよくやってくれた」



 死人なし。回復魔法もマメにかけたので怪我人なし。

 そんなハッピーなお話をしていると、他の面々がそれぞれ感想を口にする。



「いやー、こいつと戦って死人ゼロとかどうなってんだこれ……」


「三大チームも下手すると一人二人は犠牲出すってのにさ。あり得ないだろ」


「いやそもそもここまで来た状態でみんな体力満タンの時点でおかしいんだよ」



 とか口々に言っている。でもそれは言い過ぎだ。



「いやさすがにそれはないでしょ? 僕一人でだってなんとかなるんですよアレ。みんなやる気になればなんとかなるなる」



 僕が何の気なしにそんなことを言った直後、みんなが一斉に振り向いた。



「…………」


「…………」


「…………」



 ――あ、やべ。これ内緒の話だった。



 僕がどこかに身を隠そうとしていると、クディットくんが神妙な面持ちで訊ねてくる。



「ねえアキラ君。それって、ほんとの話?」


「え? あ――あー! あー! いやなんでもないよ! 僕いまなんか言ったっけ!?」



 困ったので一時的に部分的な記憶喪失になることにした。都合がいいとか言わないで。

 そんな中、スクレールさんが呆れ声で声を掛けてくる。



「アキラ、もういまさら」


「大丈夫! まだ誤魔化せる範囲だから!」


「それは見積もりが甘い。いまさらもう何を言っても遅い」


「そんなことないよ。だって現実的にあり得る? 魔法使いが単独(ソロ)であれ撃破するんだよ? 無理でしょ?」


「でもアキラはできないことは口にしない。口にしたってことはできる、もしくはできたってこと」


「…………」



 スクレールにガン詰めされた僕は、口を閉じることにした。口を閉じればこれ以上墓穴を掘ることはないからだ。

 すると、スクレールは別のアプローチから解き明かそうと試みる。



「スコアカード見せて」


「え? いや、あの、それはね、その……」


「やったことないなら、記載はない。だから見せられるはず」



 スクレールさんがスコアカードを見せろと言いながら、ぐいぐい迫ってくる。

 ダメだ。これにままだいろいろヤバい情報が記載されているのだ。



 一方そんなやり取りをしている脇ではというと。



「ねえねえ。普通は倒したことあるって嘘つくのが普通じゃない?」


「だよね。おかしいよねこの光景」


「まあ小人らしいと言えば小人らしいが」


「アキラくんはもうちょっと自分に自信というか、プライドを持った方がいいと思うわね」




 そんなこんなで、僕たちは少しの休息を取ったあと、救助活動を再開し始めたのだった。




なんと、放課後の迷宮冒険者のコミカライズが始まりました!(激遅)

コミカライズの担当はあび先生です!


ニコニコ漫画様、comicwalker様で公開されていますので、よろしくお願いしますー!

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