第30階層 階層によっては救助っていうのも一苦労でして……そのさん
【登場人物】
ハーゲント・グレイ……ランキング379位、チーム『果てなき輝き』のリーダー。スキンヘッドのおじさまで、鬼教官みたいな見た目をしている。通り名は『輝閃光』。
エリーナ・ジンウッド……チーム『果てなき輝き』の魔法剣士。細目の女性で、年齢は三十代から三十代前半ほど。魔法使いと剣士の両方ののびしろを持つ珍しいタイプ。『お母さん力』なる力を操るらしい。
ウルフィス・ユーコーン……チーム『ユルい集い』のリーダー。黒い狼頭の人。和気あいあいしているチームの中で比較的クールなタイプ。通り名はそのまんま、『黒狼』。
クディット・シルディ……チーム『秘水の加護』のリーダー。アキラに負けず劣らずの気弱な性格だが、なぜか高ランクチームのリーダーを務める。イケイケ押せ押せなチームメンバーたちのブレーキ役。眼鏡をかけている。投石士。投石のプロ。通り名は『必中眼』。
アリア・ウィズカース……チーム『秘水の加護』の双子の姉。どっちも気が強いので、姉なのか妹なのかを性格で見分けるのは難しい。サイドテールが右にある方。青の魔法使い。
レリア・ウィズカース……チーム『秘水の加護』の双子の妹。基本的に見分けるのは難しいが、もしかしたら幾分、姉より呪いを掛けたがりかも。サイドテールが左にある方。青の魔法使い。
アシュレイさんから救助隊への加入を要請されて、スクレールと共に救助隊に合流し、迷宮に踏み込んだ可哀そう(重要)な僕たち。この階層の気持ち悪さを我慢しつつ、まず要救助者が取り残されているという場所に向かうことにした。
みんなで周りに気を付けながら【屎泥の泥浴場】を進んでいた折のこと。
まあ、迷宮だからね。気を付けてても当然のようにモンスターに囲まれちゃうわけだけど。
「ふぁいやぁああああああああああ!!」
「はははははは! 燃やせ燃やせ燃やせぇええええええ!!」
「我が炎よ燃え上がれ! あの天まで高く! すべてを焼き焦がせ! あとおまけにエレガントに!」
「ぶらすとぉおおおおおおおお!!」
「ふぁいやぁああああああああ!!」
「…………燃えろ」
……うん、このテンション狂ってマックスなやべーのは、チーム『ぶらすとふぁいやー』の人たちだ。
この人たちどこでどうして集まったのか六人全員赤の魔法使いで、みんな火を操るうえ、ことあるごとに魔法を使いたがる。どれくらいかって訊かれたら、そりゃもう放火魔ってくらいの勢いだ。古のやべーアニメを思い出しちゃうくらい家を焼きそう。
普段は普通の人たちなのに、魔法を使い始めるとホントやべーやつらに変貌しちゃうのだ。ランクも高くて活動内容も真面目らしいのに、そのせいでギルドからの評価がアレで、一応危険なチームのボーダーラインに立っていたりする。
ほんとなんなのだろうか。トリガーハッピーならぬファイヤーハッピーなのか。燃やすのやめられないのか。まあ『森』では絶対に魔法を使わないところだけはありがたいけどさ。っていうかそんなことしたらきっと他の冒険者たちから私刑を受けて死刑に処されることは想像するに難くない。ボコボコのボコにされる。
特徴としては、みんな赤と黒のカラーを用いたローブを着て、身体の露出している部分のどこかしらに、炎を模した刺青を入れている。あと杖を改造して手甲にしたり、ナイフにしたりと結構かっこいいことをしている。なんかちょっとうらやましいなとかあこがれちゃうなとか思ったのは内緒だ。年齢的なものだからそこはわかれ。
あとこの人たちも全員揃ってポーズを取る。『ユルい集い』のお兄さん方といい運搬役の人たちといい、なぜみんな集まるとポーズを取りたがるのか。そこがわからない。
そんな彼らの放火じみた蛮行に対して真っ先に声を上げたのは『秘水の加護』の双子ちゃんたち、アリアとレリアだ。
「ちょっと! 困るんだけど! 見境なしに炎を広げないでよ!」
「そうだよ! アンタたちが出した炎を消すのも一苦労なんだよ!」
双子ちゃんたちが、ひゃっはーしている『ぶらすとふぁいやー』のメンバーにぴょんぴょん跳ねて可愛らしく抗議する。
二人は僕やスクレよりも背が低いロリっ子で、水色髪をサイドテールにしている。結び目の場所は姉妹で左右対称。青いローブをまとい、杖は白くて、その先っぽにサファイアをくっ付けている。あと、腰に大きなモンスターの頭蓋骨をぶら下げているのも特徴的だ。
二人とも魔法を使うときはなぜか被るんだよねその頭蓋骨。
僕的には呪術的な意味合いを推し量る所存。ときどき呪いがどうとか言ってるしさ。呪いとかほんとこわい。ドーマンセーマンは必須かも。
自分たちよりもだいぶ背の高い『ぶらすとふぁいやー』の人たちにも、怖いもの知らずで食ってかかる。
「ここは焼くのが一番なんだよ!」
「だからってやりすぎよ! もっと考えなさいよ!」
「お前らは相性よくないんだから、隅っこで大人しくしてろ!」
「うっさい! アタシたちだって戦えるわよ!」
「こっちくんな! 焼いちまうぞ!」
「うっさいこっちは呪うぞー!」
……うん、なんか急にケンカし始めたよ。焼くとか呪うとかもうほんと物騒極まりない。
でもまあ実際どっちが悪いとかはないんだよね。この辺りはまだガス地帯じゃないから、焼いてしまうのは効果的だしファイヤーするのが一番だ。だけど炎を広げすぎると今度は僕らの移動が滞るからやりすぎはダメなんだけど。
「ああ、ケンカは……ケンカはダメだよ……やめようよぉ……」
『秘水の加護』のリーダーさんである眼鏡少年クディット君が止めに入ろうと声を掛けるけど、いかんせん声量が少ないので誰も止まってくれない悲しみが発生中。周りをあたふたちょろちょろすることしかできていない。
しょうがないよね、みんなキャラ濃いもの。にしてもクディット君、相変わらず気弱そうだ。僕なんかみたいな小市民的な人間にはとても親近感が湧く。
「あらあらまあまあ、ケンカになってしまったわ。どうしましょう?」
いまおっとり発言は、『果てなき輝き』のメンバーの魔法剣士、エリーナさんのものだ。
デカいゴルフバッグみたいな荷物入れを持った細目の女性。落ち着いた雰囲気のママさんのような見た目で、歳は三十代後半くらい。おっとりしているけど、この人がこの『果てなき輝き』で最も濃厚な人物と言えるだろう。
彼女が困ったように頬に手を当てていると、『ユルい集い』の面々が同意するように。
「まったく何をやっているんだ」
「こんなとこでケンカすんなよな」
「めんどくせぇな。置いて行っちまうか」
「そろそろごはん食おうぜー。おれもう腹へったよー」
……一人場違いなことを言う怪着族のお兄さんがいたけど、まあ、毎度のことだとしてご了承願いたい。っていうかよくこんなところでご飯食べようとか思うよ。胃腸とか迷宮鋼並みなんじゃなかろうか。やっぱ怪着族は一味違うよ。
そっちのケンカはともかくとして、さすがにちょっと炎が広がり過ぎている気がしないでもない。
それを危惧したのか、スクレールが前に出る。
「――私がやる」
彼女が炎に向かって頼もしい発言すると、みんなが身構えた。
他の面子も、すぐに周りの冒険者に警戒を促す。
何をするのかはまあみんなわかるよね。きっと剄術を使ってどうにかして吹き飛ばすのだ。どうにかするの内容の詳細についてはわかんないけど。
スクレールが右腕、右足を上げた。
――ズドン。
そして、スクレールさんが思い切り地面を踏みしめると、とんでもない轟音と地揺れが巻き起こって、発生した衝撃波で周囲の炎が全部吹き飛んだ。うん。体感で震度3はあったね。うん。
「あの炎を衝撃波だけでぶっ飛ばすのかよ……」
「さすが耳長族の技は派手だな」
「ひゃー、すげー。もぐもぐ……」
「食っとる場合かァ!」
驚いたり感心したり、突っ込み入れたりとみんな忙しい。
確かこれ、轟震脚とかいったっけ。ちょっと前に教えてもらった覚えがある。
そんで、みんなが感心してる一方で、僕はどうしてるかって言えば。
「ひょええ……」
うん。腰が抜けちゃったよね。だってしょうがない。スクレが技を使ったのは近くだったんだもの。衝撃波とか音とか身構えててもびっくりしちゃうよ。
僕がそんな風にしていると、スクレール先輩がジト目を向けてきた。
「……アキラはいちいち驚きすぎ」
「でっかい音が鳴ったら普通驚くでしょ! っていうか何それ!? 地面があり得えないくらい陥没してクレーターになってるんですけど! 怪獣出たってこうはならないんですよ!?」
「じゃあその怪獣はダンゴムシ以下」
「ダンゴムシ強すぎィ!!」
スクレールさん、よくダンゴムシを引き合いに出すけど、彼女の言うダンゴムシってなんなんだろうか。ダンゴムシって名前のバスターマシンじゃないと倒せないような宇宙怪獣とかそんなんだろうか。もし地上の生物だったらきっと、そのダンゴムシは『歩行者ウサギ』みたいに物凄くデカいのだろう。異世界のダンゴムシやべー。
そんな一幕が繰り広げられている一方、ケンカの方でも進展があったようで。
「お前たち、そこまでにしておけ。俺たちの目的は遭難者の救助だ。ケンカをしている場合ではない」
『果てなき輝き』のリーダーであるハーゲントさんが、ケンカの仲裁に入ってくれた。
だけど、両チーム(一部)の争いは結構ヒートアップしているようで。
「でもなあ!」
「だって!」
四人が、揃って反論するような言葉を叫ぶ。そんでもってやっぱり言い合いは止まらない。ある意味息ピッタリだ。どうやら勢いは、さっきのスクレールの一撃でもぶっ飛ばしきれなかったらしい。火の勢いより口げんかの勢いの方が強いとかすごい。
さて、ハーゲントさん。そろそろ雷でも落とすのか、それとも実力行使に移るのかと思いきや。
ハーゲントさんはため息をついてチームの仲間であるエリーナさんの方を見た。
どうやら一番やべー人に任せることにしたようだ。容赦ないわぁ。
「……頼む」
「そうね。子どもたちがケンカをしてるのは、ママとしては見逃せないものね」
エリーナさんは奇妙なことを口にすると、ケンカをしていた『ぶらすとふぁいやー』と『秘水の加護』の面々に近づいていく。
ふわふわと歩くエリーナさんを見て、ケンカの真っ最中な彼らがふいにたじろいだ。
なんか目に見えない力とか、プレッシャーが影響しているんだろうか。
僕も新型人間とか強化人間とかだったらそういうのわかるんだろうけど、僕はそんなんじゃないから全然わからない。むしろわかりたくないまである。
周りにいたクディット君は距離を取って、他の面々も後ろに下がる。
僕とスクレも見物モード。
場には言葉では表せないような不穏な空気が漂っていた。
「お、おう」
「え、ええと……」
「うふふ。四人とも、めっ、よ? 迷宮ではいい子にしてないと、怖いことが起こるんだから。ママをあんまり困らせないでね? いい?」
起こるのか起こすのか、どっちなのかその辺りはっきりして欲しい所存。いつもは糸目なのに、半開きになってるのマジ怖いから。
エリーナさんから注意を受けたメンバーは、それに伴う圧を受けたせいか、一瞬酸素を奪われたかのように呼吸が止まる。局地的なブリザードが発生したんじゃないかってくらい場の熱が冷めた。
そして、
「……まあ、ケンカはやめるか」
「……うん。無駄に体力使う必要もないよね」
これ、仲直りって言うよりは、大国が介入してきて仕方なく休戦と言うかそんな感じだろう。まったく圧力に恐れをなしてる。力の分類はエリーナさんがよく言っている「お母さん力」とかいう謎パワーだろうか。お母さん力ってパない。
うん。それもあって以前、エリーナさんになんでママと言っているのかを訊ねたのだけど、
「――あら、私は子どもたちみんなのお母さんだからよ?」
って返された。
神様の翻訳とか関係なく、言葉があんまり通じてない。
……え? お子さん? 別に子供が欲しいわけじゃないらしいよ? こわいよね。
ふと、隣にいたスクレールに訊ねる。
「ねえスクレ。スクレはエリーナさんのことどう思う?」
「こわい」
「だよねぇ」
スクレールだってそう思うくらいなんだもの。そりゃ他のみんなだってケンカやめるよ。
そんな一幕はともあれ、階層の進行は順調に進んでいる。
戦士系の人たちはモンスターを各々武器で切り裂いたり、細切れにしたり。燃える道具を使って燃やしたりと駆除している。
『ユルい集い』の面々はマイペースだ。基本自分たちが前に出ることはなく、他の冒険者さんたちのサポートに回っている。
特に安定しているのは『果てなき輝き』の人たちだろう。堅実だ。ハーゲントさんはトゲの付いた鉄棒を振り回して敵をバンバン砕いて回り、エリーナさんはゴルフバッグもどきから『エクスちゃん』っていう名前の付いた大振りの剣を取り出して、『強身ストロングマイト』をセルフで使ってぶんぶん振るっている。あの中にはいくつ武器が収納されているのだろうか。いや、『虚空ディメンジョンバッグ』を使えるから、たぶんただの見せるだけのバッグなんだろうけど。
『ユルい集い』のサポートも相まって、安定感がハンパない。
さっき僕に突っかかってきた青年も腕がいい。きちんとした人だからさっき僕が含まれたことに怒ったのだろう。まあランクはわかりやすい基準だし、僕のこと知らないとそうなるのが普通だよね。
僕の方は、スクレールが前衛をやってくれているのでなんの危機感もない。いや環境的に最悪なのは変わらないんだけど。それでも一人で潜るときに比べれば負担は格段に違う。っていうか僕が調子に乗って汎用魔法かけまくってバフを盛り盛りにしたスクレールさんの力が驚異的過ぎるのだ。ものすごんごいスピードでものすんごい強力な攻撃をぶちかましている。もはやその戦闘能力は某野菜風名前宇宙人的戦闘民族な感じで3000万くらいありそう。じゅうべぇだぁ! 的に。もう一人だけ移動のときにSEついているレベル。
しかも、なんか汎用魔法のせいか剄術で「波ァ!」的なものが手のひらから出てるような気がしないでもないくらいに敵を消し飛ばしまくっている。なんていうか「これは相撲じゃないSUMOUだ」的な宇宙が見えるよ。混ぜるな危険だ。むしろ混ぜすぎ危険。
僕がスクレの勇姿をぼけっと眺めていると、ふい背後に、軟泥モンスターが現れる。
僕が攻撃に転じる間もなく、スクレが瞬間移動のように移動して、掌底で消し飛ばした。
「スクレ」
「構わない」
「ありがとう」
「うん」
あれ? スクレが厳しいことを言わない。
僕は訝しんだ。
「今日はスクレがいつもよりも優しい…………もしやスクレの偽物か!?」
「試してみる?」
「本物ですね! 遠慮しておきます!」
やにわに『流露波』を打つ構えを取ったスクレール先輩に対して、ビシッっと真っ直ぐ気を付けの姿勢を取る。
そんな茶番はともあれ。
そんな風に、順調に階層を進んでいた折のこと。
どこからともなく「ぎゃおー」という微妙な雄叫びが聞こえてきた。
〇ジラを小さくデフォルメしたような怪獣で、頭にキノコの傘を載せているという奇妙なフォルムを持ったモンスターだ。
「うわ出た出た。【屎泥の泥浴場】の嫌なモンスター第二位『松露怪獣』。見た目は巨大なキノコの傘を被った怪獣で、口から吐き出す胞子ブレスを吸い込んだ人間に幻覚などを見せるやべーやつ。必殺技は強制トリップならぬ『強制ストリップ』。相手は社会的に死ぬ」
「な、なんだそれは?」
「あ、前に胞子を吸い込んで一時的に頭ぽぽぽぽーんになって服を脱ぎだしてる人見たことあるので」
「うわー……」
「なんかかわいそう」
ひどい目に遭った人に、みんな同情している。そりゃそうだ。迷宮でそんなことになったら目も当てられないと言うかここでそんなんなったら社会的に死ぬ前に死ぬ。でも、大丈夫だ。きちんと助けてあげたから。あれを見捨てるのはなんていうか忍びなかったのだ。
……ちなみに第一位はみんなご承知の通り『溶解屍獣』で、もっとちなみに第三位が『腫瘤魔獣』。ここの次の階層である【■■■■】に居そうな名前してるけど、こいつははぐれじゃなくてれっきとしたこの階層のモンスターらしい。
まあ、それはいま関係あることじゃないか。
スクレールが『松露怪獣』を見ながら、僕に声を掛けてくる。
「アキラはあれ、どうしてるの?」
「僕? 僕はイナズマキック最大出力で……あれだね。ぶち抜くってやつ。スクレは?」
「ちょっと息を止めて流露波を連続で当てる」
「すると、どうなるの?」
「『松露怪獣』は破裂する。打つ場所とかコツがいるからある程度時間は必要だけど」
こわい。慈悲はない。
「……ん? もしかしてあれに、素手で触るの? ところどころトゲっぽくごつごつしてるし、胞子とかついてるけど」
「剄力があれば問題ないから」
剄術すごい。さすが異世界不思議トンデモ武術。いや僕も使えるんだけどさ。
僕たちがそんなことを話している最中も、『松露怪獣』はやっぱり「ぎゃおー」とかいう微妙な雄叫びを上げながら、口から胞子をまき散らす作業に勤しんでいる。こいつはああやって自分のフィールドを構築していくのだ。うかうかしていると周りが胞子だらけになって、めちゃくちゃ倒しにくくなってしまう。
なんでこうこの階層のモンスターはみんなめんどくさいのか。ちょっとくらい癒しがあってもいいのじゃないかとかいつも思うよ。
今度は、僕とスクレールの番だ。全体の消耗は平均的がいいしね。
「よーし! サポートなら任せろー! 先輩! よろしくお願いしますッ!」
僕がダッシュでものすごく後ろの方に位置を取ると、スクレールが呆れた顔で見てくる。
「…………アキラは最初から後ろ向きすぎ。それに先輩冒険者はアキラの方」
「いやいや、戦闘経験は僕なんかよりもスクレの方が上だし」
「そうかもしれないけど……今度は私がサポートする」
「ええ!?」
「さっきからずっと主攻やってるから。今度くらいアキラが主攻」
「魔法使いは支援や助攻が本業ですよ? っていうかどうしてそんな急に心変わりを?」
「さっき偽物に疑われたから厳しく行こうと思って」
「さっきの僕ゥ!」
僕が過去の僕に呪詛を送っていると、やはりスクレは呆れた素振りを見せ、
「そもそもアキラだって簡単に倒せる。サポートすらいらない」
「というかスクレのサポートってどんな風にするの?」
僕が核心部分を訊ねると、スクレールは少し考えるように腕を組んでうーんうーん。
「…………打って足を止める。そこにアキラが魔法を使う」
「それ結局同じなんじゃない? 違いって言ったってどっちがとどめを差すかだし」
「いいからやる! たまにはかっこいいところ見せる!」
「はいはい。了解しましたー」
そんなことを言いながら、背中をぐいぐい押して来るスクレールさん。こんな感じでまとまった。まあ僕としても主攻をやればその分経験値が多めに入ってくるので全然よい。むしろ一人で倒しに来るより楽ができるのでありがたい限りであるのだ。
スクレールが打っては離脱、打っては離脱を繰り返す。胞子の噴出も止まって、ちょうどいい距離に縫い留めてくれている。やっぱり上手い。よく一緒に潜っているので、僕の距離感もよくわかっていらっしゃる。
…………やっぱりこれ、いつもとあんまり変わらないんじゃないかな、とは言っちゃいけないんだろうか。
『魔術階梯第三位格、雷迅軌道』
僕は杖を取り出して魔法を使い、雷をまとう。
そしてその状態で雷みたいにジグザグにダッシし、『松露怪獣』にハイスピードなヒーローキックをキメようと迫る。
ジャンプして宙返りのあと、レーザービームさながらのキックが突き刺さってぶっ飛ばした。
僕はキックを入れた反動でくるりくるりと後ろに飛び、そのまま地面にスーパーヒーロー着地を敢行する。これもヒーローキックと同じくらいに練習しているから完璧だ。
……うん。誰も見ちゃいないんだけどさ。
だって仕方ない。モンスターが倒されなかったときのことを想定して、みんなはタコ殴りの準備のためにモンスターを見てなきゃなんないんだもん。僕の方なんて見ない見ない。
一方で『松露怪獣』はまた「ぎゃおー!!」って微妙な雄叫びを上げてもんどりうって爆発した。どうして爆発するのかって? そんなのあれが怪獣だからに決まってる。この世に存在するあらゆる怪人怪獣はヒーロー技を食らって倒されると、よくわからん動きで藻掻いてから爆発するのだ。中にはネズミとか蜘蛛とかインドゾウとか、意味不明な弾薬で爆発四散してしまう奴もいるくらいなのだ。
ヒロちゃん的に常識らしい。ジャ〇カー。
「うっへー、さすがはこの魔法使いのメンツの中で最高レベル」
「アレでなんでさっき腰抜かしてたの? 意味わかんないよ」
「ほんとアキラくんは不思議だよねー」
「さすがにやるな。俺たちの合体魔法に次ぐ威力はある」
なんか、方々からそんな感想が出た。
っていうか合体魔法って何よ合体魔法って。そんな技術聞いたことないけど、やっぱりみんなで赤の魔法使うのか。そんなの大災害じゃろ怖すぎ。もはや大焦熱地獄の一切方焦熱処とかそんなんが見えてきそう。うん、技術の方はあとで師匠に聞いてみよう。
ふと、スクレールが近寄ってくる。
なんだろう。足取りが少し覚束ないような気がする。
「……ちょっと吸った」
「ちょ、マジ!?」
僕は慌てて、浄化のポーションを大量にぷしゅぷしゅする。いっぱい掛けたせいか、服にちょっと染みて身体のラインがもろ分かりになるけど、いまはそんなこと言ってる場合じゃない。
「良くなった?」
「うん。ありがとう」
「それは良かった――はっ!?」
僕はそこで、とんでもない失態を犯してしまったことに気付いてしまった。
「……どうしたの?」
「この手の幻覚を見せる敵が出てきたときのお約束で、みんな頭ぱっぱらぱーになってちょっとエッチなトラブルとか起こるのを忘れていた! 今回もそのままにしておけばもしかしたらラッキーな事態にありつけたかも……」
「変態変態変態」
「痛っ! 痛い! うそうそ冗談だから脛ゲシゲシ蹴らないで!」
僕がそんなとぼけたことを言うと、スクレから制裁を受けることになった。
そんなこんなで、無事中間地点っぽいところまで到達した。
さて、要救助者がいるというのは、ここからもう少し奥の方らしい。
みんな集まって会議中。
「どうする?」
「俺はまず拠点の設営をしようと思う」
もちろんハーゲントさんの言葉に異論は出ない。救助するに当たり。話によると、遭難した場所は安全地帯から離れているため、こうして即席の拠点を構築する必要があるという。
「どこにしようか」
「問題はそこだ。なにかいい案はあるか?」
ハーゲントさんがみんなに向けて質問すると、
「良さそうな一帯を燃やす」
「そうだな。それに限る」
「お前らはそれしか知らんの間違いだろうが……まあ、一案としてはありだが、頼むからガスが多いところではやめてくれよ……他には?」
「はいはい! 水で洗い流すとかどう?」
「……似たようなレベルの提案はしないでくれ。まあ安全だろうが、それはそれでお前たちの消耗が激しいだろう」
そんな風に話が取っ散らかる中、『ユルい集い』のリーダーの黒狼さんが口を開く
「だが、チームを分ける必要はあるだろうな。探索組、拠点居残り組。居残り組に、逐次拠点整備をしてもらいつつ、探索組が動く」
「拠点ねえ……ここで拠点なんて作ったことないしなぁ」
「そうよねぇ。長居なんて誰もしないし、したくないものねぇ」
「いっそ基地まで行くとかどう? そしたらみんなで探索できるぜ?」
「さすがに基地は遠いな。全員の負担が大きくなりすぎる」
拠点は必要だ。だって助けて戻ってきたあと処置とか休憩とかしないといけないもの。
みんながそんな大事な相談をしてる中、僕は何してるかって? 僕はいま持ち物の確認中だね。もし、大丈夫なら。問題も解決できる。
……うん。大丈夫そう。出費はデカいけど今回はギルド案件だから経費の請求ができる。吹っ掛けよう。
「ある程度平たいところならどうにかできるかもですよ?」
「そうなのか?」
「これを使えば」
そう言って、さっきの浄化のポーションをふりまくと、周りの毒が浄化されて、なんか多少まともっぽ地面に代わった。またしばらくするともとに戻ってしまうんだろうけど、一時的ならこれで十分だと思う。
「なるほど。本当に便利だな。だがそんなに使って大丈夫なのか?」
「お代はあとでギルドに全額請求します。安全第一で行きましょう。お金は安全なとこにいる人になるたけ吐き出させればいいと思いまーす」
「そうだな」
「むしり取ってやるぜ」
「そのためにも、確実に助けないとな」
「ほんとよ。生きてないと呪い殺しちゃうんだから」
頭蓋骨を被って怖いことを言い出す双子ちゃん妹はともかくとして。
またラメルさんにポーションを優先的に回してもらうことになりそうだ。
まあ僕も彼女もその辺はwin–winだからいいんだけど。
サファリバッグから探索ノートを取り出す。ここもある程度マッピングしてるし、地形の写真も撮ってある。まあ、基本的に奥深くなんて行かないから、高レベル冒険者の人たちのマップよりは範囲は狭いんだけど。その分クオリティには自信がある。現代日本の技術的に感謝だ。
「あっちの台地になってる場所とかどうです?」
「向こうか」
「高いところはいいな。戦いやすい」
「アキラ、あっちはダメそう。モンスターがいる」
「あれ、そうだっけ?」
「いま見えた。モンスターが集まってる」
「間が悪いなぁ……じゃあ次の候補はあっちかな」
……やがて拠点にするべき場所が決まったあと。
向かっている途中で、僕は吐き気に悩まされた。
「……はー、気持ち悪い。うげー」
「入ってすぐあんなに沢山浄化のポーションかけてたのになんでそうなるの」
「むしろなんでみんなはあれだけでへっちゃらになるのか僕は甚だ疑問だよ。みんな丈夫過ぎない? なんなの? 生物学的におかしくない?」
「単にアキラがひ弱なだけ」
「ぐっ、悔しいけど言い返せない……レベル上げもっと頑張ろ。目指せ40! おー!」
スクレールさんの厳しいお言葉をもらいつつ、意気込みも新たにレベル上げに励むことにした。今日じゃないよ。明日からだ。




