第29階層 階層によっては救助っていうのも一苦労でして……そのに
再度迷宮に潜ろうと受付に顔を出して、アシュレイさんに割ととんでもないミッションを押し付けられたあとのこと。
僕はスクレールの待っている食堂の一角に戻っていた。
現在スクレールさんはと言えば、僕を待っている間、椅子にちょこんと座って僕があげたお徳用として銘打ってあるチョコ菓子を無心でばりぼりばりぼり齧っていた。
……いつものハイライトの消えた目でチョコ菓子をひたすら食べているさまは、さながらベルトコンベアー付きの作業機械のよう。不要にに手を出そうものなら事故る案件になるのは間違いない。ヨシッ!
あれ一応ゆっくり食べてはいるんだろうけど、いつの間にかもう二袋目に突入している。彼女も潜行前なのにそんなにチョコ菓子ばっかり食べて大丈夫なのかとちょっと心配になってしまうけど、異世界人は僕たちとは人体の構造的に違うから大丈夫なのだろうということで納得しておく。きっとカロリーが全部冒険のエネルギーに変わるのだ。そういうことにしておこう。
そんな彼女に、声を掛けた。
「スクレスクレ、ちょっと聞いてよ」
「もぐもぐ……どうしたの? すごく気分が重そう。『苔むした石獣』にのしかかられてるみたい。いまにも潰れて死にそう」
「なんか受付で救助を頼まれちゃってさ」
「そう。付き合う」
スクレールは素っ気ない感じだけど、そんな風に言ってくれる。ありがたいです本当に。感動で涙が出そうだ。もう腰を直角に折り曲げてお辞儀をしたくなる勢い。
「ありがとうございます! 全力でサポートさせていただきます先輩!」
「……そこは僕が守るとか、無理はさせないとか言うところ」
「そういうかっこいいリーダー的なムーブは僕のキャラじゃないから。っていうか魔法使いは役割的にもサポートに回った方がいいし」
「それはそうだけど。なんかモヤモヤする……」
と言って、スクレール先輩は不満げだ。でも僕はそういうキャラじゃないから、やっぱりそういったことはできないのだ。そこはどうか了承して欲しい。
ともあれ、僕はスクレをありがたいものとして拝む。さすが頼りになるよ。
ん? そんなんじゃ株はいつまで経っても上がらないって? そもそも上がるような伸びしろなんて僕にはなし、評価なんていつもどん底のどんだ。
そんなこんなでスクレールも一緒に行くということをアシュレイさん一言告げて、指定された集合場所に向かう。
「あー、集まってる集まってる」
ギルドの正面ホールの一画には、僕みたいに救助任務を無理やり押し付けられたかわいそうな人たちが集まっていた。
まあ引き受けた以上は行かなきゃならないので、とても気が進まないけど声を掛ける。
「あのー、救助要請で、来てしまったんですけどぉ……」
「おお! 来てくれたか! 今日はよろしく頼む!」
僕の後ろ向きな言葉には、スキンヘッドのベテラン冒険者さんが明るい笑顔で応えてくれた。まぶしい。どこがというのを詳らかに解説するのは遠慮させてもらいたくなるくらいの輝きがそこにはあった。
この人は、知ってる人だ。チーム『果てなき輝き』のハーゲントさん。印象に残りやすいからかな。なんていうか鬼教官とか鬼軍曹とかそんな見た目の冒険者さん。グラサンとっても似合いそう。
そんなハーゲントさんに「お久しぶりです」と軽く挨拶をして握手をする。
僕のときも喜んでもらえたけど、スクレールを見たメンバーたちの顔がもっと明るくなった。スクレールさん、いまではこの界隈で実力者の一角と目されている。今回の潜行、実力のある冒険者は大歓迎だから、彼女が来てくれたのが相当喜ばしいのだろう。マジ頼りになるもの。
それはそうと周りを見回したんだけど、なぜかここには『果てなき輝き』の一チームと、他に声を掛けられたらしきソロ冒険者たちしかいなかった。
「あれ? 他の方たちはどうしたんです? 確か四チームは確保しているって聞いてたんですが」
「他は急いで準備してるそうだ。なにせ場所が場所だからな……」
「なるほど。了解しました」
確かに、みんな僕みたいに準備できてるってわけじゃないだろうからね。
やっぱりハーゲントさんの表情も硬い。誰もが認めるベテラン冒険者で、僕なんかよりも【屎泥の泥浴場】とのお付き合いは長いだろうこの人でも、そこに救助がかかわると話は変わってくるんだろうね。メンバーのみんなもあんまり余裕のない顔してるし。
そんなことを考えていた折、ソロの冒険者の一人が僕のところへ近づいてくる。
少年というよりは青年くらいの年齢だ。
その人は、僕のことを上から下までジロジロ眺めてくる。
そして、聞こえよがしな声で。
「なんか随分頼りなさそうなヤツだな。こんな奴入れていいのかよ?」
「さあ……僕はアシュレイさんに言われてきただけですから」
「お前、ランクは?」
「僕のランキングは……さんまんにせんはちじゅうさんいです」
「さんま……はぁああああああああ!? おい! どうしてこんなランクの低い奴が今回の任務で一緒なんだよ!」
青年冒険者は僕のあまりの低ランクぶりを聞いたせいで、驚きで叫び出す。
ほーらやっぱりこうなった。っていうか絶対こうなるでしょ。完璧に考えられたことだよね。ミスだミス。アシュレイさんを、あうとー。
「あー、僕もー、受付の人に言われてここに来ただけだからー、よくわからなくてー」
正直もう受け答えとかなんもかんもめんどくさくなってそんな風に言い始めた僕。誤魔化してしまえ的な危機回避行動だ。棚上げ的後回し的な、あまりよろしくない行為だとは重々承知しているんだけど、言い返したってしょうがない。それに僕はアシュレイさんに頼まれてきただけなのだ。悪くない。むしろ被害者的に慰謝料が欲しいまである。
なんか青年冒険者はさっきからいろいろ文句を喚いている。内容? 全然聞いてないや。
「スクレ、助けて」
「これはアキラが悪い」
「いや、うん。確かにそうなんですけどね」
これは言い訳できない。こんないちゃもんを付けられるのは、真面目にランクを上げてない僕が悪いのだ。悪とは言わずとも、不真面目と言われて仕方がない。仕方がないけど助けて欲しい。
「でもさ」
「だめ。甘やかすのは私の主義じゃない」
「僕は甘やかされたい切実に」
「そんなんじゃいつまで経ってもそのまま」
「僕はいつまでもこのままでいたいんです! 変わらない僕でいたいの!」
「なんかいいこと言ってる風にしてるけど、単にそれは怠け者なだけ」
僕とスクレがそんな茶番で誤魔化そうとしていると、除け者にされていた青年が怒声を上げた。
「おい! 人の前で痴話げんかするな!」
「いや痴話ゲンカってね君ね」
「照れる」
スクレールさん、どうしてそこで頬を赤らめるし。
「でもこんなに言われちゃしかたないよね。それじゃ僕は――」
「おい、やめろ」
「あ?」
僕が退散してしまおうとした折、ハーゲントさん含むチームのメンバーや、続々と集まってきた他チームの人たちが青年の前に立った。
まるで彼の発言を抑え込むような行為だ。頼もしいけど、そのせいで僕の仕方ないから帰っちゃおうムーブは機を失って阻止されたわけなんだけど。
「あ、アキラくんだー」
「まーた何かしょうもない話でもしてるの?」
「あいかわらずだよね」
「そろそろレベルに合った言動心掛けないといけないと思うよー?」
「……はい、すみません」
挨拶代わりにとばかりに、到着したばかりの双子ちゃんたちに呆れられる僕。まあ僕のせいではあるんだけど、何か妙な話をしてると全部僕のせいみたいに当たりを付けられるのは、甚だ心外であるけど…………まあ、大体僕だから何も言えない。
そんなユルい会話はともあれ。
さっきの青年冒険者がハーゲントさんたちに文句を言う。
「だってこいつランクが三万台なんだぞ!?」
「そうなのかもしれんが、彼は魔法使いでポーションマイスターだ」
ハーゲントさんがそう言うと、青年冒険者も驚いた顔をする。
「え? そ、そうなのか?」
「ああ、そのはずだが」
そう言って、みんなこちらを見てくる。
ふむ。魔法使いというのは正しいよね。魔法使いっていうのは。
「……あ! そういえばそうだった! 僕ポーションマイスターだったよ!」
「…………」
突然、集まったみんなが僕のことを、ざんねんないきものでも見るような目で見始めた。もうみんなスクレばりにハイライトが消えたジト目。すっごい心に突き刺さる。もう心臓穴だらけになるくらい。
でもだって仕方ないでしょ、それに関してはするっとまるっと忘れてたんだから。それにマイスターの仕事みたいなのしたのだって、つい最近の品評会に出たときくらいなのだ。ほとんど開店休業状態なんだもの。
……あー、でもそれでアシュレイさんは大丈夫だって言ったのか。確かに現地で的確なポーションを処方できたら、メンバーもすごく助かるわけだし。実際僕も状況に分けたストックいろいろ持ってるし。
「ポーションの効果は保証するよ。なんてったってはちみつポーションを作ってくれたんだ。あの翠玉公主も褒めてたって言うぜー」
いま援護してくれたの、『ユルい集い』の怪着族の人ね。
そう、あれのおかげで僕は怪着族の間でまさか一躍有名人になってしまったのだ。
最近では感謝の言葉は鳴りを潜めたけど、代わりに毎度にこやかに挨拶されるようになったね。こんなんだから思った以上にポーションマイスターということが広がりそうで戦々恐々としているよ。
「潜行の実績は保証する。そうだな?」
ハーゲントさんが周りの人に声を掛けると、同意してくれる人が何人もいた。
よくよく見れば、集まった面々はなんだかんだ顔見知りの人たちが多い。
だいたいが安全地帯で詰み状態になって助けた人たちだ。
……うん、そう言えば僕って結構他の冒険者を救助してるんだよね。
そりゃあ僕を知ってる人も増えてくるのか。
なるほど、アシュレイさんが「大丈夫なんじゃない?」って言うわけだわ。
あ、ヤバい。僕が魔法使いっていうことが着実にいろんなところにバレていってる気がする。
「う……それなら、まあ。文句はねえよ」
「いや、なんか妙な話になってゴメンね」
「…………まあ、受付嬢がきちんと選ばないわけないよな。俺の早とちりだった」
青年冒険者とは、そんな感じで仲直りした。
「でもアキラは罪深い」
「そこ! 折角うまいこと納まったのに蒸し返さない!」
「蒸し返さないと改まらない。そろそろきちんとした方がいい」
「ぐうの音も出ない!」
ともあれそんな話をして、救助のための簡単な会議となった。
●
なんでも救助を求めてきた冒険者さんの話では、例の要救助者は件の階層にある丘の中腹くらいの場所で身動き取れなくなってしまったらしい。
はてさて疲労か毒気に当てられたのか、そのどっちもか。
メンバーたちの力ではそこから降ろすのも難しくて、迂回するのもまた大変だから、応援を呼びに走ったというわけだ。引き返す途中にも冒険者のチームはいたそうだけど、まあ「【屎泥の泥浴場】に取り残された仲間を助けたい!」なんて請われて、はい、いいですよ協力します。なーんて快く言ってくれる聖人君子のように奇特な方々なんてそうそういるわけもない。受付に戻って上級国民的な人に連絡取って、どうにかこうにか救助隊が組織されたというわけだ。
これその場に魔法使いがいれば変わったんだろうけど、メンバーに魔法使いはいないという地獄ぶりだったそうだ。そこは頑張って降りようよとは言いたいけど、レベルが低いからジャンプしたら膝壊しちゃうんだろうね。ヤギやカモシカを見習いなさいと言てやりたいものすごく。
そのメンバーさんたち? 彼らもほうほうの体で戻って来たらしくて、再度の潜行は受付から止められた。二次遭難になるのは目に見えてるし、一緒に潜る救助隊の迷惑になるからね。いない方が楽だってさ。
「最悪適当なところで捜索を打ち切ってもいい。責任はギルドが取る」
とは、ハーゲントさんたちのチームを担当する一番受付の受付嬢さんの言葉だそうだ。
まあこれが妥当なところだろうね。ギルドとしては、自分たちの収入源である冒険者をこんな形で失うなんて嫌すぎるもの。そりゃ両天秤にかけたら傾くのはこっちだよ。ギルドから見て、冒険者は中堅がでっかい稼ぎ頭なのだ。無理しない範囲でって言うよね。
というわけでやってきました迷宮深度25【屎泥の沼田場】。ここに来るのっていつ以来だろう。確か先輩と一緒に、■■■■とか■■■■■■■を冒険したときだっけ。もう固有名詞ですらあんまり思い出したくないよあんなところ。
ほんとことあるごとに言うけども、この階層はほんとにヤバい。マジでドムドーラそのまんま。だってブロック積み上げてもすぐ汚染されそうなくらいにはどくどくしてるんだもん。色合いが紫紫しすぎてる。最初の人とかどうしてここを冒険しようと思ったのか甚だ疑問だよ。僕なんか足元ぬちゃってしてる時点でもう行きたくないもの。
それじゃ、今回救助隊メンバーに選ばれたチームの紹介に移ろうか。
まず、チーム『果てなき輝き』のメンバー。
ここはチームリーダーであるハーゲントさんを筆頭に、平均年齢大体三十代以上というそこそこ高年齢のチームだ。中堅ベテラン冒険者の名前を訊ねると、ほとんどの確率でこのチームの名前が挙がるくらい有名で信頼度が高い。よっぽどヤバいことが起こらなければ、安心安全は保障されてるというほど安定した活動実績を誇る。やっぱり冒険者に必要なものは安定だね安定。
……まあ『果てなき輝き』の担当の受付嬢、絶対このチームに頼み込んだだろうねっていうのがわかるくらい今回の救出作戦の核になるチームだ。僕も何度か迷宮でお話をしたり、正面ホールで挨拶したりすることがあるくらいには顔見知りだね。
そんで次、チーム『ユルい集い』のメンバー。
僕が正面ホールでまったりしてるときとか、迷宮からの帰り道とかときどき一緒になるチームだ。他種族混成チームで、雰囲気はみんなゆるい感じのお兄さん風。任務だとか実績だとかにガツガツしてないところがいい。チーム名と雰囲気はともかく、実力はかなりお高めで、バランスもいい。
なんだけど、向上心に欠けているのと、みんなそれぞれの種族的にマイペースなところというのがいまいち評価が上がらない理由らしい。それがなければランクはもっと高いんだとか。面倒な迷宮任務とか受けたくないもの気持ちはわかるよすごくね。
三番目、チーム『秘水の加護』のメンバー。
ここは最近実力をメキメキと上げているチームの一つだ。前にミゲルも評価していたけど、かなりの速度でランクを上げていて、いろんなところから注目されている。上がる速度が速いってことは、コンスタントに迷宮潜行を行っていることになる。特徴って言えば、チームの中核である青の魔法使いの双子ちゃんたちかな。なんていうか、いつもわいわいきゃいきゃしてるからよく目立つ。
このチームもなんだかんだ関わり合いがある程度には知り合いだ。ここのみんなからはよくアキラくんと呼ばれている。
そして最後、『ぶらすとふぁいやー』のメンバー。
ここはあれね。ちょっと危険度合いが高いチームだ。いや悪い人は一人もいないし、活動内容もおかしなところはないんだよ? ただちょっとね。いろいろあるのだ。これに関しては後述する機会があると思うのでいまは割愛する。僕がここの面々とお知り合いなのは彼らが遭難しかけてて救助したことがあるからだ。自分たちの起こした炎に巻かれるとかほんとやめて欲しい。そこはきちんと管理してお願いだから。
そのほか、僕とスクレ、さっき突っかかってきてすぐ仲直りした青年ダイバーさんとかいろいろさまざま。
あとは要救助者を運ぶための荷車を引く運搬役の人たちかな。
「運ぶのはオレたちに任せろ!」
「仕事はきっちりこなして見せるぜ!」
「俺たちの筋肉は魔法だ!」
自分の筋肉を見せつけるかの如くポーズを取りまくる運搬役の方々。しかも、死ぬほど薄着。ふんどし一丁ならぬハーフパンツ一丁だ。もうすでに暑苦しい。
「…………」
「…………」
まあ、こんなん見せられたらみんなして黙るよね。
そんな恰好でよくこんなところに潜れるなと思うけど、この人たち荷運びや晶石杭の運搬などで【屎泥の泥浴場】はそこそこ潜行実績があるそうだ。
っていうか毒を筋肉で解決できるとか異世界人強すぎない? なんか酵素とかホルモンとか出て分解されるのだろうか。僕とは別の生命体を疑うよ。
彼らが無闇矢鱈にマッスルなポーズをおキメになっていると、隣でスクレールが「むさい……」と言って呆れている。気持ちはわかる。暑苦しい。ずっと見ていると眩暈がしそう。ぐるぐる。
そんなこんなで、救助隊のリーダーはこの中では一番ランクの高い『果てなき輝き』のハーゲントさんが務めることになった。歳も一番上だし、人をまとめるのにも慣れてるそうだし。
魔法使いは僕と『ユルい集い』のラーダさん、『秘水の加護』の双子ちゃんたち、『果てなき輝き』の魔法剣士エリーナさん、『ぶらすとふぁいやー』の面々だ。
そんなこんなで【屎泥の泥浴場】に一歩踏み込んですぐ。
「相変わらずここには輝きというものがないな。どこもかしこも淀んでいる」
「ほんとねぇ。ここは私のお母さん力をもってしても癒せないわぁ」
「クドー君とかはともかくなんで僕たちにまで救助要請したのかなぁ?」
「メンバーのバランスを取ったんだろ。この面子を見ればわかる」
「リーダー。ガツガツ行くよ! ガツガツ!」
「そうそう! きちんと実績上げなきゃランクなんかすぐ落ちちゃうんだからね」
「ぼ、ぼくはそこまで気負わなくてもいいんじゃないかってね……? ほら、もっと地に足を着けた方がいいかなって、ね? ね?」
「焼こう。ここは焼くに限る」
「燃えたときの臭いはまったくエレガントじゃないけどな」
メンバー各自、階層に踏み込んだ感想を口にしている。
『秘水の加護』のリーダーさん。地に足を着けるのは僕も全面的に同意だけど、この階層は足が沈むからおすすめしない。ガツガツするつもりはないけど、さっと行ってさっと帰るのがベストだよ。
そんなことを考えつつ、僕はポーションの入った小瓶を取り出した。
「アキラ、それは?」
「これ? これはね、浄化のポーションだよ」
「またアキラがおかしなもの持ってきてる……」
「おかしなもの言うなし。ま、気休め程度のものってことで一つ。あ! みなさんちょっと横並びになってくださーい!」
ポーションを霧吹きに詰め替える作業をしてから、僕が声を掛けると、みんなきちんと並んでくれる。
横並びになったみんなにそれをぷしゅぷしゅと吹きかけた。
キラキラした光の粒子みたいなのが周りに舞い散る。
すると、ハーゲントさんが、
「クドー君。これにはどんな効果があるんだ?」
「ここ、歩いていると瘴気とか毒気に当てられて調子崩すじゃないですか。それを和らげるポーションです」
「やはりそれもポーションなのか。だがそんな便利なポーション一体どうやって……」
「いや、まあそれは秘密ってことで一つ」
「う、うむ。そうだな……」
……うん。これが、無臭タイプの抗菌消臭剤をポーションに混ぜたものだとは言うまいよ。ポーションにはちみつレベルで適当な代物なのだこいつも。ついつい目がお空の方へ泳いでしまう。
一方でこれを吹き付けたみんなはといえば、「おお! ほんとだ!」「深く息を吸っても気持ち悪くならないぞ!」とか言っている。思った以上に効果はあるみたい。っていうか僕は毒気や瘴気に当てられて気持ち悪い程度で済む冒険者の皆さんをすごいと褒め称えたいよ。どうなってんねん異世界人の身体の構造は。僕なんかレベル上がっても帰りは別の階層で一休みも二休みもしないと動けないっていうのに。
ともあれ、これで最低限ポーションマイスターとしての仕事はした。
それで、そろそろ動こうというわけだけど。
「緑や紫の沼はポイズンな沼、茶色の沼は底なし沼、黄色の沼はしゅわしゅわする沼っと」
僕は念のため、冒険ノートを確認する。
緑は一般的な毒気を発する猛毒の沼。
紫は瘴気とかいう異世界的な呪的毒素を発生させるやべー沼。
茶色はオンラインストアじゃないジャングル的な場所にありそうな底なし沼。
黄色は入ったら骨までとろけるチーズ(ゴーダ)な酸の湖。
ここはほんとやばいところでいっぱいだ。そんな場所を跋扈するのは粘性の魔物【粘液汚泥】で、こいつらも人をとろけるチーズにしてしまう。きっと成分は硫酸か苛性ソーダだ。シチューメーカーの称号を贈りたい。これがフッ化水素酸だったら恐怖の生物として君臨するだろう。ゲルアキにはなりたくない。
「よし、目的地に進むぞ! 全員気を引き締めてかかれ!」
ハーゲントさんの号令で、僕たち救助隊のメンバーは進み出したのだった。
【ご報告】
このたび、本作『日本と異世界を行き来できるようになったので、とりあえずいまはレベル上げに勤しんでます』が書籍化する運びとなりました。
いえーい! どんどんぱふぱふ!
……はい。大丈夫です。幻覚とか見てません。一応作者は正常です。
マイクロマガジン社、GCN文庫様からの書籍化で、イラストを担当していただくイラストレーター様は「かれい」先生です。スクレールや新キャラなどの可愛いイラストが出て来るぞ!
そして書籍化にあたってタイトルが現在のものから
『放課後の迷宮冒険者~日本と異世界を行き来できるようになった僕はレベルアップに勤しみます~』
に変更されます。
今後は書籍化に合わせて、WEB版のタイトルも変更いたします。
ちょろちょろ加筆もしてありますので、WEB版を読んでくださっている読者様方も楽しめる内容になっているのではないかなと。
具体的にはとあるキャラのデレ度が増しているところでしょうか。
発売日は11月20日です。もしよろしければですが、お手に取っていただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。




