第27階層 恐怖! 緑青に煙る街
【登場人物】
九藤晶…………本作の主人公。超絶ビビりの小心者(本人談)であり、怖いものが大嫌い。もちろん、お化けとか幽霊も嫌いである。
師匠…………師匠。黒い帯と靄にとり憑かれた女性。今日も今日とて晶をそそのかしてダンジョンへ。その目的は不明。
はっきり言おう。いま、僕の気分はとても暗い。ちょー暗い。うん。たとえ控えめに言ったとしても、暗澹たるものというのは間違いないだろうね。
運動の嫌いな子の、運動会やマラソン大会当日の朝の気持ちとか。
作文嫌いな子の、読書感想文を書かなきゃいけない日とか。
夏休み最後の日のどんより暗雲立ち込める気分にだってきっと負けてない。
さて、一体なにが僕の気分をそんなどん底まで突き落としているのか。
そんなのもちろん、異世界の迷宮関連に決まってる。
そう、今日の僕の精神的コンディション激烈低下の原因は、自由都市フリーダ、ガンダキア迷宮三大ホラー階層の一つである、通称『街』が関係している。
関係というより、ぶっちゃけそれ自体がなんだけども。
ここ、正式名称を、『緑青に煙る街』という。迷宮深度は22。まあ僕のレベルだったら、お散歩とまではいかないけれど、油断しない限りはおかしなことにはならないだろうっていう深度設定の階層だ。
まあ、ここがヤバいのは、そういう「辺りを蔓延るモンスの強さがやべー」とかじゃないのだ。
内装は内臓です的な『内臓洞窟』みたいな僕のSAN値を1D6+1とか2D10で減少させるタイプの階層って言えばわかると思う。
で、ここ『緑青に煙る街』は三大ホラー階層の別名通り、お化けが出るのだ。お化けって言っても、レイスとかモンスター系のお化けなんだけど。まあ僕からすればどっちもお化けに違いないよ。ジンとかデーモンとかファントムとかそういった細かい分類なんて僕にはわからん。地獄先生でも呼んできてプリーズ。
ともあれこの階層、お空は真っ暗。月明かりだけが煌々としている、夜のお時間だ。今日は僕お休みの日で、朝から潜りにきたわけだけど、この階層は『常夜の草原』と同じで常に夜という、どっかの神々的なスキームさんが運公表をめくるの忘れたみたいなことになってる階層である。ここで、「明けない夜はないんだぜ?」なんてよくあるかっこいい決め台詞は絶対に使えないだろうね。いやまあ別に明日が来ないわけじゃないんだけどさ。
それ以外にどんなところなのかと言うと、簡単に言えば朽ち果てた廃墟群って感じだ。
中東とかの映像でよく見る壊れた町とかじゃなくて、どちらかって言えば、アメリカンな感じものだ。ストリートが通ってて、そこを挟むように窓やドアに板が打ち付けられた家々が立ち並んでいるって感じのが、いくつもあるっていうような、まあそんなのそんなの。
こういうゴーストタウン的なところは、以前ライオン丸先輩と一緒に潜った『地下都市』を思い出すけど、あれとはまたちょっと違う。あっちも怖いけど、こっちの怖さはまた別だ。むしろお化けが出てくるからこっちの方が怖いまである。僕にとってはモンスターの強さよりもそう言った恐ろしさの方が切実だ。だからってあそこには二度と行きたくないけど。内臓? 内臓はここよりもダメに決まっておろう。
まあ、ピエロが出ないだけマシだけど。というかここにピエロがモンスターとして出てきた暁にはもう二度と絶対来ないだろう。第二の内臓だ。別に僕は道化恐怖症じゃないけども、夜に突然ピエロの格好した奴が襲ってきたら誰だって怖いでしょおしっこ漏らして気絶する自信しかないわい。
というかそれがマジで出てくるステイツの方がこっちよりも怖いよ。あんなドッキリマジ死すべしだ。あんなこと平気でする奴らに慈悲を掛ける必要はないと思われ。
それはそうと、今日の僕は、なんとソロじゃない。最近ソロじゃないときが多いけど、今日は師匠と一緒だ。え? 師匠もお化けと似たようなもんだって? 大丈夫、それはすでに僕が口にして、ひどい目に遭わされたから。
「にしてもお前、足ガッタガタだな」
「だって仕方ないじゃないですか! ここリアルでお化けが出るんですよ! 僕なんかレイだかゼロだかいうのの世界にまかり間違って迷い込んだ一般人みたいなもんです!」
「へえ、一般人な。魔法が使える奴が一般人か?」
「えっと、一般人じゃなくても、小市民ってことは確かかな?」
「お前もよく言うよな。まあ、そういうことにしといてやるよ」
師匠。いつものように黒い帯みたいなものにまとわりつかれ、周りに黒いオーラとか霧みたいなものが漂っている。正確の方はまーいつも通り、平常運転だ。掴みどころがなくて、でも僕が一言多いときちんとお仕置きしてくる。
平常運転じゃないのは僕の方なんだけど。
「嗚呼、なんで僕はこんなところに来てしまったんだろう……」
「ちょっとくっつかれたくらいで舞い上がって、さー行くぞーとか張り切りだした奴がなに言ってるんだよ」
「ああ。一時間くらい前の僕を呪い殺してやりたい」
「たとえ過去へ戻っても変えられなさそうだな。お前、なんだかんだ生き方が刹那的だし」
「そんなことありませんよ。僕ほど慎重な人間なんてこの世にはそうそういませんって」
「慎重なのは認めるけどな。でもこうして私の口車と色仕掛けに乗せられてる時点でもうダメだろ?」
「くっ……師匠は卑怯」
「卑怯ってほどのことかよ。お前の脇がゆるゆるなだけだろ?」
そんなことはない。女の子にくっつかれて舞い上がるのは男として仕方ないことだと思う。
でも、今日はどうして来られたって? あれだ。もっと強い呪いにかかってるとあんまり恐ろしくないむしろこっちの方が強くなった気分になる理論だ。師匠シリーズである。ウニさんだウニさん。あと、バケモンにはバケモンをぶつけんだよ的理論も少しある。
何が呪いなのかとかバケモンなのかとかは敢えて言う必要もないだろう。
「お前、いま何かよからぬこと考えただろ?」
「そそそそそそそそそんなことありませんよ! 僕がそんな師匠に失礼なこと考えるなんてあるわけないじゃないですか!」
「そう言ってる時点でもうバレバレなんだよ。タマをきゅっとしてやろうか?」
「ひぃっ! それはやめて! 女の子になっちゃうからダメですぅうううう!」
黒い帯の奥で手をにぎにぎさせるシルエットに、この上ない恐怖を覚える。一部界隈の人にはご褒美でも、そんな趣味のない僕には生きるか死ぬかの大問題だ。
逃げ惑う。ほんとそこはマズい。痛いし苦しいし、しかもワンチャン死んでしまうのだ。
なので、すぐに土下座で謝った。むしろその態勢が良かったのだろう。手を伸ばしても絶対に届かないところにあるため、諦めて許してくれた。「チっ」とか聞こえたのはきっと気のせい。
…………うん、そのうち何か別のお仕置きが出てきそうだけど、極力考えないようにする。逃げだって? そうだよ逃げだよ。世の中、立ち向かう相手は選ばなければならないのだ。師匠に立ち向かうには僕のレベルはまだまだ足りない。ちょっと当てたらすぐ逃げる先鋒でしか対応できないのだ。
「それにしても、今日の装備はまた随分な念の入れようだな」
「ここじゃ何が起こるかわかりませんからね。何があってもいいように、こうしていろいろ持ってきてるんです」
そう、ここに突入した僕の風体はいつもとちょっと……というかだいぶ違う。
サファリの上下はそのままだけど、頭にはサファリハットに代わって蝋燭の付いた金輪を嵌めている。近所の神社のお守りでカラフルな感じであり、神主さんがもってるわさわさした奴が付いた棒、御幣も準備。若干おかしなところがあるかもしれないけど、細かいところは気にしない。
ふいに師匠が、サファリジャケットのポッケからはみ出した紙を指さした。
「アキラ、その文字らしきものが書いてある紙はなんだ?」
「これですか? これは近所の神社のお札です」
「オフダ」
「そうです。これでお化けを払ったり、寄り付かせなくさせたりするんです。なんかここでも実際効力あるみたいですし」
近所の神社の霊験あらたかなお札は、最初の潜行以降、ここでの常備アイテムの一つとなっている。師匠に言った通り一定の効果があるようで、これがあるとレイスがこっちにすごい勢いで突撃してこなくなったり、『背後霊』にとり憑かれなくなったりするのだ。
「ふむ、確かにそこはかとなく力を感じるな」
「やっぱりあるんですね効果。近所の神社ってすげー」
近所の神社ありがとう。なんの神様が祀られてるかは知らないんだけれど、いま僕は一応アメイシスのおじさんの信者だからお礼くらいしか言えないのである。
今度行ったときお賽銭で千円くらい入れようなんて学生にあるまじき暴挙に挑もうかと考えていた折。
「……なあ、お前私にそれ近づけようとしてないか?」
「え? 何言ってるんですかそんなわけないじゃないですかはははーやだなー師匠ったらまたそんなこと言って僕を悪者に仕立て上げようとするんだからもうー」
「いつも言ってるが、お前の欠点はその口だな」
「あ、悪霊たいさーん!!」
「誰が悪霊だ誰が。まあ、私としてはむしろ張り付けてみてくれと言いたいけどな」
「やっぱり師匠の周りのこれにも効果あるとかなんですかね?」
「にしては力が弱いからな。効果があっても気休め程度でしかないだろう」
「そうですか……」
師匠にかかってるものは呪いなんじゃないかと思っていたが、やはり呪いっぽいものらしい。
それなら効果があるかなと、まとわりついている黒い帯にお札をペタッとくっ付けてみると、
「うーん、なんか少し小さくなったというか細くなったというか……心なしかですけど」
「そうだな。ほんとに心なしか、だな」
「これをぺたぺた貼り付けまくってたら、帯の奥が透けて見えるかも――」
「なんか変態的な意味合いに聞こえるよな」
「いえこれはミステリアスなメカニズムを解き明かすために必要となる重要なファクターでして。僕はそれをイシューとしてアサインされたので、プライオリティの高いジャストアイディアを試さなければならず。もちろん師匠のアグリーやコンセンサスが必要ですけど。実際にそういうエピデンスを得ないとですね、こういうのは、レガシーも得られないというか」
「アキラ。難解な言葉を使って丸め込めるのは牧場の羊だけだぜ?」
「さすが師匠手ごわい」
そんな冗談を言い合いつつ、師匠の持ち物確認が続く。
「そっちの袋の中身はなんだ?」
「これはお塩ですよ。市販の塩化ナトリウム製品です」
「塩? そんなもの持ってきて料理でも作るのかよ?」
「いえいえ、これをレイス系のモンスターにぶちまけてですね」
「もったいないな」
「いえ、お清めのお塩はこういう使い方が一般的ですし。むしろ僕の世界ではお塩お安いですし」
「塩が安いか。普通はこれを巡って戦争が起こるものだが」
「僕の世界も昔はそうでしたよ。いまは製塩技術が発達してますんでお塩で戦争なんて起こりませんけどね」
そう言って、瀬戸内海芸予諸島の島の名前がプリントされた袋に手を突っ込む。
「というわけで、くらえ、清めのお塩ー!」
師匠に一掴みの塩を投げつけたら、軽く手で払われた。
「ふむ、残念ながらそれは私のこれには効かないみたいだな」
「みたいですね……」
さっきのお札は効いたけど、こっちは全然だ。手で払った部分にも効果はナシ。となると、だ。セージでのお清めとかも無理なのだろうか。
師匠のこれは本当に何なのだろう。
「ほら、そろそろ行くぞ」
「了解です……っと、その前に」
青いたぬ……猫のロボットモーニングサン初代バージョンばりにだみ声を作り、リュックからこの日のために用意したメインウェポンを取り出す。
「てってれてってってー、インスタントカメラ~」
「またおかしなものを出したな」
「おかしい言うなし。これ、僕のおじさんがやってる骨董屋で交換してもらってきたんです」
「ふん? それは一体どういうものなんだ?」
「これを、こうパシャっと使うとですね」
適当な場所に向かってボタンを押すと、フラッシュが焚かれる。
やがて、写真が出てきた。
黒いままなので、少し待つ。すると、
「へえ! 面白いな……景色が紙に写し出されるのか」
紙材じゃないんだけどね。でもさすが師匠だ。写真なんかこの世界にないのに、一発でこれがどんなものか分かったんだもん。
「だがこれがいまなんの役に立つんだ?」
「これでレイスを写すんですよ! さあこいお化け共! いまだけ僕はお前らのことウエルカムだぞー! こんな機会滅多にないぞー!」
「そう言う割には私の後ろに隠れるのかよ。ホント、ビビり拗らせてるよなお前」
仕方ない。怖いものは怖いのだ。素直に認めるのが強者というもの。僕は弱者のカテゴリーだけど。
そんな風に、僕は師匠の後ろに位置を取りながら、モンスたちに呼びかけまくる。
だけど、こういったときはセンサーが働くのが世の常だ。
僕の情けない呼びかけに反応して出てきたのは、僕の大嫌いな『居丈高』だった。
「うgyぁあああおあえあ!? お前は顔のぞかせるな! お前はお呼びじゃないんだよっ!」
こいつほんと嫌いだ。いや僕がこの階層で嫌いじゃないモンスなんてどこであろうといないんだけどさ。
この『居丈高』、全身真っ黒で全体的にのっぺりとした人型のモンスターだ。海外の心霊映像で良く出てくるタイプの霊みたいなヤツである。正直言って死ぬほど不気味。っていうか超怖い。冗談抜きに卒倒しそう。
こいつは他のモンスターと比べて行動パターンや思考ルーチンが異なっており、視界に入れても離れた場所で立ち止まるのだ。それで大丈夫かなーと思って視界から外すと、音もなく近づいてくる。
要はこいつ、だるまさんがころんだを仕掛けてくるのだ。まったくもって迷惑千番。
そんな遊びは友達や飼い猫とするものであって、決してモンスターとするものではないということをここで宣言しておきたい。目の前に来た瞬間、背中を向けた瞬間人生からガメオペラとか正直ほんとシャレにならん。ホラーな遊びはゲームの中でだけでしていただきたいと思う常日頃から。
にしても、ほんとどうして迷宮のモンスターはどいつもこいつもだるまさんがころんだが好きなのだろうか。いや、人間追っかけ回すから常に鬼ごっこしてるようなものだけどさ。
でもってそんな『居丈高』には、即座に雷の魔法をお見舞いしてやった。
雷の魔法を撃つ。相手は死ぬ、だ。身体がゴムで出来てるっていうなら話は別だけど、そういう不思議人間は漫画にしか登場しないから大丈夫。こういうところはモンスで良かったとほんとに思う。ガチの幽霊とか魔法が全く利かなそうだから、ほんとそこだけ。そこだけはありがたい。ここ重要だ。
僕が師匠の後ろでうだうだしていると、やがてお目当てが出てきた。
「あ、レイスだレイスだ! よぉし!」
ポラロイドカメラを構える。僕にとってはいまだけこいつは、銃火器みたいなものだ。
カメラ越しに覗き込んで、ピントを合わせて、パシャリ。
カメラを顔の前から避けると、レイスは……消えていた。
「ふおおおおおおおおおお!? やった! やったぞ! マジで心霊カメラ!」
やがて、自動的に現像される。そこにはやはり、レイスの姿が写っていた。
「これは、海外のとあるゴーストタウンで撮影された一枚の写真である。打ち捨てられて久しい廃墟群は、なんともいえないもの寂しさが感じられる」
僕はそんなことを言いながら、師匠に写真を見せる。
「おわかりいただけただろうか?」
「…………」
「写真上部に、巨大な顔が見える。これは、このゴーストタウンをさまよう怨念とでも言うのだろうか?」
そんな語りをしていると、やがて師匠が呆れ声を掛けてくる。
「アキラ、そういう妙な遊びは戻ってからにしろよ」
「そんなこと言わないでください! この妙な遊びを本気で仕事にしてる人だっているんですよ!」
「暇人だなぁ」
でも、心霊番組はなんだかんだ見ちゃうのだ。
テレビ局の人、もっと心霊番組増やしてお願い。いや、まあいまは夏だろうが冬だろうがユアチューブに一杯あるけどさそういうのは。海外のヤツとか結構怖いのがあるし。昔みたいに世の子供を夜のトイレに行けなくさせてしまえ。
「やべー! レイスだけだろうけどフィルムがある限り無双できる!」
「ちなみに出てきた『しゃしん』はどうするつもりだ?」
「もちろんファイヤーですよ! 心霊写真で投稿するにもなんか写り方が嘘くさいですし」
「燃やすのか」
「そうです! この世にある僕の精神的安定を崩そうとするものは全部撲滅です! 滅! 滅! 滅!」
「ほんとかわいそうになるくらい必死だな。ウサギの方がまだ図太いぜ?」
「僕の世界のウサギはもっと繊細なんです。この世界のウサギはなんでああなんですか! ウサギの皮を被ったナマケモノとかカピバラとか言われても信じますよ!」
「知るか。ほら、また一つ彷徨い出てきたぜ?」
「冷蔵庫に入れてカチカチにしてやるぁああああああああああ!!」
僕は狂気の叫び声を上げながら、片っ端から写真を撮りまくる。
おばけなんかうそじゃないぜマジさである。
そんな風にひとしきりレイスと戦った? あと。
「はー、はー」
「一歩も動かずに息を切らせるなんて器用なことできるな」
「ししょー。ししょー? ねえ、もうそろそろ帰りません?」
「なんだ。まだ来たばかりだぜ?」
「そうですけど」
「それに、お前の言う無双が出来てるだろ? なのになんで帰りたがるんだ? 腹いっぱいになるまで復讐してやれよ」
「いえあの、こういうところっているだけで精神的にガリガリ削られるんですよ」
「そんな風に思っているからそんな気持ちになるんだ。それに、ここには、お前の言う癒し動物もいるだろ。ほら、あれだ。【無貌の羊】が。会いに行くか?」
「はぁ? 僕はあれを癒し動物とは認めませんよ! なんですかあれ! 羊のぬいぐるみと飛騨のお土産のさるぼぼを合体させたようなやべー妖怪は! 顔ないんですよ! 僕なんか初めて来たときリアル「むじな」をやられたんですからね!」
そう、僕が奴を癒し動物だと信じて後ろから助けを求めるように近づいたときだ。振り向いたそいつには顔がなかった。もちろんリアルに「ほんぎゃぁあああああ!」という悲鳴を上げてしまったくらいビビったさ。
「そもそもあれどうやって生きてるんですか!」
「口があればまあなんとかなるんだろ」
「目と鼻もください! そこはどうか退化しないで!」
そう言って肩を上下させたあと、大きなため息を吐く。
「ねえ師匠、さすがにもうここは一人で来てくださいよ。僕も結構ギリギリで限界でチョップなんです」
「……嫌だ」
「どうしてですかぁ?」
「どうしてもだ。お前だってここに一人で来るのは嫌だろ?」
師匠にしては珍しく僕に頼ってくれてるみたい。
そんなこと言われちゃったらなー、僕も悪い気はしないなー。
「ふふふ、師匠はそれだけ僕のことを頼りにしてるってことですね」
「そうだな。それは間違いないな」
「な、ならもうちょっと頑張っちゃおうかな」
うん。師匠が素直に僕を頼りにしてくれていることがちょっと嬉しくて調子に乗ってしまった。
普段頼りにされない人から、頼りにしてもらえるのってなんだか嬉しく感じてしまうあれだ。
…………当たり前だけど長続きしないんだけどさ。




