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第19階層、糖衣の開発は偉大その1 約10000文字


【登場人物】


 九藤晶……主人公。以前に作ったゴールドポーションのせいでマイスターにさせられる。


 アシュレイ・ポニー……九藤晶ポーションマイスター化計画にかかわった人間の一人。発案はギルドマスターであるため実行犯というのが正しいか。


 メルメル・ラメル……フリーダ在住のポーションマイスター。小規模の工房で経営に行き詰まっていたが、ゴールドポーションのおかげで経営難から脱する。晶が作ったゴールドポーションの原料となるポーションの製作者。




 それは、ある日の午後。冒険者(ダイバーズ)ギルドの受付に行って「いまから迷宮(ダインジョン)潜りますよー」「今日は第一ルートを適当にぶらぶらしまーす」「お土産は持って帰りませんからねー」的な話をしようとしたときだ。



「――ポーション品評会?」



 アシュレイさんから、そんなのが開催されるなんていう僕には至って関係ないお話を切り出されたのは。



「そう、出ないといけないのよ」


「アシュレイさんがですか? なんか大変ですねー。受付の仕事もあるのにそんなのに出なきゃいけないなんて仕事割り振られすぎでしょ? 僕だったら絶対嫌だなー。もっと楽なお仕事して稼ぎたいなー。迷宮潜行(ダンジョンダイブ)とかー」


「ううん。出なきゃいけないのは私じゃなくてね」


「じゃあ知り合いの方ですか?」


「まあ一応知り合いね」



 そうなんだ。



「あ、僕突然用事を思い出したんで帰りますねー」



 嫌な予感がしてきゅ、くるっ、きゅっと回れ右したら、受付から身を乗り出したアシュレイさんに捕まえられた。



「待って待って待って行かないで」


「待たない待たない待ちたくない。行かせてくださいさようなら」


「クドー君、冗談言ってたってお話進まないから」


「僕はそのお話進めたくないんですってば! むしろここで停滞して企画自体凍結されろまであります!」



 うん。だってこのまま話が進むと、絶対僕に出ろとかそんな話になるもんきっとというか絶対。この前ポーションマイスターにさせられて、ショップとの取り引きの話をして、ゴールドポーション卸すことになって、かなりポーションの沼に足を突っ込むことになったのだ。絶対そうだ。そうに違いない。すでにフラグが乱立してるんだもん。



「……まあ、そういうことなの。クドー君がその品評会に出なきゃいけないのよ」


「うわ! 話聞かないからって直球でぶっこんで来たよこの人!」


「だってー」


「あーあー、やっぱりそういう流れなんだ。僕はっきり言ってめんどいのでパスしたいです」


「めんどい言わない。ポーションマイスターは何年かごとに成果物を発表しないとだダメなの」


「知りませんってそんなの。ていうか僕マイスターになって一か月とちょいくらいなんですけど」


「不幸なことだけど、発表する日はあらかじめ決まってるから回避できないの」


「でもなんかそれおかしくないですか? 普通なったばかりの人ってそう言うの、出ないと言うか出られないんじゃ」


「それがね、ポーションマイスターの資格を得られる試験って言うのは三年に一度しかなくて」


「ほうほう」


「それで最後に試験が行われてからもう二年経ってるの」


「ふむふむ」


「つまり試験に受かってマイスターになった人は、最低でも二年はマイスターとして活動しているわけ。わかる?」


「あれ? おかしいな。僕試験とかした覚えないけどなー」


「ええ。だってクドー君の場合はギルドマスターの権限で試験なしに無理やりマイスターにしたから」


「だから二年の猶予とか関係ないってことですか?」


「そうなるみたいね」


「そうなんだーそれじゃー仕方ないなーうんうん…………なんて話になるわけないでしょ!」


「やっぱダメ?」


「ダメですよ! ……っていうかアシュレイさん。僕、ギルドの都合でマイスターにされたんだから、そういうの免除にしてくださいよ」


「それについては私も掛け合ったんだけどね、マイスターになって最初の品評会だからどうしても出さないといけないとかでギルドマスターからもお願いされて」


「えーでもポーションの研究とか最近めっきりしてないしー」



 僕のポーション開発はすでにゴールドポーションを生み出してからストップしている。これとあとは、市販のマジックポーションがあればもうほとんどの状況を打開できるから、もういいかなーって感じで終わってしまったのだ。



 ……それに、だ。よくよく考えるとこのお話、全部向こうの都合ではないか。

 ポーション作って卸して欲しいからマイスターになってくれとか。

 マイスターになったから今度は品評会にも出てくれとか。

 そんな都合僕が知るか。こんなの聞かなくちゃいけないとかちょっとというかかなりおかしい。



 そっと窓口にマイスターのカードを差し出す。



「僕マイスターやめますね」


「それはやめてお願いだから! ほんとにお願いだから!」


「だってめんどうですしおすし」


「わかるよ。わかるけどね。人生そんなものでしょ? 理不尽ばっかりなの。気ままに生活できるのなんて、相当世の中捨てないとできないわよ?」



 かもしれない。社会に出れば、この比ではないくらい理不尽が待っているだろう。

 だからこそ、僕はこっちの自由な生活を維持していきたいと思っているんだけどね。



「もちろん条件は付けたわ。ゴールドポーションを作っていることは漏らさない。冒険者としての活動は今後も保証する。クドーくんが望むのなら条件はまだ増やせるわよ」


「おお! なんか今回のアシュレイさんは神対応してくれてる」


「この前、ゴールドポーションの件、呑んでくれたからね。それくらいは苦労してあげるわよ」


「さすがっす。僕、一生ついていきます」


「なら棒読みやめてよ」



 仕方ない。マジで感情込めたら、なに買わされるか知れたもんじゃないもの。



「じゃ、受けてくれる?」


「ギルドマスターに貸し一つって条件追加してくれたらいいですよ」


「……クドー君、ギルドマスター相手でしかも会ったこともない人に貸し付けるとかよく言えるわね」


「主導権は握らせませんってことを意思表明しておかないと、今後またなあなあでズルズルお仕事引き受けなきゃならなくなるかもしれませんし。もしそうなったら――」



 そうなったらどうしようか。先輩とか師匠とか頼ろうかな。なにかあったら遠慮なく頼れって言ってもらってるし。穏便さ死滅してる選択肢かもだけど。



 ……なんだけど、ふとアシュレイさんの顔付きが急に変わった。



「――わかった。わかったわ。そのお話はきっちり通しておくから、来ないなんて言わないで」


「……? は、はあ?」



 アシュレイさんは何か勘違いしているみたいだ。まあ確かに来たくなくなるのもあるかもだけど、だからって冒険者(ダイバー)一人来なくったってギルドも困るわけじゃないだろうに。僕だって拗ねてここに来なくなったらなったで損ばっかりだし。



「でもどうしましょう? 僕ポーションの研究なんて特にやってるわけでもないし。どんなの出せとかって聞いてます?」


「うーん、そういった話はされてないわね……」



 何その適当なの。おかしくない?



「適当に顔出して、適当なもの出せばいいんじゃない?」


「それでいいんですか?」


「いいと思うわよ? いずれにせよクドー君の特級マイスターの称号は揺るがないもの」



 確かに、マイスターにはなってくれと請われてなったものなのだ。

 実はお話はすでに通っていて、適当なものでも許される可能性というのも大いにある。



 …………うん、そんなことあるわけないよね。ないわー。絶対ないわー。



「じゃ、なんか適当に持ってきてどうにか切り抜けて。というわけでよろしく!」


「気が乗りませんけど、はーい」



 ――と、異世界でそんなことがありまして、現代日本にとんぼ返り。



「……ということで、なにを作ろうかってなるわけなんだけどさ」



 現代日本の自分の部屋で、机に向かって独り言である。



 ポーションとなれば、自分にしか作れない特別なポーションも、その気になればいろいろと作れると思う。だけど、品評会での成果の提出となると、そう言った僕にしか作れないものとか、ド・メルタで作れないものとかはそぐわないと思われるんだよね。


 →品評会で発表する。


 →特別なポーションがみんなに周知される。


 →僕のところにギルドを通して注文が入る。


 →いっぱい入る。


 →滅茶苦茶入る。


 →僕ちょう困る。



 僕ポーション作製をメインにしてるわけじゃないから、注文が殺到するのはマズい。



「じゃあやっぱり既存のポーションをちょいちょい改良するくらいのがいいのかな……」



 腕を組んでお悩み中。ふと、ポーション作りに手を出した頃のことを思い出す。



「そう言えば前に、いろいろ作ったっけ」



 パンっと手を叩いて、【虚空ディメンジョンバック】を行使。ポーションの在庫をいくつか取り出した。

 中からは、常備用のマジックポーション、ヒールポーション、ゴールドポーション。



 そして、



「あーそう言えばこんなの作ったなぁ。はちみつ味のポーション。回復薬とはちみつで回復薬グレートだーとか言って。結局はちみつの味になって疲労回復効果がちょっとついただけになったんだっけ」



 そう、冗談で作ってみたんだけど、やっぱり冗談にもならなかったってヤツ。結局はこうして残念な結果となったポーションだ。



 まあ飲みやすくなったということに関しては大成功だったわけだけどもさ。

 アシュレイさんも適当なものでいいと言ったのだ。まー、これくらいのものでいいだろう。あんまり頑張りまくって、すごいもの作っちゃったらまたゴールドポーションのときみたいに面倒くさいことになるだろうし。定期的にポーションショップに卸してくれーとかね。



「よし決めた! 品評会ははちみつ味のポーションで行こう!」



 そんなこんなで、ポーション品評会には僕謹製のはちみつポーションを出すことになる。



 ●

      


 そんなこんなで、ポーション品評会の当日。

 自宅で諸々準備をして、まずは現代日本と異世界ド・メルタの中継地点である神様のところへ転移する。



 ……異世界に存在しないものを持って行くときとか、存在しないものを作ったときとかは、必ず神様に確認を取るようにしている。ヤバいもの異世界に持ち込むことになったら困るだろうしね。



 神様を関税職員みたいに扱っているとか超不遜かもしれないけど、これも必要なことだ。

 転移した場所はいつもの場所。真っ白で何もない空間だった。



 神様はそのど真ん中で、休日のお父さんさながらにだらだらごろごろしていた。

 何もない場所で何もしてないとか凄い虚無さを感じるけど、それはともかく。



「神様。こんにちは。あとこれお土産ですー」


「あ、いらっしゃい晶くん。いつも悪いねー。あ! 僕の好きなお菓子だねこれ。どうもありがとう」


「いえいえ」



 いつも楽しく遊びに行かせてもらっているお礼がお菓子とか安すぎて逆に申し訳ないレベルなんだけど、それでも喜んでくれる神様はいい人すぎる。



「あと晶くん。この間頼まれたポーションの件。いいってー。オッケーオッケー」



 金髪シブメンの神様。アメイシスさんが軽妙な笑顔と軽い調子で、OKサインを見せて来る。フランクだなぁと心の隅っこで思いつつ、



「ありがとうございます!」


「ううん。いいのいいの」



 と言って、にこにこ顔。緩い感じだ。でもありがたい限りである。やっぱり雰囲気は近所のおじさんなんだけども。



 ともあれこれでは、ちみつポーションは認可されたわけだ。



 一方で神様は「じゃ、さっそく」と言ってお菓子を開けて食べ始める。さすが神様。フリーダム。



 そんな中、ふとどこからともなく見慣れぬ方がいらっしゃった。

 ライオン丸先輩に負けず劣らずの筋骨隆々っぷりのそのお兄さんは、頭をソフモヒにして、ワイハの帰りさながら、よく日に焼けたアロハシャツを着用していた。



 アロハなお兄さんは、僕のところに歩み寄って来るなり。



「お前さんがクドーか。悪いな。俺の尻拭いさせちまって」



 そんなことを言う。尻拭いとはなんだろうか。ていうかそもそもこの人って一体全体誰なんだろうかとか、いろいろと疑問でいっぱいになる。

 ひとしきり困惑しつつ、まずは神様に縋ろうという答えになって、訊ねた。



「あの、神様? こちらのちょっとアロハで怖い感じのお兄さんはどちらの事務所のお方でしょう?」


「ああ、クドーくん会うのは初めてだね。彼、僕の息子だよ」


「ってことは」


「トーパーズだ」



 おおう。初めてアメイシスさんとは違う神様に会った。

 しかも、一番上の息子さんであるトーパーズさんだ。



 しかし何故服装がアロハなのか。事務所にいそうな感じなのか。そこんとこ小一時間問い詰めたいというかお伺いしたい。

 あとお父さんであるアメイシスさんからの遺伝的なものはどこに出ているのかってところも。



 手を差し出してきたトーパーズさんと握手する。手が超デカイ。つよそう。



「よろしくな」


「はい。よろしくお願いします」



 すると、神様がお菓子を両手にダブルで持ってパクパクしながら、



「今回のはちみつポーションの件、オーケー出したのは彼だから」


「そう言えばポーションの原料を生み出したのがトーパーズさんって話でしたね」


「そうそう。あとゴールドポーションのときもね」



 なるなる。いつもありがとうございますって感じでトーパーズさんを拝んでおく。

 一方トーパーズさんは偉ぶる様子もなく、快活に言う。



「構わんぜ。というか是非頼む」


「是非、とは?」


「まあ、そのうちわかるさ」



 そう言って笑うばかり。そして、



「おっと、そうそう。あと一つ、俺から頼まれてくれないか?」


「頼まれごと、ですか?」


「ああ、そのはちみつ味のレシピが使える奴らを、小規模の工房に限定して欲しいんだ」


「小規模の」


「そうだ」



 小規模の工房とはなんなのか。

 なんかよくわからないけど、よくわからないまま。質問しても行けばわかるさ的な猪木的な一休さん的な清沢哲夫的な迷わず行けよで終わった。



 ともあれ、品評会用に適当に選んだポーションの技術伝達は、神様たちに許可されたらしい。



 ●

      


 ――ヤバい。なんていうか、ヤバい。

 いま僕は未曽有の危機に瀕している。



 神様たちのいるところからフリーダに転移したあと、アシュレイさんに会場を聞いてそこに来たわけなんだけど、品評会の会場に指定された場所が、ものすごく大きなところだった。



 あれだ。コロッセウムとかそんなやつ。

 そう言えばフリーダにこんな施設あったなーとか思い出しつつも、いまは戦々恐々としている僕。



 いや、びくびくおどおどはいつものことだけどさ。だってこんな大掛かりな発表会だとはまったく思わなかったんだもの。そりゃあ驚き桃の木二十世紀にもなる。場違い感が半端なさすぎて心がオートで怖れをなしてる。これはあれだ。ジャージでいいって言われたのに他のみんなは制服で来てたとか、気軽なパーティーとか言われて実はジャケット着用必須のやつとか、そんな不安を駆り立てるあれだ。場違いなんじゃない僕的な。この場合は、持って来たポーションが、品評会の規模に見合わないとかそんなん。



 一体誰だ適当でいいって言ったのは。アシュレイさんだ。うらんでやる。



 周りを歩く人も、いい服着ている人たちだとか、人生懸けてるような的な人たちだとかしかいない。

 耳をすませば「このポーションが認められれば……」とか「黄兄神よ! 私に加護を!」とか聞こえて来る。なんか崖っぷちさ感じるよ。



 ……うん、どうしよう。でも、このまま会場入り口の前にずっといてもどうしようもない。でも入りにくいし、正直入りたくない。実は会場は隣にあるちっちゃなレンタルスペースとかだったりとかないかな。だったらいいなぁ。



 と、そんな風に、僕が入るのに二の足を踏みつつ、現実から逃げ出そうとしていると、近くを地味そうな女の子が歩いてきた。



 黒髪でメガネの女の子。顔はやっぱりこっちの人たちのように西洋風な顔立ちだ。

 だけど、なんかすごく話しかけやすそう。地味とか言ったけどこの地味は罵倒の言葉じゃない。地味ありがとう。地味万歳。ほんとありがとう地味。



 ともあれその人に近付いて、恐る恐る訊ねてみた。



「あ、あああああああの、ポーションの品評会の会場って、ここでよかったんですかね?」


「ええ、ここですよ?」


「あ、ああ、ありがとうございます……」


「……? はい」



 やっぱりそうなのか。別の場所だったらいいなっていう僕の淡い希望は打ち砕かれた。

 どうしよう。ほんとどうしよう。

 僕が現実の容赦なさに絶望していると、ふいにその女の子が話し掛けて来る。



「あの、もしかして、あなたは以前助けていただいた……」


「うん? えっと……」



 助けた……とはどういうことだろ。こんな子を迷宮(ダンジョン)で辻回復した覚えはないし、そもそも彼女は冒険者(ダイバー)らしくない。



 だけど、よくよく思い直すとこの子の顔には見覚えがある。


 確か――



「前に裏通りに入って絡まれてたのって?」


「……はい! その節はありがとうございました! おかげで裏通りを無事に出られて、そのあともいろいろ上手くいって……」



 黒髪メガネの子は僕に感謝の言葉を口にして、その後も上手くいったということを報告する。



 そうか、この子、あのときの女の子だったか。あのときは表通りがやたら込み合ってて、裏通りに入ったんだけど、まさかそこでよからぬ人相のお兄さん二人に、おフランスな書院的な文庫に出て来るような展開に遭わせられそうになっていたのがこの子だ。



 僕がそのお兄さん方をおっかなびっくり脅しかけて追っ払って助けたんだけど、こうしてまた会うことになるとは、人生わからないものである。



 ともあれ、



「それは良かった。魔術かけた甲斐があったよ」


「本当にありがとうございました!」



 女の子は頭を大きく下げる。

 全力で感謝されるのはちょっと面映ゆい。



「あ、自己紹介がまだでしたね。私、メルメル・ラメルと言います」


「ああ! あの!」



 黒髪メガネっ子、まさかまさかポーション作りでお世話になっている人だった。



「知ってるんですか?」


「うん。まあね。僕も一応マイスターだから」


「そうだったんですか」


「僕は九藤晶。クドーが姓でアキラが名前ね」


「クドーさんですね。改めて、ありがとうございます」



 ラメルさん、ちょう礼儀正しい。僕のド・メルタでの知り合いはアクの強い人ばっかりだから、奥ゆかしい人ってなんか新鮮だ。



「では、クドーさんも品評会にお出になるんですか?」


「うん、まあね。だけど僕、こういうの出るのって初めてで。ラメルさんはあるの?」


「はい。私は前の品評会も出させていただきました」


「じゃあラメルさんは先輩だ」


「いえ、そんな……」



 先輩って言ったから、ラメルさんは照れている。



 でも、よかった。気軽に話せる経験者の人がいて。僕の心もだいぶ落ち着きを取り戻した。

 だって小心者にはこういうのに初めて一人で参加とか辛すぎるもの。場違いだったらどうしようとかの不安に押しつぶされてぺちゃんこになる。



 ラメルさんと「一人で不安だった」とか「誰か一緒でよかった」なんて小市民的な話をしていると、ふいに背後からお声がかけられる。



「――これはこれは貧乏工房のマイスターさんではないですか」



 それはまあ露骨に嫌みったらしい声だったよ。一瞬で嫌な奴の嫌みってわかるくらいに、フレンドリーさが欠片もなかったもの。

 僕より一足先に振り向いたラメルさんは、どうやら知っている人だったらしく、



「あなたは……」



 と、いかにも『私この人知ってます』的な反応をする。だけど良い知り合いではないんだろう。顔に警戒が滲んでいて、一方の声をかけてきた男の方も嫌な笑みを浮かべていた。



「お久しぶりですね。あなたとはギルド上階のポーションショップ以来でしたか?」


「……そうですね。その節はどうも」


「ええどうも。あのあとは私の方も大変でしたよ。まとめようとした交渉がご破算になったうえ、取引量も減ってしまったんですからね。ええ、お世話になりましたとも」



 嫌みったらしい顔の男の人は、ラメルさんと何かあったのだろう。先制ジャブさながら、嫌みったらしい顔によく似合う嫌みを言い放って、ラメルさんを威圧する。

 あれだね。性格は見た目に出るってよく言うけど、この人のはその最たるものなんじゃないだろうか。嫌みたっらしい行動をしているうちに、顔の形も変わってしまったのかもしれないね。



 しかも、この嫌みったらしい顔の人、後ろにぞろぞろとゴロツキまがいを引き連れている。ということはなんだろうか、この人、異世界版そういう事務所の人なのだろうか。今日はなんかそういう感じの人に縁がある。こんなのと一緒にして申し訳ないけども。



 すると、ラメルさんが反撃なのか、



「……自分の工房のマイスターの応援に来たにしては、ずいぶんと変わった集まりですね」


「ええ。こちらの者たちはうちの工房に関わる『あらごと』の対処に当たってくれる者たちなのですよ」



 あー、なる。やっぱり黒寄りのグレー的なお仕事にも手や精を出す方々なんだろう。~対策部的な名前で実はヤの付く自由業の人たちと同じようなことをする方々だ。



「そんな人たちを連れて、一体何を?」


「いえ、これから顔見知りの工房の方々にお願いして回るので、もし問題が起こったときに対処できるよう付いてきてもらっているだけですよ」


「お願い……」


「そう、ウチの工房の邪魔になりそうなポーションの出展を辞退してもらうなどですよ」



 そう言って「くっくっく……」とそれっぽい忍び笑いを漏らす嫌みったらしい顔の人。

 正直それは下衆い。ライバル工房の研究成果を出させないことで、ポーションギルドの評価を落とさせて自滅を狙おうというわけだ。



「――ああ、そういえば、あなたもあのときは随分と舐めた真似をしてくれましたね」


「――っ!」



 嫌みったらしい顔の人の言葉に合わせ、ゴロツキまがい共が前に出て来る。

 これってもしかして、



「え? なにこれ? ちょっとそういう流れ? え? バトル的なパターン?」


「そうですよ。バトルと言うよりはあなた方が私たちに一方的に嬲られるんですがね」


「ッ、ここは会場の前ですよ? 正気ですか?」


「ええ。正気ですとも」



 まあ、そのためにここに来たのだから、正気というか業務の範囲なんだろう。

 話の流れから察するに、この人たちはどっかのポーション工房の荒事専門の人で間違いなさそうだ。それで今回は、商売敵である他のポーション工房の人の邪魔を目一杯しようと企てたというわけだ。

 万が一衛兵に捕まったとしても、自分のポーション工房とは関係ないって言って知らぬ存ぜぬを通せば、切り抜けられるだろうし、それにここまで大手を振ってこんなことをしようとしているということは、バックに結構なのが付いているのかもしれない。



「……というかどうしてこうなった」



 今日は一言多かったとか自分の舌禍でもないのに、こんな目に遭わせられるのは理不尽を通り越している。しかも品評会のことだって理不尽の結果なのだから倍率は高めだ。

 まあ嫌だからって言っても今回の状況は逃げられないし。さすがにそこまでひとでなしじゃないよ僕も。やるべきときはやりますとも。



 すると、ラメルさんが後退りながら申し訳なさそうに、



「すみません、私のせいで巻き込んでしまって……」


「いや、ラメルさんのせいじゃないよ」


「でも」


「こういうのは、こういうことしようとしている人が悪いの。オーケー?」


「は、はい」



 ラメルさんに気にしないでと声をかけて、背後に庇う。こういうのはホント嫌なんだけども僕が庇うほかない。誰か助けてへるぷみー的なシャウトをしようかとも思ったけど、みんな遠巻きで見てるだけだ。迷宮の中だったら助けてくれるいい人とか結構いるけど、やっぱり街の方は荒事慣れてない人の方が多いらしい。というか会場には警備の人とかいないんじゃろか。そこんとこどうなってんのかホント。



 そんなことを考えていると、ゴロツキまがいの人たちが厳つい雰囲気を醸し出しながら近づいてくる。



「ひょえ!」


 つい、そんな声を出してしまう。

 だって怖いんだもん仕方ない。

 顔は怖いし、やたら睨んで来るし。



 よし。ここは僕も頑張って威勢よく言ってやる。



「け、けけ、ケンカするんですか? い、嫌ですよ僕。いいい、痛いの嫌ですし……」



 うん。頑張ったけど、威勢良くはならなかった。むしろ雑魚臭しかしない言い草だ。僕ってなんでこんなビビりなんだろうか。レベル34あるのにいつまで経ってもダメダメなのほんと悲しい。



 すると、ゴロツキまがいたちは、



「おいおい兄ちゃん、彼女の前でカッコイイとこ見せようってか?」


「俺、僕ちゃんのかっこいいとこ見てみたい~、なんてな! ぎゃはは!」



 ……うん、いまだかつてこんな風に絡まれたことなんてないから初めてだけど、こういうの結構腹立つなぁ。



 すると、嫌みったらしい顔をした人が、



「二度とあのときのような態度を取れないよう、きちんとしつけてあげましょう。おい、やれ」



 そんなことを言い出した。



 なら、やるしかないよね……。





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[一言] >「それがね、ポーションマイスターの資格を得られる試験って言うのは三年に一度しかなくて」 フリーダのみならずド・メルタ全体でもポーションは常に品薄で、供給が需要に追いついていないようですが…
[一言] >ポーションとなれば、自分にしか作れない特別なポーションも、その気になればいろいろと作れると思う。だけど、品評会での成果の提出となると、そう言った僕にしか作れないものとか、ド・メルタで作れな…
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