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第12階層、突撃! ガンダキア迷宮第2ルート! その1。約6000文字。

【登場人物】

 九藤晶……主人公。日本と異世界を行き来できるようになり、レベルという概念を獲得した高校生。レベルは34もあり、なにに怯える必要もないのだが、生来の臆病さゆえ、凄まれると腰が引ける。あと大きい音とか苦手。


 ミゲル・ハイデ・ユンカース……冒険者(ダイバーズ)ランク258位『赤眼の鷹(ホークバッカス)』のチームリーダー。レベル38の強者であり、大抵の国なら騎士団長レベルの強さという化け物。




 僕はこの日、レベル上げのための経験値(スコア)稼ぎ兼核石ゲットおよび換金による金策のため、いつも潜行(ダイブ)する迷宮第2ルートへと足を運んでいた。



 ――迷宮に潜るとき、ルート、ルートとみなしきりにこれを口にするのは、ここガンダキア迷宮には、冒険者(ダイバー)たちのレベルに合わせた順路が設定されているからだ。



 大まかなものは神様がこの迷宮を造ったときに設定――つまり各所に転移の魔術を施したときに、適正なレベルで進めるよう調整したらしいんだけど、冒険者(ダイバーズ)ギルドでも、長年の調査などによって得た結果をもとに、推奨する道順を設定しているのである。



 第1から第4までの四つの順路があり、まず第1ルート。

 このルートは冒険者(ダイバー)になりたての者たちが迷宮探索の難しさに初めて触れ、迷宮探索がどういったものかを理解する、いわゆる初心者向けのルートである。深度5の『大森林遺跡』から始まり、続いて立ち込める霧で視界が良くない避暑的な階層、深度8『霧浮く丘陵』、この前師匠におっぱ……じゃなくて師匠と『もっさん』を倒しに行ったデカイ石像群のある深度14『巨像の眠る石窟』、スクレールに連れてってとせがまれた深度22『緑青に煙る街』、そして深度38、第一ルート未踏領域である『機械神殿』だ。



 このルートを――『巨像の眠る石窟』まで問題なく潜れるようになると、それまで受付権限で制限されていた第2、第3、第4ルートまでのルートが解放されるようになる。



 最低限、そのくらいはできるようになりましょうという、ある意味冒険者(ダイバー)への暗黙の試験のようなものだ。このルートを問題なく進めるようになれば、どんな冒険者(ダイバー)だろうが、最低でもレベル15程度にはなれるし、迷宮探索の基礎知識が身に着いているとみなされる。



 冒険者(ダイバー)はこれをこなして、晴れて新人冒険者を脱出することができるのだ。



 そして今回の僕が行くのが、第2ルート。大森林遺跡から始まるのはどこでも一緒で、その次が深度10『灰色の無限城』。続いて古代エジプトの地下遺跡のようなダンジョン、深度20『黄壁遺構』。僕の稼ぎ場である深度30『暗闇回廊』。常に夜で幻想的な雰囲気がバリバリ漂う深度40『常夜の草原』。なんでも、地下へと続く巨大ならせん階段が階層の大部分だという深度48『ノーディアネスの地階』。そして深度は脅威の52、『死人ののさばる地下墓地』へと続く。



 いま僕がいるのは、『大森林遺跡』を越えてすぐの階層である、迷宮深度10『灰色の無限城』だ。

 ここは、異世界ド・メルタのいずこかにある城の中らしく、だいたいの人が連想する西洋のお屋敷やお城の内装をしている。石造りの壁面にはバナーが垂れさがり、床には絨毯が敷かれ、鎧立てに飾られた甲冑や剣、各種調度品などが置かれて、かなり豪華。



 しかも無限城という仰々しい名前の通り途轍もなく広い階層として有名で、いまのところマップを完成させた者は誰一人としていないという。ある意味、未踏領域を含む階層と言ってもいいだろう。冒険者(ダイバーズ)ギルドが発足してから何十年と経っているのに、攻略しきれていない低階層というかなりわくわくする場所だ。人の手で造ったと思われる場所だから、なんか誰も持っていないようなお宝が眠っているんじゃないかと、ときめきが止まらない。



 そして、灰色という名前がついている通り、色が灰色なのである。

 それだけではなんのこっちゃわからない説明だけど、実際そうなのだ。壁も、内装も、調度品も、なにもかもが全部灰色。まるでペンキを塗ったくったかのように。そのため歩いているとときどき切れ目や区切りが分からなくなり、まるでモノクロ映像の中とか、二次元の中とかにでも入り込んでしまったかのような気分になる。しかも他に色味がないため、ひどく目に悪い。城内には背景に溶け込んで擬態しているモンスターもいるため、集中していないと敵を見失うことすらある。慣れないと苦戦する階層なのだ。



「うーん。ここもいつか、全部マッピングしてみたいなぁ」



 完璧に攻略していないところ、行ったことのない場所というのは結構ある。野外の階層に関しては際限がないため例外だけど、第1ルートの『緑青に煙る街』も街の外側までたどり着いたことはないし、僕がいつも狩場とする『暗闇回廊』なんかも、実は半分くらいしかマッピングしていない。臭いし、ジメジメしてるのはもとより、暗いし、何よりボス級が強いのだ。この前のあれ、『四腕二足の牡山羊(フォースアームゴート)』を倒せたのは、ちょうどスクレールと戦っていて、大きな隙があったからに他ならない。正面から倒しに行けば、まず帰って来れない僕は死ぬになる。たぶんぐちゃぐちゃのぺちゃんこだろう。うへぇ。



 ちなみに第3ルートは『屎泥の泥浴場(ぬたば)』以降、第4ルートは『赤鉄と歯車の採掘場』以降は、まだ行ったことすらない。まだまだやれることは沢山ある。迷宮探索の楽しみは盛りだくさんだ。



 灰色の城内に気を配りつつ、ときどき目薬を差して、てくてく歩いていると、奥の曲がり角からガシャンガシャンとまるで金属を打ち鳴らしたような音が聞こえてくる。鉢合わせることを察知し、待ち構えていると、重そうな灰色の全身鎧が視界の中に入ってきた。



 RPGのお城の中とかに出てくるお約束の敵、『生きた鎧(リビングアーマー)』だ。レイス系の中でも物理的に倒せる数少ないモンスターで、人間っぽい動きをするため、意外と倒しやすい部類に入る。というかこれで人外な動きをされたら初見殺しも甚だしい。ロケットパンチ的なのとか、鎧をバラバラにして飛んでくるとか、そんなことがないから一応は良心的な敵さんだ。



 しかも――



「金属製だから倒しやすい。以上、終わり」



 刀印を差し向け、パパッと属性魔術を発動させて、行動させる間もなく雷撃を撃ち込む。こいつは僕の魔術が効きやすい。というか雷撃を浴びせれば大抵のモンスターは倒せてしまうのだ。効かない奴といったら深い階層にいる魔術抵抗の高いモンスターくらい。だからといって、なんでもかんでも余裕で倒せるというわけではないんだけど。



 本当ならば魔力を温存したいところなんだけど、こいつはいつでもどこでもわんさかいるから、ズルはできない。見敵必殺で行くしかない。



 ともかく、出会い頭でご退場と相成った『生きた鎧(リビングアーマー)』さん。ドンガラガッシャンと崩れ落ちた鎧をどけて、下敷きになった核石を取り出す。



 大きさは10センチ程度。核石の大きさはモンスターの大きさによって変わるから、大きなモンスターのだと核石もとんでもなくデカくなるし、モンスターの種類によって色味も変わる。これを正面ホールに持って行って、洗い場で汚れを落として、受付でお金と交換するのが冒険者の手っ取り早いお金の稼ぎ方だ。



 交換した核石は専門の業者さんが、『モンスター除けの晶石杭』に加工して、それをこれまた専門の業者さんが迷宮に持って行って、安全地帯(セーフポイント)を建設および整備するのだ。そういうサイクルがあるから、冒険者(ダイバー)は安心して迷宮に潜ることができ、ギルドも安定して迷宮の素材を手に入れることができる。ギルド発足時からずっとこんな感じらしい。核石の輸出も大きな収入源だそうだ。結構儲かってるみたいね。



 『生きた鎧(リビングアーマー)』の核石を取り終わると、これから行く先に、人の気配があることに気付いた。



「あーららー」



 あまり人目に付きたくないので魔術の使用は一時控える。攻撃手段の大部分を封じられた形だけど……この階層では『生きた(リビングアーマー)』相手にしか魔術を使わないから、気を付けてさえいればどうということはない。いざとなったら加速して逃げればいいし。



 誰かいるのかなーと角を覗いてみると、四人組らしきチームが先行していた。

 迷宮内にもかかわらず、楽しげに談笑しながら歩いている余裕ぶり。レベルの高いチームだろうかと思っていると、その中に見覚えのある姿を見つけた。



 それは、金の髪、片側に特徴的な肩当てを付けた少年。



「――あれー? そのごっついショルダーアーマーもしかしてミゲルー?」


「ん? その声はクドーか?」



 僕の声に気付いたミゲルが、振り向く。

 珍しく迷宮で、ばったりであった。



 すぐにミゲルが気安げに手を振りながら近付いてくる。



「お前も潜行(ダイブ)中か」


「うん。奇遇だね」


「そういや知り合ってから結構経つが、お前と迷宮の中でカチ合うのって初めてだよな」


「あー、そう言えばそうだね。僕も潜り始めて半年近いけど、中で会うのは初めてだー」



 フリーダに来てからこの半年、ミゲルとは正面大ホール以外で出会ったことはない。

 最初のころは僕もレベルが低く、一方ミゲルは高ランクだったため潜る場所も違ったし、いまはいまで、基本朝から潜るミゲルと、午後夕方に潜る自分とでは、時間が合わないというのもある。かち合わなかったのは、必然だろう。この前みたいにホールでおやつ食べながら、だべって過ごすっていうのはよくあるんだけど。



 だからこそ、



「こんな時間に潜ってるなんて珍しくない?」


「ああ、今日は午前中に用があってな。本当は潜らない予定だったんだが、時間もあるし軽く降りるなら……って話になってな」



 軽く流して、お小遣いを稼ごうという算段か。レベルが高いと『軽く』のレベルでも結構な階層に潜れるから、稼ぎには十分だ。そこそこのご飯代――ミゲルなら酒代かな。手に入れられるし。



「――そっちのは知り合いかい? そろそろ紹介して欲しいんだけど」



 僕とミゲルが二人で話していると、会話の外にいたミゲルの仲間が声をかけてきた。



「お! 悪い悪い。こいつはこの前言った、ウチのチームに誘おうとしているヤツさ」


「へえ? この子がか」



 そう言って僕を見たのは、バサバサの長い赤髪を持った少しきつめな感じの目をした女性。歳は僕やミゲルよりもちょっと年上くらいな感じの、まだわずかに幼さの残る容貌だけど、なんというか姉御と呼んでしまいそうな雰囲気を醸し出している。



 かなりのグラマラスで、それを最大限に生かすような、肩を露出させた胸を強調させるタイプの服を身にまとう、歩くエロス。背中に大きな鉄弓を背負っていて、森の中で巨大な獣を狩っているというイメージがすごく似合いそう。身長はミゲルと同じくらい。腰に毛皮を巻き付けているから、怪着族だろうと思われる。



「九藤晶でーす。ミゲルの友達です」


「あたしはレヴェリー・クロウハンド。チームで後方支援担当の弓使いさ」



 あー、そう言えば、レヴェリーって名前には聞き覚えがあったような。



「俺の女だ」


「こーら」



 ミゲルが突然、レヴェリーさんの肩に腕を回して、片方のおっぱいを鷲掴みにする。レヴェリーさんは咎めるように軽く頭を叩くけど、全然嫌そうじゃない。つーか公衆の面前でちゅっちゅするなし。見せつけてんのか。



「羨ましいだろ?」


「羨ましすぎて僕の怨念がにじみ出てきそう」


「ははははは!」



 高笑いするな死ね。怨念じゃなくて魔力がにじみ出るぞ。というかこんな色気たっぷりなお姉さんを彼女にしてるくせに、この前浮気騒動を起こしたのか。許されるなやっぱり死ね。



「そんで」



 僕が怨念を送ってもびくともしないミゲルさん。彼の紹介が、その隣の女の子へと移る。

 ローブを着込んだ、明るい金糸のような金髪を持った白い肌の少女。背も低く、ほっそりとしていてどこか儚さを漂わせている。顔も幼さが強く、肌も赤ちゃんみたい。冒険者(ダイバー)には似つかわしくない感じだけど、魔杖とローブ、周囲に張り詰める魔力が示す通り、魔法使いだ。ローブには金銀の刺繍が施されており、だいぶお高そう。控えめな態度を相俟って、いいところのお嬢さんを連想させる。



 だけどこの子、この前、ミゲルの縄を外しに来て、不穏な毒を吐きまくって帰って行った子なのだ。



「こっちは前も見たと思うが、うちの魔法使いのミーミルだ。メルエム魔術学園を次席で卒業したエリートなんだぜ?」


「……ミーミル・トリスです。青の魔法使いです。チームでは主に前衛支援を担当しています」


「よろしくどうも」



 頭を下げるトリスさんに、頭を下げ返す。

 魔術学園の次席卒業のエリート。なんかそう言えば、この前もメルエム魔術学園の話題が出たように思う。なんてったっけ。り……なんとかさんが首席で卒業したとか言っていたはずだ。り……なんとかさんが。もしかしたら知り合いかもね。



 ミゲルが「最後に……」と言うと、青い大鎧を着込んだ大柄の男性が前に出る。



「オリランド・ランドだ。チームではリーダー……ミゲルと一緒に前衛をやっている。見ての通り、盾持ちだ」



 ランドさんはそう言いながら、その体躯にも見劣りしない大きな盾をどんと出す。いわゆるスクトゥムという方形の大きな盾だ。しかももう片方の手にはドでかいメイスを持っている。



 ランドさん、岩壁のような大きさがある。歳はだいたい三十台後半。全身鎧で超ごつい。なんていうか、さっき倒した『生きた鎧(リビングアーマー)』が紙みたいに思えるくらいの厚みだ。前衛盾持ちと言うことは、いわゆるタンク職だろう。地味で華のない仕事だけど、迷宮での戦闘では重要な役割を担っている。前線の維持はもちろん、魔法使いの守護等々、味方を庇うのがお仕事だ。プロレスラー並に痛みに対して耐性がないと務まらない。



 中でも一番特徴的なのは――その顔で、



(ランドの顔。すげーゴリラだろ?)


(うん。ゴリラだ。もしかして獣頭族の人?)


(いや、ちゃんとした人間だ)


(はー。人間って不思議だよねー)


(だよなー)



「……お前ら一体何話してるんだ?」


「いや、なんでも」


「うん、全然。よろしくお願いします」



 さっきの会話は知られてはいけない。僕もミゲルも息ぴったりであった。

 というかまずこのメンバー、すごい。トリスさんが前衛支援と魔術での攻撃で、レヴェリーさんが後方警戒や中距離支援、撤退支援を受け持ち、ランドさんが後ろ二人の防衛と前線維持、ミゲルがアタッカー兼先導役だ。役割が被ってなくて、探索に必須の役しかいない。



「すごくまとまったチームだね」


「だろ?」



 ミゲルは得意げだ。だけど、そうなるのも当然だろう。アタッカー、前線を支えるタンク職、支援の魔法使いに、後方警戒、中距離支援、撤退支援のできる弓使い。普通はこんなに都合よく集まらない。それを集めるミゲルの眼力と人脈と、有能さだ。やっぱり超高ランクチームは違うなぁとしみじみ思う。



「ミゲルたちは、どこ行くの?」


「ああ、今日は軽く『黄壁遺構』までな。お前も来るか? 別に勧誘ってわけじゃないからいいだろ?」



 一緒に潜るお誘いだった。いずれにせよ通り道であるため、



「うん。いいよー」



 となる。



 そういうわけで今日は、初めてミゲルのチーム『ホークバッカス』と一緒に冒険することになった。





長くなったので分割しますー。

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― 新着の感想 ―
>レベルは34もあり、なにに怯える必要もないのだが レベル34だとしても・・・師匠のシゴキとか、ドラケリオン先輩のムチャ振りとか、食堂の”肝試し”メニューとか、アシュレイさんのお強請りとか、スクレー…
[気になる点] ところで、『灰色の無限城』の階層ボスの魔物はどんなヤツなのでしょう?。 『無限城』と言うくらいですから、矢っ張り・・・鬼舞辻○惨のような、矢鱈に強く、ほぼ不死身の癖に、極端に慎重で、自…
[一言] >城内には背景に溶け込んで擬態しているモンスターもいるため、集中していないと敵を見失うことすらある 【第32階層 階層によっては救助作業も一苦労でして……そのよん】でクドーくんは、素手で「…
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