第11階層、ランキング表を見てたらトラブちゃった。約15000文字。
【登場人物】
九藤晶……主人公。日本と異世界を行き来できるようになった臆病でヘタレでビビりな高校生。ときどき一言多かったりする。紫の魔法使い。レベルは34。
ミゲル・ハイデ・ユンカース……晶の異世界での友達。受付が隣同士、歳も近いことからか、立ち話をしていたら仲良くなった。女好き、酒好きでよくトラブルを起こしたりもするが、超高ランクのチームを率いているやり手の冒険者として名を馳せている。
冒険者ギルドの正面大ホールには、迷宮に潜る前に手続きをする受付の他に、いくつか施設が併設されている。
学校の体育館を数倍させたような巨大なホールには、冒険者たちの憩いの場である百を超えるテーブル席が設えられ、迷宮入り口の大階段手前には、服や鎧に着いた汚れを落とす簡易の洗い場があり、お腹をすかせた冒険者に安価でマズい飲み物やマズい食べ物を提供する食堂なども置かれている。
そして中でも一際目を引くのが、大ホール中央奥に設置された巨大掲示板だろう。
冒険者ギルドが特定の迷宮物資収集やモンスター討伐を冒険者たちに広く募る『迷宮任務依頼』や、冒険者間で、必要な物資を交換しあうための依頼票が貼り付けられており、冒険者の功績を順位化した『冒険者ランク』もここで確認できる。確認できると言っても、貼り出されるのは上位一万位以上であり、その冒険者がチームに所属している場合、貼り出されるのはそのチーム名とチームの最上位者であるため、実際には一万よりも少なかったりするのだけど。
ここに名前が載るということは、ガンダキア迷宮に挑む冒険者たちの夢の一つであったりする。
「ふえー」
掲示板を仰ぎながら、何とも間抜けな声を出したのは学校帰りの僕。
ランキングはひと月に一回、査定での変動が反映され、記載される情報が変わる。冒険者稼業は競争相手が多く、危険と隣り合わせの仕事であるため、変動は激しく、ついこの間載った新鋭のチームがランク落ちしたり、チーム解散、行方不明や全滅などの不穏な情報も記載されるけど、やはり上位は上位ゆえか、常に安定して名前を連ね、ランカーとして君臨している。
一位は不動の英雄ライオン丸先輩ことドラケリオン・ヒューラーさんで、その下には三大チーム。この前正面大ホールを占拠してすこぶる迷惑だった、人員はフリーダ最大のチーム『白爪の大鷲』、ちょっと中二的なネーミングが痛い気もする他種族構成チーム『黒の夜明団』、人員は他二つに劣るけど強力な冒険者を多く抱える『勇翼』などがあり、そこから少し下にいくと、ミゲルが主催する『赤眼の鷹』がある。
他にももろもろ個人の名前が載ってはいるけど、当然僕の名前はない。僕のランクは38038位、三万八千三十八位である。あれに載るにはギルドの奴隷となってしこたま迷宮任務をこなし、アシュレイさんから信頼と良い印象を得て、ランキングの試験も頑張らないと無理だろう。
……迷宮任務に関してはランキングを見て適切なものが出されるため、いまのレベルだとまあ余裕がある。アシュレイさんの印象については問題ない……はず。問題は試験だ。ランク昇格の試験は例外なく午前中にやるとかまず学生には優しくない鬼畜ぶり。僕の皆勤賞が崩れてしまうのはちょっとヤダから諦めてるんだけど、あのランキングリストに名を連ねてみたい気もする。
けど、それに付随するわずらわしさを思うと、やはり及び腰になってしまうのだ。この前、師匠に言われたように、目立てば絶対に嫉妬を買うことになる。何かランクを上げなければいけない理由ができれば話は別だけど、いま躍起になってやるようなことではない。
(やるなら、誰も手を出せないくらいレベルを上げて、知り合いを沢山作らなきゃダメかな)
最低でも、それは必須だろう。それこそランク100位以内の実力にならなければ、出る杭は打たれるという事態になってしまうはずだ。友達が多いと、おいそれと手を出しにくくなるし。
あと、学業との折り合いがついてからというのもある。道のりはまだまだ険しい途上にあるのだ。
「おい、クドー」
ランキングリストをぼけっと眺めていると、どこからか聞き覚えのある声が僕を呼んだ。
若々しく、活力にあふれた少年の声。ミゲル・ハイデ・ユンカースのものである。
近くにいるのか、そう思って、声のした方を向くと、そこには柱に縄でぐるぐる巻きに括りつけられたミゲルがいた。
「んー?」
……つい、二度見してしまう。うん、柱に縄でぐるぐる巻きに括りつけられたミゲルがいた。
短く切り揃えた金の髪と、人懐っこそうな垂れ目、軽装鎧に身を包み、片側に特徴のある肩当てを付けている。探索帰りなのか、ところどころ落とし切れていない汚れが付いていた。
「…………」
目が胡乱になるのを禁じ得ない。どうしてか、彼は晒し者にされているらしい。よくよく見れば随分と目立つように縛られているけど、いままでは他の冒険者の影になっていて見えなかったのだろうと思われる。というか、そのまま気付かなければよかった。何故声に反応してしまったんだ僕よ。
そんなミゲルと目が合ったけど、どう反応すればわからない。ミゲルはミゲルで、ニヤッと良い笑顔を向けてくる。なんなのだろうか。ものすごく他人の振りがしたい気分がゲージマックスなんだけど。うん。
ゆっくりと不自然でないよう細心の注意を払い、この場からフェードアウトしようとすると、
「おいクドー、無視すんじゃねぇよ。俺たち友達だろ?」
「僕は晒されてる人を友達にした覚えはないなー」
「冗談言ってねぇでさ。こっち来てくれよ? な?」
ものすごく拒否したい気分に駆られるけど、さすがに無視はひどいか。
「…………で、ミゲル。それ、なに? 新しい遊びかなにか?」
「これが遊びに見えるのかよ?」
「じゃあ羞恥プレイで快感を感じようとする高度に変態的な高レベルランカーにのみ許された闇の遊戯とか? これ一つで羞恥プレイと放置プレイと拘束プレイが全部楽しめるとかそんなやつ。すごいね。僕には真似できないよ。さすが超高位ランカーは違うね。未来に生きてる」
「縛られてるだけで人を高度な変態に仕立て上げるな」
「じゃなかったら、罰ゲーム的な? 顔にご自由に落書きしてくださいとか……」
「おいお前下手なこと言うんじゃねぇよ!? っておいお前ら! ペンを出すなペンを!」
僕の言葉で思い至った周囲の冒険者たちが、思い思いに筆記具を取り出して、ミゲルに迫ろうとする。この世界の人はみんなやっぱりノリがいい。
「違うんなら、やっぱり新手のプレイかなにかとかじゃないの?」
「……そうじゃねぇよ。ちょっとチームの女にやられてな」
「もしかして恋人さん?」
「おう」
恋人ちゃんといるのかうらやましい死ね。せめてくたばれ。
「地獄の業火に焼かれて消えろ」
「……? 何言ってんだお前?」
「うんう、なんでもない、なんでもない」
ともあれ、
「そこまでされるなんて、一体どんなことしたのさ?」
「別に悪いことはしてねぇぜ? ちょっと別の女と酒を飲んで、ちょっとベタベタしたくらいだ」
「いやそれ完全アウトでしょ」
「どこがだよ?」
本気でわからないっていうような視線を向けてくる歩く浮気者ミゲル。ベタベタとか言ってる時点でマズいだろう。おさわりとか絶対してる。羨まし……いや、人としてどうかと思うなー僕なー。
「あのさミゲル。もし自分の恋人が他の男とイチャついてたら嫌でしょ?」
「嫌だな」
「わかってるじゃん。じゃなんでするのさ?」
「俺が男だからだな」
自信たっぷりに言い放たれたその言葉で、周りにいた女性冒険者が若干引いた。顔に浮かぶ嫌悪感。無理もない。あんまりにあんまりだ。だけどそれは、稼ぎのいい冒険者にのみ許された言葉だろう。この世界、甲斐性というのは男の大きなステータスだ。恋愛よりもちゃんと生活できるかどうかに重点を置く人たちがかなり多い。僕の持ってる現代地球の価値観(高校生レベル)とはやっぱりいろいろ違うのだこの世界の人たちは。
まー引いた度合いが若干というあたりが、それを証明していると思われるね。
「まあそんなことよりもだ。早く縄を解いてくれよ」
「でもそれ解いたら僕がミゲルの恋人さんに怒られるんじゃない? 一緒に高度な変態プレイとかはやだよ僕」
「お前は友達を助けようとは思わないのか? わが身可愛さで友達を見捨てるのか?」
「うん。もちろん」
「おい、即答すんなっての」
さすがミゲルはすかさずツッコミを入れてくれる。ナイス。
「で、冗談はおいといて、解いても本当に大丈夫なの?」
「そここだわるのな」
「話の腰を折らない」
「話の腰って、どの口が言うんだよ」
「いまは僕に生殺の権利があることを忘れてもらっちゃ困るね。ふふん」
「家に戻ってるから問題ねーよ」
なら解いてあげても、大丈夫そうだ。まあ、もし当事者がこの場にいたら、会話に入り込んで来ているだろうしね。
手早く縄を解いてあげると、ミゲルは身体の調子を改めるように肩を回し、
「ふぃー、やれやれひどい目にあったぜ」
「浮気したんだから自業自得でしょ?」
「あれは浮気じゃねえ」
「そこ譲らないんだ」
「俺は一途だからな」
「よく言うよホント。ミゲルってば舌が三枚くらいあるんじゃない?」
「化け物か俺は」
舌の話はいまいち伝わらなかったか。僕がミゲルの言葉に呆れていると、ふと彼が訊ねてくる。
「で、お前の方は、今日はどうしたんだ?」
「あれだよ。あれ。今日情報の公開日だから」
そう言って、貼り出されたランキング票を指差す。
「リストを見てたのか」
「うん。変動見るのも、面白いしねー」
「ランキングに興味あるならお前も頑張れよ。魔法使いなら一万くらいすぐになんとかなるんじゃねぇか?」
「って言ってもねー」
もちろん前述の理由により、やるつもりはない。
ともあれ態度を曖昧にしていると、ミゲルは別な感じに受け取ったか、
「迷宮じゃあ楽して物を得ることなんてできないぞ?」
「だよね。僕もフリーダにきてそれはずいぶん思い知らされた。何かを得るには、努力するか、それと同じくらいの価値の物を対価にしないといけないって」
「わかってるんだったら……」
「それとこれとは話が別なんだってば。タイミングとか、やることとかあるしさ。なんていうか、時期じゃないの。それに、あとはそうだね……まだ地に足がついてないっていうかさー」
「地盤が固まってねぇって? それならなおさらチームに入ればいいだろ? 仲間がいれば、いざというとき助けてくれる」
「助けてくれる?」
訊ねるように視線を向けると、ミゲルは気風のいい笑顔を見せ、
「おう」
と、返事する。
「やだミゲルさんってばカッコイイ。ムカつく」
「なんでそうなるんだよ……」
「男の嫉妬的な?」
「お? それならちょっと優越感かも」
ミゲルはそんなことを言いつつ、笑いながら肩を叩いてくる。あそこで「おう」と返事するあたり、やっぱり頼もしいし、かっこいい。なんというか、リーダーって感じだ。人の生活を背負っている感がある。
しばらくミゲルとダラダラだべっていると、ふと周囲が騒がしくなった。誰か有名人でも現れたのか。どうやらそんな予想は当たったらしく、一組のチームが掲示板の前に現れた。
「お、今年の注目チームのお出ましだぜ?」
ランキング情報を見に現れたのは、今年になってフリーダに流星の如く現れ、目覚ましい成果を上げているというチームだった。メンバーは他種族もいて、年も若く、美男美女が揃っており、なんと王国からの手厚いバックアップもあるという、期待の星だ。
実力もかなりのものらしく、迷宮深度20『黄壁遺構』とか迷宮深度30『赤鉄と歯車の採掘場』とかに縄張りを置くボス級を倒したとかで、一時期随分話題となった。レベルはおそらく、25~30台後半。フリーダに来る前からすでに、それくらいあったと思われる。
しかして、そんな彼らに、僕が抱いている感想はと言えば、
「なんかさ、魔王を倒しに行く勇者のパーティーって感じだよね」
年若い美男美女たち、そして目に見えて高価な装備をまとっていれば、そんな所感も抱くだろう。だけど、隣にいるミゲルは、そんな風には思っていないようで、
「あれがか?」
「うん? だってそうは思わない? そんな雰囲気出てるでしょ?」
「いや、全然? むしろどうしてそんな雰囲気感じ取ってるか非常に疑問なんだが?」
「だって、キラキラしてるし、美男美女揃いだし、ランクとかも他に比べたら抜きんでてるし」
「確かにそれは言う通りだが――あれが魔王倒すとかまず無理だろ」
その言い回しに、ふと疑問を覚える。僕は魔王とかゲームのイメージで言ったけど、ミゲルの方はどこか具体的な感があったからだ。
もしや、
「え? なに? 魔王ってば存在してるの? 実在してる人物的な?」
「は? お前知らねぇのか? おいおい嘘だろ?」
「うわー、もしかしてそれすごく常識的なヒストリーだったりするの?」
「もしかしてもなにも常識だろ? 四年前の魔王討伐の話を知らないなんて、お前一体どこから来たんだよ? ドの付く田舎か? 田舎なのか? 田舎モンなのかお前?」
「いや別に田舎じゃないけどさ。というか、ガチでお約束あるんだね……」
驚きだ。この世界がまさか魔王がいるドラ○エ的な世界だったとは。
「討伐の話って言ってたけど、もう終わったってこと?」
「そうだ。四年前に魔王は勇者に倒されたんだ」
あ、もう過去の人だったのね魔王様。南無。
「はえー、そうなんだ。で、倒した人って知ってるの?」
「そりゃあ知ってるさ」
「ちな、どんなお方であらせられるの?」
「どんなお方も何も、お前もう会ってるぞ? ドラケリオンのアニキだ」
「ちょ、マジで? ライオン丸先輩すごすぎでしょ……はー、フリーダの勇者ってガチの勇者だったんだー。あっ、じゃあそれでイメージ定着してるから」
「そうだ。あれをドラケリオンのアニキと比べてみろよ?」
「確かに、見劣りするとかいうレベルじゃないね」
というかライオン丸先輩と比べられること自体、可哀そうだ。ごめん。
「そんなアニキのチームが苦戦して少なからず犠牲を出してやっとこさ倒したって話だぜ? 魔王倒すとか無理あるだろ? フリーダにいる他のヤツも含めてな」
「……そうだね。無理だね。不可能だね。インポッシボー」
低階層のモンスターならばデコピンでぶっ倒し、雄叫びで追い払うあの先輩が苦戦したとかいう相手だ。どんな冒険者だろうと絶対に不可能である。
ふと、冒険者の垣根が割れた。そこから、武装した集団に囲まれた、一人の少女が入って来る。何者かと観察すると、フリーダではお目にかかれないくらい随分とお高そうな装束を身にまとっていて、むやみやたらと高貴そう。周りの護衛も、サーコートみたいな羽織をまとい、身ぎれいにしており、近衛とかいう言葉がしっくりくる風体だ。
そして極めつけは、王国の紋章ときた。
「おいおいありゃあ……」
「あの人は?」
「王国の第二王女サマだ。連中のリーダーがお気に入りとは聞いていたが、追いかけてフリーダにまで顔を出すとはな」
「はー、王族のお気にってすごいねー。サクセスストーリーって感じだ」
注目チームのリーダーさんは、あの中でも一番の美形だ。そりゃあ惚れた腫れたの浮ついた話なんて腐るほどあるだろう。まあ惚れた理由は美形だからだけではないかもしれないけど。
ライオン丸先輩の話がなかったら、ほんとにあの人が勇者なんだろーなーと思っただろうね。
ともあれ、そのお姫様とやらは、周囲の注目をウザったそうにというか、嫌悪しているような雰囲気を放っていて、
(嫌そーな目してるね。でも、周りの冒険者たちに、頭が高いぞー、とかは言わないんだ)
(それはさすがにな。お忍びで来てるのにそんなこと言ったら、冒険者ギルドの方から抗議が出るだろ)
(でも、王族でしょ?)
(それでもさ。それだけ、ギルドが持ってる権力、いや、武力が大きいってことだ。もし、もしだ。ギルドが迷宮任務で、どこかの国を襲撃する、なんての出してみろ。どこだって震えあがるぞ)
(あー、そうだよねー)
さすがに常識的に考えて、そんなことはなかろうが、仮にあるとすれば大事だ。冒険者たちは日夜モンスターを狩って回る化け物ばかり。そんなのと戦争するなんてことになれば、そりゃあ堪ったものではないだろう。モンスターという人類の天敵の、そのまた天敵みたいな奴らばっかりなのだ。些細なことは、お目こぼしされるのだろう。
ミゲルと二人で遠巻きに見ているけど、何やら注目チームのリーダーとお姫様は談笑している様子。掲示板の真ん前、ど真ん中で。邪魔すぎてキレそうになっている人間がちらほらいるけど、さすがのあらくれ冒険者たちも、あれに面と向かって文句は言えないか。護衛の近衛もいるしね。
(あ、スクレ)
スクレールが現れたのが見えた。彼女も、自分のランクが気になって見に来たのだろう。冒険者たちの垣根を華麗に飛び越えて、掲示板近くに着地。すると、彼女に気付いた冒険者たちが、勧誘のためにすぐに殺到する。……と言っても、距離を詰めすぎると威圧されるため、ある程度距離には気を遣っているみたいだけど。
みな、自分のチームに入ったときの利点を出し、あの手この手で誘っているけど、スクレールは「ムリ」「イヤ」「ヤメテ」「は? キレそう」とけんもほろろに断っている。みな耳長族が人間嫌いなのを知っているためか、素気無くされても雰囲気もそれほど悪くはなっていない。それくらい、ご執心なのだ。だって可愛いもんね。
周囲の勧誘が一段落着くと、なんと今度は注目チームのリーダーがスクレールに声をかけた。最近頭角を現してきた者同士であるため、誘おうとしているのだろうか。
「お? あいつらも『銀麗尾』に声かけるのか」
――銀麗尾とは、スクレールの通り名だ。ランクが上がると、どこからともなく通り名が出てきてそれが定着しちゃうのだけど、それが結構かっこいい。中二病の何が悪いのか。バカにすんなよ。
「でも、チーム加入は難しいだろうね」
スクレールは基本的に人間嫌い――という理由だけではなく、冒険者に対して警戒を第一に、距離を置いている。まず、ただ条件を付けただけの勧誘では加入してもらうことは不可能だろう。
「俺もそう思うな。いくら有名になっても、あいつは無理だろ」
「知ってるんだ」
「ああ、前に俺も誘ったことあるんだわ」
「……なんかあんまり意外とも言えないところが、ミゲルっぽいね」
「なんだよ。女と見たら見境なしみたいに見てるのかよ? そうだけどよ」
「あ、そうなんだ。クズいね」
「おう」
とは言ったけど、まあ、さすがにそれは冗談だろう。ミゲルは迷宮探索に関しては大真面目だ。彼女を誘ったのも、彼女の見た目やチームの見栄のためでなく、強さなどをちゃんと考慮してのものだろうし。そうでなければ、ランク258位という超高ランクを維持することはまず不可能だ。……うん、冗談だと思う。
「他種族って、結構難しいよね」
「まーときどき『神様のお言葉』がぶつかったりするからな。それを分けても、耳長族は人間敵視してるからな」
「だよねー。あ、お姫様不機嫌そう」
「そりゃあ自分の前で他の女を誘ってるんだからな。腹も立つだろ」
お姫様は目に見えてイライラしているけど、注目チームのリーダーがいまいち気付いていないのは、天然だからなのか。そう言うところも、なんかお約束っぽい。
というかミゲルさん、そんな機微がわかるのに、自分の浮気はいいのでしょうか。やっぱ僕の異世界の友達はクズ野郎なのかもしれない。
やがて、当たり前のように注目チームの勧誘が失敗に終わる。一言「ムリ」だってさ。取り付く島もない。彼女の友達としては、誰か他に仲良くできる人作った方がいいんじゃないかと思うけど、本人が嫌ならそれは仕方のないことだ。
さてこれで、スクレールも勧誘から解放されたらしく、今度こそ掲示板を見に行った。一方お姫様はやっぱり不機嫌だ。スクレールが勧誘を断ったことにしても、思うところがあるらしい。お気に入りのチームの誘いを、検討もせずに断ったから、何様のつもりだーとでも思ったのだろう。なんともめんどくさい性格である。
そんな中、注目チームのリーダーらしき人物が、今度はミゲルの方に気付いたらしく、こっちに近づいてくる。あー、これもめんどくさそうだ。
「チーム『ホークバッカス』のリーダーですね?」
「ああ」
注目チームのリーダーは、ミゲルにお初にお目にかかりますとか、丁寧に自分たちのチームの紹介を始めていく。超高ランクチームの人間と、顔を合わせておきたかったんだろうか。ミゲルのチームを持ち上げつつも、自分たちのチームメンバーが如何に有能かというのを話の中に織り交ぜている。そっちにいるのは王国で五指に入る剣の腕前だとか、メルエム魔術学園を好成績で卒業した天才魔法使いとか、若い頃から戦場を転々とした傭兵とか。錚々たるメンバーだ。王国中からかき集めたのだろうか。王国のバックアップは伊達ではない。すげー。
「ミゲルさん。あなたの功績は、同じ王国出身者として誇りに思います」
「そうか? 俺なんてまだまだだぜ?」
「いえ、あなた方のチームは僕らのチームの大きな目標です。そして」
謙遜しつつも飄々とした態度を崩さないミゲルに、注目チームのリーダーは一瞬、溜めを作ったかと思うと、
「――近いうちに必ず、あなたのチームを追い抜いて見せます」
おお、言い切ったよ。まさかミゲルに……いや、超高ランクチーム『ホークバッカス』相手にそうまで言い切るとは、驚きだ。チームのメンバーの目も、ギラギラし始める。野心に燃えてるって感じ。王国の方からフリーダで名を轟かせろとか、言われているのかもしれないね。
一方で、周りはひどくざわついている。曲がりなりにもケンカを売ったのだ。「調子に乗ってやがる」とか「身の程知らずめ」という声も聞こえてくる。そりゃあ近いうちになんて言い出したのだ。ちょっと舐めてるなーあいつら、とか思っちゃうのだろう。
だけど、当のミゲルの方と言えば、さほど気にした風もなく、
「そうか。ま、無理せず頑張りな」
「余裕ですね。僕たちにはできないとでも?」
「そうは言わねぇよ。だが、ランクの向上や迷宮攻略は簡単にできるほど甘いモンじゃないってことは、覚えておいた方がいい。ランクにばっかりこだわってたら、痛い目見るぞ?」
ミゲルの忠告のあと、すぐにお姫様が割って入って来る。
「随分と、侮った物言いですわね。このメンバー相手にそうまで言うとは、思い上がりではなくて?」
そんなこと言いだしたけど、そんなにすごいのだろうか。感覚的に、ミゲルよりもレベルが高い人は一人もいないように思うけど。あ、これ魔法使いの知覚的なヤツね。
「お言葉ですが、私はそう言った名利にとらわれず、慎重に迷宮に挑めと忠告しただけにすぎません。老婆心を曲解して捉えられても、いやはや困るばかりです」
「……相変わらず、食えない男ですこと」
どうやらミゲルはお姫様と知り合いらしい。ミゲルは結構、品の良さがあるから、どことなくいいところの出のように思っていたけど、やっぱりそうだったのかもしれない。
ふと、注目チームのリーダーが僕の方を見た。
「……そちらの方はチームメンバーの方ですか?」
「いいえー。ただの友達です」
そう言ったら、ミゲルに肘で小突かれた。だってその通りなのだ。それ以外にどう言えというのか。
そんな中、ふとお姫様が僕を一瞥して、
「冒険者らしくはないですわね」
「姫様。荷運び役という職業があるのです。冒険者の荷物を運ぶ役目を持っている者で、彼のようにバッグを背負ったり、荷車を引いていたりしています」
「要は、下働きですか」
その言葉に、かすかにだけど、ミゲルの眉が動いた。その言葉には僕だってさすがにイラッとくる。もちろんそれは、僕が下働きと言われたからじゃない。荷運び役のことを、下働きと言ったからだ。きっとお姫様には自覚なんてないんだろうけど。
荷運び役さんたちは、迷宮探索には欠かせないとても重要な存在だ。先ほど彼が言ったように、或いはバッグを背負い、或いは荷車や台車、背負子のような道具と箱を使って、迷宮探索に生じる荷物運搬等のサポートを行う。経験値はいわゆるパワーレベリングなどを行って確保し、荷運びのために相応にレベルは上げるのだけど、荷物を運ぶ技術や解体技術などに特化で基本的に戦闘はしないため、冒険者の中でもかなりのリスクを負っている者だと言える。
そのため、基本的に真っ当な冒険者たちは、荷運び役のことを馬鹿にはしないし、待遇だってきちんとしている。荷物をいっぱい運べる人とか引く手数多だ。
とまあそれをわかってか、注目チームの彼も少し慌て出す。彼らの中にも魔法使いはいるけど、基本的に荷運び役のお世話にもなっているからだろう。魔法使いによって、ディメンジョンバッグの要領も結構変わるし。僕? 僕は細かには測ってないけど、大体四トントラックくらいかなー。
場の空気を変えようとしたのか、注目チームのリーダーが他の話を振ってきた。
「ええっと、ちなみに、ランクの方はおいくつで?」
そこ来る?
「あーえー、三万台です」
「そ、そっか……」
言いにくそうに口にすると、訊ねてきた彼は何とも言えない表情を見せる。そうだよね。そんな反応になるよね。まさかミゲルの友達が、低ランクだなんて思わないよねー。
「相手にするような者でもないですわね」
一方お姫様の方は、完全に僕を見下している。うーん、やたらトゲがある。なんなのか。人を見下すのがデフォなのかこのお姫さまは。
「まったく、このような者と付き合っているなんて、そんなことではあなたの評判も落ちるのでは?」
「うわ、そこまで言う? ちょっと傷つくなぁ……」
「なにか文句でも?」
「いーえー」
「おい、貴様ぁ!」
嫌みっぽいというか、ぞんざいな態度を取ったせいだろう。近衛が動き出しちゃった。やるか? やるのか? 僕は逃げるの万端だぞ。脱兎の如く逃げちゃうぞ? 絶対に手が出せない日本とかいうところに逃げちゃうぞ?
「――姫様、彼は私の友人です。それくらいにしていただきたい」
ミゲルがかばってくれた。すると、お姫様が不機嫌そうに近衛たちを制する。
一方で近衛たちは、おさまりがつかない様子だったけど、ミゲルが睨みを利かせたら、呻いて引き下がった。
近衛だっていくら強くても、20から25程度と考えればまあ当然と言っちゃあ当然だろう。もっとレベルの高いミゲルと正面から戦ったら、絶対に勝てない。
……あれ、なんか僕ってば、虎の威を借るキツネみたい。うわーダサいわー。
「ミゲルさーん」
妙な空気に包まれていると、ふと後ろの方から、幼さを感じさせるゆるふわっとした少女の呼び声が聞こえてきた。
振り向くと、緩いウェーブのかかった明るい金髪の少女がいた。ローブを着ており、長く大きな魔杖を持っているため、魔法使いだろう。杖の先端にサファイアが付いているから、青の魔法使いで確定だ。
どうやら、ミゲルのチームのメンバーらしく、
「ミーミルか、どうした?」
「どうしたもなにも、レヴェリーさんにそろそろ放してやってくれって言われて来たんですけど……その必要はなかったみたいですね」
僕が縄を解いてしまって、遅ればせた解放者となってしまったか。
「で、レヴェリーはなんて言ってる?」
「あの、誠意を見せろですって」
「……だよな」
レヴェリーさん――つまり恋人さんの自由業の方々みたいな台詞を伝え聞いて、頭を抱え出すミゲル。すると、ミーミルと呼ばれた金髪の子は、ため息を吐いて、
「ミゲルさんがあんなことするからですよ? 恋人がいるのに他の女の人とイチャつくなんて人としてどうなんですか? 最低を通り越して。クソですよクソ。クソ以下です。ゲロです。いっぺん吐瀉物としてフリーダの道端にぶちまけられたらどうなんですか? ほんと……」
やたらと暗い雰囲気をまとって、ぼそぼそとミゲルに対する文句のようなことを吐き出していく少女。口が悪いというか、お腹の中身が全部口から溢れ出ているみたいだ。これはきつい。
「いや、あの、ミーミルさん? そのくらいにしといてもらえませんかね……」
ミゲルが申し訳なさそうに言うと、彼女はハッと何かに気付いたように口に手を当て、
「あ! すいません、私ってばつい……」
「…………」
ついというレベルかそれは。普通気付くだろうに。
どうやらミゲルのお仲間は、結構濃ゆい方らしい。ミゲルは「なんか買ってかないと怒られんのか……」とちょっと消沈気味だ。当たり前だ。しこたま怒られるがいい。
「ミゲルさん。この前飲んでたお酒、持って行ってあげたらどうですか?」
「いや、あれは……」
そう言いにくそうにしながら、ミゲルは僕の方を見た。ということは、つまり、アレだ。ウイスキーだ。
「悪いけど、あれはないんだ。ごめんね」
「だよなぁ。そう都合よく持ってないよなぁ」
そう言えば、欲しいって言われてたっけ。手に入れていなかった。今度魔術でも使って購入しといてあげよう。
一方、ミゲルはあきらめたようにため息を吐いて、お姫様の方を見る。
「お呼ばれですので、失礼します」
ミゲルはそう言うと、僕の肩をポンポンと叩いて、顔を近付けささめきごと。
(……悪い。言い返せてやれなくて)
(仕方ないよ。偉い人なんだもの。気にしないで)
相手はお姫様だ。相手取ってことを構えたら、どんなことになるかわからない。僕みたいな一人で動いてる人間ならどうとでもなるだろうけども、ミゲルには仲間がいるのだ。仲間に累が及ぶのは避けなければならない。
ミゲルは僕に謝ると、さっきの金髪の少女と一緒に去っていった。
一方注目チームもお姫様も、超高位ランカーであるミゲルにしか興味はないのだろう。僕のことを気にする様子もなく、もといた位置へ戻っていった。
そんな中、スクレールがこっちに向かって、てくてくと歩いてくる。注目チームの彼はまた彼女に声をかけようとしたけど、スクレールはそれを完全無視して通り過ぎた。ひえー。
(いやー、さすがっすわー)
そこまで自然と無視できるのはすごすぎる。人間嫌いここに極まれり。リッキーのときはほんと特別だったんだろうね。相手が注目ルーキーだろうがお姫様だろうがまるで関係ない。鋼のメンタル。スクレール先輩さすがっす。
とまあ、僕がスクレール先輩の方を気にしていると、
「おい!」
「はい?」
気付くと、残っていた近衛の人たちがいつの間にか僕に迫ってきていた。そして、
「貴様先ほどは随分とふざけた物言いをしたな!?」
「あー、えー」
「殿下にあのような態度を取ってただで済むと思っているのか!?」
あちゃー、やっちゃったみたい。近衛の人たちはさっきの僕の態度でかなりご立腹らしい。デカイ怒鳴り声をあげて、顔に怒りを表している。
やっぱり逃げなければならないか。脱兎の如く。
そんな風に脳内で閣議決定されたので、戸惑っているふりをして、袖口に魔杖を滑らせる。そして小声で『超速ムービングアクセル』をかけようとしたそんなとき、横の奴が掴みかかろうとしてくるのが見えた。
(掴まれたらマズいか――ならここは)
――頭のスイッチを切り替える。平時モードから、迷宮モードへ。このまま加速の魔術をかけたとしても、動き出す直前に捕まえられる可能性がある。意外と間合いが近かった。なら、ここは逃げるのはを先送りにして、師匠に教えてもらった『エソテリカフォース』を解き放ち、この近衛たちを吹き飛ばして間合いを離すしかないだろう。吹き飛ばなくても、魔力の爆風に晒されれば確実にひるむはず。その間に、『専心コンセントレートリアクト』をかけ、自分の意識を拡大、反応速度を上げたあと、『強身フィジカルブースト』『超速ムービングアクセル』を即座にかけて、この場から無理やり離脱すれば――
「――なにしてるの?」
思考中、ふいに、正面に立った近衛のさらに後ろから、そんな声がかかった。聞き覚えのある声がやたらと冷たくなった、戦慄を誘う一言それに――近衛たちが振り向くと、そこには、こちらに歩いてきていたスクレールの姿があった。
「なんだおま――」
「私は、何をしてるのかって聞いてる。答えろ人間」
「う――」
やにわにスクレールに突き付けられた殺気よって、近衛たちが呻く。僕が初めて彼女に会ったとき――いや、それを遥かに超えるほどの殺気だ。殺意だけで物理的に人が死ぬんじゃないかってくらいに、きつい。胃とかタマタマがきゅんとなるレベルを通り越してる。ストレスマッハで胃ガンになりそう。とういか肌に万本の針が刺さったように感じるとか尋常じゃないヤバいこのままだと近衛が死ぬ。
怒っているのか。怒っているんだろう。スクレールはただひたすら静かにしていて、感情を顔にも出していないため表情からは判然としないけど、これは激おこだろうね間違いない。
一方、近衛たちはこれまで感じたことのない激烈な殺気に縫い留められて居竦んでいる。異世界ド・メルタ最強種族一角、耳長族の怒気、武威、殺気。そのすべてをかけ合わせた威圧感に膝が震えて動けない。
そのうちの一人が、それを跳ねのける気概を持っていたらしく、剣の柄に手をかけた。すごい。この状況で動けるとか称賛に価する。でも、
「き、きさ――」
たぶんその人は、「き、貴様ァ!」とか威勢のいい言葉を言いかけたんだろうと思う。だけど、剣を抜きかけた近衛は言い終える前に轟音と共にホールの端っこ二十メートルくらい先までドライブシュートで吹っ飛んだ。人間って縦に回るんだねーとかぽわわんと考えたのも束の間、何事かと思うと、腰の入った様子で裏拳を構えたスクレールが、口から白い息を吐いていたのが見えた。
これは、あれだ。勁術の技を打ち込んだのだ。しかも結構本気目で。
「ひょぇぇ……」
あ、これは僕の声です。さすがにあの殺気の上にこれだったもんで、超ビビりました。だって人間が突然吹っ飛んだんだもんマジビビるでしょ。
近衛たちは仲間が吹っ飛んだけど、何も言えない。スクレールの威圧で、動くことすらできないのだ。
そんな近衛たちを冷ややかに睥睨したスクレールが、
「……先に剣に手をかけたのはそっち。これを問題にするなら、ギルドを通して。そうじゃなかったら――」
ガチで相手になるというのか。正面大ホールに震脚の轟音が響き渡る。衝撃で椅子やテーブルが一瞬浮いた。近衛はもとより、こちらの騒動に気付いたお姫様は殺気慣れしていないため言わずもがな、注目チームたちも何も言えない様子。武力ってすごい、こわい。
他方周囲は「さすが耳長族だな……」「カッコイー」「やっぱ仲間にしてえなぁー」「あいつらションベンちびってんじゃねえ?」とか感嘆とした様子で観察している。
誰も動かないのを見ると、スクレールは殺気を解いて僕の方に来た。
「アキラ」
「あー、スクレ、ありがとう」
「別にこのくらい構わない。『四腕二足の牡山羊』に比べれば、あんな奴らダンゴムシ以下」
いや、さすがにこの人たちを迷宮深度30のボス級と比べるのはかわいそうだよ。あれボスモンスターだよボスモンスター。一匹いれば街とか滅ぶとかいう怪獣さんだよ。
「アキラ」
「なに?」
「今日は行きたいところがある。連れてってくれるなら、一緒に行ってあげてもいい」
相変わらず意味不明な言い回しだけど、要は連れてけということだ。
「いいよ。どこ?」
「今日は『街』に行きたい。『居丈高』の核石が大量に必要」
街とは、迷宮深度22『緑青に煙る街』のことだ。この前、大ギルドが攻略に出た迷宮深度52『死人ののさばる地下墓地』と合わせて二大ホラー階層と呼ばれるうちの一つであり、第1ルートを進む新人冒険者たちの前に立ちはだかる最初の鬼門でもある。深度22という数字はスクレールにとって適正だけど、あそこはレイス系のモンスターであふれているため、魔法使いがいなければ手も足も出ないのである。
だけど、
「核石が必要って、どうするの?」
「西にいる同胞たちの里に送る。最近レイス系のモンスターが活発化してるから、手に入るなら是非手に入れてきてくれって」
「なるほどね」
同じ種族のためか。真面目さんだ。そう言えば以前、スクレールは迷宮で取れる素材や核石をゲットして、同胞に送っているのだと言っていた。遊びで来ている僕なんか、彼女に比べればゴミクズである。いやほんとマジで。お金も定期的に返してくれるし、一緒に潜ると大半の核石はくれるし。良い子なのだ。
気付くと、ほかの冒険者たちがア然として僕たちの方を見ていた。
……そりゃあさっきから勧誘してた子が、王国の近衛をぶっ倒して、自分から声をかけたのだ。見れば、注目ルーキーも驚いた顔をしていた。
「い、行こっか」
「……?」
スクレールの手を引っ張って、離脱する。なんかこういうの、結構居心地が悪いし。
――あ、あとで聞いたんだけど、このトラブルの件はまるで問題にならなかったらしい。なんかあのあと、沢山の冒険者たちがギルドを通して猛烈な抗議を入れたとか、連判状まで書いたとかいう話なんだけど、はて、どうしてなんだろうか。
次回は迷宮冒険回にする予定です。




