前世の恋人 2
週初めの学校、なんの代わり映えのない日々…
(……つまらない。)
閏さんと過ごした日々は短くも幸福で
この時間が永遠に続けばいいと思えたのに…
見た目や嘘の優しさに騙されて
僕を良い人と判断する周囲の人々。
つまらない。
僕を見極めてくれたのは、
僕と同じな”彼女”だけだったーー
「先輩、なんで彼女と別れちゃったんですか?!
先輩の言ってた通り『ウルウさん』だったのに!」
放課後、各々が帰り支度に入り
廊下に出ると後輩の柊が駆け寄ってきた。
「別に大した理由ではないですよ。
彼女は”私”の探していた
『閏さん』じゃなかっただけのことです。」
「えー、じゃあ新くん今彼女いないんだ!」
「私、うるうに改名しよっかな〜」
名前も知らない(と言うより覚えていない)
女子生徒たちが頭の軽い会話を軽く聞き流す…
「駄目ですよ。」
…つもりだった
「『閏さん』じゃないと駄目なんです…」
僕は駄目だ…閏さんのことになると特に…
早く…
「会いたいな……」
貴女が誰かのモノになる前に。
一人でいると生徒や先生に頼み事をされたり、
告白されたりするので柊と帰ることにした。
「元日田さんっオカエリっすか!」
「俺達もご一緒し…」
「大人数は苦手なので、」
「相変わらずクールっす!」
「やっぱ憧れるよな元日田先輩!」
「なんでそんなに不良に好かれてるんですか…?」
「なんか前に集られてね…正当防衛ですよ。」
「」
「俺達も『ウルウさん』探し頑張ります!」
「早く見つかるといいすね!」
「ああ、ありがとう。」
使えるものは使うべきだ。
彼らのことなどどうでもいい。
放っから宛にしてない。
そんなことを言えば人間性を疑われる。
だから僕のような人間は嘘をつくのだ。
だから彼女は気づいたのだ僕の異常性に…
彼女も『同類』だったからーー
٭•。❁。.*・゜ .゜・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゜
「あ、元日田先輩、俺弟のお迎えが」
「じゃあ、私はここで…」
用事があるのなら一緒に帰る必要もない。
学校から離れた住宅地に入ったし
周囲を見渡しても同じ生服は見かけなくなった。
「『ウルウさん』探し手伝ってるんですから
偶には俺にも付き合って下さいよ。」
「…それもそうですね。
わかりました。付き合いますよ。」
(面倒だが、ここで断っても変わらないな…)
その後、幼稚園に着くまで続く
弟の自慢話が始まるとは思いもしてなかったが…
「冬夜!迎えに来たぞ。」
「…!雪夜にいさん!!」
目的地に着いてやっと解放された。
もう二度と彼に弟の話題を振るのは辞めようと心に誓う。
ふと柊の弟の制服に見覚えがある気がした。
(………あれこの制服、確か前にも…)
「君、『山田 花子ちゃん』という女の子知っているかな?」
「まず名前をなのるべきでしょう。
まったく兄さんまでその程度とおもわれます…」
「コラッ、冬夜!
目上の人に対してそんな口聞いちゃ駄目だろう!」
「確かに私も名乗るべきでしたね。
初めまして、お兄さんの学校の先輩の元日田新です。」
「ひいらぎとーやです。さっきはごめんなさい。」
子供にしてはちゃんとした子だ。
だが、それだけ。
花ちゃんはもっと賢く聡明だった。
「先輩、山田花子って完璧に偽名じゃ…」
「幼稚園にはそんな子いないです。
だけど変わった名前の子ならいますよ!
エンジェルさんにアースさん、アワさん、ナイトさん…」
「ちょっと待って、今なんて…」
「ナイトさん…?」
「その前です!」
冬夜くんの肩を強く掴み問いただす。
柊に何か言われているが耳に入ってこない。
全神経が冬夜くんの次の言葉を待ち望む。
「アワ…さん…」
こんなに近くに貴女はいたのですか…
”閏さん”
「先輩?」「もとひださん?」
同じタイミングで声をかけてきた柊と冬夜くん。
流石、兄弟。
「冬夜くんはその『アワちゃん』と仲がいいのかな?」
「アワさんは変わってるって有名で
みんなから怖がられていていつも一人なので
僕がいつも話しかけてあげてるんです!」
「偉いなー冬夜!」
「へへっ」
話し掛けて”あげてる”……か…
上から目線で人を見下した傲慢な子供の考えだ。
それに敢えて一人で居る可能性もあるというのに
…まぁその辺は5才の少年に悟ることは無理ですね。
…それを偉いと褒める柊も
所詮、その程度の人間ということだ。
「へぇーじゃあお友達なんですか?」
「うん!そうです!」
相手は友達
そう
とは思ってないと思うけど…
「その『アワちゃん』ってどの子ですか?」
「あそこの砂場の前でかがんでる子です!」
冬夜くんが指さした先には
長い黒髪の目立つ女の子がいた。
生憎、後ろ姿で顔が見えないが
僕は確信めいた何かを感じていた。
「ちょっと挨拶したいので連れて来て貰えますか?」
「「え?」」
しまった…焦り過ぎたか…
もっと言い方があった…これじゃ不審だ…
「弟の友達なんだから
挨拶した方がいいんじゃないですか?」
小声で柊だけに聞こえるように言う。
「そうだな…兄ちゃんも一応、
挨拶したいから連れて来てくれるか?」
先程からの冬夜くんの様子を見れば
後のことは明確。
兄至上主義の彼は必ず…
「兄さんが言うなら連れてきますね!」
yesと答える。
「さっきの何だったんですか?」
冬夜くんは砂場の少女に話し掛けている間に
唐突に柊が話しかけてきた。
「…なにがですか?」
「冬夜の友達に挨拶したいってやつですよ!」
(疎い柊に悟られるなんて浮かれすぎだな…)
「もしかしたら見つかったかもしれないんです…」
「見つかったって…もしかして!」
「連れてきましたー!」
柊の言葉を遮るように冬夜くんが
黒髪の美しく子どもらしからぬ
雰囲気を持つ少女を連れて来た。
その少女の前にしゃがみ目線を合わせ
彼女の胸元に付けてある名札に触れて笑う。
「…へぇー、花ちゃんって『ツバキ アワ』
っていう名前なんですか…素敵な名前ですね?」
そこには昨日の少女ーー花ちゃんがいたーー
(やはり、僕は間違ってなかった!!)
運命を愛しさを欲情を切なさを感じ
愛しさに溢れ涙が出そうになるほど感情を
僕の全てを動かす人ーー
そんな人、一人しか、いないーー
よかった…閏さん…いえ、沫さんが園児で。
いくらなんでもこの年で恋人はいませんよね?
でも沫さんはこんなに可愛くて色っぽいのですよ
同い年のマセガキに手を出されたり、
変態な大人に汚されていてもおかしくは無い…
なんで僕はもっと早く気づけなかったのでしょうか
こんなにも君は僕の傍にいてくれたというのに…
待ちきれず僕の前に姿を見せてくれたのに
僕に気づかれずショックを受けたのでしょう…
怒ってるにしても僕を忘れたフリするなんて
本当に可愛いことをするのですね沫さんは。
前世からの運命の恋人である僕のことを
君が忘れるわけないじゃないですか!
…なぜ先生を呼ぶんですか?
不審者だって!?大変です沫さんが狙われる!
どこのどいつですか早く始末せねば…
……なんで僕を見るのですか?
٭•。❁。.*・゜ .゜・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゜
その後、僕は柊に取り押さえられ
沫さんと引き離されて職員室に連れていかれたー
今、こうしてる間に沫さんが
不審者になにかされたらどうするんですか?!
「不審者はあんたですよ!なんですか急に「見つかったかも」って相手は園児かよ!まだ6歳の女の子ですよ!何考えてるんですか!第一『ウルウ』でもないんですよ!なんでもいいんですかあんたは!つーか身近な人間がガチのロリコンで弟の友人に本気で口説いてる所に遭遇してた俺の気持ちも考えて!!」
「ロリータコンプレックスではないですよ。
単に好きな人が6歳の少女だっただけです。
それに誰でもいいわけじゃありません。
あの子が僕の探していた『閏さん』だと
確信したので彼女にまた惚れたんですよ。」
「いいこと言ってるふうになってるけどそれでも未成年に手を出すのは犯罪ですよ!」
喚く後輩を放置し考えを巡らせる…
僕と沫さんには前世と同じくらいの年の差がある。
あの時は高校生と沫さんも未成年でしたが
法に触れない程度には大人と言ってもいい年齢で
この世界じゃ幼稚園児と高校生…
下手すれば一緒にいるだけで犯罪…
…ああ、あの人を使えば…この先ずっと一緒に…