前世の恋人 1
愛しい人ーー
僕の宝物ーー
人に関心を持てない僕が
初めて恋をした大切な人ーー
ーーもう、君はどこにもいないーー
君のいない世界など意味がないーー
絶対に守ると誓ったのに、
君は大切な人を庇って死んだ。
他人を守るための死…
君の死は美しく残酷だったーー
君の仇を討って美しい赤に染った
ナイフを頚動脈目掛けて掻っ切る。
二人の血が体内で混じるーー愛しい人の血ーー
血の一滴も他人にやるつもりはない。
(……君を見つけるから…必ず。)
目が覚めると…というより
自我が芽生える年頃に僕は”僕”を思い出した。
そして、何よりも愛した”彼女”のことを……
前世と同じ世界観、だけど何処か違う。
彼女の言っていた平行世界
パラレルワールド
という別世界
前世と同じ名前に顔。
自分がそうなのだから”彼女”も
同じ姿かもしれないし、そうではないかもしれない。
ふと、気がついた。両親が前世と違う。
母親は派手目な女で金に目がない品のない奴。
父親は……?何処かで見たことのある人物だった。
(……あ、”彼女”の父親だ。)
前世
むかし
で、学園の理事長という
立場を利用して彼女について詳しく知った。
今世の親が彼女の父親なのは
なんらかの関係があるのか否か……
………今はまだなにもわからない。
彼女が前世と同じく、
歳が離れているかもしれないし、
同い年かもしれない。
異性かもしれないし、同性かもしれない。
人間じゃないかもしれないし、
……この世界にいるかもわからない…
それでも、僕は君が恋しい。
これを愛と呼ばずなんと呼ぼうか。
自我の発達、身体を自由に動かせるようになり、
一人で行動してもおかしくない歳になり、彼女を探した。
自我が芽生えたのが3歳、歩けるようになり、
一人で外に遊びに行くのが普通になったのが5歳。
幼稚園や公園、子どもの僕が
行ける範囲で探したけど見つからなかった。
もし、前世と同じ年の差なら
彼女はまだ生まれていない。
だから見つからないのだ。
けして彼女に逢えないわけじゃない。
いつかは絶対に逢えるのだ。
それまでの辛抱だ。
必ず逢えるそう思うことが今の僕の生きる糧だった。
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「アラタぁ、私と付き合って。」
「悪いけど僕は、」
学園で女子生徒に呼び出された。
陳腐な愛の言葉…
閏さんならもっと僕に刺激をくれる。
「私が潤でも?」
その言葉は相続してなかった。
「……閏さん?」
「そうよ、私の名前は立川潤。」
「閏さんっ、」
僕は思わず彼女に抱きついた。
こんな近くにいたなんて……
今思うと僕は閏さんに
会いたい気持ちが焦り見落していた。
閏さんなら濃い目の化粧を嫌うし香水もつけない。
第一に前世の記憶が有れば一番に僕に会いに来る。
僕は愚かだった。
閏さんと付き合って一週間たった。
何故か僕は彼女に心を許せずにいた。
(閏さんなのに…?)
そこでやっと疑問に思ったんだ。
彼女が本当に閏さんなのか、と。
「アラタ!寄り道してこーよぉ!」
「えぇ、そうしますか。」
公園へ寄るとそこで
一人の幼い少女が砂場で遊んでいた。
長い黒髪の日本人形みたいな
少女から目が離せなかったーー
何故か僕には閏さんと重なって見えた。
閏さんはどちらかというと
外国の人形のような可愛い人だった。
見た目は正反対だったが、
”やってる事”が酷似していた…。
「ヤダ!なにあの子!!気持ち悪い!」
閏さんが少女を指差して嫌悪する……。
疑いが確信へと変わった。
「……君、本当に『ウルウさん』ですか?」
「え、私は潤だけど?どうしたのアラタ?」
「アレを見てどう思いましたか?」
この女は...
「えーと、蟻が可哀想だから
やめてあげて欲しいな〜って」
……閏さんじゃない。
「別れましょう。」
「………はぁ?!」
「なんで急に!」
「前々から思っていたのですが、
君、ウルウさんじゃないでしょう?」
「はぁ?私は潤よ!」
「失礼、言い方を間違えました。
僕が探している『閏さん』ではないでしょう?」
「それは……」
「本当の閏さんなら蟻が可哀想なんて言いませんし
むしろあの光景を見たら『愉しそう』とか、
『子どもの無邪気さって残酷だね』
と、嘲笑いながら愉しげに言います。絶対。」
「なにそれ、意味わかんない!!
第一、なによ『ウルウ』って
子なら誰でもいいんでしょ!」
「違いますよ。
『閏さん』じゃないと駄目なんです。
だから閏さんじゃない君とはこれ以上、
付き合う意味がありませんので別れてください。」
「〜〜ッ、最低っ!!」
バシンッ)
叩かれた右頬に軽く痛みがはしる。
そんなことどうでもいい。
これで縁が切れるのなら。
「こんなもんっ!!」
そう泣き叫びながら
蟻を踏み潰して立ち去って行った。
「なにあれ、こっわ。」
発狂する女が立ち去り
一言目がそれだ。
本当に怖がった様子はなく、他人事のように独り言を言う。
小学校入学児でもない子供が、だ。
とても異様な存在だった。
「あーあ、カワイソ
何もしてないのに人間の勝手で殺されて
本当に惨いね、人間って。ねぇ蟻さん♪」
「君のソレは惨くないのかな?」
「私はいいの。みんな平等に殺すから。」
そう嗤って少女はポシェットから
何かを取り出し僕に渡した。
(……保冷剤?)
何故、保冷剤を渡してきたのか疑問に思っていると
少女は僕の瞳を見ながら自分の頬を指さした。
(…頬?……あ、)
少女の存在が気になって
痛みを忘れていたが自覚すると
急にヒリヒリと痛み出した。
少女がくれた保冷剤を受け取り頬にあてる。
(……冷たい。)
少女の幼稚園の制服に汗が流れていた。
自分も暑いくせに他人の僕に差し出したのだ。
優しい。だけど彼女のコレは
きっと慈愛の精神なんかじゃない。
現に僕を自業自得だと嗤っている。
差し出された優しさは、ただの気まぐれーー
(……似ている。)
最低限、人を思いやる優しさを持つくせに
他人に興味がなく、それに悩む”彼女”にーー
「まだ人間”は”殺したことないな。」
命の重さがわからない、
残酷さを持つ恋人にーー
「…君、もしかして名前が
『シキ ウルウ』だったりする?」
つい、聞いてしまった。
「……?全然違うけど?」
不思議そうな表情で上目遣いをする少女。
……やはり、違ったのか…?
「……そうか。じゃあ……
『ツバキヤ』とか『アワ』だったりしない?」
「………全然違うよ。私の名前は山田花子だもん!」
唐突に対応が変わったーー。
少女は急に年相応の”子供”のフリを始めた。
単に、本性を隠しただけか
それとも……
その少女ーー花ちゃんとまたここで会う約束をした。
「うん!お兄さんっバイバぁーイっ!」
僕が気づいたとはいざ知らず、
彼女は無邪気な笑顔を僕に向けた。
離れたくない、と不意に思った。
このまま彼女を攫いたいと…そんな思考にまで堕ちていく。
笑顔で手を振る彼女が”彼女”と重なって見えたー。