夢の中の初恋
少女は夢を見る。
引っ越しやらなんやらで疲れた(主に新のせいで)けど、ふかふかの大きなベッドにぽふんと身体を預ければ自ずと嫌なことも忘れてく。いつも傍らに…しかしお父さんに壊されないように隠していたけど、もう隠さなくていい…それが何より嬉しかった。
『もう…怖くない』
ベッドの上でぎゅっと抱きしめた。
「…そうしてると年相応に見えますね。」
…おかしいな…部屋の鍵閉めたのにどうやって潜り込んできたんだろう?
『私の眠りを妨げるな。あと、どうやって入った?』
「沫さんは本当に睡眠をとることが好きですね」
スルーしてきた。いや本当に音も無く忍び込まないでほしい。出来ることならこの家からも出てってくれ。
『…人をだらしない人間みたいに言わないでくれない?
私、別に寝るのが好きなんじゃなくて夢が好きなの。』
「夢ですか?」
『そう!小さい頃からいつも同じ夢見るの!』
「同じ夢を?それは珍しいですね。どんな夢なんですか?」
ふん、と自慢げに鼻を鳴らす。
この話を聞いてショックを受ける顔が目に浮かぶ!
この変態にやられっぱなしじゃ癪だ。
たまには仕返ししてやろう。
そんな気持ちもあったけど、
夢の中の初恋の人を誰かに自慢したかったのもあった。
『綺麗な花や木に囲まれて
テーブルの上には美味しそうなお菓子と
高そうなティーセット…そこに座ってお茶を飲むの、
向かいの席に座ってるかっこいい男の人と!!』
「…っ、沫さんはその人の顔を、覚えているのですか?」
『いや?覚えてないけど、きっとかっこいいよ!
雰囲気が穏やかで優しいもん!
絶対、新よりかっこいい人だよ!』
「……そう、ですよね」
そして新は複雑な表情を浮かべた…
…ちょっと言い過ぎた…?
『あ、新もかっこいいと思うよ?
…だから、その、…落ち込まないで?』
「…やはり、君は優しい…優しすぎる…
それじゃぁ、また…いつか、殺されてしまう…」
徐々に声が小さくなっていき
最後の方はなんと言ったか分からなかったけど
無言で抱きついてきた新を引き剥がすつもりになれなくて
しばらくは大人しく捕まっといた。
(それにしても”あの場所”どこなんだろう…)
何故か既視感を感じる私好みの庭園…
…その既視感は、
きっと同じ夢を繰り返し見るせいだ。
少女は覚えていないーー。