第3フェーズ
「ねえ。第2フェーズの山下さんの2手目だけど、なんで♠9だったのかしら」
田中佳子さんが、難しいところを聞いてくる。この人はボケっとしているようで意外と頭の回転が早いから扱いに困る。
「いくつか考えられますが、一番可能性が高いのは山下氏が10に地雷を仕込んでいた可能性でしょうか」
「でもさっき、地雷を仕込むならJっておっしゃってましたよね?」
「ええ。細かく言いますと、一番有効なのが♦J♣Jです。この2枚は8910JQのストレートフラッシュに絡めることができます。これが第2フェーズの最高手役です。ルールに地雷がないなら真っ先に選ぶカードでしょう。♥J♠Jですと、78910Jのストレートフラッシュになります。これが第2フェーズでは次に強い手役です」
喉が乾いてきた。ずっと喋ってる。
横から、ウーロン茶の入ったグラスを出された。
「お。ありがとうございます」
胃辺利己さんだ。流石に執事が板に付いている。
僕はグラスに口を付け、喉を潤す。
「次に可能性が高いのが10です。ここに地雷を仕込むと、さっき説明したJに地雷を置いて10でカードを揃えようとした人の思惑を挫くことができます。おそらくですが、山下氏は♦10か♥10に地雷を仕込んだ上で、卯月さんにそれを引かせるために、ご自分は♠の10を選んだのではないかと思われます。卯月さんは33%の確率で地雷を踏んでいたわけです。しかし……」
僕はもう一口ウーロン茶を飲む。
ウーロン茶って飲むと歯が黄色くなるよね。虫歯にはならないけど夜飲んだらやっぱり歯を磨いた方が良いよね。
「しかし、卯月さんは♣10を選び、躱してしまった。そのため、山下氏の手札の♠10はペアまでしか作ることができなくなります。だから♠9を選び、ストレートフラッシュでのDRAWに切り替えたのではないかと考えられます」
「なんか奥が深くて、説明を聞いても良くわからん……」
狼牙風子さんは頭を抱えている。威圧が少し弱くなっていた。
他の可能性としては、延長を考えたときストレートフラッシュの方が好ましかったとかだね。説明するのが面倒だったので、僕は黙っておいた。
「ダイヤの4」
「ハートの6をお願いします」
ああ、もう第3フェーズが始まってしまった……ん?
「「はあ?」」
卯月さんと驚きの声が重なってしまった。表情まで同じだ。空いた口が塞がらないってやつですよ。
……聞き間違えじゃないですよね?
「……クラブの4を……」
卯月さんはしばらく考えたあと、納得いかない表情のまま第3リードを選ぶ。
「ハートの8とハートの9をください」
「「なっ!!」」
またも卯月さんと声が重なった。
名探偵の手札は、♥6♥8♥9の3枚だ。残りのリードで♥5♥7、または♥7♥10を選べばストレートフラッシュになる。地雷が仕掛けられているとしか思えないが、逆に地雷を警戒させて、そのままストレートフラッシュを狙っていると言うことも考えられる。
僕が卯月さんの立場なら、♥10を選……んじゃダメだ。
ああ、3箇所中2箇所に地雷を仕込んでいる可能性がある。第1フェーズに♥10に地雷を仕込んで、第2フェーズで♥7に仕込む可能性が。この場合、最も危険な♥5を除いた♥7♥10の2つからカードを選ぶと100%地雷だ。
なるほど……
もし、ストレートフラッシュを止めるのであれば♥7で止めたい。♥10で止めても、その後のリードで♥5を名探偵が選んだら結局♥7を止めるかどうかの2択を強いられる。♥5で止めても同様だ。
しかし、それだけに♥7は罠に思える。でも、罠の確率で考えると、♥10は第1地雷の準危険領域、♥5は第2地雷の最危険カードの1つであり、決して低くない。
とても嫌な選択肢だね。
「ダイヤの2とクラブの2を!」
僕がそうこう考えているうちに卯月さんがカードを選んだ。やっぱり♥5♥7♥10は選びたくなかったみたい。
「ハートの10をください」
くうう……
悔しげに唸る卯月さん
彼は最後の最後で、♥7かそれ以外かを選ぶ選択を迫られた。
僕の目には、彼は捕食者に睨まれた獲物としか映っていない。




