第2フェーズ
さて、ここからが見ものだ。
第1地雷フェーズでどこに地雷を設定したのかによって、戦略が大きく変わってくる。第1リードフェイズでは卯月さんが先行だったが、第2リードフェイズでは名探偵が先行だ。既に第1フェイズでAとKは全滅、Qは♠と♥が使用済みになっている。
定石的にはJに地雷を仕込んで10と9の2ペアで引き分け。次いで可能性が高いのは、10に地雷を仕込んで9と8の2ペアで引き分けだろう。
名探偵はどう出るのか?
「スペードの10をお願いします」
「クラブの10を」
「スペードの9をお願いします」
「……くっ!」
第3リード、つまり名探偵の2枚目のリード後に、卯月さんの手が止まる。
それはそうだ。定石勝負かと思っていたら、いきなり勝負手だ。
「えっと、これって山下さんの負けなんでしょうか?」
「えっ? 何故でしょうか?」
いきなり訳のわからないことを言う池谷美香さん。
「え、ええ、さっきネクサスさんが同じ数字を3枚揃えたら勝ちだって……山下さんが♠10♠9で、卯月さんが♣10だから、卯月さんの2回連続リードで♦10と♥10を選んだら、もう勝てないんですよね?」
「ああ……何のことかと思いましたよ」
少し驚いた。僕が考えていない手を思いついたのかと思ったよ。
「先程の説明で、高い数字のスリーオブカインドを破るには、連番しかないと説明したはずです。例えばですが、第5リードまでで卯月さんが池谷さんの言うように♣10♦10と♥10の3枚を揃えたとします。その次の第6、第7リードは山下氏の順番なので、♠8と♠7を選んだとします。この時点で、山下氏の手札は♠10♠9♠8♠7です。これに♠Jか♠6が加わればストレートフラッシュになります。卯月さんがこれを止めるには♠J、♠8、♠7、♠6のいずれかに地雷を設定していることが条件ですが、この様子だと違うのでしょう。」
「この第4、第5リードで邪魔すれば良いんじゃない?」
米下さんは呑気に発言する。もう少し考えよう。
「それも無理です。仮に卯月さんが♠8と♦10を選ぶとします。このとき卯月さんの手は♠8♦10♣10になります。名探偵さんが第6、第7リードに♥10と♥9を選ぶと、手札は♠10♥10♠9♥9になります。後1枚9を選べばフルハウスです。卯月さんは♦9♣9の2枚ともを抑えないと行けないのですが、卯月さんのリードの次は山下氏のリードです。よって山下氏の手札は確実に10と9のフルハウスになります。卯月さんの最高手は10と8のフルハウスなので勝てません」
「じゃあ卯月負けじゃん」
華月さんは諦めが早すぎる。
「いえ。手はあります」
僕がそう言ったところで、卯月さんが生存の道に気づいた。
「クラブの9とクラブの8を!」
「スペードの8とスペードの7をお願いします」
卯月さんの答えの直後に即答する名探偵。頭の中身がどうなっているのか見てみたい。
「く……クラブの7を!」
「スペードの6をください」
え? その選択肢もノータイムですか……
本当に恐ろしい相手とは、こういう相手を指すのでしょうね。
「えっと……山下さんが♠10♠9♠8♠7♠6のストレートフラッシュで、卯月さんが♣10♣9♣8♣7なので、最後に♣6を選んで引き分けですのね?」
「いえ、そうとも限りません。♣Jを選択することが出来ます。もっともほぼ100%罠ですが」
そう卯月さんが第4、第5リードでスリーオブカインドに行かなかったのは♠Jに地雷を仕込んでないから。これを理解しているであろう名探偵が最後に♠Jを選ばなかった理由は3つほど思いつく。1つ目は自分が♠Jに地雷を仕込んでいたため。これは多分ないだろう。2つ目は第3フェイズに移行し掛け金を上げたいから。この可能性は高い。ハッタリでもJ自体選びにくいし、♣Jに地雷を仕込んであれば言うことないだろう。そして3つ目は
「く……く、クラブの6」
卯月さんは♣Jを選ぶのはやめたようだ。
少し意気消沈したような姿に見える。
……3つ目は、卯月さんが勝ちに目が眩んで地雷を踏むのをその双眼に収めるため……
さっきはそんなことを思ってしまった。
そして、その考えはとっても僕好みだ。




