ネクサスの考察
「わからん。もう少しわかりやすく解説しろ」
狼牙風子さんが威圧的に要求してきた。
狼牙風子さんは明らかに裏の人間だ。いくら隠さない様式とはいえ、ゲームの解析のためにその威圧を放つのはやめて欲しい。
「このゲームはスリーオブカインド。つまり3つの同じ数字を揃えるのが基本戦略なんです」
皆さんが続きを聞きたがっているようだ。仕方ない。説明を続けよう。
「フラッシュとストレートがないため、強い方から、ロイヤルストレートフラッシュ、ストレートフラッシュ、フォーカード、フルハウス、スリーオブカインド、ツーペア、ワンペア、ハイカードの順番です。ロイヤルストレートフラッシュ、ストレートフラッシュは5枚のカードが必要ですが、1手で確実に邪魔ができるこのゲームでは揃えるのが現実的ではありません。仮にこちらがロイヤルストレートフラッシュを作れば相手もロイヤルストレートフラッシュを作っているでしょうから勝負はDRAWです」
「連番ではなく、同じ数字を揃えれば良いフォーカードは、相手に邪魔されてもスリーオブカインドになります。もう一手邪魔されてもペアが出来ます。仮にですが、Aのフォーカードを邪魔するにはどうすれば良いですか?」
米下刻男さんに話を振ってみる。この人は思いついたことを次々口にするのであまり会話をしないようにしている。
「え? こっちもAを選べば良いんじゃないか?」
「その通りです。では、相手が♥A♠A♣Aのスリーオブカインドと残り2枚、こちらが♦Aを1枚と残り4枚。この時点で、ストレートフラッシュを除いて相手に勝てる手は何がありますか?」
「フルハウスで良いんじゃない?♥K♠K♣K♦A♥Aとか……あ!」
「そうです。それだとAが被ります。相手の手を止めるためにAを持っている時点で、Aのスリーオブカインドに勝てる手は連番しかないのです。しかし連番は一手で止められてしまう」
「よって、Aのフォーカードを邪魔するには、Aを2枚取らなければいけません。この時点で、両者とも残りの札は3枚です。相手がAとKのフルハウスを狙っている場合、どうやって邪魔しますか?」
今度は、池谷美香さんに振ってみる。
「え、え、えええ、Kを2枚取ります」
「正解です。相手が♥A♠A♥K♠K、こちらが♣A♦A♣K♦K、残り1枚は役に影響のないカードになりますが、カードの大小が勝敗には影響します。よってQしかありません」
「何だ。第1リードフェイズは直ぐ終わって当然じゃん。」
これは華月花さんの発言だ。この人はあまり得意でない。若くてケバケバしい。
「ええ。他の形の場合は、両者で談合しているのでしょう。例えばBetを吊り上げて勝負をするために」
「第2リードフェイズはどうなる?」
狼牙風子さんが威圧的に話しかけてくる。その威圧をOFFにしてください。
「リードの基本戦略がなるべく高いカードのスリーオブカインドになるのは第1リードフェイズと一緒です。よって、J狙いです。ただし、ここからは地雷カードが妨害の役目を果たします」
「仮に相手がJに地雷を仕掛けた場合、Jのスリーオブカインドを揃える確率はどうなりますか?」
田中佳子さんに質問する。参加者の中ではこの人だけはどういう人物か読みにくい。演技をしているようにも見える。
「25%でしょうか」
「ええ、そうです。では、相手がJを1枚引いた場合は?」
「0%です」
「その通りです。こちらがJを2枚、あちらがJと10を1枚ずつ。この状況でJを引けるでしょうか」
「……無理ですね。相手がJを避けて10選んでいるのは、残りのJが罠だからじゃないかって思います。」
「ええ、実際罠の可能性が高いでしょう。Jは先程言いました最も数字の大きなスリーオブカインドを揃えられる数字です」
「以上から定石としては、互いにJに地雷を配置し、10と9のツーペアと8でDRAWになる可能性が高いでしょう。ただ…」
「ただ?」
そう。そんな手では面白くない。名探偵さんがそんな手で来るとはとても想像できない。
「山下氏が私の想像通りの方なら、この第2リードフェイズで定石を破り、荒らしてくると思います」




