第1フェーズ
遊戯室。室内はやや薄暗い。ポーカーテーブル、スロット、ビリヤード台、チェス色々な遊び道具が揃っている。コイン探しがなければ、ここで一日中酒を片手に遊んでいたい。そう思える雰囲気の部屋だ。
プレイングテーブルを挟んで田中佳子女史と卯月氏が対峙している。
もう一面にはディーラー席があり、胃辺利己豚男が佇んでいる。
俺達はAudienceと書かれた領域から外に出ることは禁止されている。この位置からは、2人の手元を見ることができない。地雷カードを選ぶときに見えないようにしているのだろう。
胃辺利己豚男はプレイングカードを1デッキ封を切り、ポーカーテーブルに並べていく。並べ終わると、2デッキを取り出し、封を切って両者に渡した。
一応説明しておくと、トランプという名前が通用するのは日本国内だけだ。海外ではplaying Cardという。つまり某大統領のことをカードゲームと一緒の名前と考えるのは日本人だけだ。ちなみに、trumpは切り札という言葉を意味する。
「それでは地雷ポーカーを開始します。両者Betを」
卯月氏はスーツの胸ポケットから1枚コインを取り出し、テーブルに置く。
田中佳子女史は小物入から同じく1枚を取り出して置いた。
「順番を決めます」
そう言い、カードをshuffleする。
「rouge席。田中様先行です」
「お手柔らかに」
「あら。それはこちらの台詞よ。女性には優しくしたほうが良いのではなくて?」
開始直後の会話だが、2人の間に火花が見える。よほど相性が悪いようだ。
「スペードのAをくださいな」
田中女史の発言に反応して、胃辺利己豚男が並べられたカードからスペードのAを田中女史に渡す。かなり慣れた動きだ。
「では、私はハートのAを」
胃辺利己豚男はカードを卯月氏に渡す。
しばし考える田中女史。
ここで選べるカードはAしか無いはずだが?
「スペードのKをくださいな」
「ぷっ……はははははは……失礼。ははははは……」
卯月氏は笑いを堪らえようとするも吹き出してしまった。
「それも占いのちからですか?」
「ええ。その通りです」
「ふむ。胃辺利己さん、クラブのAとダイヤのAをください」
これで、卯月氏が♥A♣A♦Aの3枚、田中女史が♠A♠Kの2枚。
そして、2回連続で田中女史がリードする順番だが、最強手役を揃えることは不可能だ。次の卯月氏のリードで邪魔をされるからだ。
「スペードのQとJをくださいな」
「では私はスペードの10をくださいな」
かぶせて発言する卯月氏。この人を馬鹿にするような発言はいただけないな。こんな発言をして良いのは、男に向けてだけだ。
「もう良いでしょう。私の勝ちです」
「くう」
悔しそうな顔をする田中女史。Betしたコインは卯月氏の元へ移動した。
俺はグラスの酒を飲み干し、一歩前に出る。
「見事な勝利おめでとうございます。お約束どおり次は私がお相手します」
◇◇◇
胃辺利己豚男は新たにプレイングカードを1デッキ封を切り、ポーカーテーブルに並べていく。並べ終わると、2デッキを取り出し、封を切って両者に渡した。
卯月氏は再びスーツの胸ポケットから1枚コインを取り出し、テーブルに置く。
俺はジャケットのポケットから同じく1枚を取り出して置いた。
「rouge席。卯月様先行です」
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Nexus Side
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さてはて、彼女の名探偵がどの程度できるのかお手並み拝見させてもらいましょうか。
「スペードのA」
「スペードのK」
卯月さんが答えるや否や、名探偵は即答した。
「くっ…」
卯月さんは名探偵の勢いに若干怯んでいるかのようだ。プレッシャーのかけ方が上手い。
しかし、名探偵は随分変則手がお好きなようだ。どのみち形は一緒になるのに……
「ハートのA」
「クラブのAとダイヤのA」
「ハートのKとクラブのK」
「ダイヤのK」
「スペードのQ」
「ハートのQ」
あっという間に第1リードフェイズが終了する。
まあ、第1リードフェイズはこんなものだろう。
「両者AとKの2ペアにQですので、引き分けです。Betを1枚追加してください。その後、地雷フェーズに移ります」
胃辺利己さんが判断を告げる。
「なにが何だか全くわからないのだけど」
「私も」
「俺も」
どうやら、皆さんは僕に解説をお願いしたいようだ。
「第1フェーズは地雷がありませんから、終了時の形がある程度決まっているのです。山下氏が取ったスペードのKの手だけがやや変則的ですが、概ね型どおりです」
必要最低限に伝える。
卯月さんと名探偵は手持ちのデッキから一枚のカードを出す。そしてテーブルに伏せて置いた。
「これからが本番ですよ」




