合理故に愚かな選択を選ぶ者
話の切りが悪いので短め(1500字)です。
葉巻を吸い終わる。
改めて部屋を見渡す。
ベッド、ソファー、テーブル、デスク、ウッドシェルフ、16時20分を示す時計、保管庫、シェルフに並ぶ47冊の小説、変な置物x2、サイドテーブル、サイドテーブルの上に置かれているコインx5、冷蔵庫。
どれから確認しようか……
ベッドの脇にあるサイドテーブルに置かれているコインを掴むと上着のポケットに入れる。
これで合計9枚だ。
次にCoin keeperと書かれた保管庫を見る。かなり重い。100kg以上はあるだろう。表面にはコインの投入口が1つあるだけで、他には何もない。つまり投入物を取り出せない仕組みになっている。
左端の小説を手に取る。
『異世界でとんスキ1巻』……表紙には狼と男とボーリングの玉が描かれている。
シェルフを見ると、47巻まで並んでいた。
俺は手に取った小説を元の場所に戻す。
今から47巻まで読むのは不可能だ。ゲームが終わってしまう。
部屋の隅にある変な置物を見る。
飛竜と丼の置物がある。丼にはワイバーン丼と書いてある。丼の中には米の食品サンプルだけ入っている。そして、その脇にササミと霜降りの食品サンプルが置いてある。
もう一つの置物を見る。
ヒロインを選べと書いた台座がある。『サロン』にあったボーリングの玉と美少女フィギュアが置いてある。どちらか一方を台座に置けば良いのだろうか。
ボーリングの玉は穴が2つしか空いていない。何かの暗号化かも知れない。
美少女フィギュアは『とんスキの間』にあった像の一つに似ている。たしか、「食の神 Marylise」だ。
もしやと思い冷蔵庫の冷凍室を開ける。
酒が並んでいた。
Great!
冷蔵庫も開けてみる。
日持ちしそうな食料が大量に入っていた。
……個室は籠城可能か?
いや、トイレが部屋の外にしかない。不可能と考えて良いだろう。
冷凍庫から酒を取り出す。
トクトクトクトク……
グラスに注ぐ。
一気に呷り、喉を潤す。
俺はグラスを手に、飛竜の像の前に移動する。
飛行する鳥類などは、必然的に脂肪分が少ない。その脂肪分は皮下に溜め込むのが一般的だ。一部の渡り鳥などは長期の飛行のために内蔵を一時的に無くしてしまうものもある。
最近の日本の食料事情の場合、少し異なる。豚はここ数十年の品種改良で脂肪分が減ってきている。逆に鳥は脂肪分が増えている。比較する部位によっては、豚のほうが健康的だったりする。
閑話休題。
つまり、いくら幻想とはいえ飛竜の肉が霜降りの訳がない。
俺はササミの食品サンプルを丼に乗せる。
ブッブー!
……馬鹿な。
俺は衝撃でグラスを落としそうになる。
くっ。まだもう一つがある。
「ヒロインを選べ」と書いてある台座の前に仁王立ちする。
これは間違えようが無いはずだ。
ヒロインとは、一般的に次の特質を持つ登場人物を指す。女性の英雄、主人公の恋人、主人公の相棒、女性の重要人物の4種類のことだ。ボーリングの玉が当てはまりそうなのは、3番めの主人公の相棒だが、女性でない場合はヒロインとは言わない。
俺は震える手で、美少女フィギュアを台座に乗せる。
ブッブー!
……
……
……馬鹿な。
俺は呆然と立ち尽くした。
グラスが地面を転がる。
そうか。小説の1場面で同様のクイズがあり、その答えと同じものを選ばないといけないという可能性もある。小説を読まずして問題に答えるのは自殺行為だ。
俺はそう結論づけ、小説を流し読みすることにした。
コンコンコン
部屋をノックする音がする。
「山下さーん、夕ご飯のお時間ですよー」
石田翠だ。
もう食事の時間か。
時計を見ると、18時を示していた。




