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送られてきた手紙

 カチン


 高い音を立てながら、葉巻(シガー)にキャッツアイカットを入れる。


 シダー片に火をつけて、それをゆっくりとシガーに近づける。


 やがて葉巻(シガー)の端から白い煙がうっすらと立ち昇る。


 葉巻(シガー)のリングを親指と人差し指で摘まみあげる。


 口に軽く含むとゆっくりと口の中に吸い上げる。


 口を葉巻(シガー)から離し、顔の周りにできる煙を楽しむ。



 最近は喫煙者は形見が狭い。もう、この俺の事務所(しろ)くらいしかゆっくりと葉巻(シガー)を楽しむ場所は無いのだろうか。


 大きく息を吐く。指向性(ベクトル)をもたず漂う白い煙はまるで峠の霧のように美しい。


 俺の若い頃は、喫煙はダンディーな男の嗜みだった。今は疫病神のような扱いだ。これも時代の流れなのだろうか。少し寂しさを感じる。



 俺の名は山下のりお。私立探偵(ディテクティブ)をやっている。

 なに、私立探偵といっても大したことはない。麻薬組織を壊滅させたり、シリアルキラーを捕まえたり、人身売買をしていたチャイナマフィアを警察(サツ)につきだしたりしているだけだ。


 今日も連続爆破犯(ボマー)を捕らえてきたところだ。

 さっきも言ったが、大したことはないしていない。爆破予想地点(ターゲッッティングポイント)を割り出し、ノコノコと現れた(ラビット)露軍流格闘術(システマ)で黙らせただけさ。

※名探偵のりお第20話摩天楼の爆弾魔参照


 シガーがいつもより美味い。


 俺の活躍がなかったら、あの幸せそうな親子もこの世にいなかったかもしれない。あの笑顔を守れたという事実が最高の味付(スパイス)になっているかのようだ。



 暫しの間、思いにふけった後、執務机の書類に目を向ける。


 目につくのは、お礼状と依頼書ばかりだ。



 こういうのは秘書が処理をすべきだと俺は思う。


 しかし、俺は強くは言わない。あいつが自ら気づいてくれるのを信じているからだ。


 尚、秘書とは人身売買組織を相手に戦ったときに知り合った元公安の女だ。2、3度抱いてやったら彼女気分で大きな顔をしてくる。まあ、そんなあいつも可愛いので指摘はしない。

※名探偵のりお第18話湖に眠る蒼き刃参照



 山となった書類のなかに目につく封書があった。金色の派手な飾りが付いている。悪趣味だ。


 目立たせるという役割としては十分のようだ。これを送ってきた人はどうしても俺にこれを読ませたいのだろうか。

 他にもわかることがある。例えば送り主が金持ちなことだ。俺は私立探偵(ディテクティブ)としては有名だ。当然依頼料は他よりも高い。その俺に金色の飾りがついた封書を送る。他よりも金を持っていることをアピールしたいのだろう。

 この時代に電話でもなく、メールでもない。ホームページの受付入力でもないところを見ると、俺の好みをわかっているのだと思われる。


 ……そう俺は昭和が好きだ。


 まとめると、この封書の送り主は俺のことをよく知っていて、金持ちで、どうしても今回の依頼を受けさせたい人物……それに送り主か封書を持ってきた人物のどちらかまたは、両方が女だな。女性用香水の香りがする。この香りはシャネルの特徴的なナンバーだったはずだ。


 封書を手に取る。


 宛先がない。直にここに来たのか、使いを出したのか、どちらにせよ手の込んだ真似をするやからだ。


 裏を見る。『水口エレン』と書いてある。

 聞いたことがあるな。ファンタジー小説家のはずだ。2017年にヒットし、昨年ハリウッドで実写化された記憶がある。作品名は『異世界でとんスキ』だっただろうか?



 俺は水口エレンに対する思考をそこまでで止める。まずは中身を見てみようと思ったからだ。


 シャリシャリ……


 ペーパーナイフで封書の端を切る。


 ペーパーナイフはフォルジュの牛骨製ナイフだ。切るときの音が気に入っている。次に買うとしても同じものを買うだろう。


 切断された一辺から、中の手紙を慎重に取り出す。


 4つに折り畳まれたそれを広げ、書かれた内容を確認する。



※※※※※※※※※※※※※※※※


山下のりお様


突然のお手紙申し訳ありません。


この度、『異世界でとんスキ』の累計2億部突破を記念してゲームを催したいと存じます。


つきましては、世界一と吟われる名探偵(ディテクティブ)である山下様にもご出席願えないでしょうか。


もちろん、これは依頼としてのお願いになります。

詳細はメールにて送らせていただきました。


当方、山下様でも満足いただける難問、奇問を取り揃えている自信がございます。


是非、ご出席いただければと存じます。


Qebob fp crii lc ifnrlo, Wreo...



水口エレン


※※※※※※※※※※※※※※※※



 ふん。俺好みの酒を揃えてくれてそうだな。それだけでもいく価値があるか。


 ……それに何か嫌な予感がするな。こういうときの俺の予感は外れたことがない。

今度こそは、厄介ごとに囚われず、酒を飲めるお遊び旅行で済めば良いがな……


 ……フッ。淡い期待か。どこにいっても俺には硝煙の臭いが付きまとう……



 思考に没頭(コンセントレート)しすぎたか、いつの間にか葉巻(シガー)が短い。



 俺は次の葉巻(シガー)にキャッツアイカットを入れる。


 ……カチン


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