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注意する兄と小悪魔な妹

第五話のあかねちゃんは、かわいい系。

いえ。お兄ちゃんは「小悪魔」と呼ぶことにしたようです。

 信者たちが逃げ出し、辺りに誰もいなくなり、開けっ放しにされたドア。

 あかねがそのドアを抜けて、部屋を出て行こうとしている。


 俺がイメージする「妹」と言うものは、かわいく、兄に頼ってくるものである。

 ところがだ、今のあかねはちょっと乱暴が過ぎるし、無茶が過ぎる。


 元の世界では、こんな濃厚な兄妹の時間を持っていなかったから、あかねがこんなタイプだとは知らなかった。

 ここは一つ、兄として意見しなければならない。



「あかね。待ちなさい」



 立ち止まると、何? 的な表情で、俺を見つめた。



「ちょっと、乱暴すぎる。

 人を脅すような態度はどうかと思うぞ。

 それに、無茶し過ぎだ。

 危ない事は俺に任せるんだ」



 父兄として、きつめの口調で叱ってみた。

 これも、あかねを思っての事。



「てへっ。ごめんなさぁい、お兄ちゃん」



 自分の頭を軽くこつんと叩きながら、ちろりと舌を出した。

 今度はかわいい系か??



「危ない事はしません。

 だから、あかねを守ってね」



 そう言って、小首を傾げながら、にこりとした笑顔を向けた。


 ああ、やっぱ、妹は悪女ワルだ。悪女になっちまった。

 これから先、何人の男があかねの手のひらの上で、弄ばれるんだろう。

 でも、俺だったら、自分があかねの手のひらの上で弄ばれても、許す!

 って、妹の手のひらで弄ばれてちゃあいかんだろ!


 待て。そもそも、自分の妹が悪女ではいかんだろう。

 いやいや、同じワルでも、ワルではなく、悪女ワルなら許せそう。

 そうだ。これからは小悪魔と呼ぼう。うんうん。


 小悪魔なあかねの魅力に、俺の思考が迷走している内に、ドアの向こうにあかねは姿を消してしまった。

 慌てて後を追って、俺も出て行こうとした時、服の裾を引っ張られて、立ち止まった。

 振り返ると、さっきの少女が俺の服の背中の裾をつまんでいた。



「なに?」

「お願い、私も助けて。

 一緒に連れて行って」



 両手を胸の辺りで結び、涙目っぽい瞳で、懇願気味に言われると、ぐらっときてしまう。

 ドアを開けて入って来た時の第一印象は、どこか凄みを感じたはずだったが、今はきっぱり言ってかわいい系である。

 無視する事なんてできやしない。



「でも、君、教会の人なんだろ?」

「なずなって呼んで。

 脅されて、教会で働いていたの。

 お願いです」



 なずなと言う少女は頭を深々と下げると、そのまま微動だにしない。

 俺が「いいよ」と言うまで、そうしている気かもしれない。



「颯太くん」



 大久保が俺の決断を急かした。



「分かった。一緒に行こう」

「ありがとうございます」



 なずなは俺の右手を両手で握りしめ、ぶんぶんと振って感謝を嬉しそうな表情と態度で表した。



 あかねに追いついた時、あかねは元々はちょっと広めの片側二車線だったらしい道路の前で立ち止まっていた。

 その表情は「あんたたち、言っても分からないのね」的なちょっとうんざり気味に見える。


 その理由は簡単だ。

 さっき逃げ出した信者たちだったが、数を頼みにあかねの前に人間の壁を作っていた。



「あっ。お兄ちゃん。

 よかったぁ。あかね、困っちゃってたんだ」



 そう言いながら、俺の横に駆け寄って来た。

 あかねのその態度に、目の前の教会信者たちがちょっと引いたのを感じた。

 きっと、俺が来るまではさっきまでの調子で恫喝していたに違いない。


 だと言うのに、俺がさっき注意したから、俺の前ではか弱く……。

 なんと言う事だ。

 裏と表があるなんて。


 でも、こんな裏表なら、あっても俺は受け入れる!

 だって、かわいいじゃないか。

 俺はこいつを守るためなら、死ねる!


 はっ! 危ない。

 完全に俺は小悪魔な妹の手のひらの上で弄ばれているんじゃないのか?

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