あかねの手のひらの上で踊らされる司祭
第二話のあかねちゃんは、男を手玉にとる(?)やっぱちょっと悪女風です。
不信じんな若者を衆目環視の中、改宗させてみせ、得意満面の司祭と盛り上がる信者たちの中、それに水を差す、突然のあかねの宣戦布告。
司祭は怪訝な顔つきで、声がした方向を見た。
そこにいるのがたった一人の若い少女と確認すると、にんまりとした笑みを浮かべた。
「おや、おや、これはかわいいお嬢さん」
司祭は余裕ありげだ。
ただの無知な反抗者程度にしか捉えていないのだろう。
「あなたなんかに、かわいいって言われたってうれしくなんかないんだから」
あかねは余裕ありげなだけでなく、挑発的な口調だ。
「あかねぇぇぇ」
小声でつぶやく、俺だけ余裕なさげ。
だって、そうだろ。
普通なら誰だって信じないだろう人の記憶を読み出したり、書き換えたりするシステム。
でも、俺は父親がそのシステムを開発していた関係から、そう言うシステムが実在する可能性を知っている。
これまでの改宗がこの装置によるものだとしたら、この装置はすでに完成していて、自由に人の記憶を読み出し、書き換える事ができる事になる。
なんで、その装置があかねにだけ効かないなんて事があり得ると言うのか。
あかねを信じきれない。
「いいでしょう。ここに上がってきなさい」
司祭の言葉に、あかねがステージ横に設けられた小さな階段を上って行く。
ステージに上ると、司祭に近づいていくあかね。
そんなあかねに、司祭が右手を伸ばして、そこで止まれと言う風な仕草をした。
あの装置の真下である。
やはり、あの装置であかねの記憶を読み出し、書き換えようとしているに違いない。
「ここに自分の名前と、好きな言葉を一つ書いてごらん」
司祭があかねに紙とボールペンを渡した。
「私は目隠ししているから」
そう言って、かけている眼鏡をはずして、目隠しのマスクをした。
「書いたら、みんなに見せて、ポケットにしまいなさい」
司祭の言葉に、あかねはその紙に何かを書き始めたと思ったら、書き終えていた。
「あかね。あ」
名前とたった一文字の「あ」。それをみんなに見せると、ポケットにしまった。
「もういいよ」
あかねの言葉に、司祭はマスクを取り、眼鏡をかけなおした。
「まず、君の名前を当てよう」
そこまで言って、言葉が止まった。
動きも固まっている。
いや、ちょっと顔つきは引き攣った感がある。
やはり、あかねの推測通り、全てはあの装置を使ったもので、あかねには装置の力が効かない感じだ。
なんで、あかねには効かない?
俺にはその解は無い。
いや、さっきの反応から言って、あかね自身も解は持っていなさそうだ。
記憶を読み出せるはずのシステムから、答えが出てこない原因を確かめようとしてか、あかねとあかねのはるか頭上にあるアンテナに司祭は視線を何度か行ったり来たりさせた。
焦り気味の感のある司祭に、あかねがにんまりとした笑みを向けた。
かわいい女の子の勝ち誇った感を浮かべた笑み。そんなものが自分に向けられたところを想像すると、ちょっとぞくぞくしてしまう。
って、自分の妹にぞくぞくしてどうする。
あかねの口が動いている。
司祭が「えっ?」的な表情で、ちょっとあかねに近づいた。
きっと、あかねはこう言っている違いない。
「教えてあげてもいいんだよ。
私の言う事を聞くって言うんならね」
司祭が一度小さく頷いたように見えた後、再びあかねの唇が動いた。
「あ・か・ね」と言ったようだ。
「うーむ。お前の名はあかねだ!」
「えぇーっ、なんで分かったの?」
あかねがわざとらしく驚いた風を装った声をかき消すほどの喚声が沸き起こった。
「わぁぁぁ」
「おぉぉぉ」
そんな中、あかねが口を動かした。
「あ」と言ったようだ。
「静かにしたまえ。
こんな事、驚くことでないのは知っておるであろう」
あかねの手のひらの上で踊らされている司祭が威張った口調で言った。
「この娘 あかねが書いた言葉。
それは一文字”あ”だ」
「えぇぇぇぇ。なんで、分かったのよ。
これが、これが神の力なの?」
そんなあかねの言葉をかき消すほどの喚声が再び沸き起こった。
「どうかね、君。
今でも、我が神を信じないのかね?」
自信ありげに司祭が言う。
「私が間違っていました。
私も教会に入れて下さい」
深々と頭を下げたあかねの顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。
悪女だ。妹が悪女になっちまった。
頭を上げたあかねは、勝ち誇った気持ちをぐっと隠した笑みを少しだけ浮かべて、俺を見た。
ああ、かわいい女の子の悪女。手玉にとられてもいい。
自分の妹でも、ぞくぞくしてしまう。って、それ変だから。
ともかく、あかねのくさい三文芝居は無事終わった。
なぜだか、あかねちゃんにはこの装置効かなかったんです。
お兄ちゃんの方は??