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フロイスンハイス-ヴァリアキントランス

作者: PP

 この世界に生まれ落ち二十四年、俺は人の限界について常に探究し、飢えていた。


 人の身に生まれた事を不幸に思ったのは4歳になった日だった。俺は父親のコレクションである剣に触れ、その強固さに驚愕した。持ち上げる事もできず、それまで木製が一番硬いと思っていたのだが、大きな間違いだった事に気づかされる。


 重く、そしてとにかくソレは硬かった。父親は剣が折れる事があると言っていたのを知っている。だから、俺はその剣を折ってみたく思った。くる日もくる日も、どうやったら剣が折れるか試行錯誤した。しかし、人の身の限界というのを5歳にして理解する。どうやら、人間の握力では剣は折れないらしい。それでも、俺はこの鉄という素材を折ってみたく思っていた。


 そもそも、何故俺がこんなにも物を壊したいと思うようになったのか。今でも最初の動機は鮮明に覚えている。自分の力で立つ事を覚えた頃、部屋の鍵を自分であける事が出来ず、部屋の中に閉じ込められたことがあった。その時に感じた、自分の力ではこんな狭い空間から出る事もできないという無力感が悔しくて悔しくてたまらなかったのだ。何で、俺はこんな不自由なんだと。何で、俺はここから出る事を許されないのだろうかと。それからである、物に縛られる事のない力が欲しいと思ったのは。俺は来る日も来る日も、木製の物を壊せるだけの力を手に入れるべく、ひたすら体を鍛え上げた。


 それから鉄という材質を知り、12歳になるまでは早かった。改めて俺は思い直す、人の身で生まれた事への無念さを。どうあがいても、俺は鉄を折る事は出来なかった。これが人の限界であり、手に余る存在であった。だが、そんな鉄ですらへし折ってしまう種族がこの世界には存在しているのである。


 俺は鉄を折る事を諦めるしかなかったが、それを扱う道へと進むこととなる。人の身では到達できない世界へ、道具を使い到達するという世界へ。


 剣を握ると、俺はひたすら鉄に斬り込んだ。そして、15歳で鉄をも切り裂けるほどの技量まで到達すると、俺は次の試練に挑むことにしていた。


 この歳になると、武器という存在が様々存在している事を知っていた。その中でも、弓という武器は興味深かった。遠くから、矢を放ち目標を射るのである。もしも、弓が雨の様に降り注いだらどうなるのだろうか? 鉄が斬れようとやはり、俺は無力で矢に刺されて死んでしまうのだろうか。勿論、そんなのは嫌である。ならばどうすれば良いか、全て叩き落とす、もしくは全てを避けるしかないだろう。


 友人は二つ返事で俺の訓練に付き合ってくれた。最初は弓を何度か放ってもらい、それを撃ち落す訓練だ。流石に、来るタイミングや場所がわかるので最初はあっさりと全て撃ち落すことが出来た。


 それから俺は、平野でキャンプを始めた。開けたこの場所で、弓から身を守る特訓である。勿論、いつどこから矢がとんでくるかなんて、一切告知はなしである。不覚にも数回矢に射られ、自身の無力さをいい年して嘆いてしまった。ただ、致命傷を全て避けているあたり既に常人を逸している事に俺はまだ気づいていない。


 そして、気が付けば数百もの矢を撃ち落とすだけの力を手に入れていた。どんなに離れていようが、矢が放たれた瞬間から軌道を予測し、風を読み全てが静止して見える程にだ。


 こうなってくると、雨すらも狙って斬れるレベルまであがっていたのだが、俺にはまだ目標があった。王都には魔法ギルドがあり、魔法使いが数多く居る。魔法は武器と同じく、人の限界を上回る力を手に入れる術の一つだ。


 魔法使いに頼み込み、魔法を斬る事が出来ないか実験依頼をした。そんな俺を魔法ギルドの人々は笑い、嘲り、俺を相手にしようとしなかった。ただ一人、当初魔法ギルド内での実力者の一人、ザリィという男だけが俺に興味を持ってくれた。


「少年、お前の噂は知っているよ。数百もの矢を撃ち落したんだってね?」

「はい、俺は無力な自分が嫌いです」


 ザリィという男は笑い、試しにと魔法をみせてくれた。火の塊、氷の塊、突風、電撃、様々な魔法をみせてくれた。弓とは違い、魔法というのは厄介であった。斬ろうにも実体がないのである、俺の申し出を皆笑ったのも納得がいく。しかし、ザリィだけは違っていた。魔法に対抗するなら、撃たせなければいい。もしくは、先読みしてしまえば対処が出来ると。


 ザリィの扱える魔法を何度も見て、俺はタイミングや魔力の流れを読む訓練をした。結果、20歳になった頃には魔法の先読みを覚えた。先読みといっても仕組みは至極簡単、必ず魔法は音が先行するのである。俺はその音を聞き分け、避けれるものは避ける。回避不能であれば、その音を斬れば良いと言う発想に至ったのだ。


 今ではその音を斬り、魔法自体発動させない程の技量にまでのぼりつめた。



 俺はやっと何にも縛られない身になったのだと安堵した時、既に21歳になっていた。しかし、その年に魔王軍の一つに動きがあったと風の噂に聞いたのである。突然大きな力を持つ魔王の一人が侵略を止めたらしく、そこにつけこんで別の魔王軍が好き勝手に暴れているらしい。その好き勝手している魔王軍が、近々王都に攻め込んでくるという噂が流れ出していた。


 俺はこれまで、人のレベルでしか物事を測ったことがなかったのだ。ここに来て、再び不安に駆られた。もし、魔物や魔王に拘束されたら、俺は自由ではなくなるのだろうか。人は、蹂躙されるしかないのだろうか。俺は一振りの剣を握りしめ、考え直す。道具、武器を扱えれば人であれ未来は切り開けるのではないだろうかと。


 どうしても確かめたくなった俺は、一振りの剣とその身一つで魔王軍の進軍ルートへと赴く。そこで俺が目にしたのは、王都の兵と魔王軍がぶつかっている場面であった。圧倒的に不利な王都軍は、見る見るうちに蹂躙されていった。俺は駆けた、そこは王都軍のキャンプ地であり、軍の指揮者が一人、頭を悩ませていた。


 ザリィを連れてくれば良かったと嘆くその指揮者に、俺は声をかける。キャンプ地というのに、兵はほとんど残っておらず、このテントへも簡単に入ることが出来た。


 俺も助力すると申し出ると、命を無駄にするなと止められた。そんな会話をしていると、丁度一体の魔物がキャンプ地まで侵入してきたと報告が入る。報告に来た兵の姿はボロボロではあったが、命に別状が無く俺は安堵した。すると、すぐに巨体な一つ目の魔物が迫って来るのを察知する。動きは遅く、何故こんな相手に苦戦しているのだろうかと思ったが、他の兵が放つ矢も剣も、その巨体を貫く事が出来ずその侵入を許してしまったようだ。では、俺の剣ならばどうなのだろうか? 人の身である俺が、魔族を越える事が出来るのだろうか。


 気が付いたら、一つ目の魔物の前に立っていた。魔族もバカではないらしい、その手には俺達が持つような剣がしっかりと握られていた。この時、俺は一つ悟りを開く。


『ああ、魔族でも武器を使うんだな』


 休まることのない俺の不安が、瞬間的に吹き飛んでいた。武器に頼るならば、武器の扱いが上手い方が優っているに違いないと。そんな安易な考えだけで、俺は剣を抜く。


 初めての魔族との戦闘はあっけないものであった、一振りしただけでその巨体は切り裂かれ、反撃すら許さなかったのである。それを見た指揮官は、俺に正式に助力を求める事となる。


 結果的に、全滅しかけていた王都軍は俺の出現により奇跡的に全滅を免れた。強敵は全て俺が斬り伏せ、ついに魔王とのタイマンとなった。饒舌に話しかけて来る魔王だったが、ここまで人を殺し続けたコイツと話すつもりは毛頭なかった。魔王の詠唱を切り裂き、四肢を断つ。たった一振りの何の変哲もない剣のみで、俺は魔王軍を壊滅させたのだった。


 王都に戻り、最初に感じたのは完全な解放感であった。俺は、人でありながら人の領域を踏み外してしまっていたらしい。だからこそ、俺はもう何にも縛られる事は決してないのである。


 だが、そんな俺の想いとは裏腹に人々が俺という存在を王都に抑えつけようとする。俺は王に向かい、直接言い放った。


「俺は自由が欲しいのです。だから、この王都に居座る事は出来ません」


 王は残念そうな顔をするも、俺の理解者であってくれた。俺を王都に縛り付けることはせず、いつでも帰ってきておくれと笑いながら語り掛けてくれたのである。それも、いつでも直接会いに来てくれて構わないとまで言うのだ。王都の王が、俺個人との面談を自由に出来るというイレギュラーに、色々な声が王都内ではあがったが、それは俺の知るところではない。


 自由になった俺は旅に出ると、自由気ままな生活を送り始めた。何せ、俺を縛る物は何もないのである。そして運命の出会いがそこで待ち構えていた。


「お前、まさか北の森にいる……いや、まさか」


 この出会いから俺の探究は、終わりなき確率の世界へ進むこととなった。それが、フロイスンハイス-ヴァリアキントランスという男の現状である。

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