第五曲 戦奏器『吹風』
♪♪♪♪♪♪
これが……僕の武器……『戦奏器』……
目の前のテーブルに置かれた、ホコリをかぶったケースの中には、竹笛のような楽器?が入っていた。
「これが……戦奏器か……笛だし楽には、ぴったりだな!」
そう言って爽は、その笛を取って眺めていた。
「ただの笛にしか見えないわね……」
爽から笛を受け取った夢乃も、笛を眺めながら言った。
「楽様に持たせてみてください!」
そう言われ僕は夢乃から受け取り、ふと、肩に乗って眠っている音符の妖精?ちくわを思い出した。
さっきみたいに発光したりしないみたいだ……
「兄ちゃん、少しその笛を吹いてみな」
店主さんは、ニヤリと笑いながらこちらに期待の視線を送ってくる。それは、他の3人も同じで皆して僕のことを見つめてくる。
ふ、吹づらい……
そんなことを思いつつ、正直新しい楽器を手にしてどんな音が出るか楽しみで仕方なかった。意を決して目を閉じ、竹の様な植物でできた笛に口をつける。少し弱めに吹くと本当に竹笛と同じような音がなった。そのまま適当に吹いてみた。
フゥ……普通の笛と何も変わらないような気がする……少なくとも武器にも防具にもなってないよね……
そんなことを思っていると、パチパチと賞賛の拍手が聞こえてきた。
「やっぱ楽の演奏は良いわね!」
「伊達にちくわばかり食ってねな!」
「凄いです! 綺麗な音色でした!」
「おぉ! それだけ吹ければ大丈夫だな!」
僕は少し照れくさくなり、なかば強引に話を変えた。
「この笛普通の笛じゃないですか? 少なくとも武器でも防具でもない様な気がするんですが……」
「それはなぁ兄ちゃん戦奏器に楽力を込めてねぇからだな」
「楽力を込める?」
「戦奏器に自分の意識を同化させる、意識を戦奏器に向けると言った方が分かりやすいですかね?」
店主さんが説明を続けるようとするのを遮る様にサーシャさんが言った。
「案内人の嬢ちゃん、ずいぶん詳しいな」
「案内人ですからねー」
店主さんの言葉に笑顔で返答をするサーシャさん。
「ほらほら! もう一度やってみてくださいよ!」
目を輝かせながら言い寄ってくる。
僕は再び意識を戦奏器に向けて目を閉じ、笛に口をつけた。
すると……笛が緑に淡く発光し、店内がガタガタと揺れだした。
「止めないで!」
僕が吹くのを止めようとすると、さっきまで笑顔を絶やさなかったサーシャさんが真剣な顔で言った。
「うぉぉぉ!!!」
とガタイの良く、この店内で一番強そうな店主さんが店の隅に吹き飛ばされていった。にもかかわらず爽も夢乃も吹き飛ばされていない。
「うおっ! スゲェ風!」
「キヤッ! 何が起きてるの!?」
何故か嬉しそうに爽が、スカートを抑えながら夢乃が言った。
段々と淡く発光していた戦奏器の光が収まってきた。
「もう止めて大丈夫ですよ」
今度はさっきまでの笑顔のサーシャに戻っていた。
僕はそこで笛から口を離し、持っていたただの竹笛に見える戦奏器を観察してみた。
そこには……さっきまでのただの竹笛の姿はなく、捻れていて、デコボコとした形に変わっている。そして、何より笛自体が風を纏っている。
「これは……」
「っ痛てぇっ……それが戦奏器『吹風』の力だぜ」
店主さんが腰を摩りながら店の隅から戻ってきた。
「それが……楽士、曲 楽様の能力です!」
サーシャさんは、僕の目を真っ直ぐと見つめそう告げた。
「これが……僕の能力……戦奏器『吹風』……」