第二曲 案内人『サーシャ』
♪♪♪♪♪♪
うっ……なんだったんだ……
突如、光に飲み込まれた僕は、まだ少しぼんやりとした視界で辺りを見回す。
すると、僕の近くに親友二人の姿もあった。
「二人とも! 大丈夫!?」
僕は二人に歩み寄り、少し焦りながら声をかけたが僕の心配をよそに彼らは……
「「あと……5分」」
と、呑気な答えを返してきた。
とりあえず、そんな二人を置いて、改めて辺りを見回す。
えっ……ここどこ!? 森!? なんで!?
僕達が、寝ていたのは、さっきまで走っていたアスファルトではなく、なんの舗装もされてない、砂利道だった。前も後ろも砂利道がただただ真っ直ぐ続いていて、辺りにさっき居た公園もなければ、建物や電柱すらない。あるのは道の両サイドを挟むようにして、ズラッと生えてる木々。この木々も、遥か後ろの方からズラッと生えているようだ。
いったい、何が……
僕が、突如起きた不思議すぎる現象に頭を悩ませていると……
「うわぁ!」
「きゃあっ!」
後ろから二人の悲鳴が聞こえて、僕は慌てて、彼らの方を振り返る。
そこには…………
カエルに襲われて涙目になっている女子テニス部部長の夢乃と、色んな部活の助っ人をしていて女子にモテモテの爽が、「俺のカッバーン!」と叫んでいるという想像していたのとは違った惨状が目に飛び込んできた。
その後……カエルが頭に乗り髪型が崩れて落ち込んでいる爽と、カエルに襲われて涙目になったのを見られて機嫌が悪い夢乃を落ち着かせるのに、10分程かかった。
♪♪♪♪♪♪
「で、ここはどこだ?」
ようやく落ち着いてきた爽が、答えようもない質問を投げかけてきた。
「さぁ? 分かるわけないでしょ」
機嫌がまだ悪いのか、夢乃が素っ気なく返す。
「とりあえず、状況を整理すると、急に光に飲み込まれたと思ったら、変なところで寝ていた。で、爽の自転車と、そのカゴに入ってたカバンが無いと」
うむうむと、爽が頷く。
「これって漫画とかラノベでよくある、『異世界に召喚された勇者達! 』みたいな感じじゃない?」
実は漫画やラノベが好きな夢乃が、突拍子もないことを言った。
「つーか、警察とかに連絡した方が良くね?」
爽がポケットに入れていたスマホを取り出しながら言った。
「あれ……?圏外だ……」
「こんなとこだから、無理もないよ」
僕が、そう返すと、爽は「そうか…」と肩を落としながらスマホをしまった。
その時、僕はふと、ある違和感に気づいた。
あれ……今日ってこんなに暑かったっけ……?
季節はまだ、夏になっていない。しばらく、気を失っていて、昼頃になっているからかと思い、時計を確認してみると……
9時2分……これは……
誰かが何かの目的のために僕達をここに運んだとして、それをおよそ5分程度で可能とも思えない。
僕は、心配そうにこちらを見つめる、親友二人の方を向き、恐る恐る言った。
「僕達……本当に異世界に召喚されちゃったかも……」
♪♪♪♪♪♪
とある酒場
「なぁ、聞いたか? また、どっかで『来訪者』様が現れたらしいぜ。しかも、噂ではこの辺らしい」
「本当かよ! 最近多かったけど、この辺では珍しいな! いっちょ探しに行くか!?」
「馬鹿野郎、『来訪者』様には、基本的に『案内人』以外こっちから接触しちゃいけねぇことくらい知ってるだろ?」
「ちぇっ」
「ん……? 今出てったやつ……」
「なんだ? 知り合いか?」
「いや……気のせいか……」
「なんだよそれ」
♪♪♪♪♪♪
この感じ……ようやく来たみたいだね……。
♪♪♪♪♪♪
「とりあえず荷物を確認しようぜ。何か役立つものがあるかもしれねぇ」
スマホ以外全て置き去りになっている爽が提案した。僕達は、今、この異世界(?)からどうやって帰るか計画を立てている。もし、ここが本当に異世界なら、そこらにモンスターがゴロゴロ居てもおかしくない。そのため、戦うためではなく、せめて身を守るためのものでも探そうということになった。
「って言っても、学校に行くだけだったから、私は普通に勉強に使うものと、あと、お昼ご飯のお金とラケットしかないわよ?」
カバンの中身を見せながら夢乃が言った。テニスのラケットは、大きめなラケットケースに入っていて彼女は肌身離さず肩に背負っている。
「楽はどうなの?」
カバンを閉じながら聞いてきた夢乃に、僕はカバンの中身を1つずつ取り出して見せた。
「まずは……筆箱と、ソプラノリコーダー、アルトリコーダー、ハーモニカ、カスタネット、譜面と……」
「ちょ、ちょっと待って!」
僕の言葉を遮るようにして夢乃が言いながら、僕の肩を掴んで続けた。
「楽、あんた、学校に何しに来てるの!?」
「え?勉強?」
「完全に、どこかの演奏会に向かう持ち物じゃんか!」
夢乃が僕の肩を揺さぶりながら言ったが、僕としては、いつもの持ち物だから、なんて返せば良いか考えていると、爽がニヤニヤしながら……
「お前の事だから、また、ちくわとか出してくると思ったんだけどな」
「あるよ。3本入り100円のちくわが2袋」
僕はちくわの袋を取り出して見せた。
「持ってんのかよ!? そして、何なんだよ! 毎回ちくわ見せつける時のその、何とも言えない顔は!」
「ちくわは、常に持っておくのが常識だよ!」
「ねーよ! どんな常識だよ!」
「あんた達、こんな時まで何言い争ってるのよ」
僕達のやりとりを冷たい目で見ていた夢乃が口を開いた。
「それに爽、ちくわは常備が常識よ」
「そうだった……お前もちくわ推奨派だった! ちくしょう! ここには、俺の味方なんていないのかよぉ!」
そう言って、前の方に走っていった爽は、突然立ち止まった。
どうしたのかと思い、夢乃と顔を見合わせ、様子を見にいくと、そこには、小学校高学年くらいの見た目のベレー帽みたいな帽子をかぶった、女の子が立っていた。彼女は、僕達の居た世界ではコスプレ以外で見かけない、空色の短めの髪の毛を揺らしながら僕らの仮説を裏付けることを言った。
「お待たせしました! 『異世界案内人』のサーシャです! これからよろしくお願いします!」
「「「え?」」」