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第一曲 光り輝く『ちくわ』




《音楽は人を楽しませるだけでなく、人を救う》




《だから君は奏で続けて》



《そして救って、この……》



♪♪♪♪♪♪




また、同じ夢を見た……ただ、白い空間に、その言葉だけが、響く夢……誰が言ってるのかも、男なのか、女なのかも分からない……その時によって、聞こえ方が違うから……


朦朧とした意識の中、目覚まし時計を止め、学校の支度をするべく、まず、洗面所に顔を洗いにいき、鏡に映る眠そうな自分の顔を眺めた。


相変わらずダルそうな顔してるなぁ……


寝癖は、あまり立たないから、良いものの、毎回コンタクトを入れるのに、時間がかかる。


ぐぉぉぉ……! 怖い! やっぱり目に異物入れるとかありえないでしょ!


そんなことを毎回思いながら、コンタクトを入れてるため、時間がかかる。


よし、今日はあんがい早く入った!


さすがに高校に入ってから、毎日のように入れてれば、慣れるもので、日に日に時間は縮まっている。


って……やばい! また遅れる!


そんなこんなで、洗面所に行き、着替えて、買い置きのちくわを食べながら登校することが、 僕、まがり がくの、一日の始まりだ。


通学路の、途中の公園に、いつもの顔があった。


やば……絶対怒ってる……


一瞬、そのまま通り過ぎようとも思ったけど、それこそ身の危険があると感じ、覚悟を決め、公園に踏み込むと……


「もぉ! 遅いよ! また寝坊!?」


そう言って、僕のことを睨むのは、幼馴染みの、栗山くりやま 夢乃ゆめの、名前のように綺麗な栗色の髪の毛が肩までかかっている、頭も良くて、なおかつテニス部の一年部長というのもあり学校でも有名だ。

告白してくる男子も沢山居るが、恋愛に興味がないのか全て断っているらしい。


モテてるのに……もったいないなぁ……


ボーッとしながら夢乃を眺めてると、こちらを睨んでいる夢乃の顔が赤くなっていった。


あ……やば……


さらに怒らせてしまったか、と考えていると、夢乃の横で、停めた自転車に跨りながら、こちらをニヤニヤ見てた、涼宮すずみや そうが、朝食の焼きそばパンを食べ終え、言った。


「なに見つめ合ってんだよ、マジ、朝っぱら勘弁してくれよ」


口に付いたソースを舐めながら、またも、ニヤニヤしながら続けた。


「で、お二人はいつからお付き合い――ゴバァ!」


爽が何かを言いかけた途中で、さっきから横でさらに顔赤くして怒っていた夢乃の鉄拳が爽の腹にきまる。


「アンタは……何を言ってるのかなぁ……?」


夢乃は、引きつった笑顔で、腹を抑えながら悶絶する爽の腕を捻り上げた。


「痛い! 痛い! 何ってお前、楽のことす――アッ」


ガゴッと、爽の肩が終わりを告げる音を鳴らした。


「お前! 肩外れたじゃねぇか! どうすんだよ!? めっちゃ痛いんだけど!?」


「うるさい! どうせすぐ治るでしょうが!」


そんな二人のやりとりを、苦笑いしながら眺めてると、キンコーンと公園の時計が午前8時30分を告げる音を響かせた。


うん……やっぱり、この公園の鐘はいい音だ……


子供の頃から聞いているこの公園の鐘は、僕の心を癒してくれる……その鐘が、なり終わった時フッと思った。


あれ……この鐘って8時30分の鐘だよね……え……?


僕は、まだ言い合いをしている、二人に向けて叫んだ。


「二人とも! もう8時30分だよ!? ホームルーム始まっちゃう!」


それを聞いた二人は、同時にこっちを向き、声を合わせて言った。


「「お前が寝坊したからだろ!」」


「あはは……返す言葉もない……」


二人は嘆息し、言い合いを止めて、爽は自転車に乗り、夢乃と僕は、駆け足で学校に向かった。


「ハァハァ……死ぬ……」


公園から50mほど離れたところで、僕は息切れしながら言った。


「お前、体力無さ過ぎだろ」


呆れた様に爽が言った。


「夢乃なんて見てみろ、お前と同じ、走りなのに、全然息切れしてないだろ?」


爽が僕の隣を並ぶようにして、走っていた、夢乃を指差して言った。


「ハァハァ……そんなこと言ったって……二人はスポーツ万能だから良いけど……僕は運動苦手なんだから……一緒にしないでよ……ハァハァ……」


爽も夢乃と同じ様に、スポーツ万能で成績も優秀でやっぱりモテている。1つ違うと言ったら部活には所属していないことだ。理由は、「どの部活の助っ人もできるだろ?」ってことらしい。たんに、何かに縛られるのが嫌いなだけだと思うけど。


「あれだよお前、ちくわなんか食ってから体力つかねーんだよ」


「ちくわ馬鹿にするなよ! 上手く穴を空けるとリコーダーみたいに吹けるんだからな!」


「そうよ! ちくわ馬鹿にすんじゃないわよ!」


「お前も、ちくわ推奨派なのかよ!? もう、分かったよ……なんなんだよ、お前らのちくわへの愛は……」


そんなやりとりをしてると、通学路で最も辛い急な坂道に差し掛かった。


「うわっ!」


体力が無いのに走り続けて、なおかつ、ちくわの話で声を張り上げたせいで、坂道で盛大に躓いてしまった。


あぁ……ちくわが……!


3本入りのちくわの、最後の一本が入った袋を、躓いた時に放してしまい、袋から出たちくわが、僕の前の方に落ちた。


「ちょっと! 大丈夫!?」


隣で並んで走っていた、夢乃が僕に近寄る。


きっと、皆こういう思いやりのある行動や、言動に惹かれるんだろうな……


僕は、「大丈夫」と告げると、少し痛めた膝をさすりながら、立ち上がった。


「あーあーったく、俺の自転車使えよ、坂道はキツイだろうから後ろから押してやる」


そう言って、わざわざ戻ってきてくれた爽は、僕の後ろに自転車を停めた。


爽も口では皮肉を言っても、本当は友達思いの良い奴だ。


そんな、親友二人の優しさに改めて感動していると、爽がちくわが落ちた方を指さしながら、この世の終わりを、目の前にしたような顔で言った。


「な、なぁ……ち、ちくわ……光ってね……?」


一瞬、大切な親友が、おかしくなってしまったのかと思ったが、爽の指さす方を見ると……


光っている……ちくわが……正確には……ちくわが落ちたところから、周囲に光が広がって行き、あっという間に僕達は、光に飲み込まれて行った……


光に飲み込まれて行き、意識が途切れる一瞬、また、あの声が聞こえた気がした。


《音楽は人を楽しませるだけでなく、人を救う》



《だから君は奏で続けて》



《そして救って、この……》


その言葉が、何を意味してるのか、僕は、未だに分からないまま、光の波に、意識を持って行かれた……


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