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夢×喰 ホワイトナイツ  作者: わた雨
第壱話 夢と現実の狭間
10/15

Nightmare #3


──────



 俺は、うつ伏せに横たわっていた。

 意識が朦朧とする。夢の中なので、意識と言っていいのかどうかは分からないが……とにかく、視界がぼんやりとしているのだ。

 やはり、大きな傷──ダメージは回復の速度が遅くなるらしい。こういったダメージを受け続ければ、死に至るということだろうか?

 痛みもなかなか消えない。再生していく感覚をはっきりと体に感じてはいるのだが、塞がるまでは辛抱がいるようだ。

 うつ伏せでは息が辛いので、右脇腹を庇うようにして、ゆっくり左に寝返りをうった。

「あぅ……! ……はぁ〜」

 響くもんは響く。痛いのなんの。

 そういえば……。レイはどこに行った?

「お疲れ様。大丈夫? 苦しく、ない?」

 透き通るような声。否、透き通った声が聞こえた。

 目を向けると、レイが俺を見下ろしていた。はっきりと視覚できて、なおかつパジャマを着ている。

 レイは、膝に手を置いてしゃがみ込んだ。そして、手を伸ばして俺の頬を撫でた。ひとつひとつの動きがいちいち綺麗だ。

 頬に感じるレイの体温はひんやりと冷たい。氷みたいだ。

 実体があるということは、俺への『憑依』とかいうのは、解除しているらしい。

「本当にごめんなさい。私も未熟者だったのに……。知識があるからって、経験がないのに上手くいくわけないのは当たり前よね……」

 戦うのは私じゃないのに、と申し訳なさそうに目を伏せた。心なしか、体を震わせている。

 なんだ。

 意外に。

 こいつも普通じゃんか。

 次元が違うとか、そんなこと、なかったんだ。

 普通に心配するし、怖くもなるし、不安にもなるんだ。

「……謝るなよ。それより、心配してくれてありがとうな。意外に可愛いとこあるじゃん」

「当たり前よ。私、可愛いもの」

「…………」

 けろっと全肯定ですか……。

 それは可愛くない。

 さて、とレイはすっと立ち上がり、先ほど氷漬けにしたマジシャンの方へ歩んで行った。

 触れて、撫でて、叩いて……。

 突き刺した。

「!?」

 右手を、氷漬けのマジシャンの胸辺りに突き刺したのだ。

 そして、ズッと抜き出すと、何かを握り持っていた。

 ごつごつした黒い球体のような物体。その物体は……脈動していた。

 あれは……人間でいうところの心臓みたいなものなのだろうか?『コア』的な。

 それを……どうするつもりなのだろう――と。

 思った。

 そのときだった。

「はむっ」

 こちらに背中を向けているレイが、なにやら可愛らしい声を漏らした。

 …………はむっ?

「え……ええぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!??」

 俺は思わず飛び起きた。傷がずきりと痛んだが、そんなの関係ない気にならない。

 はむっ、て!?

 はむっ、て!!??

「お前……なにやってんだよ!?」

 俺は驚愕としてがなった。

 レイは、首をまわして振り向いた。不思議そうな顔を浮かべて──

「モグモグ……」

「いやいやいやいやっっっ!!」

──頬張っていた。

 食っていた。

 喰っていた。

 先ほどのコアを……丸かじりで。熟れた果実のように。

 そして、ごっくん……。

 …………!

 ……グロい! グロいぞ!?

 なんか滴ってるしぃぃぃ!!

 血!? 血なのか!? 惡夢の血なのか!?

 レイは、自分の行為に疑問を持たれていることなど全く気にせず、二口目を口にした。今度は、こちらを向いたまま。


「わあああああああ!! やめろやめろやめろやめろやめろ!! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぃ!!」


 そりゃあもう。

 見ていて地獄だ。

 グチュグチュ言ってるし。

 だ、誰かモザイクをかけてくれっ!

 俺は叫び喚く。本心から心の底から、目の前の現実(夢の中だが?)を拒絶する。

 レイは、飲み込んでから、とうとう不快な顔になる。

「何? 私の初めての養分摂取に水を差さないでほしいのだけど」

「いや! 嫌! いやいやいや! そんなもんお前、何を摂取しているんだ!?」

 俺の必死の言動をレイは無視して、残り野球ボールくらいの大きさのそれを、一気に食らった。

 こえぇ! 怖い怖い怖い!!

 本気と書いてマジで、俺は引いた。全力、全身全霊で引いた。

「…………」

「…………」

 しばしの沈黙モグモグ。

 モグ黙モグ黙。

 そして、また再びごっくん。飲み込むと、俺を睨みながら言った。

「ごちそうさま」

「……お粗末さまでした」

 これが……!

 これが『夢喰』の夢喰たるゆえんか……!

 そう思い知ったのだった。


──────


 ようやく傷が全て塞がったので、俺は立ち上がってレイと向かい合った。

 じゃあ、とレイが話を切り出す。

「そろそろ、戻りましょうか。本当にお疲れ様。明日からも、一緒に頑張りましょう」

 明日から……。

 俺は眉をひそめた。

 俺はこれから先、こんな戦いに身を投じなければならないのか。そう思うと、じわじわと不安な気持ちになってきた。

 レイは言った。あのゲル人形たちは『雑魚』だと。

 あんなのが雑魚なら……これから先に出くわす敵というのは……。

「大丈夫よ」

 思考を巡らせていた俺の頭に、真っ白な美声が響き渡った。

 感情のない、いつもの純白な口調で。

 レイが言ったのだった。

 そして、さらに続けて口を開く。

「今日は、取り敢えずこの世界に慣れて欲しかっただけ。明日からは、しばらく練習と解説よ」

 惡夢と対峙し、退治する以前に、能力を自在に使えるようにならなければならない。

 レイは、そう言うと、微笑みもせずに続けた。

「あなたは強くなれる。私の存在意義を満たしてくれる、最高の夢守になれる。今日の動き……素晴らしかったわ」

 …………!

 レイはそう言うと、微笑んだ。

 感情のない言葉は、ときに説得力があるものだ。

 白。真っ白。純白。

 白とは偽り無き色。真実の色。

 レイは、俺に真実しか語らない。

 彼女は『大丈夫』と言った。感情なく真っ白な言葉で。

 ならば、本当に大丈夫なのだろう。確信を持っていいのだろう。

 そうしてから、微笑んでくれたのは……。

 彼女が、レイ自身が……嬉しかったからだろう。


 俺とならやっていける。

 そう思ってくれたんだ。

 なら──


──女の期待に応えられない奴は、男じゃねえ。

 付き合ってやろうじゃないか。

 俺が必要なんだってんなら、とことん必要とされてやろうじゃないか!

 そして俺は微笑んだまま、その思いを口にした。


「頑張るよ。お前と一緒なら。頑張ってやってみる気になれる──なってやるよ『夢守』に!」


 レイは、頷いた。

 頷いてから、言う。

「じゃあ、起きましょうか──現実に」

 細い右腕と指先を、俺の額に向けて伸ばしてくる。

 そして……。


「おはよう、清♪」


 軽いでこぴんをされて、俺の意識はここで途切れた。

 最後に目にしたのは、無垢な白が広がる空の色だった。

 俺は、そのとき初めて、その純白の夜空を、綺麗だと思えたのだった──。

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