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夢×喰 ホワイトナイツ  作者: わた雨
第零話 純白の夢少女
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純白の夢少女

───目を覚ました。



 何か、長い夢を視ていたようで、いつもより眠気が多く残っているような気がする。

 『夢』というのは、レム睡眠という急速眼球運動を伴う浅い眠りのときに、なんたら脳波が、ある脳の部位を刺激して、記憶を引き出し、大脳皮質に映し出される、現実ではない仮想的な体験を体感する現象である……とか。凄いね脳科学。解明した人に敬礼。

 ちなみに、レム睡眠ではない眠りをノンレム睡眠というとか。

 つまり、本来は、周期的に切り替わり、四:一くらいの比率のノンレム睡眠とレム睡眠なのだが、『長い夢』を視たということは、レム睡眠が長く、睡眠が浅かった時間が長かったということになる。と俺は思う。人間の睡眠のメカニズム的に有り得るかどうかは知らんが。だって俺、脳科学者じゃないもん。

 とにかく、睡眠が十分にとられた感じがせず、身体がだるいのだ。

 天井に向かって吐く息が白い。まだ、四月の朝は寒く、身体には薄い毛布、厚い毛布、布団が一枚ずつ被せられている。

 布団の中はぬくぬく暖かく、気持ち良い。出るのが勿体ないくらいだ。

 しかし、出なければならない。何故なら今日は……いや、今日も、学校だからだ。「布団が気持ち良くて出たくなかったのでサボりました」なんて、そんな馬鹿げたギャグ漫画のような理屈は通用しない。

 まぁ、その漫画の中でも通用してはいないが。ついでに言うとギャグとしても全く面白くない。

「よし、いくか……」

 やっと、起きようと決心した俺は、ここで、奥義『布団と毛布のぬくもりに未練がましくならない為に、一瞬にして身体に掛けているもの全てを吹き飛ばす』を使用する。

 毎朝名前が変わるのが特徴の、俺の唯一無二にして最高の、ポジティブ思考的属性の奥義だ。魔物は一匹も倒せない。いや、にっくきまどろみ睡魔を倒せると考えると、覚えておいて損はないスキルかも。

「どぅらっしゃ~!」

 ガバーッと身体を起こしながら、毛布、布団をベッドの足側奥へ派手に吹き飛ばす。よし、決まった。恐れ入ったか睡魔め。

「……ん?」

 ふと、自身の隣に目がいく。何故かって、隣に何かあったからに決まっている。

 何か―――真っ白いそれは、艶やかで、潤っている。そして何より、非常に柔らかそうだった。


 そこまで形容して、ようやく、それの正体に気がついた。

 女性──少女だった。



 一糸纏わぬ姿だった。



「ぁ……! あいむなっとるっきぃんぐ!!」

 俺は、電光石火の早業で、先程の毛布と布団を少女に被せ、ベッドを飛び降りた。うつぶせだったので、Outな部位は見ずに済んだ。いや、拝見するに至らなかったと言っておこう。いち健全な男子高校生として。

 ともかく、だ。

「な、なん……なぬ?」

 状況が理解出来なかった。

 俺は、興奮して―――じゃなくて、まさに青天の霹靂の出来事に狼狽して、棒立ちになった(足がね! 間違えんなよ!?)。

 朝起きたら隣に美少女が! ……ってシチュは、その類いの漫画、アニメ、ライトノベルではありがちな話だが、まさかそれが現実で起こるとは!

 いや、しかし、まだ顔は見れていないので、美少女とは確定していない! ……という問題の前に、ひとつ、問題がある。

 まず、先程挙げた三つの類いに出てくる、このシチュの場合、大体、その少女は『彼女』や『幼馴染み』、『姉妹』に『従姉妹』などといった『知り合い』であるのがほとんどだ。それならまだ、なんらかのフラグが立ったとか、その程度の話で済むだろう。……済むのか?

 だが、今の俺のこの状況は、残念ながら(?)そのどれにも当てはまらないのだ。

 何故ならという理由は簡単且つひとこと。



        だれ?



 どうだ、二文字の威力は。

 クエスチョンマーク入れれば三文字だが。

 関係ないけど、一文字ってカッコイイ言葉だよね、いちもんじ。『横一文字』って技がゲームにあるけど、ただの水平斬りにしちゃあ眩しすぎるネーミングだ。

 さて、本題に戻るが、俺には今現在、布団の山に埋もれている少女が一体誰であるのか、記憶のリストを探っても絶対に分からないだろう。

 俺には今、彼女はいない。そして、仲睦まじい女子の幼馴染みはいない。姉妹もいない。ついでに言えば兄弟もいない。従姉妹はいるが、他県の学校に通っているため、今の時期は来れるはずがない。元カノは……いやいや、それはない。断じて。

 よって、このシチュは成立しないはずなのである。だって『少女』いないんだもの。みつ〇。

 しかし、現実問題、ここには少女がいる。布団の山の中で季節外れの冬眠中である。

 まさに、まさに青天の霹靂なのである。最近意味を知ったカッコイイ言葉である。

「ど、どうする……?」

 はっきり言ってしまえば、こいつは『不法侵入者』である。ゆえ。

そのとき、布団の山が動いた。俺は反射的にビクッと身体を弾ませてしまう。

 続けて、山はもこもこっと膨れ上がり、もぞもぞとせわしなく揺れ始めた。まさか、噴火するつもりか!?

 すると、声が聞こえた。


「ちょっと乱暴。私がプリンだったらとっくに崩れてる」


 その声は、まるで清冽(せいれつ)な薄氷のようだった。薄く透き通っていて、涼しげな、実に美しい声に、思わず聞き入ってしまいそうになる。


「良かった、無事で。私の二つのプリ―――

「その声で下ネタは聞きたくなかった!」

「ついてるのは上だけど。あなたは下の方がお好み?」

「そういう話じゃない! 嫌いでは……ないが」

 こいつ、せっかくの美声を、自ら台無しにしてやがる。

「というか、誰だ! お前。人の家に勝手に侵入して、ベッドに潜り込んで、何が目的だ!」

「綺麗だった?」

「勿論! 美しい背中だった!」

「裸見られた。変態」

「な……! 誘導されただと!?」

「んっ……あっ……」

「俺のベッドの上で一体何をなさっているのですか!?」

「足の裏が痒かっただけなのに。変態」

 こいつ……強敵だ! 姿を現さない上に心理戦まで持ち込んでくるとは。しかし、俺も正直すぎるぜちきしょうっ。

「あ゛~! もういいっ! 俺は変態でいいからお前の正体を教えろ」

「それが変態に対するものの頼み方?」

「お前が変態だったのか!? 確かに主語は見当たらなかったが」

「いいえ。作者が変態」

「……? 何だかよくわからんなってきたぞ」


 とにかく、顔が見えない上にペースをもっていかれていると、訊きたいことも訊けないので、顔だけ出してもらうことにした。

 すると彼女は、頭から肩にかけてを、ぴょこっと可愛らしく露にした。

 やはり、声が綺麗な女性は容姿も綺麗なものだ。いや、むしろ予想以上に優美だと思った。

 端正で品のある顔立ちに、すっと通った鼻梁。淡い水色の瞳を携えた目は微妙に垂れており、気怠げというよりは冷然といった感じだ。

 水の滴るような白い肌は、ピュアな美しさで淡い光を帯びている。

 きめ細やかで滑らかな純白のセミロングヘアはまるで絹糸のような上品な艶で輝き、毛先で肩を気持ち良さそうに撫でている。

 半端じゃないレベルの美少女だった。

 その全体的な印象はまさに純白。雪景色の中に立てば紛れて見えなくなってしまうかのような、『白』一文字だった。

「…………!」

 少しの間見とれてしまった。美しいからというのもあるが、何より、どこかで見たことのあるような気がするのだ。

 すると、少女はじっと俺の顔を見ながら、口を開いた。

「人の体を、ナメクジみたいだと思ってじとじと見ないで」

「別に俺はお前をナメクジみたいだなんて微塵も思ってないし、じとじととなんか見てない。じろじろだろ。普通」

「確かに私の肌は瑞々しいけれど」

「ナメクジのあれは粘液だぞ」

「粘液……ふぅん。エロい」

「お前の脳内メーカーは全部エロか!?」

「じゃあ、かたつむりは固いものから粘液の───

「頼むから一旦黙せ!!!!」


 朝から過激過ぎる! 過激ですら激しいを通り越した表現なのに、さらに過ぎるんだぞ、『過激過ぎる』は。

 そして俺は、何故に見ず知らずの少女と猥談なんかしてるんだ。

「はぁ、とにかく───


「私は眞白(ましろ) レイ」


 訊こうとしていたことを先に言われ、俺は「お、おう」と言葉に詰まってしまう。なんだかな、こいつとの会話はいまいちこちらのペースを作れない。

 彼女が発する言葉のせいでもあるのだが、何よりやりにくいのは、顔を露にしてからというもの、彼女はずっと、眉ひとつ動かさず無表情なのだ。淫猥な言葉を発するときもだ。それが一番怖い。感情が少し欠落しているのだろうか。恥じらいが欠落しているのは確実だが。


「あなたは、氷室(ひむろ) (しん)


 彼女が、俺の姓名を口にした。感情ひとつ無い口調で。

「何で……知ってるんだ」

 俺は訝しげな態度で返した。不法侵入、全裸でベッドに潜入と、ストーカーという可能性も考えられる。名前を知っていてもおかしくはない。

 しかし彼女の次の言葉は──。


「あなたが、教えてくれたから」


 だった。

 これは予想外だった。

 ……? 教えた? じゃあ、やはり、俺はこの少女と会ったことがあるのか。

 純白の少女は続けた。

「私は、あなたから生まれたから」


─────なんだって?


 俺は、耳を疑った。あなたから生まれた……だって? まさかそんな、じゃあ、こいつは、俺の娘!? 未来から来たっていうのか? 虚言にしてもあまりに有り得ない話だ。

「ううん、もっと正確に言えば」

 少女は、一呼吸おいてから、口にした。


「私の存在は、あなたから、この世に生み出された」


 俺は驚愕とした。俺が産み出したって、どういう意味だ? まさか、母が俺を産んだように、俺は未来でせ、性転換してこいつを……?

「死んでも嫌」

 違うらしい。無表情できっぱりと否定、むしろ却下された。というか、今俺、口に出したか?

「娘でもないし。存在が消えても嫌」

「どんだけ全力で否定すんだよ。けっこう傷つくぞそれ」

 少女は、一度自分の髪を撫でると、目を閉じ、細く息をついた。絹織物がなびいたような、光沢の波を生み出すその髪は、俺の瞳を釘付けにする。吐き出された息は、どうやら外気より冷たいらしく、白い湯気にならない。

 目蓋をゆっくりと開いた彼女は、またこちらに水色の瞳を向けた。


「夢を、視たでしょう」


 それは、重大な言葉に聞こえた。夢……。確かに俺は、さっき起きるまで夢を視ていた。しかし、内容はきれいさっぱり、頭から消えてしまっている。

「視た……けど」

 曖昧な返事になる。仕方ない。覚えていないのだから。

「私は、あなたの夢で、あなたから、この世界に存在するための全てを貰ったの。容姿を、感覚を、性質を、体質を。名前、人格、性別は私本来のものだけれど」

 彼女はいまだに無表情のままだが、どこか、先ほどまでより柔らかい声をしていた。感謝、でもされているのだろうか。

 状況が飲み込めないのは変わりないが、彼女の言葉は、何故か疑わしさが無いように感じた。

「つまり、お前は、俺の夢から具現化された存在……とかそんな感じなんだな?」

「イエス。そんなカンジ。具現化させたのはアイだけど、この姿をメイクしてくれたのはユー」

「一気に緊張感が損なわれたぞ」

「そーりー」

 無表情で、未完成な○柴ルー的キャラを作るな。カンジに至っては片言になっているだけだ。それに、お茶目に舌を出すな。可愛過ぎる。きゅんきゅんする。

「というわけで、よろしく」

「? 何がよろしくなんだ」

「だって、私、ここに住むもん。ここで生きていくもん」

 何食わぬ顔で、彼女はとんでもないことをぬかした。

「それとも何? あなたは、何の身寄りもない上に、下着一着すら持っていない着ていない少女を家から追い出す、人情が皆無な人間なの? 心無い、血が通っていない、惻隠の情を持っていない、人でなしなの? 鬼? 悪魔? 例のあの人?」

 捲し立てられ、言い返すことが出来ない。というか、これだけそしられると、何だか自分が、慈悲善意一つない最低辺な人間に思えてくる。全ては彼女の無表情のせいなのだが。

「…………………………」

 俺の思考回路が……ショートした。


―――とにかく、突如として俺の布団の中に現れた、純白の美少女―――レイ。

 こいつの出現から、俺の日常は、雪崩の如く怒涛の変化をしていくことになりそうだった。

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