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Romance of Fake  作者: アキ
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True4

 

 ガーリー全開じゃなくてよかったぁ……。

 土曜日の午前中。

 僕は、昨日の夕方に優ちゃんがウキウキで選んでくれた服を着て、彼女に絵本を読んであげていた。『わたしのワンピース』。コロコロと変わっていくうさぎさんのワンピースが魅力的な、おませさんな彼女のお気に入りの一冊だ。

 ものすごい笑顔を咲かせて、『ママ』のひざの上に乗って絵の中のうさぎさんに魅入っている。僕はゆっくりと、彼女にわかりやすいように、甘くお話を読んで聞かせてあげた。

 かわいいなぁ。

 絵本もそうだけれど、鼻歌らしきものでリズムを取りながら絵本の世界に入っている優ちゃんは、すごく楽しそうで、僕もうれしくなってくる。それでまた、絵本を読む声が、一層やさしくなってくるのだ。


「ママぁ?」

「うん?」

「あたしね、おおきくなったら、うさぎさんにワンピースつくってあげるの」

「わぁ、すごいねぇ。うさぎさん、喜ぶだろうねぇ」

「うん! でもね、ママにもつくってあげるよ?」

「そっかぁ。ありがとう」

「うん!」


 まぁ、その頃になると40代。こんな姿をすることもないだろうし、ワンピースは着ることないだろうけどね。

 そんな僕は、昨日、あれから帰った後、優ちゃんの着せ替えのお人形さんになった。結局、お化粧やらなんやらすることになってしまったのだ。一時の気の迷いで自分からはじめてしまった奇妙な習慣だけれど、どんどん当たり前のように考えはじめている優ちゃんの将来が不安だ。こんなことを続けていて大丈夫なのだろうか、正直、心配だ。

 でも、すぐに飽きてくるとは思うんだけど……。

 そんなおませさんが一生懸命厳選したコーデは、上からベージュ、グレー、黒。シックにまとめてくれて本当に助かった。テレビにかじりついてると思ってたら、こんなことを勉強してるんだね。お昼の番組で流れるファッションチェックのコーナーとか優ちゃん好きだもんねぇ。それにしてもその知識量にママはびっくりしたよ。

 Aラインのキュロットの丈が少し短いのが気になるけれど、黒のタイツも履いてるし、誰にも会うつもりもないから別にいいけど。でも、もう30超えてるし、見えないといっても元々は男だからなぁ。それにおばさんには変わりないわけで。下手したら若作りとか見られちゃうよね、丈が短いと。けど、一番の懸念だった少女趣味MAXじゃなくてよかったぁ……。


「ママ?」

「なぁに?」

「えっとね、えっとね……」

「うん?」

「えっとね、かわいいよ」

「うん。ありがとう。優ちゃんのおかげだよぉ」

「えっへへー」


『ピンポーン』


 チャイムが鳴った。

 誰か来たみたいだ。

 正直、『雪』として出るのはすごく恥ずかしい。二度とあんなことをするつもりはないし、やっぱり怖かったし。

 出るかどうか迷っていると、優ちゃんが、見上げてきた。

 そっか。

 今日は優ちゃんコーデだもんね。

 出てあげないと、優ちゃん、悲しむよなぁ。


『ピンポーン』


 もう一度鳴った。

 二回鳴るということは、何かしらの用事があるということだよね。

 よし、と気合を注入。

 僕は優ちゃんをひざから下ろして玄関へと歩いた。


「はいはーい。今、出ますよー」


 かちゃり、とドアを開ける。


「あっ、よかった。孝之、ちょっと頼みがあるん、だ、けど……」


 アイツがいた。

 代表取締役をしていたアイツが。

 熱烈なナンパをしてきたアイツが。

 押し倒した過去を持つアイツが。

 僕は静かにドアを閉めた。


「ちょっ! 開けてくれっ! マジで困ってるんだよ! 頼むからッ!」


 叩くな!

 ドアを叩くな!

 近所迷惑になるっ!


「子どももいるんだよっ!」


 子どもぉ?

 僕は、少しだけ開けてみた。

 あっ。

 目が合った。

 ちっちゃな男の子だ。

 優ちゃんと同じくらいか、それよりも下かなぁ……?


「よかった。本当、出てくれてよかった……。というより、なんだ? やっぱりチンコ取ったの? 普段から女にしか見えなかっ――」


 僕は静かにドアを閉めた。


「ごめん! ホントごめんっ! そんなつもりは! 頼む、開けてくれッ!」


 ええぃ。

 うるさいうるさいうるさい!

 叩くなわめくなっ!

 近所迷惑になる!


「あっ。拓、泣くなよ。今、お父さんが――」

「えっ!? うそっ!? ごめんね……、って、あれ?」


 泣いてない……?

 思わずドアを開けて抱きしめてあげたけど、全く、男の子は泣いてなかった。

 それどころかエロイ目つきでおっぱい揉んでくるんですけど。

 偽チチだけどさ。

 偽チチだけどさ。

 偽チチだけどさ。

 何この子。

 宇宙人?


「おっ。結構、部屋の中、綺麗にしてんじゃん。自分で掃除してるんだろ? すげーなぁ」


 コイツはコイツで会社のときとは別人だし。

 大学と同じノリかい。

 というか、勝手に上がるなよ。


「おっ。カワイイねぇ。お名前はなんですか?」


 ひぃっ。

 うちの優ちゃんに話かけんなっ。


「すずむらゆうこですっ」

「おぉ。偉いねぇ。おかしあげようかぁ?」

「ううん。いらない。しらないひとからもらっちゃいけないんだよ?」


 えらいっ。

 ママは感動したよっ!

 あとでいっぱいチューするからねっ。

 僕が優ちゃんを頭の中で褒めていると、腕の中で何かが動いた。


「ひぁっ……!」


 ちょっ!?

 太ももっ!?

 この子、キュロットの中に手を入れて……っ!

 なんて手つきしてるんだっ!

 どんな教育してるのっ!?


「ほら、拓も自己紹介しなさい」

「はーい」


 トテトテと腕の中をすり抜けて玄関から入っていく男の子。

 ……えっ?

 ナニコレ?

 平和が突然乱れた感じ。

 うそ。

 一体なにが起こってるの?


「おーい。雪も早くこいよー」

「言われなくてもっ!」


 本当……ッ!

 ナチュラルにくつろぐなっ。

 僕は、孝之と雪を使い分けるアイツに、余計に腹が立ったのだった。

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