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Romance of Fake  作者: アキ
3/8

True3

 

 優ちゃんは、上手に僕が『パパ』のときと『ママ』のときの対応を変えている。

 僕は現在『パパ』役で、通常の格好をして、公園の広場で優ちゃんと風船遊びをしている。100円均一ショップで買った風船を僕が膨らませて、まるで手まりのように、空をに向かってポンッと弾き合うのだ。僕が上に弾くと、優ちゃんは楽しそうに追いかけて、今か今かと、目を輝かせながら風船が落ちてくるのを待っている。そして手元にまで落ちてくると、勢い良く、意地悪なことにどこかしらの方向へと風船を飛ばすのだ。僕は必死に追いかけて、それがまた面白かったのか、ケラケラと楽しそうに笑うのだ。

 う~ん、『ママ』のときは違うのになぁ……。

 なんとか弾き返した風船が落ちてくるのを、ワクワクしながら笑顔で待っている優ちゃんを見て不思議に思っていた。というのも、『ママ』の姿をしているときには、優ちゃんは、優しく『ママ』の目の前を狙って風船を弾いてくれる。当然、格好のことから外に出たくないので、部屋の中でしているからなのかもしれないけれど、他のときの接し方を考えてみても、『ママ』のときの方が密な気がするのだ。

 たとえば、一昨日の事件のとき。

 優ちゃんは、僕が悲しいときには一緒になって泣いて、感情を共有しようとしてくれた。こんなことは、『パパ』のときには経験したことがなかった。といっても、僕が『パパ』のときにあれほど感情的になってしまうことは『ママ』のときよりも少ない。まるで役柄にのめりこんでいるかのように、『雪』としての『ママ』が出来上がっているのだ。僕自身の接し方も、少し違っているのかもしれない。

 子どもは敏感だからなぁ……。


「パパ! ふーせん!」


 気が付くと、風船が落ちていた。


「あっ。ごめんごめん」


 僕は風船を拾い上げ、ポンッ、と高く上げた。

 優ちゃんが駆け寄り、ポンッ、と高く跳ね上げた。

 しばらく風船キャッチボールをしていると、優ちゃんが息を弾ませていたことを発見したので、近くのベンチに座ることにした。今日は金曜日。公園にいる人はまばらで、休日は座るところもない公園だけれど、今は、余裕をもって座れた。


「ねぇ、パパ」

「うん?」

「あした、かみひこーきしようね?」

「公園で?」

「うん」

「う~ん……。明日、明日かぁ……」


 明日は土曜日。

 もちろん、『ママ』の日である。


「いや?」

「う~ん……。人が多いからなぁ」

「ママはおそと、きらい?」


 本当、よく見てるなぁ……。


「う~ん。ちょっと恥ずかしいかなぁ」

「でも、きのうのきのう……、あれ?」

「おととい?」

「うん。おととい!」

「よくできました」

「うん。でもママでね、おととい、おそと、でたよ?」

「う~ん……」

「ママね、てれびのひとよりきれいだったよ」

「ありがとうねぇ」

「だからね、いっしょにおそと、でたいの」

「う、う~ん……」

「だめ?」

「そうだなぁ……」


 優ちゃんが、首を傾げている。

 可愛くねだられてもなぁ……。『雪』になるのって、大変だし、怖いし、恥ずかしいし、ちょっとなぁ……。

 僕は簡単に「うん、いいよ」とは言えなかった。


「おそと、こわかった?」

「どうして?」

「なんかね、そうおもったの」

「そっかぁ……」


 本当、子どもはすごいなぁ……。


「ちかん?」

「えっ?」

「こわかった?」

「う、うん。そうだね。怖かったよ」

「だからこわいの?」

「う~ん……。それもあるけど……」

「なんぱ?」

「う、う~ん……」

「こわかった?」

「怖かったなぁ」


 しかも『雪』を覚えてたし。

 まさか、アイツがあんなところにいるなんて思わなかった。知り合いに見られて、その上、気が付かれたことは想像以上に堪えた。二度と外に出ないと楔を打ったほどに。さらに、あろうことか「やり直せないか」はないよなぁ。あれじゃあ、まるで『雪』がアイツと付き合ってたみたいじゃないか。そんな事実全くなかったのに。

 いやさ。

 確かに、なんていうか、危ない雰囲気にはなったことはあるよ? アイツが一方的に興奮してさ。押し倒されてさ。なんとか回避したけれど、でもさぁ、ソッチの人かと思ったら付き合ってるのは女性ばかり。抱きすぎて頭おかしくなったんじゃないかと思ったよ。だから面接のときは余計に怖くて、あー、なんか、やっぱり怖いなぁ。


「パパ?」

「うん?」

「あたしね、おもうの」

「どうしたの?」

「パパはね、パパなんだけど。パパじゃないの」

「うん?」

「なんかね、ママなの」

「うん? どういうことかな?」

「ママはね、ママなの」

「うん?」

「てれびでね、てれびはね、パパはパパなの」

「うん」

「でもね、ちがうの」

「うん?」

「それでね、ママはね、ママなの」

「うん」

「パパはね、パパなんだけど、パパじゃないの」

「う、うん?」

「だからね、きょうね、おうちでね、ママになって?」


 なんだ。

 それが言いたかったのかぁ。

 というか、またテレビかぁ。

 なんかいい番組ないかなぁ……。

 一日中教育番組ってわけにもいかないし……。


「う~ん。明日ね?」

「えぇ~。やだもん」

「そうだなぁ。それなら、明日の服。優ちゃんに選んでもらおうかなぁ」

「やった!」

「だったらいい?」

「うん!」


 このはしゃぎよう。

 等身大のお人形さんごっこだもんなぁ。

 ムダ毛、ちょっと前も剃ったけど……、今日もやらないとなぁ。

 でも、おねだりやら交渉術やら、この子には商才があるかもしれないっ!

 今日もポカポカとよく晴れている。

 

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